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バトルボーラーはるか

 

第三集

氷の美少女

 

 

第5章

再会

 

 

作・Ψ(Eternity Flame)


 午後からは更に県南を目指し、高知に入ると紫陽花(あじさい)を見て回った。途中、小雨がぽつぽつと降り出し、やがて豪雨(ごうう)となると傘を持ってきてなかった一行は、慌てて引き返さざるを得なくなっていた。

「オレの内力(メキド)で雨雲(あまぐも)を吹っ飛ばそうか?」

「むやみに力を使うなって師匠(ししょう)に言われてるでしょ!」

 正友(まさとも)の提案をあっさり却下するはるか。そんな話しをしている間も豪雨はその勢いを一向にゆるめず、しばらく待ったが、はるか達一行はこれ以上の駐在を諦め、帰宅を余儀(よぎ)なくされていた。

「半端(はんぱ)な雨じゃないな…」

 普段なら太平洋を望む絶景(ぜっけい)を眺望(ちょうぼう)できる、県南の山道。しかし、ワイパーで除去(じょきょ)できる限度を超(こ)えた雨に、視界がままならぬ状況での車の走行は、大変、危険であった。

 山側に面する方では崩落(ほうらく)の危険があったし、海に面した方に突っ込むような事があれば、標高(ひょうこう)何十、何百メートルから一気に転落をしてしまう危険性があった。

 滝(たき)のようにフロントガラスを流れる雨を前に、秀樹(ひでき)はとても運転し辛そうで、経験のない事態に焦(あせ)っているようであった。

 かつてない規模(きぼ)と勢いで長時間続く豪雨(ごうう)は、次第に太陽光も届かぬ程のぶ厚い雨雲を形成し、周囲を暗く閉ざして行った。

「これはただ事じゃないぞ…」

 運転に気を取られた秀樹だが。静かに漏(も)らした言葉は、何かを警戒(けいかい)しているような内容であった。おおよそそれが何なのかは、同乗する全員が薄々は分かっていたが、誰もその事には触(ふ)れずにいた。

 触れずにいたというのは、厳密(げんみつ)に言えば触れられるような心境(しんきょう)ではなかったのである。それは、今、置かれた道路状況がとても危険な状況だったのが原因なのは言うまでもなく、事故を恐れ皆して秀樹の運転を見守っていたからであった。


「秀さん、前ッ!!」 呼ぶ正友。

「何だッ!?正友ッ!?」

 正友の言葉に秀樹が前を見ると、前方に何かガラスのように光る物体が空からチラッと見えた。慌ててブレーキを踏む秀樹。

 ほとんど見通しの利かない状況に徐行(じょこう)に近い運転であったので、おびただしい雨にスリップしながらもすぐに車は止まったが、ガラスのように光る物体は、上空から凄(すさ)まじい勢(いきお)いで車へと迫ってきた。

