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その32

/ 麦藁帽子 / カモミール

ポンパーはカモミールティーをすすりながら白い耳をぱたぱたさせている。麦藁帽子を脱いですっきりしたみたい。皇帝は二本目のアイスに取りかかった。地図とノートをテーブルの上に広げると、春哉が言った。「招子に確認しておきたいことがあるんだ」いつになく真面目な表情だ。

好奇心 / 怪物 / 残酷(アクゼリュス)

「教皇は残酷な男だ。捕まればどんな目に遭わされるか分からない。向こうには怪物だっている。この世界に戻るには術師が必要だ。フーカーが皇帝の座を取り戻すまでは帰れないってことだよ。本当に分かってるね?」私は笑った。「好奇心で首を突っ込んでるあなたに言われたくないな」

退屈 / 幻獣 / 無感動(アディシェス)

「心配しないで。覚悟はできてるから」好きな人を故郷に返すと私は決めた。結末がどうなろうと始めたことをやり遂げるだけだ。それに梅干を仙果だと喜び、猫を見て幻獣だとさわぐ皇帝達を見ていると、どれだけ自分が無感動だったのか実感させられる。もう退屈な毎日には戻れないよ。

和む / 横顔 / 悪魔(デビル)

「それならいいんだ。でも俺だって好奇心だけじゃないんだよ」小悪魔っぽい笑みを浮かべて意味深な事を言うと春哉は本題に入った。部屋の中はいつもの和んだ雰囲気に戻る。一体何を企んでるんだろう? 彼の横顔からは何も読み取れない。気にはなったが今は彼を信じるしかなかった。

悼む / お菓子 / 太陽(サン)

翌朝は太陽が昇るとすぐに家を出た。車の中では皇帝が何かを悼むかのような厳粛な表情でお菓子の詰まった袋を抱えている。やはり作戦がうまく行くか不安で堪らないのだろう。「これを食べたらなくなってしまうのじゃ。もっとたくさん買っておくべきだったのじゃ」心配して損をした。

エメラルド / 呪文 / リボン

雑木林の奥の指定された場所に春哉はエメラルド色の石を置いた。何も起こらない。「あちら側で術師が呪文を唱えなくては『門』は開かぬ。のんびり待つのじゃな」 皇帝は座席にもたれ大きな飴玉を口に入れた。耳にはまだリボンがついたまま。気に入ったと言ってとろうとしないのだ。


その33

ドア / トランプ / ブラックホール

「見て!」私の声にトランプで遊んでいた皇帝達が顔を上げる。『門』と聞いて漠然とドアのような物を想像していたが、私達の目の前に現れたのは空間に穿たれた底なしの黒い穴。これじゃブラックホールだよ。本能的な恐怖に体がすくむ。だが春哉はためらわずにアクセルを踏み込んだ。

引く / 蝋燭 / 教皇(ハイエロファント

車が飛び込んだのは蝋燭に照らされた煌びやかな広間の中だった。正面には皇帝と瓜二つの男が立っている。「ここは宮殿じゃ。教皇自らが余の死を待ち受けておったとはのう」皇帝が悲しげにつぶやいた。思わぬ光景に驚いたのだろう。教皇ホッピイの顔から見る見る血の気がひいた。

悪態をつく / / 戦車(チャリオット)

車の中に皇帝の姿を認めたのかホッピイが大声で悪態をついた。護衛の者たちが弓に矢を番える。あの矢が雨のように降り注げばこんな『戦車』では防ぎきれない。フーカーはおもむろにウサギ耳に耳栓を押し込み大きな枕で押さえつけて言った。「ハルヤ、やるのじゃ。慈悲の心は捨てよ」

悲しむ / / 王冠(ケテル)

最大出力で鳴り響く車外スピーカーの轟音に広間にいた者は一人残らず気を失った。車から降りた皇帝は石の床に倒れたホッピイの前に立ち、彼の頭から転がり落ちた王冠を拾い上げた。「余に牙をむいた憎き男じゃ。こやつを倒せばさぞ胸が晴れるかと思うたが、悲しみの方が大きいのう」

