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その13

朝陽 / 映画 / ゼリービーンズ

私は春哉に皇帝が落ち込んでいる事を話した。そうだ、お土産にお菓子を買って帰ろう。カラフルなゼリービーンズを見たら元気も出るでしょう。家にこもってちゃ気が滅入るもんね。明日は朝陽の昇る前に起きて長い散歩に連れ出そう。週末には映画に行こうかな。彼の驚く顔が見たい。

ミルク / 鳥籠 / 読む

気づいたら春哉が目を丸くして私を見ていた。私、おかしなこと言った? 慌ててミルクティーを飲み干し、メニューを読むフリをする。春哉がくすっと笑った。「招子は楽しそうだね」ええ? 表の鳥籠で文鳥がさえずっている。だってほら、皇帝ってペットみたいでしょ? だから……。

/ 人形 /

夕方、アパートに戻ると皇帝の姿が見当たらない。慌てて探せばベランダに立って表の楓の木を眺めていた。ウサギの人形を抱いて、幻みたいにはかなく見える。「フーカー?」ゆっくりと彼が振り返った。「呼び捨てはやめろと言ったじゃろう」彼の笑顔はなんだか寂しそうだ。

/ ランプ /

散歩に行かぬかと誘われ、夕闇の中、外に出る。夕立で濡れた土の匂いが漂い、空には緑がかった大きな月がランプのように浮かんでいた。皇帝が振り返った。「もう少ししたら、一人で暮らそうと思うのじゃ」ええ? そんな限りなく不可能に近いことを言い出されても困るんだけど。

蜻蛉 / ベルベット / 不満

「不満があるんだったら言ってくれたらいいのに」皇帝が苦笑した。「余もそこまで野暮ではないのじゃ」そうか、私たちに気を使ってるんだ。「春哉とはなんでもないよ」「じゃが、忘れられぬのじゃろう?」帽子からはみ出したベルベットのような耳にふわりとカゲロウがとまった。

封筒 / 銀河 /

「そちに男がおったと知って心穏やかではなかったが、あの者が相手なら諦めもつくのう」「フーカー?」「なんじゃ、また呼び捨てか」夕闇に彼の目が青い光を放つ。瞳の奥の銀河が光っている。それって……つまり……あなたは私を……。投函しようと持ってきた封筒を握り締めた。


その14

/ / 桔梗

「そちとハルヤは似合いじゃ。余は邪魔者になるつもりはない」皇帝は道端の夏桔梗に目を落とした。春哉は好きだ。でも、彼には恋人がいる。それに……。その時、背後の楓並木の陰から男が現れた。手には細身の剣が握られている。そして、彼の頭の上には長い耳が揺れていた。

憎む / 鉱石 / 勝利(ネツァク)

「国賊フーカーよ。生き永らえておったか」男の目が鉱石のような冷たい光を放った。「ホッピイの刺客じゃな」皇帝の声に憎しみがこもる。男は刀を構えた。「お前が消えれば勝利は我が君の物よ」「よかろう。だが、この娘には触れるでないぞ」両腕を開き、皇帝が私の前に出た。

手首 / 封筒 / 感謝

男は奇声と共に皇帝に切りかかった。すばやく飛び退いたものの皇帝は苦痛の声をあげて手首を押さえる。切られたのだ。「フーカー!」「そちは逃げよ。もしまた会えたなら、感謝の乳枕を忘れるでないぞ」馬鹿! 男が剣を構え直した。封筒を握った手が震える。彼を助けなきゃ。

歩く / / 勝利(ネツァク)

勝利を確信した男はゆっくりと歩く。そうだ、鍵に防犯ブザーをつけていた。ストラップを引けば、けたたましい音に男が耳を押さえてくずおれた。効果ありすぎでしょ? 落とした剣を男に突きつける。「フーカー、急いで!」だが、皇帝様も一緒に地面に転がっていたのだった。

