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その26

戒める / ジャム / 欲望(ラスト)

「やがてホッピイは父の戒めも聞かず己の欲望のみを追い求めるようになった。その上、余を帝国より追放すべく密かに手勢を集めておったのじゃな」皇帝は話し終えると暗い表情でぺろりとジャムをなめた。どうやら彼の弟は暗黒卿だったらしい。頭の中で「帝国のマーチ」が鳴り響いた。

眠る / 星雲 / 魔術師(マジシャン)

青い瞳を巡る星雲の夢を見て目覚めればもう朝だ。「すみませぬ。扉の術を解いてくだされ。厠に行きたいのです」押入れの中からポンパーの声がする。私を魔術師だと思ってるみたい。起き上がろうとしたら皇帝が私の胸に頭を乗せてすやすや眠っていた。とうとう乳枕されてしまったか。

痛む / / 根源(アツィルト)

立ち上がり引き戸を開ければ真っ赤な目をしたポンパーが顔を出した。あれからまた泣いてたんだ。これじゃ本当にウサギだよ。「大丈夫?」トイレから戻ってきた彼に一杯のジュースを差し出した。しゅんと垂れた真っ白い耳に私の胸まで痛む。やはり諸悪の根源は教皇ホッピイなのだ。

恐れる / じょうろ / 吊るされた男(ハングドマン)

二人に朝食をとらせベランダの花にじょうろで水を遣る。振り返れば皇帝が『吊るされた男』の写真をポンパーに見せていた。「ショウコを怒らせるでないぞ。ハルヤもこのような目に遭ったのじゃ」「あのハルヤ殿が? 恐ろしいことでございます」私、どんな女だと思われてるんだろう?

葉っぱ / 太陽 /

「細部まで見事に描かれておりますな。どのような絵師の技でございましょう?」感動したのかポンパーが葉っぱみたいに耳を震わせているので、引き出しからほかの写真も出してやった。「おお、これは太陽神じゃな」それ、関西に旅行に行ったときに、太陽の塔の前で撮った写真だよ。

冷静 / 歯車 / 物質主義(キムラヌート)

しばらくして現れた春哉は、私のアイデアを聞いて黙り込んだ。こんな時の彼は冷静だ。彼の頭の中で歯車が回るのが聞こえる気がする。やがて春哉はにやっと笑った。「フーカーはこの世界は物質主義に侵されていると言ってたね。彼の世界を見てみたいものだ」つまり、賛成ってこと?


その27

裸足 / / 好奇心

春哉と私は休暇を申請することにした。けれども裸足で暗闇の中に飛び込んでいくような危険な冒険に彼を巻き込むのは気が引ける。「俺は好奇心の塊なんだ。行かなきゃこの先気になって仕方ないだろ?」彼は笑う。「お袋は亡くなった。妹は結婚して幸せに暮らしてる。後悔はしないさ」

憂鬱 / ジャム / 戦車(チャリオット)

計画に必要な物を明後日までに揃えるため、買い物に出ることにした。「外は暑いのじゃ。耳が蒸れるのじゃ」憂鬱げな皇帝に春哉が窓の外の四駆を指差した。「あの中は涼しいよ」「なんと、あの戦車で行くのか」興奮した皇帝はジャムの瓶を握り締めたままぴょんぴょんと飛び跳ねた。

抱きしめる / 麦藁帽子 / 死神(デス)

昨夜は死神のように見えたポンパーもパーカを着せ、麦藁帽子をかぶせれば、あれれ? 抱きしめたくなるほどかわいくないか? ここまで来るのにウサギ耳と赤いマントじゃ目立ったと思うんだけど。「極力隠れてはおりましたが、私を見ると人々は姿を消したのです」そりゃそうだろう。

ポップコーン / ピアノ / 翡翠

方々で買い物をした後、私達は海辺のカフェレストランに立ち寄った。行楽客の多い場所なので麦藁帽子でも目立たない。席についたとたんに始まったピアノの生演奏に、ポンパーがポップコーンみたいに跳ね上がった。翡翠色の目を見開いて硬直している彼を連れて慌てて席を移動する。

