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その28

悲しむ / サファイア / 残酷(アクゼリュス)

「近頃の我が君のあまりに残酷な行い、疑問に思うこともございました。信じたいと願う心が私の目を曇らせていたのです」「よかろう」皇帝がぽつりと一言だけ言った。彼のサファイア色の瞳はポンパーと同じ悲しみを宿している。お互いに教皇に裏切られた傷みはよく理解できるのだろう。

音楽 / 煙草 / ティータイム

「よし、それなら話に入ろう」春哉はにこりと笑うと麦藁帽子をポンパーの頭に戻し、地図と手帳を広げた。店は早めのティータイムを楽しむ人で混み合っている。店内の音楽はパティオまでは聞こえて来ないが、喫煙席から漂って来た煙草の匂いに皇帝とポンパーの鼻がひこひこ動いた。

飲む / / 月(ムーン)

計画は単純だ。『門』を抜けたら防犯ブザー等の音を立てる道具を使い教皇の術師を突破する。その後、皇帝の支持者たちに合流するのだ。こんな月並みなアイデアに不安がないといったら嘘になるけど今はそれが精一杯なんだから仕方ない。春哉は自信ありげに運ばれてきた水を飲んだ。

慕う / / 峻厳(ゲブラー)

「都の北には峻厳なる山々が聳えております。陛下を慕う者達は山間にて反撃の機会を伺っておるのです。教皇は陛下を追放してすぐに自らの間違いに気付きました。希望ある限り彼らの投降はありませぬ。反乱軍の士気をにぶらせ骨抜きにするために、私に陛下の抹殺を命じたのです」

切ない / 地図 / 王国(マルクト)

ポンパーは切なげな表情で向こうの状況を話してくれた。「じゃ、まずは山へ向かおう」地図に印を書き込む春哉はまるで遠足の話でもしてるみたい。「でも辺境の王国に出たら困るな」「教皇は早く結果を知りたいはずじゃ。『門』は帝都近くに開くじゃろう」皇帝が不快そうに答えた。

食べる / / 隠者(ハーミット)

ひとしきり話し合ったところで食事が来た。皇帝はお腹をすかしていたらしく、指まで使ってがっついている。「この世界は珍味に溢れておるのう。ここで隠者になるのも悪くはないじゃろ?」「ええ、本当においしゅうございますね」ポンパーの食べ方は上品だ。どっちが皇帝なんだか。


その29

プリンアラモード / / 幸福

デザートのプリンアラモードに目を見張ったポンパーは、さらにてっぺんのチェリーに気づいて大声をあげた。「もしや、これは幻の桜の実ではありませぬか?」「そうじゃ、驚いたであろう」皇帝が幸福そうにプリンを口に入れる。ああ、だからいつも種をポケットにしまい込んでたのか。

角砂糖 / 幻獣 / びびる

食事を終えて車に向かう。角砂糖をもごもご食べながら歩いていたポンパーが突然に飛びずさった。「あ、あれは猫ではございませぬか?」「なんと、幻獣『猫』をこの目で見ることができるとは。吉兆じゃ」そう言った皇帝は猫が寄ってくると慌てて逃げ出した。びびってる、びびってる。

ワイン / ナイフ / 安心

「陛下、お守りいたしますぞ」ナイフを抜こうとするポンパーを私は慌てて止めた。猫は危険ではないのだと教えると二人とも安心したようだ。「我が帝国に来てくれぬかのう」神妙に猫に触れる皇帝がおかしくて私は笑い出した。ああ、おかしい。さっき飲んだハウスワインのせいかな?

