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リトルバスターズ!KXSS2012

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いろいろすれ違いな姉妹のバースデイ

いろいろすれ違いな姉妹のバースデイ

 

 

「佳奈多さん、今日は葉留佳さんの誕生日だね」

「そうね」

「ということは、佳奈多さんの誕生日でもあるよね」

「そうとも限らないわよ」

「どうして? 二人は双子なんでしょ?」

「双子だからって同じ誕生日とは限らないわ。特にKeyではね。藤林杏と藤林椋の誕生日が違ったのは有名な話よ」

「でもあれは後で訂正されたよね?」

「そうね。でも実際、双子が同じ日に生まれるとは限らないのよ。双子と言っても、普通分娩なら一度に出てくるわけではないし、帝王切開でも手間取れば0時を過ぎて誕生日の日付が変わってしまうという事はあり得るわ。wikipediaによると、アメリカのルイジアナ州で1994年から1995年にかけて、誕生日が95日離れた双子が生まれたらしいわ。異父二卵性双生児に比べれば、ずっとありふれた話よ」

「そうなんだ。でもそのwikipediaに、佳奈多さんも葉留佳さんも誕生日は10月13日と書いてあるよね?」

「…」

「どうしてそんな無駄な抵抗するのさ」

「そ、それは…」

「それは?」

「あ、あの子と一緒の誕生日なんて、嫌だったからよ」

「ホントに? て言うか、嘘でしょ」

「…」

「なんでそんな嘘つくのさ。もうみんな真相は知ってるんだから、虚勢張らなくてもいいのに」

「ではあたしが説明してみましょうか」

「誰!?」

「クドわふたーに出てくる併設校の科学部部長で、クドのテヴア時代の先輩の、氷室憂希さん。主人公なら覚えときなさいね」

「ちなみに城桐キャラよ」

「クドわふたーで出てきたキャラなんだから基本的には城桐キャラに決まってるでしょう。何を言ってるのかしら」

「そう? 食堂のおばちゃんって城桐キャラかしら…?」

「そんなレベルで話されても…」

「そんなことよりさっきの話説明してよ。城桐キャラは変人という事はよくわかったから」

「…」

「…」

「…」

「あ、有月姉妹はまとも、かな…?」

「全然フォローになってないわ…」

「そんな事より説明! 説明お願い! 話進まないから」

「いつか追求するからね、忘れないでよ。で、さっきの話を解説すると。二木佳奈多の心情としては、自分が、自分自身が、妹の葉留佳の誕生日を祝いたいと」

「!!!」

「祝えばいいじゃない」

「でも彼女も同じ誕生日なのよ? それなのに祝う立場になっちゃうのは変だと、考えたのじゃない?」

「…」

「そうなのかなあ?」

「ま、例えば卒業生が送別会の幹事やってたら、それは変だしね」

「うーん、それもそうか」

「ま、でも誕生日が同じという現実は変えられないわ。この件に関してはあきらめる事ね」

「…そうね…」

「…いや、そういうことなら手はある」

「え?」

「無いわよ。戸籍上の名前や本籍を変える事は出来ても、誕生日を変える事は出来ないのよ。事実と違うという証明がされない限りはね」

「いや、誕生日を変える必要はない。ただ、時間を変えてしまえばいいんだ」

「…は?」

「時間を入れ替えて、誕生日じゃない日の佳奈多さんが誕生日の葉留佳さんを祝えば良いんだよ」

「ごめん何言ってるのかわからない。ううん正確に言うと、言ってる事が非現実的すぎて、理解したくない」

「そうね、そんなできない提案をされてもねえ」

「デキルヨ!」

「あんたは中津静流か」

「で。いったいどうやるって言うの?」

「僕は、時間を変える事が出来るんだ!」

「…馬鹿じゃないの?」

「なにそれ。あの、厨二って奴? それともデムパ?」

「何言ってるの! リトルバスターズのラストそういう展開だったでしょ! 遺伝子まで書き換えちゃったんだよ! もう忘れちゃったの!?」

「いや、あたしクドわふからのキャラだし…」

「あたしもリトバス時代は立ち絵無しだったし…」

「私もリフレイン以降は絡んでないから…」

「うわー。なんかそこはかとない僻みを感じるよー」

「だって野球にも出してもらえなかったし…」

「出たかったんだ」

「べ、別に…ッ。ただ、ファンが…」

「まあ、朱鷺戸沙耶は出てるのに二木佳奈多はスクリプトの都合で無理ですとか言われても、納得いかないわよねえ*1

「べ、別に良いのよ…野球なんて…本編に関係ないし…」

「そう、その本編! 僕ちゃんと過去書き換えてるでしょ!? 出てる出てないとかは置いといて、この事実は認めてよ!」

「でもクドわふだとあなた、ナルコレプシー治ってないのよ? つまり過去書き換えられてないのよ?」

「それが本来の流れよね。そもそも過去書き換えなんて、そんな荒唐無稽な話あり得ないわ」

「でも、リトバスってそういう話なんだよ!」

「そう。じゃあもし仮にそれが可能だとして。でもあれは、あなたが虚構世界とかいうこの宇宙の物理現象を無視した特殊な空間にいたからこそ出来た次元跳躍的な行動だと考えるべきじゃないかしら。つまり、普通の空間にいる限りは、あなたは時間をいじる事なんて出来やしない。そう考えるのが妥当じゃない?」

「それは…。じゃあわかった、虚構世界をもう一回作ってもらう! 恭介に頼んでみる!」

「またそんな無茶苦茶を…。というかもう良いわよ、そこまでしなくても」

「まあ、そう言わず最後まで付き合ってみたら? 方向性はともかく、気持ちは真剣みたいだし」 

「あたしも、ほんとに出来るのなら興味あるわね。ついていくわ」

 

 

 

「風が気持ちいいぜ…。ここは屋上…。俺は片足を欄干にかけて一人でかっこつけながら、ちょっとした自己陶酔に浸っている…。今回筆者が地の文は書かないと決めやがったから、こんな事もいちいち声に出して言わないといけない…虚しいぜ」

「恭介、ちょっといいかな?」

「なんだ、理樹か。いいぞ、理樹のいう事なら大概の事は聞くぞ。性的な話も含めてな」

「性的な事はどうでもいいけど、話を聞いてくれるのはうれしいよ。実は、恭介にもう一度虚構世界を作って欲しいんだ」

「…理樹。確かに、作品を重ねるごとにお前がだんだん馬鹿になっていっている事はわかってる。わかってはいるが、だからと言って認めたくはないものだ」

「ひどいよそんな言い方…。だいたい、クドわふではそんなに馬鹿じゃなかったでしょ」

「俺出てなかったから知らない」

「またここにも僻み根性の人が…」

「まあ、就職活動してたんだからこれは仕方ないんじゃない?」

「まあそれは置いといて。虚構世界をもう一度作れというのは無理な話だ。あれは俺の、生死をかけた一生一度の大技だ。やれと言われて安易に出来るものじゃない」

「でも、時間を動かしたいんだよ」

「そういう話なら、尚更無理だ。SFの世界でも、時間絡みの話は大変に複雑で緻密な考察と理論設計が必要になる。安直に手を出していいものじゃない」

「でもリトバスは特に深い説明とか無くそういう展開になってたのに」

「あれは麻枝准だから許されるんだ。一介のSS書きがそんな事したら失笑を買うのがオチだ」

「え? SS書き? 恭介の話じゃなくて?」

「その辺は気にするな。とにかく、虚構世界は無理だ。何か別の案を考えるべきだな」

「別の案と言っても…」

「理樹、目的と手段を混同するな。お前が本当にやりたい事は一体何だ? まずそれを整理してみろ」

「それは…佳奈多さんに喜んでもらいたい」

「え…? ちょ、直枝、違うでしょ」

「違わないんでしょ。本当の目的はそういう事、って事でしょ。直枝君って、意外と素直なのね」

「な…! な…! な…!」

「ふむ。それで理樹は、どうしたいと思った?」

「佳奈多さんは葉留佳さんの誕生日を祝いたかった。でも自分も同じ誕生日だから、直接お祝いするのはおかしいという話になった」

「だから時間をいじろうとしたわけか。だがそういう話なら、別の視点もあるんじゃないか?」

「別の視点?」

「つまり、二木佳奈多が二木佳奈多でなくなればいい。二木佳奈多以外の誰かが三枝葉留佳の誕生日を祝うのならば、何の問題もなくなる。そうだろう?」

「それはそれですごい屁理屈っぽい気がするけど…具体的にはどうやるの?」

「二木には自分を自分でなくする得意技があるだろう。三枝葉留佳に変身するという」

「あ!」

「シナリオによってはそれで理樹を犯しちゃうしな」

「へーーーーーーーーーーーー」

「へーーーーーーーーーーーーーーー」

「わーっ! わーっ! わーっ!」

「嫌! やめて! その話はやめて!」

「ま、この件は後でゆっくり追求するとして。かなちゃん、はるちゃんに変身するのはすぐ出来るの?」

「出来ますよ、いつでも準備してますから。あと、いつからはるちゃん呼ばわりするようになったんですか」

「NHKのニュースに冬将軍が出るようになった頃から、かしら*2

「結構前だよな、それ」

「かなちゃん呼ばわりはもう許したんだね」

「いつでも準備してる事には誰も突っ込まないのね…」

 

 

 

