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その11

困惑 / / 宇宙(ユニバース)

皇帝は星にただならぬ興味を持っているようだ。「国の命運を星で占うから?」彼は困惑した顔になった。「余はただ星が好きなだけなのじゃ。宇宙の深さを思う時、世の醜さを忘れられる。人の世など花の命のように儚いモノじゃからのう」この人、皇帝になんてなりたくなかったのかも。

/ 水飴 /

「どこの星から来たのか分かった?」こっそり春哉に尋ねた。「彼は地球人だよ」春哉は地球儀の上の湖を差す。「帝都は黒海の辺り。そしてこれが帝国の版図」ユーラシア、ヨーロッパ、アフリカ、インド、アジア。地球儀が回る。その超巨大帝国の支配者は現在水飴に苦戦していた。

花びら / タイムマシン / クレープ

「でも、そんな帝国、ないでしょう?」「僕たちのいる世界じゃないんだよ」水飴を諦めた皇帝は、クレープ紙に包まれた花びらみたいな焼き菓子を食べ始めた。「タイムマシンで未来から来たとか?」「彼は天文に詳しい。蝕の時期や惑星の位置からいって、現代だとしか思えないんだ」

ホットチョコレート / 言葉 /

「昔見た映画にパラレルワールドって出てきたよね?」皇帝の世界には魔法だとしか思えない不思議な技術が存在する。春哉の話を聞きながらも私の心は過去の思い出へと彷徨い出した。彼とはこうやって夜更けまで言葉を交わしたものだ。皇帝がずるんとホットチョコレートをすすった。

猜疑心 / 天体 / 貪欲(ケムダー)

皇帝は突如乱入した教皇の兵に捕らえられたのだという。彼は純真だ。猜疑心も持たず、貪欲でもない。あれほどの巨大帝国を治めていたとは信じがたかった。無能さ故に追放されたってことはないよね?「そろそろ帰らなきゃ。今度は天体望遠鏡を持ってくるよ」春哉が立ち上がる。

あんみつ / オルゴール / 冷静

これからも相談に乗ってくれると言う春哉に、皇帝はあんみつを食べ食べ礼を言った。常に冷静な彼が協力してくれると聞いて、肩の荷が下りた気がする。春哉は玄関の棚のオルゴールに目を留めた。彼からの誕生日祝い。未練がましいと思いながらも捨てられなかった思い出の品だ。


その12

柘榴 / 音楽 / カフスボタン

蓋を開ければ優しい音楽が流れ出す。春哉は私の顔を見て微笑んだ。シャツの袖に柘榴色の石が光る。私があげたカフスボタン、まだ使ってくれてたんだ。あなたも捨てられなかったの? そんなはずないよね。今はあの子がいるんだから。「明日また会社でね」そう言って彼は帰った。

/ 煙草 / 切ない

窓の月にかかる雲を眺めていた皇帝が言った。「ショウコはあの者が忘れられないのじゃな」初めて彼に名前を呼ばれて顔を上げる。今も春哉が好きだ。彼とはくだらない喧嘩で別れてしまった。未だに煙草の臭いがすると切ない気持ちになる。あの子のためにやめたって聞いたけど。

聴く / / 慈悲(ケセド)

自分で寝支度をした皇帝は、押入れの中でウサギの人形を抱えている。なんだかかわいい。「何がそんなにおかしいのじゃ?」棘のある言い方だ。「不機嫌だね」「余は慈悲深き皇帝であるぞ。機嫌など損ねたりはせんのじゃ」扉が閉まる。その晩、押入れから祈りの歌声は聴こえなかった。

怠惰 / / 無感動(アディシェス)

翌朝、押入れの戸は閉じられたままだった。今日は会社は休めないので無理やり起こす。皇帝は朝食にも無感動な目を向けるだけ。ホームシックかな? 私が支度をする間も怠惰な姿勢で壁にもたれ、窓から空を眺めている。くれぐれも外にだけは出ないように釘を刺し、私は家を出た。