/ ラピスラズリ / ホットチョコレート

すぐに春哉が来てくれて助かった。ウサギ耳の男が二人も倒れていては困ったことになっただろう。暗殺者をアパートに運び込み、手足をガムテープでぐるぐる巻きにした。彼の額には傷があり、ラピスラズリの耳飾りをしている。意識が戻った皇帝にはホットチョコレートを飲ませた。

痛む / 家具 / 皇帝(エンペラー)

皇帝の傷は出血の割には驚くほど浅かった。病院に連れて行かなくても済みそうだ。傷の手当をしようとしたらスプレー式の消毒薬が怖いらしく痛まないのじゃと逃げ回る。やっと捕まえて吹き付ければ飛び上がって後ろの家具に頭をぶつけた。さっきの度胸はどこに行ったんだろう?


その15

放心 / 薔薇 / 慈悲(ケセド)

暗殺者は目は覚ましたものの、放心状態だ。腕には教皇に仕える者の印だという薔薇の刺青が入っている。「この人どうするの?」「余の命を狙わぬのであれば、見逃してやってもよいのだがのう」ちょっと待ってよ。殺されるところだったんだよ。慈悲深いのを通り越して甘すぎる。

食べる / 羽根 / 拒絶(シェリダー)

春哉がささやいた。「このまま逃がすと危険だ。懐柔策を見つけなきゃ」私は男にお菓子のお皿を差し出してみた。「食べる?」「いらぬ」あっさりと拒絶される。「やっぱり皇帝とは違うよね」皇帝は憤然として鳥の羽根みたいな耳をぷるぷるさせた。「余はそんなにいやしくないのじゃ」

後悔 / 金木犀 / 教皇(ハイエロファント)

「もう皇帝を狙わないって約束してくれない?」男が私をねめつけた。「それはできぬ。教皇様のためならこの命捨てても後悔せぬわ」それじゃ、仕方ない。私はMP3プレーヤーのイヤホンを男のウサギ耳にねじ込んだ。あれ、この人、金木犀の香りがする。皇帝が不安げに私を見た。

/ マント /

「ショウコよ、何をする気じゃ?」「拷問」「なんじゃと?」男の鷲のように鋭い眼差しにも不安の色が混じり、赤いフェルトのマントの下で肩がこわばった。音量を絞り、なるべく激しそうな曲を探す。春哉も驚いた顔で見てるけど、こうなったらやるしかない。再生ボタンを押した。

紅茶 / /

黄色いLEDが点滅し、男が呻いた。「頭の中に魔物の声が。お前は術師か?」私は冷静を装って紅茶を一口飲んだ。「皇帝を傷つけないって約束するんだったら術を解いてあげてもいいわ。さもなきゃ一生このままよ」男は金色の瞳で私を睨み付ける。「私は我が君に忠誠をちかったのだ」

恨む / ジャム / 死神(デス)

私はプレーヤーの音量をあげた。恨むならホッピイを恨んでよね。パール・ジャムじゃ刺激が足りないみたい。曲目リストからデスメタルを選ぶ。私の趣味じゃないからね。男は目をつぶって耐えている。彼は小柄で俊敏そうだ。有能な殺し屋って感じ。隙を見せればこちらがやられる。


その16

/ / エナメル

私は机の上に座って足を組んだ。こうなったら根競べだ。まだ若く見えるのに彼の耳は古傷だらけ。柊の葉のようにギザギザだ。少し怖がらせれば降参すると思ったのに考えが甘かった。気持ちに焦りが出てきたその時、ちゃぶ台の上でエナメルのポットがかたんと音を立てた。

鼻梁 / 香水 / ビスケット

見ると皇帝がちゃぶ台に両手をついている。鼻梁を伝ってぽたぽたと落ちる涙が皿の上のビスケットを濡らしていた。「ショウコよ。このような恐ろしい真似はやめるのじゃ。お願いじゃ」誰のためだと思ってるの? これじゃ私が悪者じゃないの。皇帝の涙は香水のような香りがした。