「そういうわけで、変身完了です!」

「…」

「文字じゃ全然わからないけど、どこからどう見ても葉留佳さんです!」

「かなちゃん、『アヒョー!』とか『葉留佳ちんちん18禁』とか言ってみてよ」

「葉留佳はそんな事言いません! 前半はともかく!」

「前半は言うのね…」

「そしてうまい具合に三枝葉留佳も呼び出した。事件の臭いがすると携帯電話で告げただけで、すぐ飛んできた」

「その一言ではるちんは騙された事を理解しました! いやー、参りましたネ」

「まあ、そう参る事もないよ。これからいいことがあるから」

「?」

「この人が、話があるって」

「…」

「…誰デスカ?」

「わ、わ、わ、…」

「輪? 輪っか? 円デスカ? 円はあらゆる図形の中で最も性質がいいという、あれデスカ?」

「好きなタイプだけど関わりたくない人が、こんなところにいたなんて…」

「私は葉留佳! 三枝葉留佳!」

「何言い出すんですカ突然? 確かに姿ははるちんにそっくりデスケド」

「サイグサハルカハシンダ! サイグサハルカハシンダ!!!」

「何て事言うんデスカ」

「佳奈多さん落ち着いて、テンパらないで!」

「お姉ちゃん?? まーた私の格好して遊んでるんですか? 何やってんでスカ。風紀委員と寮長と女子高生弁理士の仕事はどうしたんデスカ」

「最後の、何…?」

「遊びじゃないわよ! その…葉留佳、誕生日おめでとう」

「…それを言うためにわざわざそんな格好を?」

「誕生日が同じかなちゃんが誕生日のお祝いを言うのは変だからという、彼女なりの理屈なのよ。察してあげて」

「それで私の格好を?」

「そうだ。これで二木は二木でなくなった。問題無い」

「でもそれって、私が私におめでとうって言ってる事になりますヨネ? 余計変じゃないデスカ?」

「あ」

「そうよねー」

「フ、俺とした事が…」

「私は気づいてたけど、敢えて黙ってた」

「え、えっと、そ、その、その、その、…」

「はあ…。まあいいデス。お姉ちゃんが変な事するのは、今に始まった事じゃないですカラ」

「葉留佳さんには言われたくないと思うよ…」

「まあまあ。姉妹なんだし、その辺はお互い様という事で」

「…」

「…まあ、いいデスケドネ」

「では、これで一件落着という事で」

「うん。じゃあ、僕たちからもおめでとうを言わせて」

「そうね。おめでとう」

「ま、私もおめでとうと言っておくわ」

「おめでとうな」

「おめでとうなのですー」

「おめでとうございます」

「おめでとー」

「おめっとさん」

「おめでとう」

「おめでとう~」

「うん、めでたい」

「めでたいな」

「おめでとうございます」

「おめでとうございますですわ」

「おめでとう」

「ソウカ、ワタシハココニイテイインダ!」

「だから、私の格好で変な事言うのやめてくださいヨ。て言うか軽くキャラ破壊デスヨ」

 

 

 

 

 

Fin

 

 

 

 

「ふう。私たち、なんとか最後で出してもらえましたねえ」

「おなじ城桐キャラなのにはぶられたらどうしようかとおもったよー」

「筆者によると他意はなかったとの事ですが…。それよりも、一日遅れた事の方が問題ですね」

「城桐信者鞍替え宣言をしておきながら遅刻した筆者への抗議メールはこちら!」

xatosi@krf.biglobe.ne.jp

初「yahooドメインからのメールは何故か届かないらしいので、ご注意を」

 

 

 

 

今度こそ 終わり

 

 

 

2010年10月14日執筆

 

 

 

 

 

 


変身マ女っ娘佳奈多ちゃん

変身マ女っ娘佳奈多ちゃん

 

むかしむかし…と言っても、1ナノ秒くらいの昔と思っておいてください。ある所に、二木佳奈多ちゃんというごくごく普通の女の子がいました。いえ、ごくごく普通と言うにはちょっと語弊があるかもしれません。しかし、一応世間で立派に通用する常識を備えていることだけは間違いありません。

ただ、あまりにも常識的というか、もの凄く真面目な女の子なので、周りからは「マ女」と呼ばれていました。以前風紀委員長をやっていたときは鬼の委員長と呼ばれていたのですが、風紀委員は辞めてしまって今は寮会の仕事だけをやっています。

寮会の仕事は、いわゆる事務仕事から生徒の相談事まで多岐にわたります。佳奈多はそれらの仕事を日々淡々と片付けていました。ある生徒が、相談に訪れるその日までは。

 

その日佳奈多は、寮会室でいつものように書類整理をしていました。そこに、一人の女生徒が入ってきました。真面目天然の異名を持つ、西園美魚です。

「…こんにちわ。相談したいことがあるのですが」

「なにかしら。あまり変な相談でなければ、取り次いでおくわよ」

「はい。…えっと、実は相談と言うよりは、個人的なお願いになるのですが」

「個人的なお願い?」

「はい。極めて個人に特化されたお願いです」

「そういう事なら、その本人に直接言ってくれないかしら。寮会はあくまで生徒全体の利益に資するための組織だから。トラブルになりそうだから仲裁してくれと言うのなら、また話は別だけど」

「はい…。ですからこれは、二木佳奈多さん、あなた個人に直接お願いしたいことがあるということです」

「私に? 何の用かしら」

「はい、実は…」

そこで美魚は、一呼吸置きます。

「あなたに、変身マ女っ娘をやって欲しいのです」

「…」

「…」

「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえる?」

「あなたに、変身マ女っ娘をやって欲しいのです」

「…」

「…」

「それは何? 私にコスプレでもしろという意味かしら。それとも何かのイベントのバイトでも頼んでいるの?」

「そのどちらでもありません。あなたには、本物のマ女っ娘になっていただきます」

「…」

佳奈多、しばらく黙って考えます。まじょっこ? 魔法少女のことかしら。Wikipediaによると「魔法少女(まほうしょうじょ)は、日本の漫画・アニメなどに登場するキャラクター類型のひとつで、魔法を使える少女である」とあるわ。セーラームーンもこれに含まれるのね。ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーとか言うのはあれは違うのかしら。と言うか私何でこんなの知ってるんだろう。とにかく、魔法少女よね。つまり魔法を使うのよね。魔法? 冗談じゃない、現代日本にそんなものが存在するわけ無いじゃない。だいたい魔法なんてものは、中世欧州において錬金術とともに自然科学に敗れ去ったのよ。あるとすれば、奇術・手品と呼ばれるトリックを使った類の遊びくらいなもの。それ以外はだいたい、カルト宗教が絡んだ詐欺行為みたいなものよ。つまり一般的に言って、魔法はあり得ない。だから魔法少女もあり得ない。

つまり、この子の言ってることはおかしい。

「…悪いけど私、魔法とか信じない性質だから」

佳奈多冷たく言い放ちますが、みおっち動じません。

「…誰が魔法だと言いましたか?」

「え? だって今あなた、魔女っ娘って」

「…魔女っ娘ではありません。マ女っ娘です」

「ごめんなさい。口で言われると違いがわからないんだけど」

「ですから。魔法の魔ではなく、カタカナのマです」

「カタカナのマって…なによそれ。私が真面目で堅物な女だからそれをからかいに来たというわけ? 知ってるわよ、私が真面目な女をもじってマ女と呼ばれてることくらい。でもそれをだしにわざわざそんなことを言いに来たのはあなたが初めてだわ。ずいぶんご苦労さまな事ね」

「…落ち着いてください。確かに私は、あなたがマのつく女だからこのことを頼みに来ました。でも、マで始まる言葉が真面目だとは限りませんよ?」

「あら。じゃあ何だというの?」

「そうですね…。例えば、マッスルとか」

「マッスル…」

その言葉を聞いて、佳奈多の脳裏に何かが蘇ります。悪夢とでも、トラウマとでも言ったらいいでしょうか。とにかくそう言った類の何かが、脳の奥からずんずんずんずんと佳奈多の表層意識に迫ってきます。

真人「ふっ、ふっ、…マッスル、マッスル…!

クド「マッスルとは英語で筋肉のことなのですっ!」

理樹「マッスルマッスル~!」

恭介「マッスルいぇいいぇい~!」

鈴「マッスルいぇいいぇい~!」

佐々美「マッスルいぇいいぇい~!」

小毬「マッスルいぇいいぇい~!」

唯湖「マッスルいぇいいぇい~!」

謙吾「マッスルがうなる。うなりをあげる!こいつは…マッスル革命だぁ~!」

葉留佳「ほらお姉ちゃんも一緒に、マッスルマッスル!」



「いやああああぁぁぁぁぁぁ~~~~ッッッッ!!!」

「…。どうかされましたか?」

「い、いえ別に。その…マッスルは勘弁してもらえないかしら」

「…ご心配なく。この場合の『マ』は、真面目のマですから」

「やっぱりそうなんじゃないのよ」

「素直にそうだと言ったら、あなたは引き受けてくれそうにありませんでしたから」

「そうね…。魔法だろうが真面目だろうが、余計なことには関わりたくないわね」

「でも、今のあなたはもう私の頼みを断れないはずです」

そう言うとみおっちは佳奈多に近づき、佳奈多の耳元でそっとささやきました。

「…マッスルマッスル」

「いやあぁ! やめて!」

「やめて欲しいのですか?」

「…やめて」

「では私の頼みを聞いてくれますか?」

「聞くわ、たいがいのことなら。だから、マッスルはやめて…!」

 

