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なんでそうなるの?・・・その1

 

「ちょっと早く着きすぎたかな?」

とは言っても電車に乗って来たんだから早するという事はないのでは?
彩奈は高校卒業を期に母親の元を離れて15年ぶりとなる父親の所で一緒に暮らす事にした。
母親の元から離れる理由は幾つかある。
その幾つかある理由の中で母親の元を離れる決心をする事になったのはこの事なのだろう


母は何年か前からある男性と交際をしているようなのだ
娘の彩奈には心配をかけまいとしてか何も言わないのだが
敏感な年頃の女性としてそれなりに感じ取ってしまうである

自分がいる事で母が気を使ってしまう事が彩奈には耐えられなかったのだ
なので高校を卒業したら母親の元を離れて一人で暮らそうと1年ほど前から決めていた
かといっていきなりのひとり暮らしでは母が許さないだろうと思い
15年前に離婚した父親の方へ行くという事にしたのである

その事を母に告げると少し心配そうに話してくれた言葉がなぜか引っかかるのだ

「あの人はとても優しい人だけど・・・」


「だけど・・・?」


「あのね・・・あの人ちょっと変わった所があるのよ」

「変わったところ?」


「そうなの・・・あの人って幽霊がね・・・見えるみたいなのよね」

両親が離婚した理由をハッキリと教えてもらったことはないのだが
どうやらこの事が理由みたいなのである
大の幽霊嫌いの母としてみればとても耐えられない事みたいなのである

彩奈の方は別に幽霊とかオカルトやホラーなどなんとも思わないし
レンタルビデオなどでよくホラー物を借りてきて見ていると
その度に母に彩奈は父親に似てるって言われていたのだ
ただ、父が幽霊が見えるという事はこの時初めて聞かされたのである
しかしホラー好きの彩奈にしてみればそんな父に少しワクワクしてしまうのも事実である

駅の出口の左側の方にちょっとした公園みたいな所がある。
木目のベンチが幾つか並んでいてその周りを木が何本か植えてある
何人かの人がベンチに腰掛けていたり立ってお話をしている
どうやら誰かと待ち合わせをしている人たちがその待ち合わせ場所にしているみたいだ
彩奈も空いてるベンチに腰かけて待つことにした

ベンチに腰掛けて周りの景色を眺めていると向こうから数人の人が歩いてきた
おそらくこれから電車に乗る人たちなのだろう
その中に黒のミニスカートタイプのスーツの上に真っ赤なコートを羽織った女性に彩奈は目がいった
彩奈にはキャリアウーマンか何かに見えたのだろう
「きれいな人だな~」と思いながらぼんやりと真っ赤なコートの女性を見つめていた





なんでそうなるの?・・・その2

近づいてくる人たちが彩奈の座っているベンチから
少し離れた歩道を駅の出入り口の方へ通り過ぎていく
当然、赤いコートの女性も通り過ぎていくものとばかり思って見ていたのだが
赤いコートの女性はその人たちから離れて一人彩奈がいる方の広場の方へと歩いてきた

「この人も誰かと待ち合わせなのかな?」

黒のミニのスーツに真っ赤なコートに丸いメガネそしてセミロングのストレートの髪が少し赤みがかっていて

それが不思議な可愛らしさを映し出している
彩奈の座っているベンチの二つ離れたベンチにその女性は腰掛けた
彩奈の視線に気がついたらしく、可愛らしく微笑む彼女に彩奈は軽く会釈をして微笑んだ

そういえば私は父親の今の姿を知らないのよね?