抱きしめる / 髪飾り / 恋人たち(ラヴァーズ)

海岸通りを行きかう恋人たちを見ては、皇帝はちらちらと私に目を向ける。そうか、まだ春哉に遠慮してるのか。気の毒になった私は彼を抱きしめてやった。彼の耳が立ち上がり、帽子が地面に落ちる。「耳が見えるのじゃ」「おかしな髪飾りってことにしときなさいよ」私は彼にキスをした。

貝殻 / ブーツ / 放心

浜辺で少し休憩。フーカーは嬉しそうに貝殻を拾っている。お土産かな? その後アウトドアの店で装備を一通り揃えた。ポンパーは買ったばかりのトレッキングブーツを放心したように見つめている。「このような品をいただいてもよろしいのでしょうか?」 いたく気に入ったらしい。

眠る / / 世界(ワールド)

うちに着いたらポンパーは車の窓に顔を押し付けてすうすう眠っていた。見知らぬ世界での疲れが溜まっていたのだろう。「彼は俺のところに泊めるよ。もっと詳しく彼の話を聞きたいからね」春哉がすました顔で言う。邪魔者は消えるってことね。元カレに気を使われるのも妙な感じだ。


その30

吸う / / 拒絶(シェリダー)

春哉の車を見送って部屋に入ったとたん、皇帝が抱きついてきた。反射的に避けたらほっぺたをチューと吸われる。「うぬぬ、外したか」これじゃ妖怪だ。「夕飯、食べてからね」拒絶されて彼の耳がぺたりと倒れた。「ショウコには余の気持ちなど分からぬのじゃ」あれ、すねちゃった?

恋う / お菓子 / 色欲(ツァーカブ)

「こんなに恋うておるのに、そちには分からぬのかのう?」皇帝の傷ついた瞳にどきりとする。「色欲に駆られておるのではないぞ。そちは余の周りにいた甘いお菓子のような女達とは違うのじゃ。例えれば昨日の朝飯のイカの塩辛のような感じかのう」そんな例え、ちっとも嬉しくないし。

偲ぶ / ピン / 世界(ワールド)

「何もかもうまく行けば明後日の今頃はあなたの世界にいるんだね」「ここでの暮らし、実に楽しかったのじゃ。ショウコには礼を言わねばのう」昔を偲ぶような言い方に突然寂しさと不安がこみ上げてきた。彼を失ってしまいそうな気がしてぎゅっと抱きしめる。皇帝の耳がピンと立った。

雪柳 / 秘密 / 耳飾り

私は彼の耳飾りに気付いた。「『皇帝の証』は私にくれたんでしょ?」「皇帝は続ける事にした。代わりにこれをやろう」彼は『対の石』の指輪を私の指にはめた。「皇帝を辞めかけたのは民には秘密じゃぞ」口付ければ互いの石が光を放つ。彼の腰に腕を回すと雪柳のような尻尾が触れた。

/ / 麦藁帽子

緑の石を通して彼の気持ちが伝わってくる。私の心も彼に届いているのかな。彼の唇が首筋に触れる。「調子に乗り過ぎ。鋏で尻尾をちょん切るよ」「切れるものなら切ってみよ」耳に麦藁帽子の跡をつけた皇帝は、にやりと笑って私をベッドの上に放り投げた。そろそろ観念してやるかな。

優越感 / リボン / 恋人たち(ラヴァーズ)

隣でまどろむ彼の耳にリボンを結ぶ。「何じゃ?」「かわいいでしょ?」「余をかわいいなどと言う不届き者はそちだけじゃ」そうだ、彼は皇帝なのだ。どれほどの女性と枕を交わしてきたのだろう。私は今までの恋人たちとは違うの? 優越感持ってもいいんだよね? でも聞けなかった。


その31

/ / おとぎ話

こんなおとぎ話みたいな恋が成就するとは思えない。月の光のように儚くて、最後には泡みたいに消えてしまうのかも。私にはウサギの耳はないんだから。それでも彼を故郷へ帰してあげたかった。たとえこの先、悲しい別れが待っていたとしても。「乳枕してくれんかのう?」黙って寝ろ。

偲ぶ / ティーカップ / 戦車(チャリオット)

翌日、昼過ぎに春哉達がやって来た。「最強の戦車を借りてきたよ」外を覗いてティーカップを取り落としそうになる。選挙カーがとまっていたのだ。「どこで借りたの?」と聞いても笑うだけ。やっぱり彼は頼りになる。いつだって準備周到だったなあ、とちょっぴり昔を偲んでしまった。