「で。何をすればいいわけ?」

「簡単なことです。この科学部が発明したっぽい超電磁っぽいバトンを使ってマ女っ娘に変身し、悪っぽいものと戦うっぽいことをしていただければそれで結構です」

「ぽいが多いわね。もっとはっきりできないの?」

「それは無理です。なぜならこの世の中は非線形なもので溢れているからです。方程式を使って演繹的手法ではっきり確定した答えを出せる事例など、ほんのごくわずかに過ぎないのです。あとは全て、確率論やコンピュータシミュレーションを用いて答えを出す他ありません。これを自然科学の世界では複雑系とか複雑システムと呼びます」

「複雑系と日本語の『ぽい』を結びつけるのはちょっと強引な気もするけど…。とにかくはっきりさせる意志がないということだけは伝わったわ」

「理解が早くて助かります」

「でも。要するに科学部絡みなんでしょ? だったらそれはあなたの担当なんじゃないの?」

「確かにそうなのですが…。実は私、当分の間週末は用事が立て込んでいまして。その間の代理を二木さんにお願いできないかと」

「そう…。用事って何?」

「それは言えません…。ちなみに行き先は、来週が新潟で再来週は福岡です」

「そう、ずいぶん遠くまで行くのね。…もしかして同人誌即売会?」

「…それは言えません」

「言わなきゃ引き受けないと言っても?」

「そしたらまた耳元でマッスルマッスル言いますよ」

「…わかった。言わない。追求しない。それでいいわね」

「…はい。ではそういうわけですから、早速練習がてら変身してもらいましょうか」

「わかったわ。どうすればいいの?」

「この超電磁っぽいバトンを両手でもってかざして…そうですね、メモを書くので、その内容を読んでください」

「え? 別に直接口で言ってくれても…」

「それは私が困るんです…さあ、これを読んでください。大声で」

そうしてみおっちは1枚の紙を佳奈多に渡しました。佳奈多は、そこに書かれていることを言われたとおり大声で叫びました。

「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ~!!! って何これ、何この恥ずかしい台詞!」

そう言っている間にも、佳奈多の服装や髪が何かの光子のようなものに変化してゆき、そして再び別の服装や髪に定着してゆきました。

「…って。これ、葉留佳の私服じゃないのよっ!」

「ついでに言うと、あなた自身の姿も葉留佳さんのそれに変わっています」

そう言ってみおっちは鏡を持ってきました。佳奈多が自分の姿を確認すると、なるほど確かに佳奈多の双子の妹の三枝葉留佳の姿に変わっています。

「って、変身ってこういう事なの!?」

「はい。あなたの場合、変身=葉留佳さんに変装 というのが仕様だとお聞きしていましたが。何か?」

「仕様って何よ…」

「…細かいことを気にしてはダメです」

「しかもこの服装なに。葉留佳の私服だと思うけど、あり得ないセンスだわ」

「…その辺はいたる先生に文句を言ってください」

「とにかく。いったん元に戻したいんだけど。どうすればいいの?」

「…」

「まさか…。『元に戻る方法はない』なんて言わないわよね?」

「いえ…ちょっと言ってみたかったですが、先手を打たれてしまいましたので…」

「…」

「元に戻るのは簡単です。その超電磁っぽいバトンのリセットボタンを押すだけですから」

「ああ、これね…」

佳奈多がリセットボタンを押すと、その姿はすぐに元に戻りました。

「はい、練習は終わりです。では早速ですが実戦に移りましょう」

「え、実戦って?」

「はい。タイトルは『いよかん星人の逆襲』です」

「逆襲って事は…すでに地球人側が彼らになんかやらかしたって事なのかしら?」

「…細かいことを気にしてはダメです」

「はいはい。で、そのいよかん星人が何?」

「実は…。最近、この界隈を『いよかん星人』なる侵略者が徘徊して地球の制服を狙っているという話なのです。…ちなみに制服であってます。決して誤植じゃありませんよ」

「いよかん星人…?」

「はい。…もしかして、何かご存じですか?」

「いいえ。何も知らないわ」

「そうですか…。ご存じなら解決は早いと思ったのですが。では仕方ありませんね。地道な探索から始めるしかありません」

「その探索も私の仕事という訳ね…」

「はい。すみませんがよろしくお願いします」

 

こうして佳奈多は、まずは「いよかん星人」の探索に出かけることにしました。

「とは言っても…いよかん星人って言ったら、要するにアレよね…」

とかぶつぶつ言っている間に、佳奈多の元に一人の少女が駆け寄ってきました。犬系ロリキャラの能美クドリャフカです。

「佳奈多さん。ぐっもーにんえぶりわんですっ」

「あらクドリャフカ。どうしたの?」

「はい。実はですね…。先ほど西園さんから、佳奈多さんが変身マ女っ娘になっていよかん星人の対策に乗り出すことになった、と聞いたものですから」

「あの子…おとなしそうに見えて意外とおしゃべりなのね」

「あっあっ、西園さんを責めないで欲しいのです。私がいよかん星人の件で西園さんと話をしたら、そういう話になっただけですので」

「そう…。で、何かしら? いよかん星人に関する情報でも持ってきてくれたの?」

「はい。えとその。実はですね。私がいよかん星人なのですっ!」

「は?」

「あ、えっと。正確に言うとですね。いよかん星人にバイトで雇われたと言いますか」

「バイト?」

「はい。詳しい話をするとですね。いよかん星人さんとしては、24時間365日地球での活動でを継続したいのだそうですが。しかし日本国の労働基準法では労働時間は一日8時間までかつ一週間に40時間以内と決められていまして、これを超える労働をさせるときは労働者の過半数を代表する労働組合または労働者代表と36協定というのを結ばなくてはいけないのですが、いよかん星人さんたちはこの36協定を未締結なので、一日8時間以上活動することができないのだそうです。なので、8時間を超える分については、地球人のバイトを雇って活動を継続させることにしたのだそうですっ」

「異星人がなんで日本の労働法制に拘束されるのよ…」

「佳奈多さん。その考えは良くないと思います。異星人といえども、日本国内にいるからには日本の法律を守っていただかなければなりませんし、また同様に法律に基づいた保護もしなければなりません。これは、人道主義に基づいた現代民主国家で保障された基本的人権の一部あり且つそれを守ることが自立した主権国家であることの証明になると思うのです」

「とか言いつつ、在日米軍は日本の法律を全く守っていないけどね…」

「とにかく。そういう訳で私はいよかん星人さんたちに雇われていろいろしないといけないのですっ」

「いろいろって…何をするつもり?」

「えと、それはその…とにかく、佳奈多さん勝負です、変身してくださいっ!」

「脈絡無い上に強引ね…」

「あうぅ…変身していただけないですか?」

クドが縋り付くような視線で佳奈多を見ます。基本的に姉キャラの佳奈多、こういう視線にはとても弱いです。しかし、変身するためにはクドの前であの恥ずかしい台詞を言わなければなりません。それは真面目キャラとしての佳奈多のプライドが許しません。

さんざん考えたあげく、佳奈多は妥協点を思いつきました。

「…わかったわ。変身する。だけど変身するところは見られたくないから、そこの物陰に隠れてするわ。クドリャフカ、その間あなたはのぞき見したり、聞き耳を立てたりしては決して駄目よ」

「わかりました。お待ちしてますのですー」

佳奈多はさっと植え込みの中に隠れ、クドから声が聞こえない場所まで移動して、そして叫びました。

「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ~!!!*3

佳奈多の体が光で包まれ、そして佳奈多はマ女っ娘かなたんに変身しました。

変身が終わると佳奈多は、急いでクドの元に戻ろうとしました。と、そこには、クドの他にもう一人増えていました。

「はいー。いよかん星人さんのバイトをしているのですよー」

「バイトですか、そりゃ偉いことですネ。うんうん、働かざる者食うべからず、ですヨ。とかいいつつはるちん働いてないですけどネ」

どうやらもう一人は、佳奈多の妹の三枝葉留佳のようです。

「(やばい…! かなりまずいことになったわ…。)」

佳奈多が思案に暮れていると、葉留佳がこっちに気づきます。

「およ? 植え込みの中に誰かいるみたいデスヨ?」

「ああ、きっと佳奈多さんです。変身が終わったみたいですねー」

「え、お姉ちゃん? 変身?」

葉留佳がこっちに近づいてきます。佳奈多は逃げようと思い植え込みの中を移動しましたが、しかし行く先にクドに先回りされてしまいました。

「佳奈多さん。追いついたのですー。って、あれ、佳奈多さん…ですか?」

クドがふんふんと鼻を鳴らしながら、確認しています。その間に葉留佳も接近してきました。

「あ、やっぱり佳奈多さんですー。でもなんでそんな格好してるですか?」

「あ、お姉ちゃんそっちにいたのー? もう、なんで逃げるかナ」

そう言って近づいてきた葉留佳は、佳奈多の姿を見て静止してしまいます。

「…」

「…」

「…何やってんですかお姉ちゃん」

「ち…違うのっ! これはっ! そうじゃないのっ!」

「まだ何も言ってませんヨ。何やってんのか訊いてるだけじゃないデスカ」

「だから、これはっ…!」

「佳奈多さんは、マ女っ娘として変身したところなのですよ~」

「マ女っ娘…?」

クドがわざわざ解説を入れてくれました。しかしそれが佳奈多の恥ずかしさをさらに加速させてしまいます。佳奈多はいたたまれなくなり、超電磁っぽいバトンのリセットスイッチを押してしまいました。