/ アップルパイ / 眼鏡

昼休み前に春哉からメール。昼食に付き合えという。高鳴る胸を抑えて彼の部署に行くと、彼は仕事用の眼鏡を外して立ち上がった。彼の同僚が驚いた顔でこっちを見ている。二人で近所の洋食屋に向かった。アップルパイがおいしい店だ。皇帝はちゃんとお昼ご飯を食べているだろうか。

懐かしむ / / 形成(イェツィラー)

席に着くなり春哉は皇帝の話を始めた。そんな事だろうと思ったけど。皇帝の世界について色々仮説を立てたようだ。付き合ってた頃もよく今と同じ顔をしてた。天体観測に行けば、朝方空が白むまで星の形成だとか宇宙の歴史について語ってくれたものだ。つい昔を懐かしんでしまう。


その13

朝陽 / 映画 / ゼリービーンズ

私は春哉に皇帝が落ち込んでいる事を話した。そうだ、お土産にお菓子を買って帰ろう。カラフルなゼリービーンズを見たら元気も出るでしょう。家にこもってちゃ気が滅入るもんね。明日は朝陽の昇る前に起きて長い散歩に連れ出そう。週末には映画に行こうかな。彼の驚く顔が見たい。

ミルク / 鳥籠 / 読む

気づいたら春哉が目を丸くして私を見ていた。私、おかしなこと言った? 慌ててミルクティーを飲み干し、メニューを読むフリをする。春哉がくすっと笑った。「招子は楽しそうだね」ええ? 表の鳥籠で文鳥がさえずっている。だってほら、皇帝ってペットみたいでしょ? だから……。

/ 人形 /

夕方、アパートに戻ると皇帝の姿が見当たらない。慌てて探せばベランダに立って表の楓の木を眺めていた。ウサギの人形を抱いて、幻みたいにはかなく見える。「フーカー?」ゆっくりと彼が振り返った。「呼び捨てはやめろと言ったじゃろう」彼の笑顔はなんだか寂しそうだ。

/ ランプ /

散歩に行かぬかと誘われ、夕闇の中、外に出る。夕立で濡れた土の匂いが漂い、空には緑がかった大きな月がランプのように浮かんでいた。皇帝が振り返った。「もう少ししたら、一人で暮らそうと思うのじゃ」ええ? そんな限りなく不可能に近いことを言い出されても困るんだけど。

蜻蛉 / ベルベット / 不満

「不満があるんだったら言ってくれたらいいのに」皇帝が苦笑した。「余もそこまで野暮ではないのじゃ」そうか、私たちに気を使ってるんだ。「春哉とはなんでもないよ」「じゃが、忘れられぬのじゃろう?」帽子からはみ出したベルベットのような耳にふわりとカゲロウがとまった。

封筒 / 銀河 /

「そちに男がおったと知って心穏やかではなかったが、あの者が相手なら諦めもつくのう」「フーカー?」「なんじゃ、また呼び捨てか」夕闇に彼の目が青い光を放つ。瞳の奥の銀河が光っている。それって……つまり……あなたは私を……。投函しようと持ってきた封筒を握り締めた。


その14

/ / 桔梗

「そちとハルヤは似合いじゃ。余は邪魔者になるつもりはない」皇帝は道端の夏桔梗に目を落とした。春哉は好きだ。でも、彼には恋人がいる。それに……。その時、背後の楓並木の陰から男が現れた。手には細身の剣が握られている。そして、彼の頭の上には長い耳が揺れていた。

憎む / 鉱石 / 勝利(ネツァク)

「国賊フーカーよ。生き永らえておったか」男の目が鉱石のような冷たい光を放った。「ホッピイの刺客じゃな」皇帝の声に憎しみがこもる。男は刀を構えた。「お前が消えれば勝利は我が君の物よ」「よかろう。だが、この娘には触れるでないぞ」両腕を開き、皇帝が私の前に出た。