感謝 / 指輪 / 無感動(アディシェス)

唐突に男が言った。「申し訳ございませぬ」ええ? 私は慌ててプレーヤーを止めた。無感動だった彼の顔に浮かぶのは驚きと感謝の念。「陛下は冷酷無残な人物だと聞いておりましたが誤りであったようでございます」私は彼の指輪に気づいた。どこかで見た緑色の石がはまっている。

/ シュークリーム / 入れ墨

防犯ブザーもあることだし彼の腕だけほどいてやった。「そちの名は?」「ポンパーと申します」「まあこれでも食べよ」渡されたシュークリームを一口食べて彼の耳がぴょこりと動いた。緊張が解けたせいか窓からの夜風が心地よい。「その入れ墨、教皇に深き忠誠を誓った者じゃな」

恨む / 足輪 / 隠者(ハーミット)

「余はここで隠者として暮らすつもりじゃが、そちは余に恨みがあるようじゃの」「陛下は私から妹を奪いました」「なんの話じゃ?」「町に兵が来て、皇帝に献上するのだと美しい娘達を……」皇帝は彼の足輪に目をやった。「そちはポムポムの者じゃの?」「はい」それは地名ですか?

舐める / 蜂蜜 / 王国(マルクト)

「そちの妹じゃが、あの王国の者であれば乳は小ぶりであろうの」「はい」「見よ。余はこのような豊満な乳が好みなのじゃ」皇帝は口についたクリームを舐めながら、私の胸を指差した。「ほほう、これは見事でございますな」ポンパーの蜂蜜色の目がまん丸になる。ちょっと、やめてよね。


その17

シュークリーム / /

「それに献上させねばならぬほど、女に困ってはおらぬしのう」ポンパーが砂色の髪を揺らしてうなずいた。「私には陛下が嘘をついているとは思えませぬ」さすがは皇帝陛下、女には困ってない、か。自分一人じゃ何もできないくせにさ。私はシュークリームを丸ごと口に押し込んだ。

/ 結晶 / 困惑

「もしそれがまことだとしても、余が失脚した今、そちの妹は解放されておるはずではないかの?」ポンパーの顔に困惑が浮かぶ。「確かにそうでございますな。では妹はいずこに?」彼の口元には砂糖の結晶が光っている。髪には倒れたときの土がついたまま。お風呂に入れてしまいたい。

憂鬱 / / 世界(ワールド)

「言いにくいのじゃがホッピイが怪しいのう。奴は乳の小振りな娘を好むのじゃ」憂鬱げに皇帝が言った。「我が君がそのような真似をするはずがありませぬ」「余を信ぜずともかまわぬ。あちらの世界に戻ったらそちが己の目で確かめるがよいぞ」ポンパーの肩が小鳥のように震えた。

歩く /磁石 / 月(ムーン)

「そちはどうやって余を見つけたのじゃ?」「月明かりを頼りに石に導かれるまま歩いて参りました」ポンパーは緑の石のはまった指輪を皇帝に手渡した。「なんと『皇帝の証』の対の石じゃな?」そうか、私がもらった石に似てるんだ。石同士が磁石のように引き付け合うのだという。

ジャム / 風鈴 / 切ない

「遠い昔に失われたと思っておったが」「我が君が持っておりました」「ホッピイめ、隠しておったな」皇帝が憎々しげにつぶやく。「君はあっちの世界にどうやって戻るの?」春哉が尋ねた。夜風に風鈴が鳴る。ジャムパンをかじる皇帝の目に切なげな光が浮かぶのを私は見逃さなかった。

緊張 / マシュマロ / 世界(ワールド)

「今日から三日後の正午、ある場所で『門』が開くことになっております」緊張が解けた今、ポンパーの顔は別人のように穏やかだ。マシュマロをもぐもぐ頬張っている。お腹がすいていたみたい。「世界と世界を繋ぐ『門』だね? どうしたら『門』が開くの?」春哉は好奇心満々だ。



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