「あーあ、戻しちゃった」

「佳奈多さん…?」

「な、何かしらクドリャフカ」

「どうして変身解いてしまったですか?」

「ど、どうしてって…。だって恥ずかしいじゃないのよッ、葉留佳の前で!」

「え? なになに? 何が恥ずかしいって言うの?」

「うるさいわね! あなたは気にしなくていいの!」

「えー。なにそれー。私だけ仲間はずれみたいでなんか感じわるー」

「そ、そうじゃ無いのよ葉留佳。ただこれはね」

「じゃあ何が恥ずかしいって言うんですカ」

「だ、だって…。葉留佳の前でマ女っ娘とか…。普通に考えて恥ずかしいでしょう!」

「クド公の前では変身したのに?」

「それは…クドリャフカに頼まれたから…」

「じゃあ私もお願いする。もっかい変身して」

「お願いされる理由がないわ」

「えー、なんでー。クド公には理由があるって言うの?」

「クドリャフカはいよかん星人に雇われてるからいいのよ」

「…」

葉留佳がちょっと心配そうな顔をして、そして左手を佳奈多の額に当ててきました。

「うーん、熱はなさそうですネ」

「…いっそあってくれた方が助かったわ」

「で。そのいよかん星人ってのはいったい何なんですカ?」

「…私も詳しいことは知らないわ」

本当はちょっとだけ知ってるけど、と佳奈多は心の中でつぶやきました。

「クド公はそのいよかん星人から雇われたんでしょ? なら知ってるよね?」

「いえ…実は私も、人を介して依頼されただけで、いよかん星人さんとは直接お会いしてはいないし、詳しいことも聞かされていないのです」

「クドリャフカ…あなたそんなので、よくバイト引き受ける気になったわね」

「困ったときはお互い様なのですー」

「ねえクドリャフカ。仕事というのは、そういう甘い考えで引き受けるものじゃないわ。詐欺まがいのものだって世の中にはいっぱいあるんだから」

「そなのですか。次からは気をつけます」

「でもそうなると、いよかん星人の手がかりは、クド公に仕事を依頼したという人物を当たる他なさそうですネ」

「そうね、それ以外なさそうだわ。…って、葉留佳、あなたはなんでこんなに熱心になってるの?」

「え? そりゃぁもちろん、可愛いお姉ちゃんのために出来た妹が一肌脱ごうと奮闘するという努力友情勝利のストーリーが」

「…『出来た妹』という部分を無下に否定する気はないけど、『可愛いお姉ちゃん』というのは撤回してくれる?」

「え? なんで?」

「撤 回 し て く れ る ?」

「わかりましたヨ。ちぇー。可愛いお姉ちゃんって結構萌え要素だと思うのになー」

「萌えとか言わないで」

そんな会話をしつつも、とりあえずクドに仕事を紹介したという人物に会いに行くことにしました。

 

 

「…」

「やっぱりあなただったんですね」

「うむ」

「うむ、じゃないです。クドリャフカにまでこんな馬鹿な真似をさせようとして、いったいどういうつもりなんですか?」

「馬鹿な真似、か。君の目にはそう映るのかな?」

「あなたの目にはどう映っているんですか?」

「果てしなく馬鹿な真似、だ」

「自覚はあるんですね…」

やれやれ、といった表情で佳奈多は肩をすくめます。

「ま、とりあえずこの件は一件落着という訳ね。クドリャフカ、ご苦労様。バイト代を当てにしていたのなら申し訳ないのだけど」

「待て。勝手に一件落着にされては困るぞ」

「まだ何か?」

「君はまだ、変身して戦って私を倒していない。それなのに一件落着とは、いったいどういう了見だ」

「そんなことをして何になると?」

「もちろん、私が楽しいからだ」

「…そんなに私と戦いたいんですか?」

「いや。戦いの方はむしろどうでもいい」

「?」

「変身だ。今すぐ私の目の前で変身して見せろ。佳奈多君が恥じらいつつも変身の台詞を叫ぶと今着ている服装が光だかなんだかよくわからないものに変化して佳奈多君自身は全裸だか半裸だかよくわからない状態になっていく、その様を見ながらうへうへかなたん激萌えっすもっとよく見せろはぁはぁとか言わせろ」

「…」

冗談じゃない、付き合ってられない、と佳奈多は思いました。

「話はそれだけですか? でしたら帰りますけど」

「まあ待て。君が変身をしたくないという気持ちはよくわかった。だが、これを見てもまだそんなことが言えるかな?」

そう言って唯湖が指を鳴らすと、一人の少年が縛られた格好で連れてこられました。連れてきたのは美魚です。

「ご苦労だったな、西園女史」

「いえ…。直枝さんを縛るのは、結構ドキドキものでしたから。むしろ役得という気分です」

「役得って…」

「さあ二木女史。愛する理樹君を助けたかったら、今すぐこの場で変身するんだ」

「えっ…?」

「変身したら理樹少年を解放してやろうと言ってるんだ」

「な…! 何を言ってるんですかッ!!」

冗談じゃない。ただでさえ変身するのは恥ずかしいっていうのに、そのうえ直枝の目の前であの恥ずかしい台詞を叫び変身させられるなんて。

「だいたい西園さんっ! あなた、そもそも私の味方じゃなかったの!? そもそも私は、あなたの代わりにこういう事を…!」

「信じていた仲間の突然の裏切り…折り返し地点の24話としてはありがちな話ですね」

「24話って、これまだ1話だし! そもそも続くかどうかすらわからないし!!」

「…スポンサーを見つけられなかったということですか? 商業資本主義は悲しいですね」

「そういう話じゃなくてっ!」

「まあ、要するに私と西園女史は最初からグルだったというわけだ。普段の冷静な君ならすぐ気づきそうなものだが…。まあ、仕方ないか」

「…」

「さあ、どうする? 早く決断しないと、私たちが理樹少年にいろいろするぞ。そうだな、理樹少年の肌はすべすべで気持ちよさそうだ、全身をくまなく触ってみたい気分になる」

「ちょ、ちょっと、やめてよっ!」

「敏感な部分を見つけたら、集中的に責めてみましょうか」

「おお、いいですねー。理樹君のあえぐ声は可愛いだろうなー」

「な、なにいってんのさっ! て言うかなんでいつの間にか葉留佳さんまで加わってるの!? ねえ二木さん、助けて…」

助けて。その理樹の言葉が佳奈多の耳に届きます。助けて。直枝が私に、助けを求めている。助けてって言ってる。

恥ずかしがってる場合じゃない。

佳奈多はきっと顔を上げ、そして宣告します。

「あなた達、今すぐ直枝から離れなさい! でないとこの…このマ女っ娘かなたんが、成敗してくれます!」

そう言うと佳奈多は一呼吸置き、すうっと息を吸い込んで、叫びました。

「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ~!!!」

「おっ」

佳奈多の体が光で包まれ、服装と髪型が素粒子化して、そして再構成されていきます。

「あれはどういう原理なんだ?」

「なんでも、高位体常温核融合という技術を使っているらしいです。詳しいことはよくわかりませんが…」

「なるほど、それでヘリカル・トカマク・レーザー、なのですね。リリカルというのがよくわかりませんが…」

「はるちん全部わかんないっス! でも実は理系志望だったりしマス!」

彼女たちがそんな会話をしている間に、佳奈多の変身が終了しました。

「…これで満足かしら?」

「…話に夢中になっていてよく見えなかったな。もう一度やってくれないか?」

「~~~!」

「大丈夫っス姉御! こんな所に何故か、放送用機材並の高性能なビデオカメラが据え付けてあってどうやら一部始終を録画していたようデス!」

「…おまえは少し空気読め」

「え~!? 今のははるちん、高得点だと思ったのにぃ~!」

唯湖と葉留佳が言い争っている間に、佳奈多は理樹の元に駆け寄ります。

「直枝、大丈夫!?」

「えっと、二木さん、何だよね? 僕を助けるために、わざわざそんな格好に…」

「そうよ。あなたを助けたくて私、恥ずかしいの我慢してこんな格好に…」

「ちょっとちょっとちょっと! 黙って聞いてればそんな格好とかこんな格好とか! それはるちんの姿デスヨ! まるで私の姿が恥ずべきものみたいな言い方じゃないデスカ!」

「葉留佳…。悪いけど、この服装はいくら何でもあり得ないわ」

「が~ん! ちくしょぉ~、いたる先生に言いつけてやる!」

葉留佳が泣きながら走り去っている間に、佳奈多は理樹を縛っていた縄を解きました。そして、超電磁っぽいバトンのリセットスイッチを押して、元の姿に戻りました。

「約束よ。直枝は返してもらうわ」

「ふむ…。返すという約束までした覚えはないが…しかしキミがそうしたいというのなら、私は一向にかまわんよ」

「え…?」

「理樹少年はキミに返そうといっているんだ」

「りき いず りたーんど かなた なのですっ!」

「直枝さんは二木さんのものになってしまったということですね…。ちょっと嫉妬してしまいます」

「え? あ、あのこれは」

「まあまあ、いいじゃないか。さて、お邪魔虫どもは退散するとしようか」

そう言って、唯湖と美魚とクドは、立ち去ってしまいました。

 

 

 

「あ、あの、直枝…」

「二木さん。助けてもらって、僕うれしいよ」

「直枝…。と、当然のことをしたまでよ」

「そうかな。そうかもね。でも僕は、二木さんに助けてもらったことは凄く嬉しかった。他の誰でもない、二木さんに。その事実は変わらないから」

「――!」

「二木さん。何かお礼がしたいな。何がいい? 何でも言ってよ」

「そうね――。じゃあ、さっきのこと忘れて」

「…え?」

「あんな恥ずかしい変身をしたことを忘れてって言ってるの」

「それは…出来ないよ。せっかく二木さんが僕を助けてくれた、大切な思い出なのに」

「直枝…な、何言ってるのよ」

「ごめんね。ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかな。でも、こんな恥ずかしいことでも、僕にとってはとても大切なことなんだ。僕と二木さんの、二人で過ごした時間、その一つ一つの記録なんだから」