這う / / 節制(テンパランス)

目を覚ましたホッピイが這って逃げようとしたので私は大きな裁ち鋏を持って立ちふさがった。「観念しなさい。動けばその耳、切り落とすわよ」フーカーが彼に告げる。「ホッピイよ。そちには蟄居を申し付ける。以後、節制を守った生活をするがよい」だがその時ポンパーが飛び出した。

悔やむ / 瑪瑙 / 貪欲(ケムダー)

ポンパーの剣が教皇の瑪瑙の首飾りに突きつけられた。「貪欲なるホッピイよ。よくも私を騙してくれたな」「貴様、余を裏切るとは何様のつもりだ」教皇が唸る。「我はポムポム国王家の血筋の者。己の罪を地獄で悔やむがよい。我が民の苦しみを償うのだ」それじゃ、ポンパーは王子様?


その34

惜しむ / / 拒絶(シェリダー)

春哉がポンパーの腕をおさえた。「こんな奴でも命は惜しいだろう。他の方法で罪を償わせようよ」「こやつは私の妹を……気持ちが収まらないのです」拒絶するポンパーを押しのけ春哉は握り拳で教皇の頬を殴りつけた。「こいつにはこれで十分だ」あの温和な春哉が暴力を振るうなんて。

噛む / / 理解(ビナー)

ポンパーも驚いて春哉を見つめた。雪のように白い耳が震えている。私には春哉がホッピイを殴った理由が理解できた。ポンパーに人を殺させたくなかったんだ。彼のおかげで命拾いをしたくせにホッピイは唇を噛んで春哉を睨み付けている。「これで一件落着じゃの」皇帝が大声で言った。

贈る / 約束 / 魔術師(マジシャン)

皇帝が強大な力を持つ魔術師をつれて戻ったという噂は瞬く間に広がり、教皇の手の者はすべて民衆によって取り押さえられた。ホッピイはよほど人気がなかったとみえる。「すべてはそちの思い付きのお陰じゃ。約束の王国を贈ろうぞ」皇帝は私に言ったが、貰っても困るので私は断った。

歌う / / 王国(マルクト)

こうして帝国は皇帝フーカーを取り戻した。帝都から離れた数多の都市や辺境の王国にも術師を通して皇帝復帰が知らされたという。皇帝の帰還を喜ぶ民衆は拳を振り上げ勝利の歌を歌いながら通りをねりあるいた。最初は歌声が小さいので驚いたが、大声だとウサギ耳を痛めるのだそうだ。

/ 星座 / 抱きしめる

玉座の間の天井に描かれた見慣れぬ星座を眺めていると一人の女性が現れた。彼女はまっすぐ皇帝に駆け寄りぎゅっと抱きしめる。「よくぞご無事で」「心配をかけたのう」「雷の女神を連れて戻られたと聞きましたが」そう言って私の方を見る。なんて綺麗な人だろう。それに胸も大きい。

抱きしめる / / 表現(アッシャー)

皇帝も彼女を抱きしめ金の髪をなでた。「紹介する。我が妃、ミッピィじゃ」……既婚だったんですか? そりゃあ、最初っからウサギ男とうまくいくはずないと思ってたけどさ。所詮住む世界が違うって。文字通り過ぎて笑っちゃう。表現できない苦痛に襲われて私は床にしゃがみこんだ。


その35

諦める / プラチナ / 月(ムーン)

それからどうしたって? 私は元の世界に戻り春哉と結婚した。二人揃って電撃寿退社。私達、憧れの田舎暮らしを始めます。退職願いから一ヶ月春哉を引きとめ続けた上司は諦め顔で私達の指のプラチナの指輪を眺めた。結婚届を出す時、春哉が聞いた。「未練はないんだね?」「うん」

踊る / ビーズ / 運命の輪(ホイールオブフォーチュン)

私達は車に乗り込んだ。新生活を始めるためにこのまま引っ越し先へと向かう。私達はきっと最初から運命の輪で繋がっていたのだ。ミラーから吊るされた小さなビーズの人形がくるくると踊った。秋の空はどこまでも澄み渡っている。後部座席の籠の中で真っ黒い子猫がニャーと鳴いた。

