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前夜

小学生の頃は遠足の前夜はとてもザワザワとしていたことを覚えている。

旅行に行くよりもその準備をする方が好きなのはその頃から全く変わらないが、
小学生の頃はまだ真っ暗な内に起きて準備をするということだけでも
何か特別で少しだけ大人の世界に足を踏み入れているような気分だったからだと思う。

ちゃんと起きれるのか、皆で乗る電車はちゃんと来るだろうか、と考えだすと止まらなくて
毎年両親に早く寝るように窘められながらもニュースを一生懸命チェックしていた。

多分そういう所は今でもしっかりと残っていて、天気予報をチェックしすぎて
部署内でのあだ名が「お天気お姉さん」だったりする。

「みさきさん、今日って雨降るんだっけ?」
「夕方から降るから、定時であがって洗濯物しまってから買い物コースがオススメです!」
「みさき、もうお天気キャスターとかで人生やり直せよ。」
「いや、人生やり直せってスケールでかくない?せめて就職やり直せとか……」
「単純に天気予報だけでなくて気圧の話までできるOLがどこにいるよ。」
「気圧の話なんて、予報図見たらわかる話じゃないですか!」

その予報図見たらわかる発言がお天気お姉さんと呼ばれる所以で周りにいじられるのだ、
同期が締めのツッコミをした所で毎朝恒例の部署内の天気予報タイムは終了だ。

自分の中では次の日会社に行く前に天気や電車の運行情報を調べるくらいは当たり前なのだが、
それを遠足の話を例に挙げて説明した所、通勤と遠足が一緒だという点でまた周囲が盛り上がったので、
百歩譲って自分が少し変わっていることは認める。

でも、確かに天気予報に関してはよく聞かれるからチェックしはじめたんだっけ。

当たり前だと意識していなかったが、高校生の頃まではぼーっと朝のテレビで天気予報を
チェックするだけだったようにも思う。

「というか、みさき。それだけ天気の話しといて、雨降る前に帰らなくていいの?」
「あー!洗濯物!!」

思わず言ってしまった一言に再びドッと周りが吹き出し、更に早く帰れだのなんだのと騒ぎ出したのをいい事に
手早くデスクを片付け、帰路につくことにした。



半日前と半年前

正直言うと、今週だけは天気じゃないんだよね、帰りたい理由。

お天気OLとか天然とか自分についているキャラクターを盛大に利用してると言えばそれまでだが、
今週だけはどうしても早く帰りたい理由があった。

今週末の土曜、半年前から準備した結婚式・・・・・・と言っても兄の、なのだが。

ブラコンとシスコンと周りまで言うほど仲のいい兄妹だった。
小さい頃はいじめられた時に助けてくれたり、宿題を見てくれたり、バイトの給料でケーキを買ってくれたり。
「少女漫画の読みすぎでしょ?」とエピソードを語るだけで言われるほど、絵に書いたような仲の良さである。

就職してからはお互いに離れてしまったので会える機会は減ってしまったが、それでも世の中の平均的な
兄妹と比べたらメールやら電話やらで頻繁に連絡を取っていたと思う。
それだけ仲が良かったのにも関わらず、報告は突然だった。

一ヶ月に一回ほど「お互いの住む家から同じ距離」という括りでご飯を食べがてら会っていたのだが、
その時だけは珍しく兄の家で宅飲みしよう、という話になった。

「なぜか部長が鴨鍋セットの社内販売を勧めてきてさぁ・・・みさき、ちょっと食いに来ない?」
「かもなべ・・・??」
「お得意先の新発売なんだってさ。んで、社内全員購入。だから鍋パしようにも皆買ってるから困ってんだよね。」
「何それ(笑) いいよ。カワイイ妹が食ったげる!」
「お。いいねー。じゃあ酒よろしくな!」