 近づくに連れその物体は大きさを増し、巨大な隕石(いんせき)ほどもある事が判(わか)ったので、正友が慌(あわ)てて風を操(あやつ)り迎撃(げいげき)した。

「みんな伏(ふ)せろッ!!」

正友の言葉に全員が従(したが)ったが、身構(みがま)えるはるか達の頭の上で起きた爆発音に、車内は騒然(そうぜん)となった。

「…みんな大丈夫か?…」

 なんとか危機(きき)を脱(だっ)したのを知り、周りを気づかう秀樹。全員の無事を確認した所で、車の外に出てみると…

「なんじゃこりゃ!?…」

 車外には氷の破片(はへん)らしき物が散乱(さんらん)していた。驚(おどろ)く正友であったが、さすがに誰がやったかは理解できていた。

「…んにゃろ~…随分(ずいぶん)とオシャレなご挨拶(あいさつ)をしてくれるじゃねぇか…。」

 怒り心頭(しんとう)の正友。秀樹は興奮(こうふん)する正友をひとまずなだめ、後続車両にいる功一と洋一の安全も確認すると、全員に号令をかけた。

「どうやらこの前の“奴等”が俺達に決戦を挑(いど)んでいるようだ。だから今からその呼び出しに応じて、向こうに乗り込む。」

「ドコに?…」 問いかけるはるか。

「今、奴(やつ)らが飛ばしてきた氷の塊(かたまり)らしき物体はドコから来た?」

 秀樹は持ち前の分析力(ぶんせきりょく)で、はるかの問いかけに即座(そくざ)にそう応じた。


「!?…空ね!」

「そうだ。奴等は数日前も、内力で作られたらしき氷の島のような所を拠点(きょてん)にし、それを空に浮(う)かべてた。だから奴(やつ)らは間違(まちが)いなく空にいる。あの厚い雨雲(あまぐも)の先を抜ければ分かる事だろう。」

 そう言うと、秀樹はケルビムを召換(しょうかん)した。はるかと正友も同じようにし、洋一と功一と沙織をそれぞれに乗り分けさせると、一気に大空へと飛び立った。

 雨雲の中に入ると、そこは激(はげ)しい雷雨(らいう)の真っ只中(ただなか)であり、沙織は悲鳴(ひめい)をあげそうになったが、ケルビムの速度は相当(そうとう)に速かったのであっという間に突(つ)っ切れ、何とか心を落ちつかせる事ができていた。

 ぶ厚い雨雲を抜けたはるか達。その視界の先には、先日、秀樹と正友が乗り込んだ大きな氷の島が、前に見た時よりも数段規模(きぼ)を増し浮かんでいた。

「!?…この前よりだいぶんデカくなってねえか?秀さん!」

「あぁ。“主(あるじ)”がいるからじゃないか?…」

 氷の島はまるで一国の領土(りょうど)のように、山河(さんが)を配(はい)していた。鋭(するど)く尖(とが)った氷山(ひょうざん)に囲(かこ)まれた中に堅牢(けんろう)な城が造られていて、この間、見た時とは明らかに島全体の風格が違っていた。

「あの城に詩音ちゃんがいるのかな?…」

 はるかがそう言うと―

「行けば分かるさ。」と、答える秀樹。

 次の瞬間(しゅんかん)、はるか達のたむろする上空めがけ無数の矢が飛んできた。

「行くぞ!!」

 秀樹のかけ声と共に、三体のケルビムが一斉(いっせい)に天空を翔(か)け出した。矢の雨を掻(か)いくぐり、はるか達は敵の本拠(ほんきょ)らしき城へとケルビムを走らせた。


 近づくにつれ、城は猛烈(もうれつ)な吹雪(ふぶき)に覆(おお)われたので、その城を取り囲むように連(つら)なる氷山帯(ひょうざんたい)でケルビムを止めると。保護(ほご)色(しょく)になっていたため判(わか)りにくかったのだが、ビッグフッドやスノータイガーが数え切れないほどいるのが確認(かくにん)できた。

「こりゃスゲェ数だな…。」

 高低差(こうていさ)を隔(へだ)て睨(にら)み合う両者達。すると、ビッグフッドとスノータイガーの群(む)れの真ん中に、ぽっかりと大きな穴が空いた。その穴に現れた人影(ひとかげ)。それは氷の四天王と自(みずか)ら名乗(なの)る、この前の男達であった。

「…やっとお出ましか。」

 四天王達の派手(はで)な演出と登場の仕方に、半(なか)ば呆(あき)れたようにそう言う秀樹。

「フハハハッ…よく来たな!」

剣次は声高(こわだか)にそう言った。

「お前らが呼んだんだろがッ!」

 と、声を荒(あら)げる正友。「詩音(しおん)ちゃんはドコだ?」と問い詰(つ)めようとしたが、その前に本人が現れた。

「詩音ちゃん!?」 叫ぶ正友。

 その声と同時に、敵がうじゃうじゃいるにも関らず、彼はその輪(わ)の中へと飛び込んで行こうとした。

「止めろッ!!」

 すんでの所でそれを阻止(そし)した秀樹。そんな正友と秀樹を見ても、詩音は眉(まゆ)ひとつ動かさないでいた。

「貴様(きさま)ら、詩音ちゃんに何をした!」

 と、凄(すご)みながら剣次に問う正友。



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