「~~~!!!」

佳奈多は何も言えなくなってしまいました。

「とりあえず…どっか行こうか。こんな所に突っ立ってても何だし」

「そ、そうね」

「行きたいとこ、ある?」

「特に…直枝に任せるわ」

「うん。じゃあ、とりあえず街にでも出てみようか」

そう言って二人は、並んで歩き出しました。端から見るとそれは初々しく、しかし仲睦まじく見えるように。

 

そして。そんな二人を陰から見ている一人の人物がいました。

「俺の…理樹を…!」

 

 

とりあえず 完 



2008年10月9日執筆

 

変身マ女っ娘佳奈多ちゃん2

むかしむかし・・・と言っても、1ナノ秒くらいの昔と思っておいてください。ある所に、二木佳奈多ちゃんというとっても真面目な女の子がいました。あまりにも真面目な為に「マ女」という称号をつけられたあげく、「マ女っ娘に変身する」という、なんだかよくわからない羞恥プレイまでさせられる羽目になりました。

でもそのおかげで密かに思いを寄せていた直枝理樹と結果的に結ばれることが出来たので、佳奈多自身にとってもきっと良いことだったと言えなくもないでしょう。

 

しかし。この結果を全く歓迎していない一人の人物がいました。

「俺の理樹を…横取りしやがって!」

棗恭介君は、理樹君のことが大好きでした。そして、理樹も自分のことが好きだと信じて疑っていませんでした。それが、突然現れたくそ真面目女に理樹君をかっさらわれたものですから、おもしろいはずがありません。

「俺は…二木佳奈多に復讐する!」

 

佳奈多の新たな災難が始まろうとしていました。

 

その日佳奈多は、クド・美魚と一緒に、街に買い出しに行こうとしていました。

「佳奈多さん。いよかん星人との勝負は、いつしていただけるですか?」

「クドリャフカ…。あなた、まだいよかん星人やってたの?」

「はい。解雇された覚えはないので。任を解かれていない以上、最後まで職責を全うするのが人としてのあり方だと思います」

「クドリャフカ。あなたのその律儀な性格はとってもいいものだと思うけど。もう少し目の前の事実を疑い検証することも覚えた方がいいわ」

「あの、それはどういう意味ですか?」

「単刀直入に言ってしまえば、能美さんは来ヶ谷さんにだまされていたということです」

「ガーン!」

そんな会話をしている彼女たちの前に、突如一人の怪しい男が現れました。

「はりゃほれうまうー」

「…」

「…」

「…」

「二木佳奈多。俺と勝負しろ!」

「…西園さん、今日買うものはなんだったかしら?」

「ガスボンベです」

「そうね。ガスボンベね。ガスボンベ」

「ガスボンベなのですっ!」

三人とも目の前にある現実を無視することに決めたようです。

しかし、男は食い下がってきます。

「無視するなぁっ! 二木佳奈多、俺と戦って勝つまで、ここは通さないぞ! そして俺が勝ったら理樹を返してもらう」

「…」

佳奈多、はぁとため息をつきます。なんか変なのに目つけられちゃったなあ。風紀委員長とかやってた関係かしら。なんにしろ逆恨みなんだろうけど。でも、無視が通じる相手ではなさそうだし。何とか手っ取り早く片付ける方法はないかしら。

佳奈多、少し考えた後、クドに言いました。

「クドリャフカ、醤油取って」

「どぞです」

クドから醤油を受け取った佳奈多は、その中身を勢いよく、怪しい男の顔面にぶちまけました。

「目があぁ~!」

「百万ですかっ!?」

「違うっ…! 目が…目が痛てぇんだよ…ッ! ちくしょう…わけわかんねえよ…なんでこんな理不尽なんだよ…ッ! 俺だって…俺だってなあ…!」

怪しい男の正体であった恭介さんは、ちょっと錯乱しているのかいろいろうわごとのようなことを言い続けています。

「チクショウ…話くらい聞いてくれたっていいじゃねえかよ…ッ! 俺だって、俺だって理樹のことがなあ…好きなんだよ…ッ!」

その言葉に、美魚がびくんと反応します。

「二木さん。恭介さんの話を聞いてあげませんか?」

「…まあ、話だけなら」

佳奈多はあきらめたように言い放ちました。その言葉を受けて、恭介は語り始めました。

「俺と理樹は愛し合っていた。そう、碇シンジと渚カヲルの如く」

「!!!」

「だがそれを、二木佳奈多、お前は引き裂いた…!」

「いや…愛し合ってたとか引き裂いたとか…ちょっと待ってよ」

「いや待たない。これから、俺と理樹がどんなに愛し合っていたか、それを語る」

「どうぞ」

「いや…ちょっと勝手に許可しないでよ」

美魚と佳奈多が言い争っている間に、恭介は語り始めていました。

「俺と理樹は、毎晩のようにベッドをともにしていた。俺と理樹は寮の部屋が違うから、そうすることはあまり簡単なことではなかった。だが、俺の同居者がいない時を見計らったり、理樹の同居者の真人に頼み込んで少しの間出て行ってもらって、そうして一緒の時間を過ごした。もちろん、唇も体も重ね合わせた。『理樹は本当に可愛いなあ』そう言いながら俺は理樹の股間に手を伸ばす。そういうそぶりを見せるだけで、理樹は身をすくめてしまう。俺はそんな理樹の頭を撫でて落ち着かせてから、そっと理樹の下着の中に手を入れる。理樹は『うっ』と軽い声を上げて、また身をすくめてしまう。『理樹は本当に感じやすいなあ。タマ筋に出てるぜ。』そう言って俺は理樹のものを愛撫し続ける。理樹の息が荒くなってゆく。次は穴だ。理樹が十分に快感を味わったところで、俺は手をもっと下にのばしていく。そこにある穴の周りを、優しく優しくなぞっていく。『気持ち悪いよ』理樹がそう言う。『すぐに良くなるさ』俺は答える。『でも、汚いよ。こんな所を触ったら』『理樹の体が汚いはずが無いじゃないか』そう言って俺は理樹の足を持ち上げ、ズボンとトランクスを引き上げて脱がした。理樹の秘部が俺からはよく見える。『恥ずかしいよこんな格好』理樹は抵抗するが俺はそれを無視して、自分の顔を理樹のそこに近づけた。『ちょ、ちょっと恭介』俺は舌を出して、理樹の穴の周りを舐め始めた。『ほら。理樹の体が汚いはずがないんだ。』『うう、余計に恥ずかしいよ』理樹の体は羞恥心で真っ赤に火照っている。『なあ、入れてもいいか?』俺が理樹に訊くと、理樹はやっとの思いという感じで首を縦に振った。俺は半立ちになり、自分のズボンを」

「待った!ストップ!ストップ!」

「…何故止めるのですか?」

「何故って…いや、ヤバすぎでしょ。これは。いろんな方面で」

「きっとこれからがいいところなんですよ?」

「よくない。とにかくこれ以上はダメ。禁止」

「わふ~・・・」

クドはすっかりのぼせ上がってしまっています。

「…まあ、いいだろう。俺たちがいかに愛し合っていたかと言うことは、これで十分に伝わったはずだ」

「それ、あなたの妄想でしょ?」

「…」

「直枝がそんな、男同士で愛し合うなんて聞いたことない。そんな趣味があるとも思えない」

「何故そんなことが言える! お前に理樹の何がわかるって言うんだ!」

「わかるわよ。だって、その…直枝はその…少なくとも今は、」

佳奈多、そこで少し口ごもってしまいます。

「今は、私のことが…好きなんだから」

佳奈多は顔を真っ赤にして、恭介に言ってやりました。恭介は、苦痛に顔を歪ませています。

「くそぉ…ジェラスイイィィッッッ!!!」

「そういうわけだから。あなたの馬鹿な話にこれ以上付き合っている理由はないわ」

そう言って佳奈多、立ち去ろうとします。それを恭介呼び止めます。

「待て。俺と戦え二木佳奈多!」

「戦わない。あなたの話はちゃんと聞いた。これ以上馬鹿なことに付き合ってられない」

「ふふ…そうか? そんなことを言っていいのか?」

「? 何よ」

「理樹は今、俺の手下の監視下にある」

「!?」

「井ノ原真人を知っているだろう。あいつが今、理樹を監視しているはずだ。もしお前がここで俺を倒さなかった場合…」

「すぐにでも恭介さんが直枝さんの元に向かい、そして直枝さんと、あんな…ああこれ以上は言えません」

「ちょっと、何変な想像してるのよ」

「いや、あながち間違いでもないぜ」

「な…!」

「何故なら俺と理樹は愛し合っているはずだからな。俺が理樹の元に向かえば、自然とそういう流れになるはずだ」

「この人…頭大丈夫かしら?」

「佳奈多さん。なんにしろ、勝負しないと棗さんはここを通してくれないと思うのです」

「ですね」

「…」

佳奈多少し考えます。勝負ってことは、また例のあのマ女っ娘とかいうのに変身しなきゃならないのかしら。やだなあ。私、あれあんまりやりたくないんだけど。誰か代わりにやってくれないかしら。

佳奈多、少しだけ救いを求めるように美魚の方を見ます。美魚、すすっと引いていきます。

「…申し訳ないのですが。今回私、中立の立場を取らせていただきます」

「え?」

「筋からいえば、私はマ女っ娘仲間である二木さんを支援するべきなのでしょうけど。ただ今回、私極めて個人的な感情から恭介さんを応援したいという心境があるのです。両者の葛藤の結果、今回は中立の立場を取ることに決めました」