そんな流れだったので、本当にお助け隊くらいの気持ちでしかなかったし、
事実途中までは食卓の話題は完全に『鴨鍋』と『みんなの鴨鍋処理方法』に終始していたと思う。

「さすがにお腹いっぱいだぁ・・・・・・ 」
「確かによく食った。いやー、ほんとみさき来てくれて助かったわ。」

たらふく鍋を食べて、それでも余る鍋を明日の朝ごはんにしようと台所に戻し、こたつでぬくぬくと幸せな気持ちを味わっていると急に兄が真面目な顔でこっちを見ていた。

「そんなに助かったの(笑)?」

余りにも真剣な顔だったので、思わず聞き返したことを覚えている。

「あのさ。」
「・・・うん?」
「俺、結婚するわ。」

衝撃だった。
自分よりも年上なのだから可能性としては充分あったし、チラホラと周りから恋愛関係の噂を耳に挟まなかった
こともないわけじゃない。
むしろカッコイイ兄として同級生から羨ましがられていたのだから、当に覚悟は出来ていたはずである。
ただそれでも、報告を聞いた瞬間。
「もうこの関係は無くなってしまうんだ」という想いだけが胸を占めていた。

「・・・・・・みさき、それは嬉し泣き?」

きっと兄想いの妹としては嬉し泣きをすべきだったのかもしれない。

「・・・・・・・・・悠とこうやって・・・ご飯食べたり出来なくなるな・・・とか。」
「・・・ご飯、食べにきてよ。これからも。」
「奥さんに悪いよ、そんなの。」

それでも間髪いれずにこう返せただけ自分は頑張ったと思う。

「やっぱりみさきを寂しがらせるんじゃないかなーって思ってさ。言いにくかったんだよ。」
「・・・・・・。」
「でもさ、泣いてくれたから、やっぱりこれだけは言っておこうと思う。」

こちらを伺うような報告から一変して、兄の口調が妙にきっぱりとしたのに気づき、
泣くまいと必死に見つめていたテーブルから兄の顔へと目を向ける。

「俺はさ・・・このタイミングで言っても信じてもらえないと思うけど・・・みさきが好きなんだ。」
「・・・!?」
「妹として好きなのはもちろんだけど。」

今日は一日で何回衝撃を受ける日なんだろう。

そう心の中で愚痴った。
「・・・家族ってことでしょ。両親いない事多かったし、悠に迷惑かけてばっかだったもんね。」
精一杯の強がりで、売り切れ寸前まで虚勢をはって返した言葉も涙声でボロボロだった。

「家族なのは大前提で・・・・・・だから、その・・・こういうこと。」

普段は饒舌な兄が珍しく口ごもったなと思ったと同時に、目の前一杯に兄の顔が広がり唇がふわりと温かくなった。

「小さい頃はわかってなかったけど、大学くらいから気付いてた。『俺はみさきが好きなんだ。』って。
家族なのはある意味ラッキーだって思ってた。
彼氏彼女だと別れたり色々あるけど、家族ならそういうことないし、むしろ付き合ってる以上に会える。
親の連れ子同士だから、なんとなく疚しさとかも勝手に薄いって思ってた。
・・・でもさ、やっぱり周りの目は兄と妹なんだよな、世間的にも、法律的にも。
それで思った。このままじゃいけないんだなって。」

なんでそうやって独りで決めちゃうの?

そう言いたかったが、キスされたことへの混乱や、結婚してしまうショックと全てが自分の中でグチャグチャだった。

「ダメだって思ってても、気になるから会う時は絶対に外にしようって思ってた。
周りの目を気にしないで出来るような男じゃないからさ、俺。」
「ズルイよ・・・」
「ゴメンな、勝手で。」
「違う!私だって・・・私だってずっと悠のことが好きだった!」

気付いていた。
もうずっと前からわかっていた、自分は兄が好きなのだと。
そして全く同じ理由で家族であることを幸運に思って、妹という立場で甘んじていた。
妹であればこの先ずっと一緒にいられるのだと思っていたし、そうありたいと願い続けていた。