手首 / 封筒 / 感謝

男は奇声と共に皇帝に切りかかった。すばやく飛び退いたものの皇帝は苦痛の声をあげて手首を押さえる。切られたのだ。「フーカー!」「そちは逃げよ。もしまた会えたなら、感謝の乳枕を忘れるでないぞ」馬鹿! 男が剣を構え直した。封筒を握った手が震える。彼を助けなきゃ。

歩く / / 勝利(ネツァク)

勝利を確信した男はゆっくりと歩く。そうだ、鍵に防犯ブザーをつけていた。ストラップを引けば、けたたましい音に男が耳を押さえてくずおれた。効果ありすぎでしょ? 落とした剣を男に突きつける。「フーカー、急いで!」だが、皇帝様も一緒に地面に転がっていたのだった。

/ ラピスラズリ / ホットチョコレート

すぐに春哉が来てくれて助かった。ウサギ耳の男が二人も倒れていては困ったことになっただろう。暗殺者をアパートに運び込み、手足をガムテープでぐるぐる巻きにした。彼の額には傷があり、ラピスラズリの耳飾りをしている。意識が戻った皇帝にはホットチョコレートを飲ませた。

痛む / 家具 / 皇帝(エンペラー)

皇帝の傷は出血の割には驚くほど浅かった。病院に連れて行かなくても済みそうだ。傷の手当をしようとしたらスプレー式の消毒薬が怖いらしく痛まないのじゃと逃げ回る。やっと捕まえて吹き付ければ飛び上がって後ろの家具に頭をぶつけた。さっきの度胸はどこに行ったんだろう?


その15

放心 / 薔薇 / 慈悲(ケセド)

暗殺者は目は覚ましたものの、放心状態だ。腕には教皇に仕える者の印だという薔薇の刺青が入っている。「この人どうするの?」「余の命を狙わぬのであれば、見逃してやってもよいのだがのう」ちょっと待ってよ。殺されるところだったんだよ。慈悲深いのを通り越して甘すぎる。

食べる / 羽根 / 拒絶(シェリダー)

春哉がささやいた。「このまま逃がすと危険だ。懐柔策を見つけなきゃ」私は男にお菓子のお皿を差し出してみた。「食べる?」「いらぬ」あっさりと拒絶される。「やっぱり皇帝とは違うよね」皇帝は憤然として鳥の羽根みたいな耳をぷるぷるさせた。「余はそんなにいやしくないのじゃ」

後悔 / 金木犀 / 教皇(ハイエロファント)

「もう皇帝を狙わないって約束してくれない?」男が私をねめつけた。「それはできぬ。教皇様のためならこの命捨てても後悔せぬわ」それじゃ、仕方ない。私はMP3プレーヤーのイヤホンを男のウサギ耳にねじ込んだ。あれ、この人、金木犀の香りがする。皇帝が不安げに私を見た。

/ マント /

「ショウコよ、何をする気じゃ?」「拷問」「なんじゃと?」男の鷲のように鋭い眼差しにも不安の色が混じり、赤いフェルトのマントの下で肩がこわばった。音量を絞り、なるべく激しそうな曲を探す。春哉も驚いた顔で見てるけど、こうなったらやるしかない。再生ボタンを押した。

紅茶 / /

黄色いLEDが点滅し、男が呻いた。「頭の中に魔物の声が。お前は術師か?」私は冷静を装って紅茶を一口飲んだ。「皇帝を傷つけないって約束するんだったら術を解いてあげてもいいわ。さもなきゃ一生このままよ」男は金色の瞳で私を睨み付ける。「私は我が君に忠誠をちかったのだ」

恨む / ジャム / 死神(デス)

私はプレーヤーの音量をあげた。恨むならホッピイを恨んでよね。パール・ジャムじゃ刺激が足りないみたい。曲目リストからデスメタルを選ぶ。私の趣味じゃないからね。男は目をつぶって耐えている。彼は小柄で俊敏そうだ。有能な殺し屋って感じ。隙を見せればこちらがやられる。



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