安心 / 椿 / 太陽(サン)

パティオの席に移るとポンパーは少し安心したようだ。木蔭なので真夏の太陽も暑くは感じられないのだが、彼が頬を椿のように紅く染めて謝るものだから気の毒になる。「食事が来るまで計画について話したいんだ」春哉はそう言うとポンパーを見つめた。「君を信用してもいいのかな?」

悔やむ / 耳飾り / 正義(ジャスティス)

ポンパーは帽子を取ると皇帝に向き直った。「お許しいただけるのであれば、微力ながらも陛下のお役に立ちとう存じます。民の幸せを願うのであれば我が君を止めなくてはなりませぬ。私は正義を行いたいのです。さもなくば後に悔やむこととなりましょう」彼の耳飾りがきらりと光った。


その28

悲しむ / サファイア / 残酷(アクゼリュス)

「近頃の我が君のあまりに残酷な行い、疑問に思うこともございました。信じたいと願う心が私の目を曇らせていたのです」「よかろう」皇帝がぽつりと一言だけ言った。彼のサファイア色の瞳はポンパーと同じ悲しみを宿している。お互いに教皇に裏切られた傷みはよく理解できるのだろう。

音楽 / 煙草 / ティータイム

「よし、それなら話に入ろう」春哉はにこりと笑うと麦藁帽子をポンパーの頭に戻し、地図と手帳を広げた。店は早めのティータイムを楽しむ人で混み合っている。店内の音楽はパティオまでは聞こえて来ないが、喫煙席から漂って来た煙草の匂いに皇帝とポンパーの鼻がひこひこ動いた。

飲む / / 月(ムーン)

計画は単純だ。『門』を抜けたら防犯ブザー等の音を立てる道具を使い教皇の術師を突破する。その後、皇帝の支持者たちに合流するのだ。こんな月並みなアイデアに不安がないといったら嘘になるけど今はそれが精一杯なんだから仕方ない。春哉は自信ありげに運ばれてきた水を飲んだ。

慕う / / 峻厳(ゲブラー)

「都の北には峻厳なる山々が聳えております。陛下を慕う者達は山間にて反撃の機会を伺っておるのです。教皇は陛下を追放してすぐに自らの間違いに気付きました。希望ある限り彼らの投降はありませぬ。反乱軍の士気をにぶらせ骨抜きにするために、私に陛下の抹殺を命じたのです」

切ない / 地図 / 王国(マルクト)

ポンパーは切なげな表情で向こうの状況を話してくれた。「じゃ、まずは山へ向かおう」地図に印を書き込む春哉はまるで遠足の話でもしてるみたい。「でも辺境の王国に出たら困るな」「教皇は早く結果を知りたいはずじゃ。『門』は帝都近くに開くじゃろう」皇帝が不快そうに答えた。

食べる / / 隠者(ハーミット)

ひとしきり話し合ったところで食事が来た。皇帝はお腹をすかしていたらしく、指まで使ってがっついている。「この世界は珍味に溢れておるのう。ここで隠者になるのも悪くはないじゃろ?」「ええ、本当においしゅうございますね」ポンパーの食べ方は上品だ。どっちが皇帝なんだか。


その29

プリンアラモード / / 幸福

デザートのプリンアラモードに目を見張ったポンパーは、さらにてっぺんのチェリーに気づいて大声をあげた。「もしや、これは幻の桜の実ではありませぬか?」「そうじゃ、驚いたであろう」皇帝が幸福そうにプリンを口に入れる。ああ、だからいつも種をポケットにしまい込んでたのか。

角砂糖 / 幻獣 / びびる

食事を終えて車に向かう。角砂糖をもごもご食べながら歩いていたポンパーが突然に飛びずさった。「あ、あれは猫ではございませぬか?」「なんと、幻獣『猫』をこの目で見ることができるとは。吉兆じゃ」そう言った皇帝は猫が寄ってくると慌てて逃げ出した。びびってる、びびってる。

ワイン / ナイフ / 安心

「陛下、お守りいたしますぞ」ナイフを抜こうとするポンパーを私は慌てて止めた。猫は危険ではないのだと教えると二人とも安心したようだ。「我が帝国に来てくれぬかのう」神妙に猫に触れる皇帝がおかしくて私は笑い出した。ああ、おかしい。さっき飲んだハウスワインのせいかな?