「・・・言ってくれて、ありがとう。
でもな、やっぱり兄として妹のこと、ちゃんと幸せにしてやんないとなって。
だからそういう意味で、自分にブレーキかけるためにも、妹にまっとうに幸せになってもらうためにも、
ちゃんと俺は俺で違う道を行かないといけないんだよ。」

兄の言っている事は正論だったが、悲しいことに正論は必ずしも納得できるものではなかったりする。

わかるけど・・・わかるけど、でも。。。今日それを言うのはズルイよ。

「ごめんな、ほんとは言っちゃいけないんだってわかってた。
言わずに仕舞っておかないといけないって思ってたけど、どうしても自分の気持ち伝えないと後悔するし・・・
欲張りなのはわかってるけど、みさきに好きって言われたかったんだ。」
「私も気持ちわかってたなら、言わせないでよ。悠のばーか。」

負け惜しみで言おうとした台詞は最後まで言う前に悠の唇で荒っぽく止められ、言い直そうと足掻くものの
角度を変えて、やがて首筋に移っていく感触に何も言えなくなってしまった。

両想いってこんな塩っぱいものだっけ。。。

「読みすぎでしょ?」と言われた少女漫画にだってこんな塩っぱいキスは無かった気がした。

当日

もう半年も前から気にし続けた今日の天気予報は雨のち晴。

明け方まで降り続いていたものの初夏に入ろうかという頃だからか、1~2時間の太陽で
地面はだいぶ乾いてきている。

この一週間、この日を泣き腫らした目で迎えるのではないかとずっとハラハラしていた。
明け方まで雨が残ったのは、きっと私の代わりに泣きはらしてくれたんじゃないだろうか。

唯一の式に参加する肉親として、家族からの手紙になんと書いたものか悩んでいたのもあるし、
当日のことを考えて泣き出しそうになっていたのも半分あった。

「一体、お嫁さんにはどうやってプロポーズしたの?」

一連の報告が終わって、お互いの気まずさも少し解消した頃にそう聞いたことがある。

「・・・笑わないで欲しいんだけどさ。逆プロポーズなんだ。」
割とリーダーシップをとったりする方の兄にしては珍しい気がしたのが顔に出たのかもしれない。
兄は苦笑して続けた。

「『みさきちゃんのことが好きなのはわかってるし、そのことで悩んでるのもわかってる。
調子がいいこと言ってるように思うだろうけど、私はそこも含めて悠だと思ってる。
だからみさきちゃん以外にそういう悠を受け止めてあげられる人は必要なんじゃない?』ってさ。」

このプロポーズを聞いて、なんで兄が私に気持ちを打ち上げてくれたのかがわかった気がしたし、
正直この人には適わないと一言で理解した。
だからこそ、そこまで感じたからこそ、家族からのスピーチを引き受ける覚悟が出来たのかもしれない。


「では、ご家族を代表して新郎妹さまよりお手紙をいただいております。」
「本日はお忙しい中・・・・・・」

直前まで緊張してご飯の味もわからないくらいだったが、手紙を読み始めると昔の気持ちが次々と思い出されて
なんだかアルバムをめくっているような気分だった。

親の再婚のための食事会ではじめて悠を見た日、引っ越してきて一緒に暮らすようになってからの悠、
たまに遊びにくる友人達と過ごす悠。

「兄と出会ってからこれまでを過ごしてきて、わかったことがあります。
家族になるってこういう出来事の積み重ねなのだということです。
今日から兄はまた新しく家族になることを始めていきます。
でも、心配はしていません。
言わずもがな、新婦のお人柄を信頼しているのがもちろおん第一ですが、
兄と家族になってきた妹がいうのだから間違いありません。
どうぞ素敵な家族になっていってください。」

多分今日は悠のことを好きだって思っても許される最後の日だと思う。

だから心の中で妹としてのスピーチでは言えなかった本当の最後の締めの言葉をそっと呟く。

大好きな悠へ みさきより

奥付



明日には間に合わない 3


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著者 : 大河内 葵
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