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その30

吸う / / 拒絶(シェリダー)

春哉の車を見送って部屋に入ったとたん、皇帝が抱きついてきた。反射的に避けたらほっぺたをチューと吸われる。「うぬぬ、外したか」これじゃ妖怪だ。「夕飯、食べてからね」拒絶されて彼の耳がぺたりと倒れた。「ショウコには余の気持ちなど分からぬのじゃ」あれ、すねちゃった?

恋う / お菓子 / 色欲(ツァーカブ)

「こんなに恋うておるのに、そちには分からぬのかのう?」皇帝の傷ついた瞳にどきりとする。「色欲に駆られておるのではないぞ。そちは余の周りにいた甘いお菓子のような女達とは違うのじゃ。例えれば昨日の朝飯のイカの塩辛のような感じかのう」そんな例え、ちっとも嬉しくないし。

偲ぶ / ピン / 世界(ワールド)

「何もかもうまく行けば明後日の今頃はあなたの世界にいるんだね」「ここでの暮らし、実に楽しかったのじゃ。ショウコには礼を言わねばのう」昔を偲ぶような言い方に突然寂しさと不安がこみ上げてきた。彼を失ってしまいそうな気がしてぎゅっと抱きしめる。皇帝の耳がピンと立った。

雪柳 / 秘密 / 耳飾り

私は彼の耳飾りに気付いた。「『皇帝の証』は私にくれたんでしょ?」「皇帝は続ける事にした。代わりにこれをやろう」彼は『対の石』の指輪を私の指にはめた。「皇帝を辞めかけたのは民には秘密じゃぞ」口付ければ互いの石が光を放つ。彼の腰に腕を回すと雪柳のような尻尾が触れた。

/ / 麦藁帽子

緑の石を通して彼の気持ちが伝わってくる。私の心も彼に届いているのかな。彼の唇が首筋に触れる。「調子に乗り過ぎ。鋏で尻尾をちょん切るよ」「切れるものなら切ってみよ」耳に麦藁帽子の跡をつけた皇帝は、にやりと笑って私をベッドの上に放り投げた。そろそろ観念してやるかな。

優越感 / リボン / 恋人たち(ラヴァーズ)

隣でまどろむ彼の耳にリボンを結ぶ。「何じゃ?」「かわいいでしょ?」「余をかわいいなどと言う不届き者はそちだけじゃ」そうだ、彼は皇帝なのだ。どれほどの女性と枕を交わしてきたのだろう。私は今までの恋人たちとは違うの? 優越感持ってもいいんだよね? でも聞けなかった。


その31

/ / おとぎ話

こんなおとぎ話みたいな恋が成就するとは思えない。月の光のように儚くて、最後には泡みたいに消えてしまうのかも。私にはウサギの耳はないんだから。それでも彼を故郷へ帰してあげたかった。たとえこの先、悲しい別れが待っていたとしても。「乳枕してくれんかのう?」黙って寝ろ。

偲ぶ / ティーカップ / 戦車(チャリオット)

翌日、昼過ぎに春哉達がやって来た。「最強の戦車を借りてきたよ」外を覗いてティーカップを取り落としそうになる。選挙カーがとまっていたのだ。「どこで借りたの?」と聞いても笑うだけ。やっぱり彼は頼りになる。いつだって準備周到だったなあ、とちょっぴり昔を偲んでしまった。

/ 機械 / リボン

車の中には様々な物が積まれていた。アンプにスピーカー、発電機やバッテリー、ガソリンらしき液体のポリタンクも並んでいる。皇帝は車の床に膝をついて不思議な機械に夢中の様子。急いで出てきたので片耳には昨夜のリボンがついたままだ。気づいた春哉が笑ったので私は赤くなった。

/ 磁石 / 惑星

方位磁石の隣に奇妙な道具がある。「それは六分儀。GPSは使えないからね。どこかの森の中に出ちゃってもこれで位置が分かる」春哉が説明する。皇帝は太陽系の惑星の写真集を手に取った。「これはすごい書物じゃ」「その本はフーカーにプレゼントだよ」彼の耳がぴょこんと跳ねた。