「個人的な感情って…何?」

「それは言えません」

「どうしても聞かせてといったら?」

「そうしたら私、恭介さんの味方をしますよ?」

「…わかった。あなたはあんまり敵に回したくないわ」

はぁ、と佳奈多はため息をつきます。

「話は終わったか? では、いくぞ」

恭介、またあの変な仮面をかぶります。

「はりゃほれうまうー!」

「さあ佳奈多さん。あなたも変身しないと、負けますよ?」

「そうです。今恭介さんがつけているマスクは、全ての能力値が+50になる、とっても強力な武器なのです。生身で勝つのは無理だと思います」

「詳しいのね、クドリャフカ」

「情報戦の時代ですので」

「そういうわけですから、さっさと変身した方がいいですよ。ほら、恭介さん準備運動なのか、さっきからなんか怪しい動きしてます」

「でも…この場で変身するのは恥ずかしいわ。どこか物陰に隠れてしたいんだけど」

「そんなことをしている余裕はないと思いますよ。…いいじゃないですか、別に見られたって、変身シーン中で裸になるわけでもないですし」

「なにっ! 裸にならないのかっ!?」

「…」

「…」

「…」

三人が一斉に、恭介を白い目で見ます。

「あなたは…直枝さん一筋なのではなかったのですか?」

「も、もちろん理樹一筋だ。何を言うのかねキミは」

「では何故、そんな女人の裸に興味を示すかのような発言を…?」

「そ、それは、俺だって男だし、普通に女性に興味を示すことくらいあって当然…」

「…恭介さん。私、あなたには失望しました」

「そ、そんな…」

「そういうわけですから。私、中立はやめて二木さんに肩入れしたいと思います」

「肩入れと言わず、出来れば代わりに戦って欲しいんだけど」

「それは…ちょっと気が乗らないですね」

「どうして」

「多くの方がお察しの通り、私が変身した場合は美鳥の姿になるのですが…。でも、美鳥の立ち絵って少なすぎるんですもの」

「…それが理由?」

「いけませんか?」

「そう開き直られると、ダメとも言いづらいわね。…わかった。私が変身するから」

「ご理解いただけて幸いです。では私は、二木さんを援護する為に恭介さんを蹴り続けることにします。その間に二木さん、あなたは変身してください」

そう言うと美魚は、恭介の元に近づいてゆき、こう言いました。

「恭介兄さん。私、前からあなたのこと蹴りたかったの…」

「兄さん…!」

「兄さん」という言葉に恭介が感動している間に、美魚は恭介の足をげしげしと蹴り始めました。

「なんか、あれだけでも十分勝てそうな気がしないでもないけど…」

そう言いつつも佳奈多は、変身の為の準備に入ります。目を閉じ、自己暗示をかけ、そして大声で叫びます。

「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ~!!!」

佳奈多の体が光で包まれ、そして佳奈多はマ女っ娘かなたんに変身しました。

「って、三枝の姿じゃねえか」

「そのことには突っ込まないで。仕様らしいから」

変身した佳奈多は体勢を整え、恭介に向かっていこうとします。と、そこにクドが何かを手渡してきました。

「佳奈多さん。今の佳奈多さんなら、これが使えるはずです」

そういってクドは、ラッパを手渡してきました。

「これは…?」

「葉留佳さんからもらった、『突撃ラッパ』です。使うとステータスがあがりますよ」

「で、でも…」

「佳奈多さん。ここは腹をくくって、葉留佳さんになりきることが大事だと思います。そうしないと、恭介さんに勝つ事なんて出来ませんよ? 佳奈多さんなら出来ます」

「そ、そうね。そういうものかしら」

佳奈多は突撃ラッパを受け取り、それを高らかに吹き鳴らしました。

ぱぱらぱっぱぱぱー!

「とーつーげーきーーーー!」

佳奈多は万歳しながら、恭介に向かって突進していきました。美魚がまだ恭介のことを蹴っていましたが、佳奈多が突撃してくるのを見ると、すすっと離れていきます。

「うわ!? な、なんだ。来るな!来るな!!」

恭介は逃げようとしますが、さっきまで美魚に蹴られていたので足が思うように動きません。そのまま、突撃してきた佳奈多に体当たりされてしまいました。

「うわあああぁぁぁーーーっっっ!!!」

恭介はそのまま吹き飛び、変な仮面も取れてしまいました。そして美魚が取れた仮面の元に歩み寄り、それを手にとって、恭介の頭をぽかりと殴りました。

「恭介さん…正座しなさい」

「はい…」

「二木さん…さあ、今のうちに直枝さんの元へ」

「え?」

「直枝さんが監視されている…とさっき恭介さんが言っていたでしょう。探しに行った方がいいと思いますよ」

「…わかった。とりあえず心当たりを当たってみる」

「私も、恭介さんから場所を聞き出してお説教が済んだら、そちらに向かいますので…」

「私も探してみるのですっ!」

佳奈多とクドは、手分けして理樹の居場所を探しに行きました。残った美魚は、恭介への説教を延々と続けていました。

「恭介さん。そもそも、あなたのその緑川ボイスは何の為にあるとお思いですか?」

「はい、はい…、すんません、おっしゃるとおりです…、はい、ほんとすいませんでした…はい、もう堪忍してください…、はい、はい、…、申し訳ございませんでした…」

 

 

 

場所は変わって、理樹と真人の部屋。

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「筋肉筋肉~♪」

「直枝っ! 大丈夫!?」

「筋肉筋肉~、って、え?」

「…」

「…」

「…」

「…何をしていたの?」

「え? えーっと…。 筋肉筋肉~♪」

「そうじゃなくて。あなた、井ノ原真人に監視されてたんじゃなかったの?」

「監視?」

「あー…。そういや恭介から、そんなこと依頼されてたっけなあ。でも監視ったってようするに見てるだけだろ? だったら、どうせ同じ部屋だし、ただ見てるだけでいいなら何にもしなくていいかなと」

「…」

「ま、まあそういうことらしいよ?」

「で。さっきの筋肉は、いったい何なの?」

「そりゃおめえ。あれはいつもの、理樹と俺との筋肉コミュニズムよ」

「暇だったから…。それと真人、コミュニケーションね」

「…」

「あれ? どうしたの佳奈多さん?」

「人が心配して駆けつけてみれば…何が筋肉筋肉よ!」

「何だと聞き捨てならねえな。あたしは毎日毎日理樹といちゃいちゃしたいのにいっつもこの筋肉バカが邪魔します、おまけに筋肉筋肉とかいって変な遊びして悪い洗脳でもしてるんじゃないかと心配です、あー、この筋肉どっかに消えてくれないかしらー、とでも言いたげだなあ、ああん?」

「その通りよ!」

「え」

「何よ! 直枝のバカ…ッ!」

そう言って佳奈多は、部屋を飛び出していってしまいました。

「ま、待ってよ佳奈多さん!」

理樹も、佳奈多の後を追って部屋を出て行ってしまいました。

後に残された真人は呆然としています。

「俺は…どうすれば」

「いつも通りにしていればいいと思います」

「クド公…。 いつも通りっていうと、筋肉でもいいのか?」

「はい。筋肉でもかまわないと思います」

「よっしゃぁ! 筋肉筋肉~!」

「まっする いず のっと えぼりゅーしょん。いっつ れぼりゅーしょん! なのですっ」

 

 

 

「いいですか恭介さん。そもそもBLというのはですね」

「はい…、あの、俺、今、何の件で怒られてんですか?」

 

そんな様子を、陰から見守る一人の少女の姿がありました。

 

「馬鹿な兄貴だが…敵は取らねばなるまい」

 

 

とりあえず 完



2008年11月19日執筆


変身マ女っ娘佳奈多ちゃん~完結編~

変身マ女っ娘佳奈多ちゃん~完結編~

 

むかしむかし…まあ、だいたいリトバスが発売された頃くらいの昔と思ってください。あるところに、二木佳奈多ちゃんというちょっぴり危ないお姉ちゃんキャラな女の子がいました。どう危ないかというと、妹コスプレが趣味だったりします。そこにつけこまれて、妹に変身する「マ女」なんてのをやらされたりしていました。

「しかし最近は平穏な生活を送っています。最大最強の敵、棗恭介を倒してしまったからです。佳奈多ちゃんにかかれば例えこの世界のマスターといえども敵ではないのです。つよいやかなちゃん!すごいやかなちゃん!ゆけゆけぼくらのすーぱーかなちゃん!」

 

「…葉留佳、仕事の邪魔だから静かにしてくれる?」

佳奈多は寮会室でお仕事中です。次期寮長に指名されてしまったので、最近ちょっと忙しいようです。それを知ってか知らずか、妹の葉留佳が後ろで騒いでます。寮長のあーちゃん先輩から「かなちゃん」という呼び方を教えられて、ちょっとテンション上がっているようです。

「かなちゃん! はるちん暇なので遊んでくだサイ!」

「私は暇じゃないの。見てわからない葉留佳じゃないでしょう。あと、かなちゃんって呼ばないで」

「わかりました、デハ、後ろで両手に扇子振りかざしながら応援することにしマス」

「うるさいだけだからやめて。手伝う気がないなら外に出てなさい」

「私が手伝うと一瞬で終わってしまいますヨ? そんな人生つまらないと思いませんカ?」

「…いいから外に出てなさい」

「ワカリマシタヨ。外で、他人に迷惑かけながら遊ぶことにしマス」

「待ちなさい! 他人様に迷惑かけてはだめよ!」

佳奈多は慌てて葉留佳を追いました。葉留佳がヒャホーゥと言いながら走って逃げたので、佳奈多もそれを追って外に出る羽目になりました。

 