彩奈が父親のところへ行くことを話したのは約2ヶ月ほど前の事で
母親が父親にその事を電話で相談していたのは知っていたし
彩奈自身も電話では父親と話をしたのだが・・・考えてみれば写真がないのである
離婚したときに母親は父親の写っている写真を全部処分してしまっていたらしく
今の父親どころか昔の父親の印象すら彩奈には分からないのである
ただ・・・ぼんやりと記憶にあるのはなんとなく面白い人・・・というくらいなのだ

母親から聞いた父親の印象は体型は少しやせ型で背もそれほど高くはなく
どこにでもいるような感じのスタイルの男性だったのだが
それだけではなんの事やら彩奈には意味不明だったので
なにか印象に残っている格好とか仕草とかってないのか?と聞いてみたら
花親が一言・・・「カッコいい人よ」・・・いや・・・それでは何も解決しないような・・・
もう少し分かりやすく教えてと言うと母親は変な一言を口にした

「あの人って目立つのよね・・・」


あはは!・・・って・・・
それじゃなんにも分からないっちゅ===の!

「ま~悪い人じゃないから会えば分かるわよ」

そんな母親の言葉にこれ以上聞いても意味がないので「会えば分かるわよ」の母親の言葉で
とりあえずは納得する事にしたのだった。

とりあえず携帯から電話してみればその電話を受けたのが父親という事になるわけだから
という事を思い出して彩奈はバックから携帯電話を取り出した

彩奈の座ってるベンチがある広場には10人程の人が誰かと待ち合わせしている
そして駅の歩道にもそれなりに人が歩いていたりバスを待っていたりという感じである

彩奈は携帯電話を手にしてふと思った

この人たちの中に居るのだろうか?・・・自分の父親が・・・・
いったい誰が私からのコールを受けるのだろう・・・?そう思ったら少しドキドキしてきた

15年も過ぎていればいかに昔はかっこよくても今ではただの中年なのだろうし
あまり期待はしないが、「せめてお願いお腹だけは出ていないでほしい」と
自分に言い聞かせながら携帯の番号を押してみた

ちょうど同じタイミングで赤いコートの女性の携帯も鳴ったらしくその女性が携帯電話を内ポケットから取り出した
呼び出しのメロデイが鳴っている携帯をチラッとみたと思ったら彼女が彩奈の方を見てニコッと微笑んだ・・・

え・・・?

彼女が携帯の受信のボタンを押したとき彩奈の携帯も通話可能状態に変わった・・・
そして受話器越しの彩奈の耳に父親の声が聞こえてきた

「彩奈ちゃんきれいになったわね・・・」


彩奈は反射的に赤いコートの女性の方へ視線を移してみた
赤いコートの女性がニコッと微笑むと彩名の視線が差し込む中ベンチから腰を上げて立ち上がった
と・・・思ったら携帯電話を耳に当てながら彩奈の座っているベンチの方へ歩き出したのだ

え・・・?
マジ・・・?
うそでしょ・・・?




なんでそうなるの?・・・その3

携帯電話を耳から離して彩奈の方に向かって歩いてくる女性に・・・

聞いてないわよ・・・
父親に恋人がいたなんて・・・
ましてや彩奈の事を「きれいになったわね」な~んて
私の事まで話すような関係の彼女がいるばかりか
その恋人が彩奈の迎えにまで来るなんて聞いてないわよ!

しかしま~母親ばかりか父親までが彼女を作っていたなんて
これじゃ何のために母親の元を離れて父親に会いに来たのか分かんないじゃないのよ

彩奈は予想外の展開にベンチから立ち上がるのを忘れてそのまま座っていた
そんな彼女の前まで来て少し前かがみになりながら一言・・・

「やっぱりあやつに似て可愛いわね~」

はい・・・?
いまなんと・・・?
いまなんとおっしゃいました・・・?

あやつ・・・?
だれ・・・?
あやつ・・・?
もしかしてお母さんの事?
いや・・・その前に・・・どうして・・・あやつ・・・?

突然の一言に彩奈がボーゼンと彼女の方を見つめている
そんな彩奈に追撃の一言が襲った

「彩奈ちゃんはぬいぐるみって好き?」

あい・・・?
あいあいあい・・・?
なに言っちゃってるわけ・・・?
っていうか・・・
なんなのその馴れ馴れしい態度は・・・?
いや・・・それ以前に話がどこか飛んでない?

「あら?聞いてたのとは違って意外と無口なのね・・・ふふっ」

ふふっ・・・てなに・・・ふふって・・・?