嫌がる / マント / 知識(ダアト)

洗濯したマントと服を手渡すとポンパーは丁重に礼を言った。「昨夜はよく眠れた?」「ええ。ハルヤ殿は並はずれた知識の持ち主でございますね。色々と教えて頂きました」すっかり彼を手懐けたようだ。誰でも嫌がらずに面倒を見るので、春哉は会社の後輩達の間でも人気者だったのだ。

舐める / / 技(アーツ)

「昨日の帰りに『門』の開く場所を下見してきたよ。今日は計画を見直そう。大切な事が抜けてるかもしれない」さすが春哉は仕事が速い。部屋に戻ると早速皇帝はアイスキャンディを舐め始めた。「大切な事と言えば、氷菓子を作る技を教えてはくれぬかのう?」大切の意味が違うようだ。


その32

/ 麦藁帽子 / カモミール

ポンパーはカモミールティーをすすりながら白い耳をぱたぱたさせている。麦藁帽子を脱いですっきりしたみたい。皇帝は二本目のアイスに取りかかった。地図とノートをテーブルの上に広げると、春哉が言った。「招子に確認しておきたいことがあるんだ」いつになく真面目な表情だ。

好奇心 / 怪物 / 残酷(アクゼリュス)

「教皇は残酷な男だ。捕まればどんな目に遭わされるか分からない。向こうには怪物だっている。この世界に戻るには術師が必要だ。フーカーが皇帝の座を取り戻すまでは帰れないってことだよ。本当に分かってるね?」私は笑った。「好奇心で首を突っ込んでるあなたに言われたくないな」

退屈 / 幻獣 / 無感動(アディシェス)

「心配しないで。覚悟はできてるから」好きな人を故郷に返すと私は決めた。結末がどうなろうと始めたことをやり遂げるだけだ。それに梅干を仙果だと喜び、猫を見て幻獣だとさわぐ皇帝達を見ていると、どれだけ自分が無感動だったのか実感させられる。もう退屈な毎日には戻れないよ。

和む / 横顔 / 悪魔(デビル)

「それならいいんだ。でも俺だって好奇心だけじゃないんだよ」小悪魔っぽい笑みを浮かべて意味深な事を言うと春哉は本題に入った。部屋の中はいつもの和んだ雰囲気に戻る。一体何を企んでるんだろう? 彼の横顔からは何も読み取れない。気にはなったが今は彼を信じるしかなかった。

悼む / お菓子 / 太陽(サン)

翌朝は太陽が昇るとすぐに家を出た。車の中では皇帝が何かを悼むかのような厳粛な表情でお菓子の詰まった袋を抱えている。やはり作戦がうまく行くか不安で堪らないのだろう。「これを食べたらなくなってしまうのじゃ。もっとたくさん買っておくべきだったのじゃ」心配して損をした。

エメラルド / 呪文 / リボン

雑木林の奥の指定された場所に春哉はエメラルド色の石を置いた。何も起こらない。「あちら側で術師が呪文を唱えなくては『門』は開かぬ。のんびり待つのじゃな」 皇帝は座席にもたれ大きな飴玉を口に入れた。耳にはまだリボンがついたまま。気に入ったと言ってとろうとしないのだ。


その33

ドア / トランプ / ブラックホール

「見て!」私の声にトランプで遊んでいた皇帝達が顔を上げる。『門』と聞いて漠然とドアのような物を想像していたが、私達の目の前に現れたのは空間に穿たれた底なしの黒い穴。これじゃブラックホールだよ。本能的な恐怖に体がすくむ。だが春哉はためらわずにアクセルを踏み込んだ。

引く / 蝋燭 / 教皇(ハイエロファント

車が飛び込んだのは蝋燭に照らされた煌びやかな広間の中だった。正面には皇帝と瓜二つの男が立っている。「ここは宮殿じゃ。教皇自らが余の死を待ち受けておったとはのう」皇帝が悲しげにつぶやいた。思わぬ光景に驚いたのだろう。教皇ホッピイの顔から見る見る血の気がひいた。

悪態をつく / / 戦車(チャリオット)