 

 

 

「あれが二木佳奈多か…」

葉留佳を見失って外で探し回る佳奈多、それを物陰から見つめる一人の陰がありました。棗鈴、棗恭介の妹です。

「彼女に恨みはないが、兄が倒された以上かたきをとらなければならない。兄のことなどどうでもいいが、しかし私はそうするものだと兄に教えられて生きてきた。…ん、何か言ってることがおかしいような…」

「それは、あなたが本当はお兄さんのことを大好きだからですよ」

鈴の後ろからそっと囁くもう一つの陰がありました。

「うわあっ、み、みお!? いつからそこにっ」

「つい今さっきです。それより鈴さん、鈴さんみたいな人のことをなんて言うか、ご存じですか?」

「な、なんだ…」

「ブラコン…っていうんですよ。うふふ…」

「な! なにをいうんだ、私は、ブラコンなんて…知らない、そんな言葉は知らない、だから私はブラコンじゃない!」

「意地を張る鈴さん、かわいいですね…なるほど、恭介さんが溺愛するわけです」

「な、何を言うんだ…」

「で、そんな恭介さんの仇を鈴さんはとるのですか? それともやめますか?」

「うん、それはちゃんとやる。それは私に課せられた使命だからな」

「ですが、彼女は手強いですよ?」

「わかってる。何しろ、あの兄を倒した女だからな」

「ええ。それはもう、爽快なまでに凶悪に倒しました」

実際には美魚が半分くらい手を貸しているのですが、そういう事実は無視のようです。

「本気で彼女に挑むのなら…このくらいの準備は必要ですよ」

そういって美魚は、鈴の手に小さな機械を手渡しました。

「そ、そうか。ありがとう」

「それと…作戦も必要ですね」

 

 

 

 

さて。佳奈多はまだ葉留佳を探して外を歩き回っていました。そこに物陰から、佳奈多の目の前に飛び込むように鈴が現れました。

「二木佳奈多、たたかえっ」

 

「たたかわない。じゃ」

 

佳奈多冷たく言い捨てて立ち去ろうとします。

「なにぃ…いや、待ってくれそれは困る」

 

「私は困らない。じゃ」

 

佳奈多あくまで冷たい態度を貫きます。鈴は困惑した表情でもごもごしてしまいましたが、何とか言葉を絞り出しました。

「かなたは…困ってる人を見捨てて立ち去る奴なのか」

「……」

佳奈多は立ち止まり、少し考えてから返答を返しました。

「いきなりたたかえなんて言ってくる人に、困ってるから助けろと言われてもね。いろいろ順番が違うんじゃない?」

「うん、それもそうだな」

鈴は少し考えてから言いました。

「じゃあ順番に説明しよう。おまえはうちの兄に屈辱を与えて倒した。ロクデナシだがしかし大事な兄だ。かたきをとらねばならない。そこで私は理樹を人質にとってねこねこの刑にした。どちらかが倒れるまで解放されない。だからたたかえ」

「直枝を…え、何? ねこねこの刑?」

「うん、ねこねこの刑だ。理樹を言うこと聞かないドラ猫と一緒に部屋に閉じこめた。かなり凶暴だから、理樹がどうなるかあたしも保証できない」

「……」

「早く助けに行かないと、理樹の身が危ない、かもしれない」

「だったらさっさと直枝の居場所を教えなさいよ」

「あたしとたたかって、勝ったら教えてやる。あたしが勝ったらあたしが助けに行く。…だが、たたかわないということだと、どっちも理樹を助けにいけない。それは困る」

「……」

佳奈多、それはちょっと納得行かないとでも言いたげな表情をします。しかし、しばらく考えた後、鈴に返しました。

「わかったわ。勝っても負けても、戦えば直枝は助かるのね」

「そういうことになるな」

「だったらお望み通りにしてあげるわ。…さっさとかかってきなさい」

「いや、変身しろ」

「…は?」

「あたしは卑怯な手を使ってたたかいに持ち込んだし、変身するぐらいのハンデは与えていいと思う。それに馬鹿兄貴も変身したおまえに倒された、変身したおまえを倒さないと意味がない」

「いや、あのね。気遣ってくれてるつもりなのかもしれないけど、私は変身したくないの」

「変身しないとたたかわない」

「……」

「どうした。はやくしないと理樹があぶないぞ」

佳奈多、理不尽なものを振り払いたいかのように首を振ります。

「どうしてこっちが戦いたがってるみたいな流れになってるのよ…」

しかし、理樹が人質に取られている以上、あまり強気の態度もとれません。意を決した佳奈多は、超電磁っぽいバトンを取り出します。

「出来れば向こうを向いていてくれるとありがたいのだけど」

「んー。まあ、あたしは別にかまわないが」

鈴が向こうを向いたのをしっかり確認してから、佳奈多は超電磁っぽいバトンをかざしながら叫びました。

「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ~!!!」

佳奈多の体が光に包まれ、そして長い髪が二つ止めのお下げにまとめられたマ女っ娘かなたんの姿になりました。

「ほんとにはるかの姿になるんだな…」

再び佳奈多の方に向き直った鈴が言いました。

「ええそうよ。さあさっさと済ませましょう、かかってきなさい」

「うん、でもその前に一ついいか?」

「なによ。まだなにかあるの?」

「さっきからクドは、あそこで何をしているんだ?」

鈴の視線は佳奈多の後ろに向いています。佳奈多が振り返ると、そこにはビデオカメラを持ったクドの姿がありました。

佳奈多はクドに歩み寄り、そして訊きます。

「クドリャフカ、それは何なのかしら?」

「これですか? これはですねえ、ビデオカメラって言うんですよー」

「そんなのは見ればわかるわ。私はそれの使途を訊いているの」

「これは放送委員会の備品です。かけがえのない青春の1ページを保存する為のすばらしい道具だと、来ヶ谷さんが言っていました」

「……」

「編集したらDVDに焼いてみんなに配ってくれるそうですよ。楽しみですねえ」

佳奈多はそれには答えず、無言で手を伸ばしてビデオカメラを奪い取ろうとします。クドはビデオカメラを持った手をぶんぶんと上にしたり横にしたりして、それをかわします。

「だめですっ。これはお渡しできませんっ」

佳奈多はがっくりと地に両手をついてうなだれてしまいます。それを見ていた鈴はしばらくどうしたものかと考えていましたが、やがてゆっくりと佳奈多の方に向かって歩き始めました。

「かわいそうだが…たたかいには時に非常さも必要…と、みおが言っていた」

そんな鈴の行く手を阻むように、突如上から人が舞い降りてきます。膝を突いて地上に降り立つと、2つに結んだおさげを左手でさっと払いながら立ち上がります。

「は、はるかっ!?」

「はい、正義の味方はるちんデスヨ」

その声に、佳奈多が顔を上げます。

「葉留佳…どうしてここに…?」

「それはもちろん! 姉がこんなにおもしろそうなことやってるのに黙って見てるなんて我慢できなかったから!」

「え?」

「…姉妹愛の精神に基づいて姉を助けに来た、という意味デスヨ?」

「……」

佳奈多、思い切り疑った表情をしています。

「…自分の姉に信用して貰えない妹…。結構辛いものがありますヨ」

その言葉に佳奈多ははっとします。

「ごめんなさい葉留佳、疑った私が悪かったわ。あなたは私にかこつけて棗さんと乱闘して遊び倒した挙げ句私の仕事の邪魔をしたことをチャラにしたいわけでは無く、純粋に私の事を助けたくて事態を平和的解決に導くべく仲裁に現れたのよね」

「スミマセンただ鈴ちゃんとじゃれ合って遊びたかっただけデス。…あ、でも姉妹愛が全く無いわけでは無いのでそこは疑わないで下サイ」

その佳奈多と葉留佳のやりとりを見ながら、鈴が困った顔で呟きました。

「2人がかりだなんて卑怯だ…」

「確かに卑怯だとは思うけど。でもそもそもあなたから挑んできた勝負だし、多少の理不尽は受け入れてもいいと思うけど。それとも勝負自体やめる?」

「…いや、勝負はやめない。そうだ、みおからこんな時に援軍を呼べるコードを設定して貰っていたんだった」

そう言って鈴は、携帯電話を取り出します。

「呼んでいいか?」

「まあ、こっちに援軍がいるのにあなたに呼ぶな何てのは理不尽すぎるわね。誰を呼ぶの?」

「わからん。誰が来るのか知らされていない。…だが、私のキャラクターを考えて、きっと猫だろう。うん、猫に違いない」

そういって鈴は、携帯にコードを打ち込みます。

次の瞬間、さっと一陣の風が吹き抜けたような感覚をその場にいた全員が感じました。そして、上から長身の男がすたっと降り立ってきました。

「猫よりかっこいいお兄様の登場だ」

鈴の兄の棗恭介でした。

「…」

「…」

「…」

「…」

みんな絶句してしまっています。特に鈴は、あからさまにがっかりした顔になってしまっています。

そんな面々をよそに、恭介は語り始めます。

「二木佳奈多。前回は油断して不覚を取ったが、今日はそうはいかない。…うん、西園はいないな。なら俺に勝ち目はある。そちらは姉妹でタッグか、いいだろう、相手にとって不足は無い。東アジア最強と言われた棗兄妹のコンビネーション、貴様らの眼にしっかりと焼き付けるがいい!」