あまりの予想外の展開に彩奈の思考回路が完全に止まってしまっていた。

「今からちょっと寄ってみたいお店があるのよ」

「お店・・・ですか・・・?」

「そうなのよね~帰りに連れ帰ろうかどうしようか?って迷ってるんだけどね」


「連れて帰るって誰かと待ち合わせでもしてるんですか・・・?」

「待ち合わせ?あはは!面白い事をいうのね」

思考回路が停止しそうな彩奈は今までの経験の中で得た会話の習慣が
自分に向けられてくる言葉に自動的に答えているだけなのである

「そうね~確かに待ち合わせしてるのかもしれないわね~」


「は~・・・」

「そうなのよね~あの瞳で見つめ返されちゃうと、のり子困っちゃう~ってなっちゃうのよね~」


「あ・・・あの・・・のり子さんって言うんですか?」

「あい・・・?誰が・・・?」

「え・・・?」

「とりあえず行くわよ!」

「あの・・・」


「ん・・・?な~に?」

「あの・・・あなたは父親とはどういう関係の人なのですか?」

「どういう関係・・・?」

「はい・・」

「なんで・・・?」

「なんでって・・・わざわざ父親の代わりに迎えに来てくれたり・・・」


「あんだって・・・?」

「え・・・?」

「あんにゃろう・・・!わざと教えなかったわね!」

「あんにゃろう・・・って私の母親の事も知ってるんですか?」

「あやつのことなら誰よりも知ってるわよ!」

「誰よりも知ってるっていったいどんな関係なのですか?」

「ってかさ~あんたさっきからなに父親相手に敬語なんて使ってるの?」

この瞬間・・・彩奈の思考回路は完全に停止してしまっていた。


なんでそうなるの?・・・その4

「な~に、ネジが切れたブリキのおもちゃみたいに固まってるのよ?」

確かにネジが切れたおもちゃである
電池が無くなったおもちゃであり電球が切れた懐中電灯でもある

予想はしていた
ある程度は予想はしていた、それは確かである
「少し変わってる・・・」・・・確かに・・・
幽霊が見えるから?・・・違うと思うけど・・・
「あの人って目立つのよ」・・・確かに目立ってる・・・
かっこいい人・・・?・・・好みの視点が少しズレているような気がする・・・

しか===し!
まさか女装の趣味があるとは思わなかった
それどころか、事もあろうに堂々天下の公道を歩いてくるとは・・・

予想とかそういうレベルの問題ではないと微かに戻る思考回路の中で
彩奈の耳には母親の高笑いが聞こえてしまうのである

確かに母親には少しお茶目なところがあって
よく彩奈をからかっては一人で笑い転げる事が度々ある
というより母親の密かな楽しみではないかとさえ思える時があるのだ

しかし・・・
しかしである・・・
これはそういうお茶目で許される問題なのだろうか?
娘が15年ぶりに会うという父親との悲しきもあり嬉しくもある大切な再会なのである
父親と母親の離婚の原因はもしかしたら母親のそういう性格によるものではないだろうか?

とはいえ・・・いま目の前にいる女性が父親・・・そんなの聞いてないわよ!と思っても
すでに時は遅しであった・・・。

「ほら!行くわよ!」


行くわよ?って、なんで女みたいな言葉使いなわけ?
いや・・・それ以前に・・・どこから見ても女性にしか見えないんですけど?

「あの~本当にお父さんなの・・・?」


「違うわよ!」


「え・・・?」


「なにバカな事を言ってんのよ」


「え・・・?だっていま父親だって・・・」


「そうよ!」


「え・・・?だっていま違うって?」


「そんなの見たら分かるじゃない?」

いや・・・ちょっと待って・・・
私の目の前にいるのが私のお父さんだと、この女の人は言ってるけど
誰が見ても男性には見えてはいないと思う・・・でも男よね?

