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*月猫*〜風〜


彼女は

いつも笑っていた。

まるで

スキップするように

軽やかに歩いた。

 

まるで 風をあやつるように

すそがあまりにも

魅力的にゆれるので

つい

飛びついてしまうほど。

 

『夜!また とびついてきたわね!』

 

彼女の笑い声は 鈴のよう。

 

『なんとかなるって思えるの』

珍しく

目を潤ませる時ですら

彼女は笑っていた。

 

 

人の世話をやくのが好きで

すべての巫女を家族のように思っていた。

 

いつもみんなで楽しむことを企画するのに

自分は気を使って働いて

結局そんな役ばかり

ひきうける。

 

 

家族としてすごしたいあまりに

たての関係にこだわり過ぎて

権力ぎらいの上弦の月の巫女にうるさがられたりも

する。

べつに押し付けるつもりは ないみたいだけどね。

 

満月の巫女とはなかよしだけど 自由な彼女に

ちょっとふりまわされているかも。

 

新月の巫女には信頼されて頼られているから

ついついサポートにまわっている。

 

猫としては

そんな彼女は

損してるようにおもえるけど

彼女の笑顔をみると

まあいいか

思えてしまう。

 

 

そんな彼女は

下弦の月の巫女の一人。

 

猫は 彼女をこうよんでいた 下弦の風の巫女と。



そんな

下弦の風の巫女が

恋に落ちたのは

下弦の月のはじまるころだった。

 

 

明日から祈りのために

7日間

神殿にこもらなければ

ならない。

 

その間は

他の月の巫女と

接触してはならない。

神殿からも出られない。

 

『つまらないなあ』

 

おしゃべりも禁止

踊りも儀式の踊りのみ

 

大切な役目なのはわかっている。

 

下弦の月は

この街を この国を この星を

浄化へと導き

新月へと いざなうのだ。

 

満月は

どんどんかけはじめ

浄化の力が強まっていく。

 

グリーンの

リボンが風にゆれる。

 

ナイルは

ゆっくりと流れていく。

 

 

『あなたはいつも人のためによくつくしていますね』声にふりかえると

 

 

まるで

子どものころから

何度もきかされてきた

月の神話の神がたっているようだった。

 

 

胸飾りが

夜の闇にも輝いている。

きっと

本当に身分の高い人なのだろう。

 

ぽかんとしていたのが

急にはずかしくなり

慌ててお辞儀をする。

 

『よかったら一緒に月を眺めませんか』

 

やさしい笑顔に誘われて

自分でも

びっくりするけど

すんなり

隣に腰をおろす。

 

 

 

『もうすぐ浄化の月ですね』

そういいながら

自分の胸に手をやるその人は

よくみると青白く

どこか病んでいるようにみえた。

 

二人で

かけゆく月を眺めていたら、どこからか

音楽が流れてきた。

 

~踊りませんか~

巫女は

立ち上がり

踊り出した。

いつものように

軽やかに。

 

 

その人は

にっこりと微笑み

巫女の踊りを

いつまでも

ながめていた。

 

 

その人の瞳のなかに 

下弦の月があるなあと

巫女は 

瞳から 目がはなせなくなった。



下弦の月期になり

 

いつものように

いつもの祈りがはじまったけれど

 

下弦の月の巫女は

いつもとちがい

懸命に祈った。

 

誰か一人のために

祈るのは 許されるだろうか。

 

それでも

月よ。

もうこれから一生

あなたに仕えます。

 

だから お願い。。。。。。

あの方の闇を浄化できますように。

あの方といつか一緒におどれますように。

 

下弦の月は いつもより輝いたようにみえた。

 

 

7日が過ぎ

新月の巫女が 扉をあけ

下弦の月の巫女たちが 

それぞれに 

清々しい顔であったり

よろよろと よろけながらであったり

中庭にでてきた。

 

いちばん最後にあらわれた

下弦の風の巫女に

すりよると

彼女は 猫をだきあげた。

 

 

『あの方の闇は浄化できたわ。

 

 でも。。。』

 

 

そのまま 猫を抱きしめたまま

泣き崩れてしまった。

 

 

祈っているあいだ

彼女の心は 体をはなれ 

あの方のもとに いったのだ。

 

彼女は 懸命に あの方のまわりで踊り続けた。

 

その姿は まぼろしなのに

 

病におかされた目で あの方は 彼女をみあげた。

 

体から 闇が消え去っていく。

笑みがこぼれたと おもったら

 

今度は 光が あの方を包み込み。

そのまま 目を閉じた。

 

4人の月の天使が あらわれ 

夜空にうかぶ 悲しげにうつむいた下弦の月へと

あの方の魂を 導いていった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから どれだけの 祈りをささげただろう。

下弦の月の祈りが はじまるたび

風の巫女は あの月にいる あの方を 思いつつ 祈っている。

 

『いつか また おあいできますよね』

 

 

彼女は あいかわらず 

その裾を 風にあそばせて 華麗に踊るのだけれど

その笑みは どこか さみしげなので

猫は 彼女をみつけると すりよらずには いられない。

 



この本の内容は以上です。


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