/ 金平糖 / ブラックホール

色づき始めた楓の森に車を乗り入れる。程なく現れたブラックホールを抜ければそこには皇帝が待っていた。私を迎える笑顔が土産の金平糖と幻獣『猫』を見てさらに大きくなる。あの時、泣き崩れた私に彼は慌てて説明してくれた。ミッピィは妃だが二人は恋愛関係にはないのだと。

快楽 / / 王冠(ケテル)

「皇帝がこの歳で后を迎えぬわけにはゆかぬからのう」彼の言葉にミッピィは銀の王冠をはずした。「陛下が運命の方を迎える時にはお返しするつもりでおりました」ほかにも側室のような女性が何人もいるらしい。「世継ぎのためじゃ。快楽を追うておるのではないぞ」そこは嘘っぽいな。

抱きしめる / / 太陽(サン)

彼を信じてもいいんだろうか。天窓から差す太陽の光の中で皇帝は私を抱きしめた。「ショウコよ。余の妃となれ」「やだよ。他にも女の人がいるんでしょ?」「これからはショウコだけじゃ。余には分かる。そちとは最初から黄緑色の糸で結ばれておったとな」糸の色が気になるんだけど。

/ 絵の具 /

絵の具で染めたような皇帝の青い瞳が私を見つめる。「余のそばにいてはもらえぬか。そちの乳がたとえ半分の大きさであったとしても、余はそちに恋しておったぞ」彼がそこまで言うなんて受けないわけにはいかないか。幼い頃に夢見た王子様にはウサギの耳はついてなかったけれど。


その36

歩く / / 理解(ビナー)

その後すぐに私は元の世界に戻った。身辺整理のためだ。魔法の国のウサ耳皇帝に嫁ぐなんて親の理解が得られないのは分かりきっていたから、春哉が偽装結婚を思いついてくれて助かった。でもまさか彼まで一緒に来るなんて。星空が綺麗なこの世界を歩いて旅してみたいと彼は言うのだ。

宝石 / 魔法使い / 魔法

皇帝の危機を救った偉大なる魔法使いとして春哉は一躍人気者になった。褒美に貰った宝石を売れば元の世界で一生不自由なく暮らせるけど、魔法の国の英雄でいるほうが面白いよと春哉は笑う。フーカーがハルヤ将軍に命じた初仕事は帝都にアイスクリームの製造施設を作ることらしい。

幸福 / 秘密 / 星(スター)

結局戻って来るまでに一ヶ月もかかってしまった。「やっと会えたのじゃ」皇帝は私を抱きしめたまま幸福げにささやく。「ショウコ殿が早く戻られるよう陛下は毎晩星に祈りを捧げておりました」今も彼の護衛を続けているポンパーの言葉に皇帝はふくれた。「それは秘密じゃというのに」

押す / レース / 審判(ジャッジメント)

皇帝の話では帝国はほぼ元の状態に戻ったようだ。ホッピイは監禁され審判が下されるのを待っている。「ポンパーからも知らせがあるのじゃ」皇帝はポンパーの隣の女性を差し招いた。レースをあしらったドレスが似合っている。彼女はポンパーに背を押され恥ずかしそうにお辞儀した。

横顔 / / ブーツ

長剣を下げ皮のブーツを履いたポンパーが嬉しそうに女性を紹介する。「ようやく救い出すことができました。妹のピッパにございます」愛おしそうに妹を見つめる横顔は皇帝よりもりりしい。「へえ、ポンパーにそっくりだ。可愛らしい妹さんだね」春哉の言葉にピッパは顔を赤くした。

/ 妖精 / 安心

皇帝の予想通りピッパはホッピイに捕らわれていた。幸い彼の好みではなかったのか厨房で働かされていたのだ。ふわふわ耳の妖精みたいな彼女は春哉をうっとり見つめている。ポンパーの顔が曇った。苦心して取り戻した妹が今度は異国の男に惹かれていては安心してはいられないだろう。



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