んでもって目の前の本人が自分は父親であると言っているという事は

やっぱり私の父親って事になるのよね?
でも・・・どう見ても女性にしか見えないし・・・
かといって私をからかっているようにも見えないし・・・う~ん

「とりあえず行くわよ!早くお店に寄りたいんだから」って言われても・・・


切り返しの言葉が見つからない彩奈はとりあえず父親の言葉に従うしかないようである。

「あの・・・」

「なに?」

 

彩奈は少し考えてみた

もし、この先この女の人と、いやもとい目の前にいるこの女装好きの父親と一緒に暮らすという事は

呼ばないとダメなわけよね?パパとかお父さんとかって呼ぶ事になるのよね?

んでもさ、もしよ!もし誰か知らない人に聞かれたなんて言うわけ?

私の隣で女装しているこの人を「私の父です」・・・ダメだわ!それじゃ私まで変態みたいに見られちゃうじゃないのよ!


「ねぇ~これからなんて呼んだらいいわけ?」

「誰のことを?」

「目の前にいる自称父親のあなたの事です!」


「ママと呼びなさい!」

ショートしそうな思考回路の中で笑い転げる母親の姿が見えてしまう彩奈であった


なんでそうなるの?・・・その5

しかし・・・この夫婦の離婚ってホントはいったい何が原因だったのだろうか?
自称父親のこの男性の・・・もとい・・・この女性に・・いや違う・・・
う~ん・・・どうでもいいや・・・
とにかく言われるままにとりあえずこの人が乗ってきた自動車に乗り込んだ

「あの・・・」

「なに?」

「どうしてお母さんと離婚したんですか?」


「あら?聞いてないの?」


確かに彩奈は離婚の原因を教えてもらった事はないのである

「あんたはどう思うの?」

「幽霊嫌いのお母さんと幽霊が見える父親かな?」


「幽霊が見えるって?」

「あれ?違うんですか?」

「見えるわよ!」

「やっぱり・・・」


「あんたは見えないの?」


「え?・・・見えないですよ」

「あ~ん・・・なるほどね」

「え?何がですか?」

「それであんたの隣に居たあの子に気がつかなかったのね」


「はい・・・?」


「あんた、どこかで連れてきたみたいね」

「え・・・?誰をですか?」


「誰って?知らない女の子よ」


「え===?・・・今も居るの?」

「もういないわよ!さっき追っ払ったから」


「ってか・・・ホントに?」

「ホントよ!あんたに嘘ついてどうすんのよ!」

「ホント?」


「しつこいわね!・・・でもあんたのそういうとこってあやつに似たのかもね!」


「そういうとこ?」

「幽霊に好かれるって事よ!」

「・・・?」

「あんた、な~んにも聞いてないのね?」


「え?どういう事ですか?」

「もともと昔から幽霊が見えてたのはあやつの方なのよ」

「え===?」

「それにあたしが離婚したのは、あやつを守るためなのよ」

「お母さんを守る・・・?」

「そうよ、ヤバイ幽霊だったからなんだけどね、その幽霊をあたしが引き受けたってわけよ」


なんなのこの会話は・・・?
普通に交わす日常の会話とは思えない

まるで映画かドラマみたいな作り話みたいな事をサラッと言ってのける父親に
驚きながらもどこかでワクワクしてる彩奈なのである

「それからなのよ、話をするようになったのは」

「話を・・・?誰とですか・・・?」


「もちろん幽霊に決まってるでしょ?」


彩奈はこの非日常的な会話の是非を考えるのはやめようと思った。

それよりもヤバイ幽霊を引き受けたって・・・それが離婚の原因?
それじゃ~お互が嫌いになって別れたわけじゃないって事?

やっぱり娘である・・・自分の親の離婚の原因よりもお互いの気持ちの方が気になってしまうのだ。

「でもそれってお互が嫌いになったって事が原因じゃないって事ですか?」

「そうよ!」

「それじゃ~いまでもお母さんの事が好きって事ですか?」

「決まってるじゃないのよ」

いや・・・そんな事を言ったって、ただいまお母さんは違う知らない男と恋愛中なんですけど・・・

 



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