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「花子にキスした」はダメ?

 「田中さんと会う」と「田中さんに会う」はどう違いますか?こんな質問をよく受ける。いわゆる「と」と「に」の違いである。でも我々日本人はこんなことを気にしている人は少ないし、意味的にもほとんど違いはないように思える。しかしちゃんと使い分けているのも事実である。偶然などが付くと「偶然田中さんに会った」という人が多いし、まして「友達と話す」と「友達に話す」の違いはすぐ判断できる。

しかし学習者は大変である。「花子と結婚する」は使うが、「花子に結婚する」とは言わないし、「プロポーズする」は「に」しか使えない。さらに「ぶつかる」などの動詞は「車とぶつかる」も「車にぶつかる」もどちらも使える。やはり「と」と「に」にはかなり違いがあり、日本語教師としてはその違いを意識しなければならない。

こんな説明をしている。「と」はこちらと相手と一緒に行う動作に使い、「に」はこちらからの一方的な動作のときに使いますよ、である。「結婚する」は相手と一緒にする動作であり「と」しか使えない。一方「ぶつかる」は「と」も「に」も両方使えるが、「車とぶつかる」はお互いにぶつかった感じで、交差点で出合い頭にぶつかるである。そして「車にぶつかる」は停車中の車にこちらから一方的にぶつかる感じで、「電信柱にぶつかる」である。

大事な例文として前出の「友達と話す」と「友達に話す」がある。「友達と話す」は友達と一緒に話す動作なので「相談する」と同じような意味になり、「友達に話す」は自分から一人で友達に話す動作なので「伝える」と同じような意味になる。こんなこと我々日本人は簡単だが、生徒にしてみればとても厄介である。特にこの「話す」は意味が変わってしまうので要注意である。

そして「と」と「に」にはもう一つ大きな違いがある。丁寧さの問題である。例えば「先生と相談する」よりは「先生に相談する」のほうが先生に対して敬意が感じられる。また相談する内容によっても日本人は変えている。確かにややこしい。

では冒頭の「田中さんと会う」と「田中さんに会う」の違いはどうであろうか。上記のいろいろな決まりをこの文からだけで説明することは不可能であり、初級レベルでは「会う」という動詞などは「どっちでもいいですよ」と教えている。

でもやはり偶然の場合や「入院中の田中さんに会いました」は「に」のほうがぴったりするし、二人で約束したのであれば、「新渡戸ガーデンで田中さんと会います」がふさわしい感じがする。確かに使い分けている。

すると、「花子とキスした」は一緒の行動だから問題ないが、「花子にキスした」は、嫌がる花子に無理やり・・・。

「先生、そんなこと二人の問題だからどうでもいいじゃないですか」、おっしゃる通りである。


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最終更新日 : 2013-06-01 13:12:14

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「店をひらく」と「店をあける」の違いは?

 息子が東京で居酒屋をひらいたのでちょっと宣伝も兼ねて、今も東京でサラリーマンをしている昔の生徒にメールを入れた。すると早速うれしい返信メールが届いた。

「必ず息子さんのお店に行きます」である。でも最後に「先生の昔の授業を思い出しましたよ」と付け加えてあった。「うそー」、それは新米教師時代の思い出したくない授業であった。

中級レベルになると「火が消える」と「火を消す」の違いが分からなければならない。日本語教育では「自動詞」と「他動詞」として教えている。前にも述べたが、マッチを用意し火をつけて灰皿に入れる。自然に消えるのを待って「火が消える」と言わせる。そして次に火のついたマッチを手にずっと持って、「熱い」といって息で火を消し、何か目的がある場合に「火を消す」と教えるのである。

さて、その昔の授業とは・・・。マッチで教えた後、いくつか例文を示そうとして「ドアがあく」と「ドアをあける」を教えようとした。自分では「あく」と「あける」のつもりだったのだが、なぜか間違って似ている「ひらく」という動詞を使ってしまった。

ここで大変なことが・・・、こんな感じである。はい皆さん、「ドアがひらく」、これは自然な感じの自動詞ですよ、そして次は「ドアをひらく」・・・あれ?、「ひらく」の形が変わらない・・・。新米教師としては「ドアがあく」と「ドアをあける」を教えているつもりになっているので、変わるのが当然である。

でも「ドアがひらく」と「ドアをひらく」、これどうして変わらないのか・・・。焦ってしまった。声もだんだん小さくなって・・・。生徒からは「先生どうししたの?」の声も聞こえてきて、しどろもどろになってしまった。

この「ひらく」は特殊な動詞で自動詞と他動詞が同じ形なのである。こんなこと意識している日本人はいないであろうが、しかし日本語教師としては当然知らなければいけないことなのだが、教師として本当に情けない授業であった。「息子が店をひらいた」のメールから、彼はそんな昔の授業を思い出したのである。

そして表題の「店をひらく」と「店をあける」であるが、何となく違いは感じる。「店をひらく」は新しく店を作った感じで、「店をあける」は開店時間に店をあける感じがする。しかし「今朝はいつもより早く店をひらいた」といっても別に問題なさそうである。この違いは個人差や方言などとも関係しており、あまり細かいことにとらわれず、もっとおおらかに「心をあけて」ではなくて「心をひらいて」日本語を教えたいものである。先生の息子さんが「ひらいた」居酒屋に必ず行きますよ。

うれしいそしてちょこっと恥ずかしい彼からの返信メールであった。


居酒屋 型無(かたなし)
現在は、川崎の「型無夢荘」が本店


(2008年スタッフと撮影。中央が息子)


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最終更新日 : 2013-06-25 09:16:17

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