車の中に皇帝の姿を認めたのかホッピイが大声で悪態をついた。護衛の者たちが弓に矢を番える。あの矢が雨のように降り注げばこんな『戦車』では防ぎきれない。フーカーはおもむろにウサギ耳に耳栓を押し込み大きな枕で押さえつけて言った。「ハルヤ、やるのじゃ。慈悲の心は捨てよ」

悲しむ / / 王冠(ケテル)

最大出力で鳴り響く車外スピーカーの轟音に広間にいた者は一人残らず気を失った。車から降りた皇帝は石の床に倒れたホッピイの前に立ち、彼の頭から転がり落ちた王冠を拾い上げた。「余に牙をむいた憎き男じゃ。こやつを倒せばさぞ胸が晴れるかと思うたが、悲しみの方が大きいのう」

這う / / 節制(テンパランス)

目を覚ましたホッピイが這って逃げようとしたので私は大きな裁ち鋏を持って立ちふさがった。「観念しなさい。動けばその耳、切り落とすわよ」フーカーが彼に告げる。「ホッピイよ。そちには蟄居を申し付ける。以後、節制を守った生活をするがよい」だがその時ポンパーが飛び出した。

悔やむ / 瑪瑙 / 貪欲(ケムダー)

ポンパーの剣が教皇の瑪瑙の首飾りに突きつけられた。「貪欲なるホッピイよ。よくも私を騙してくれたな」「貴様、余を裏切るとは何様のつもりだ」教皇が唸る。「我はポムポム国王家の血筋の者。己の罪を地獄で悔やむがよい。我が民の苦しみを償うのだ」それじゃ、ポンパーは王子様?


その34

惜しむ / / 拒絶(シェリダー)

春哉がポンパーの腕をおさえた。「こんな奴でも命は惜しいだろう。他の方法で罪を償わせようよ」「こやつは私の妹を……気持ちが収まらないのです」拒絶するポンパーを押しのけ春哉は握り拳で教皇の頬を殴りつけた。「こいつにはこれで十分だ」あの温和な春哉が暴力を振るうなんて。

噛む / / 理解(ビナー)

ポンパーも驚いて春哉を見つめた。雪のように白い耳が震えている。私には春哉がホッピイを殴った理由が理解できた。ポンパーに人を殺させたくなかったんだ。彼のおかげで命拾いをしたくせにホッピイは唇を噛んで春哉を睨み付けている。「これで一件落着じゃの」皇帝が大声で言った。

贈る / 約束 / 魔術師(マジシャン)

皇帝が強大な力を持つ魔術師をつれて戻ったという噂は瞬く間に広がり、教皇の手の者はすべて民衆によって取り押さえられた。ホッピイはよほど人気がなかったとみえる。「すべてはそちの思い付きのお陰じゃ。約束の王国を贈ろうぞ」皇帝は私に言ったが、貰っても困るので私は断った。

歌う / / 王国(マルクト)

こうして帝国は皇帝フーカーを取り戻した。帝都から離れた数多の都市や辺境の王国にも術師を通して皇帝復帰が知らされたという。皇帝の帰還を喜ぶ民衆は拳を振り上げ勝利の歌を歌いながら通りをねりあるいた。最初は歌声が小さいので驚いたが、大声だとウサギ耳を痛めるのだそうだ。

/ 星座 / 抱きしめる

玉座の間の天井に描かれた見慣れぬ星座を眺めていると一人の女性が現れた。彼女はまっすぐ皇帝に駆け寄りぎゅっと抱きしめる。「よくぞご無事で」「心配をかけたのう」「雷の女神を連れて戻られたと聞きましたが」そう言って私の方を見る。なんて綺麗な人だろう。それに胸も大きい。

抱きしめる / / 表現(アッシャー)

皇帝も彼女を抱きしめ金の髪をなでた。「紹介する。我が妃、ミッピィじゃ」……既婚だったんですか? そりゃあ、最初っからウサギ男とうまくいくはずないと思ってたけどさ。所詮住む世界が違うって。文字通り過ぎて笑っちゃう。表現できない苦痛に襲われて私は床にしゃがみこんだ。



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