/ 機械 / リボン

車の中には様々な物が積まれていた。アンプにスピーカー、発電機やバッテリー、ガソリンらしき液体のポリタンクも並んでいる。皇帝は車の床に膝をついて不思議な機械に夢中の様子。急いで出てきたので片耳には昨夜のリボンがついたままだ。気づいた春哉が笑ったので私は赤くなった。

/ 磁石 / 惑星

方位磁石の隣に奇妙な道具がある。「それは六分儀。GPSは使えないからね。どこかの森の中に出ちゃってもこれで位置が分かる」春哉が説明する。皇帝は太陽系の惑星の写真集を手に取った。「これはすごい書物じゃ」「その本はフーカーにプレゼントだよ」彼の耳がぴょこんと跳ねた。

嫌がる / マント / 知識(ダアト)

洗濯したマントと服を手渡すとポンパーは丁重に礼を言った。「昨夜はよく眠れた?」「ええ。ハルヤ殿は並はずれた知識の持ち主でございますね。色々と教えて頂きました」すっかり彼を手懐けたようだ。誰でも嫌がらずに面倒を見るので、春哉は会社の後輩達の間でも人気者だったのだ。

舐める / / 技(アーツ)

「昨日の帰りに『門』の開く場所を下見してきたよ。今日は計画を見直そう。大切な事が抜けてるかもしれない」さすが春哉は仕事が速い。部屋に戻ると早速皇帝はアイスキャンディを舐め始めた。「大切な事と言えば、氷菓子を作る技を教えてはくれぬかのう?」大切の意味が違うようだ。


その32

/ 麦藁帽子 / カモミール

ポンパーはカモミールティーをすすりながら白い耳をぱたぱたさせている。麦藁帽子を脱いですっきりしたみたい。皇帝は二本目のアイスに取りかかった。地図とノートをテーブルの上に広げると、春哉が言った。「招子に確認しておきたいことがあるんだ」いつになく真面目な表情だ。

好奇心 / 怪物 / 残酷(アクゼリュス)

「教皇は残酷な男だ。捕まればどんな目に遭わされるか分からない。向こうには怪物だっている。この世界に戻るには術師が必要だ。フーカーが皇帝の座を取り戻すまでは帰れないってことだよ。本当に分かってるね?」私は笑った。「好奇心で首を突っ込んでるあなたに言われたくないな」

退屈 / 幻獣 / 無感動(アディシェス)

「心配しないで。覚悟はできてるから」好きな人を故郷に返すと私は決めた。結末がどうなろうと始めたことをやり遂げるだけだ。それに梅干を仙果だと喜び、猫を見て幻獣だとさわぐ皇帝達を見ていると、どれだけ自分が無感動だったのか実感させられる。もう退屈な毎日には戻れないよ。

和む / 横顔 / 悪魔(デビル)

「それならいいんだ。でも俺だって好奇心だけじゃないんだよ」小悪魔っぽい笑みを浮かべて意味深な事を言うと春哉は本題に入った。部屋の中はいつもの和んだ雰囲気に戻る。一体何を企んでるんだろう? 彼の横顔からは何も読み取れない。気にはなったが今は彼を信じるしかなかった。

悼む / お菓子 / 太陽(サン)

翌朝は太陽が昇るとすぐに家を出た。車の中では皇帝が何かを悼むかのような厳粛な表情でお菓子の詰まった袋を抱えている。やはり作戦がうまく行くか不安で堪らないのだろう。「これを食べたらなくなってしまうのじゃ。もっとたくさん買っておくべきだったのじゃ」心配して損をした。

エメラルド / 呪文 / リボン

雑木林の奥の指定された場所に春哉はエメラルド色の石を置いた。何も起こらない。「あちら側で術師が呪文を唱えなくては『門』は開かぬ。のんびり待つのじゃな」 皇帝は座席にもたれ大きな飴玉を口に入れた。耳にはまだリボンがついたまま。気に入ったと言ってとろうとしないのだ。



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