「私に倒されたくせに何言ってるんですか」

恭介の口上を聞いていなかったかのように、佳奈多が冷たく返しました。恭介、しかし強気で佳奈多に返します。

「俺を押し倒していいのは理樹だけだ!」

「…あっそ。じゃあいっそあーちゃん先輩も呼んで今の台詞聞かせた上で3人がかりで挑みましょうか?」

「いや、あいつはやめてくれ、勘弁してくれ。2人まで、2人までだ」

「私とあーちゃん先輩ですね」

「はるちんお役御免!?」

「いやそうでは無くて…二木と三枝の2人にしてくれ。それなら勝てそうなのでそれでお願いします」

佳奈多は、ふんと鼻を鳴らして答えます。

「見くびられたものね…どこからその自信が出てくるんだか」

「いやだから、それはさっき説明しただろう。西園いないし、鈴もいるし、東アジア最強だし。だから勝てる」

「うん。で、その鈴ちゃんはどこにいるデスカ?」

「え? いや鈴はここに…」

葉留佳の言葉に恭介が傍らを見ると、さっきまでそこにいた鈴がいません。辺りを見渡して探してみると、植え込みの影で猫と遊んでいる鈴がいました。

「♪ねーこ ねーこ うたうー」

「あー。あれは完全に、やる気無くしちゃってますネ」

「何故だ鈴、兄が助けに来て形勢は逆転したというのに、なぜ戦いを放棄する!」

「そりゃぁあなた、元々兄のかたきを取る為に私に戦いを挑んできたのに、その兄が助けに来てたら、戦う意味自体が無くなるでしょう」

「そ、そういうものか?」

「サアどうします恭介さん。大人しく降伏しますカ? それとも1対2で戦いますカ?」

恭介を前に葉留佳は身構えます。恭介は神妙な顔でそれに応じます。

「降伏などしない。だがあまりふざけていると本当に足下をすくわれかねないからな。本気で行くぞ」

そう言って恭介は、以前佳奈多と戦ったときに使用した変な仮面を取り出しました。が、恭介が葉留佳に気を取られている隙を見て、佳奈多が忍び寄っていて、懐に飛び込んで仮面を奪い取りました。

「でかしたお姉ちゃんっ。そのまま抱きついてっ」

「え?」

葉留佳の言葉に戸惑いながらも、佳奈多は恭介に抱きつきます。勢いで恭介は後ろに倒れ込みました。そして葉留佳も恭介に突進してきて、2人一緒に抱きつきました。

「な…何をする、何のつもりだ」

戸惑う恭介に、葉留佳が甘えた声で語りかけます。

「たまにはこうさせてよ、お兄ちゃん」

「な…!」

「…ほら、お姉ちゃんも。早く早く」

佳奈多はさすがにためらっていましたが、やがて意を決して言葉を発しました。

「もう争うのはやめましょう…お兄様」

「ぐはっ」

これは少し来たようです。しかし何とか冷静さを取り戻した恭介は、2人に言いました。

「お前らは…俺の妹じゃ無い…」

「えー。ひどいなあお兄ちゃん」

「お兄様。あなたは直枝理樹にとって兄のような存在だと聞いています。そして私は今直枝と付き合ってます。つまり、私にとってもあなたは兄も同然。そして葉留佳は私の妹だから、あなたにとっても妹になる。違いますか?」

「…いろいろ納得出来ない点が多すぎるぜ」

「だがお兄ちゃんが美人の妹二人に抱きつかれて大喜びしてるのは事実! あそこでクド公が証拠の映像も取ってますしネ!」

「ぐ…」

恭介が苦悶の表情を浮かべます。が、すぐに思いついたように含み笑いを始めました。

「ふ…ふっ、ふはははは! そうさ、俺は今最高にハッピーだぜ! 双子の妹二人に甘えられてこんな嬉しいことがあるか! だがそれがなんだ? それがどうした? 俺は全く動じていないし、敗北感も無い。これが戦いだというのならそう、この妹天国を心の底から楽しんでいる俺こそがむしろ勝者、人生の勝者だ!!!」

「…いつまでそんな強気を言っていられるかしら?」

「いつまで? いつまでもだ! この世に妹がいて俺を愛してくれる限り、永遠にだ!」

「…」

佳奈多は無言で頭をずらし、恭介の視界を開けます。その先には、目を光らせんばかりの鬼の形相で立ちすくんでいる、鈴の姿がありました。

「り、鈴…」

「……」

「ま、待て。話を聞け。お前はたぶん誤解している。だいたいだな、そもそもだな、これは元々お前の戦いであって俺はそれを助ける為にやってきたわけで」

「…ド変態」

「うわああぁぁぁ………」

鈴が冷たく言い放ち、恭介は叫び声と共に魂が抜け落ちた状態になってしまいました。佳奈多は恭介に抱きついていた手を放し、起き上がりながら言いました。

「勝った…の?」

「んー。鈴ちゃん次第だと思いますガ」

「ん? あたしか?」

んー、と暫し考える仕草をしてから、鈴は言いました。

「かなたの勝ちでいいんじゃ無いか。そもそもこのがっかり馬鹿兄貴が全て悪い」

「だそうですヨ」

「そう…」

佳奈多は立ち上がって服の埃を払いながら、溜息をつきました。そして、はっと気づいたように言いました。

「そうだ、直枝っ。直枝はどこにいるの!?」

「おー、そうだった。女子寮の…」

 

 

 

 

 

女子寮の一室。その扉の前に駆け込んできた佳奈多は、勢いよく扉を開けて叫びました。

「直枝っ! 直枝はいるの、無事なのっ!?」

「あ、佳奈多さん! 良かった助けに来てくれて…」

「無事で良かった…って、なによその恰好」

佳奈多の視界に入った理樹は、なにやらフリルでいっぱいの白黒の衣装を着せられていました。

「これは…その…小毬さんが無理矢理…」

理樹が言いよどんでいると、小毬が姿を見せました。

「あー、かなちゃん。いらっしゃ~い」

「え? 急いでたから良く確認してなかったけど、ここって神北さんの部屋なの?」

「そうですよ~」

「でも棗さんは、直枝を言うこと聞かないドラ猫と一緒に閉じ込めたって…」

「そうそう。鈴ちゃんが来てね、ドア開けたと思ったら『ねこねこの刑だっ』って言って理樹君を放り込んできて…。さーちゃんが怒っちゃって、もう大変だったんだよ…」

「当たり前ですわっ。あの子ったら、人のことを、言うこと聞かないドラ猫扱いして…。一体どっちが…」

佐々美がぶつくさ言っている間に、佳奈多は理樹に駆け寄り、理樹をひしと抱きしめました。

「え、佳奈多さん…?」

「無事で…良かった…」

「うん…写真撮られたりしたけど、それ以上のことはされてないよ…」

「そう…これからはもうこんな事が無いように、もっと側にいるようにするわ」

「でも佳奈多さん忙しいのに」

「それでも時間を作る…だから直枝も、簡単に他の子に付いていくことが無いようにして」

「うん、気をつけるよ」

「直枝…」

佳奈多が理樹を抱きしめていると、後ろの扉の方から声がかけられました。

「あらあら、これはこれは」

声に気づいた佳奈多が振り向くと、ドア口には女子寮生達が大量に集結していました。

「みんなの前で見せつけてくれるわねえ。いくら公認の仲だからって」

「あーちゃん先輩!」

その後ろで携帯電話を片手に話していた女生徒が、あーちゃん先輩に耳打ちしました。

「へえ。ねえかなちゃん、それにみんなも。男子寮側から提案があったらしいんだけど。これから食堂で、二人をだしに祭としゃれ込もうでは無いか、とのことよ」

それを聞いた女生徒達の間から歓声があがります。

「ほほう、いわゆる二人の門出を祝う式、という奴かな?」

「やったー、結婚式だー」

「結婚式なのですー」

「たーんたーんたたんたんたんたん♪」

「やめなさい! 何、なんなのあなた達、小学生なのっ!?」

 

 

 

 

 

歓声と佳奈多の怒号が響くなか、そっとその場から超電磁っぽいバトンを回収した美魚が廊下を歩いていました。

「…佳奈多さんはもう、これを使うことは無いでしょうね。さて、どうしたものでしょう…」

そう呟く美魚の前に、一人の女生徒が立ちました。

「西園さん…」

「あら、古式さん。ごきげんよう」

「ごきげんよう…。あの、そのバトンなのですが」

「はい」

「先ほどまで二木さんが使ってらしたものですよね?」

「ええ。でももう、使われないと思いますので…どうしたものかと」

「そうですか…。あの、使う宛てが無いと言うことでしたら、そのバトン、私に譲ってはいただけないでしょうか」

「古式さんが、このバトンをですか?」

「はい。私、宮沢さんに言われるんです。いい加減新しい趣味を探せ、新しい自分を見つけろと。…そんなもの簡単に見つかるはずが無いと思っていましたが、そのバトンを手に入れれば、もしかしたらと…」

「…確かに、人生変わっちゃうかもしれませんね…」

「そういうわけですので…もしよろしければ…」

「…わかりました。古式さんなら大切に使ってくれそうです。…使い方はわかりますか?」

 

こうして、佳奈多が理樹との絆をいっそう深めている間に、超電磁っぽいバトンは新たにそれを必要とする人の手に移りました。

超電磁っぽいバトンで変身するようになった古式みゆきとそれに頭を抱える謙吾の話は…まあ皆さんのご想像にお任せするということで。

 

 

 

 



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