抱きしめる / 髪飾り / 恋人たち(ラヴァーズ)

海岸通りを行きかう恋人たちを見ては、皇帝はちらちらと私に目を向ける。そうか、まだ春哉に遠慮してるのか。気の毒になった私は彼を抱きしめてやった。彼の耳が立ち上がり、帽子が地面に落ちる。「耳が見えるのじゃ」「おかしな髪飾りってことにしときなさいよ」私は彼にキスをした。

貝殻 / ブーツ / 放心

浜辺で少し休憩。フーカーは嬉しそうに貝殻を拾っている。お土産かな? その後アウトドアの店で装備を一通り揃えた。ポンパーは買ったばかりのトレッキングブーツを放心したように見つめている。「このような品をいただいてもよろしいのでしょうか?」 いたく気に入ったらしい。

眠る / / 世界(ワールド)

うちに着いたらポンパーは車の窓に顔を押し付けてすうすう眠っていた。見知らぬ世界での疲れが溜まっていたのだろう。「彼は俺のところに泊めるよ。もっと詳しく彼の話を聞きたいからね」春哉がすました顔で言う。邪魔者は消えるってことね。元カレに気を使われるのも妙な感じだ。


その30

吸う / / 拒絶(シェリダー)

春哉の車を見送って部屋に入ったとたん、皇帝が抱きついてきた。反射的に避けたらほっぺたをチューと吸われる。「うぬぬ、外したか」これじゃ妖怪だ。「夕飯、食べてからね」拒絶されて彼の耳がぺたりと倒れた。「ショウコには余の気持ちなど分からぬのじゃ」あれ、すねちゃった?

恋う / お菓子 / 色欲(ツァーカブ)

「こんなに恋うておるのに、そちには分からぬのかのう?」皇帝の傷ついた瞳にどきりとする。「色欲に駆られておるのではないぞ。そちは余の周りにいた甘いお菓子のような女達とは違うのじゃ。例えれば昨日の朝飯のイカの塩辛のような感じかのう」そんな例え、ちっとも嬉しくないし。

偲ぶ / ピン / 世界(ワールド)

「何もかもうまく行けば明後日の今頃はあなたの世界にいるんだね」「ここでの暮らし、実に楽しかったのじゃ。ショウコには礼を言わねばのう」昔を偲ぶような言い方に突然寂しさと不安がこみ上げてきた。彼を失ってしまいそうな気がしてぎゅっと抱きしめる。皇帝の耳がピンと立った。

雪柳 / 秘密 / 耳飾り

私は彼の耳飾りに気付いた。「『皇帝の証』は私にくれたんでしょ?」「皇帝は続ける事にした。代わりにこれをやろう」彼は『対の石』の指輪を私の指にはめた。「皇帝を辞めかけたのは民には秘密じゃぞ」口付ければ互いの石が光を放つ。彼の腰に腕を回すと雪柳のような尻尾が触れた。

/ / 麦藁帽子

緑の石を通して彼の気持ちが伝わってくる。私の心も彼に届いているのかな。彼の唇が首筋に触れる。「調子に乗り過ぎ。鋏で尻尾をちょん切るよ」「切れるものなら切ってみよ」耳に麦藁帽子の跡をつけた皇帝は、にやりと笑って私をベッドの上に放り投げた。そろそろ観念してやるかな。

優越感 / リボン / 恋人たち(ラヴァーズ)

隣でまどろむ彼の耳にリボンを結ぶ。「何じゃ?」「かわいいでしょ?」「余をかわいいなどと言う不届き者はそちだけじゃ」そうだ、彼は皇帝なのだ。どれほどの女性と枕を交わしてきたのだろう。私は今までの恋人たちとは違うの? 優越感持ってもいいんだよね? でも聞けなかった。



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