閉じる


はじめに

~概要~
幼馴染の君と過ごしてきた、今日までの日々。
その日常はほんの些細な出来事で終わりを告げた。
あたしは過去へリープする。
君と、また新しい恋をする為に。
「終わりの惑星のLove Song」の一曲目「終わりの世界から」
という楽曲の二次創作です。
物語の展開や登場人物は、私自身の解釈で書いたものとなっています。
※この短編は「麻枝准×やなぎなぎ」さんの楽曲集。




~目次~


はじめに


前編


後編


奥付




~登場人物~

あたし ♀

赤毛で極普通の少女。

君との日々を再び過ごす為、過去へリープする。


君 ♂

あたしの幼馴染。

過去へリープした、あたしが出会う少年。


1

 あたしと君は、小さな頃から互いの事を何でも知っていた。

 幼い日から今日まで。

 いわゆる幼馴染だった。

 喧嘩もしたし、毎日の様に泥んこになるまで外で遊んだ事もある。

 あたしは君に負けじと、そんな男勝りな女の子だった。

 君と今日までの道を歩んで、気付けばあたし達は既に高校生。

 大人と子供の境目。

 やや君の事を幼馴染というよりは、一人の男の子として意識し出して、大人っぽい服とか、可愛い服とかを着だして、君の趣味や理想に合わせようとした。

 今まで、ただの小うるさいガキ程度にしか思っていなかったのに、いつからだろう。

 こんなに君に対して、想いを必死に巡らせる様になったのは……。

 

 学校からの、君と一緒の帰り道。

 あたしが君に好きな女の子のタイプを半ば強引に聞き出して、肩を落とすのは毎度の事。

 でも、今日の君は違った。

 焦る様にして声を低くする。

 

 

 誰にも言うなよな。

 俺、好きな人が出来た。

 

 

 周りを気にする様にして、あたしの耳元で囁く。

 そんな君がこっそり教えてくれたのは、年上の綺麗な女性。

 学校内では皆の人気者。

 赤毛の入った様な髪を持つあたしなんかとは違う、真っ直ぐで艶やかな黒髪。

 すらっとした体付きに、抜群のプロポーション。

 人ゴミの中に置いても、彼女の事は一目で分かってしまう。

 それほど綺麗な人だった。

 君が好きになるわけだ。

 そんな風に少しからかってやったら、ムスッとした顔で君に睨まれた。

 

 いつもと同じ帰り道を君と共にし、普段通りに別れて帰宅した。

 部屋の電気は消したまま、カーテンも閉めたまま……。

 ベットに顔をうつ伏せて、ただ泣いた。

 君の事は、ずっと好きだった。

 それなのに君は、全く知りもしない綺麗な誰かに恋焦がれている。

 

 

 あたしなんかじゃ、あの人には追い付けない。

 もう遅いんだ。

 君が彼女を好きになった時点で……もう、手遅れだったんだ。

 

 

 昔、母さんから聞いた事があった。

 リープ。

 十代後半の少女特有の能力で、文字通り過去へタイムスリップが出来る。

 

 

 私も、昔は過去へ飛んでいたものだわ。

 高校生くらいになったら、きっとあなたにも出来るんじゃないかしら。

 ただ念じるのよ。

 自分自身が覚えている範囲で、行きたい時を思い浮かべて。

 

 

 もう遅いのならリープをしよう。

 追い付けないのならリープを使って、君が彼女を好きになる前に……。

 こんな非現実的な事、普段のあたしなら信じようとはしなかった。

 なんてバカだったんだろう。

 この時のあたしは、藁にも縋る想いだった。

 暗い部屋の中、ギュッと目を瞑り、両手を力強く組む。

 ただ念じ続けた。

 あたしが望む過去へ。

 君と一緒にいて、ただ純粋に楽しかった、あの頃。

 そこでまた君と出会い、また恋をするんだ。

 

 

 お願い、飛んで‼



2

 真っ暗で何も見えない。

 それは目を瞑っているからだ。

 ゆっくりと目を開き、視界を明かす。

 

 

 あれ? ここって……。

 

 

 あたしの部屋の筈だが、明らかに今までとは違っていた。

 置かれている家具やベット、カーテンの色、壁紙、あった筈の漫画や雑誌。

 へたり込んでいた体を起こし、壁に掛けられた日捲りのカレンダーを見る。

 六年前の十二月。

 カレンダーの日付は、リープが成功した事を意味していた。

 あたし達が、まだ小学五年生の頃のクリスマス間近。

 この頃のあたしは、未だに君と外で泥んこになりながら遊んでいた事を覚えている。

 部屋を出て、家の玄関へ向かう。

 まずい、私の靴がない。

 幸い、家に母さんはいないようで、今なら好き放題に行動できるというわけだ。

 玄関横に立て付けてある棚から、母さんのローファーを探り出す。

 さすが母さん。

 高校時代の品を、まだ残してくれているおかげで、なんとか助かった。

 

 

 サイズもピッタリ。

 

 

 足を入れたローファーの爪先で、コンコンと床を軽く踏み、玄関の鍵を開け、ドアノブに手を掛けた。

 その時、あたしが外側へ開こうとしたドアノブは、勢い良くこちら側へ押し返された。

 ドアノブから手を離し、狭い玄関の中で数歩だけ後ずさる。

 

 

 誰?

 

 

 外からドアを開けたのは、まだ幼い小柄な少年。

 一目で分かった。

 この時代の君だって。

 

 

 あ、ぁぁ……えっと……。

 

 

 言葉が出ず、思わず私は逃げ出した。

 どうして?

 分からない。

 この時の君へ何を話せば良いのか分からなかったのだ。

 

 

 夕陽は傾き、西日が強くなってきた頃。

 私は公園の、大人が一人やっと入れるくらいの大きさの遊具の中にいた。

 幸い、この時間、この場所には誰もいないようで、今を凌ぐには絶好の場所だった。

 君を前にして、思わず逃げ出してしまった。

 こんな事じゃ、リープして来た意味がないじゃないか。

 このままじゃ、いずれ君は彼女と……。

 涙が溢れてくる。

 ポロポロと容赦なく溢れてくる、堪える事のない涙。

 せめて、この時のあたしを見て未来へ帰ろう。

 きっと笑っているんだろうなぁ。

 遊具から出ると、西日が強く私を照らす。

 オレンジ色に染まった夕焼けが、公園の遊具を、街を、眩しく儚い色に染め、長い影を作っていた。

 そんな公園に、長い影がもう一つ。

 俯いていた顔を上げると、その影の主は先の君だった。

 幼く小さな背中を震わせ、頬を少しだけ染めてあたしを見上げている。

 幼い君は、年上のあたしを見て聞く。

 

 

 あなたに似た人を探しているんです。

 何か知りませんか?

 

 息を荒げ、必死な表情で私を見ている。

 そんな君に、私は愛想笑いを浮かべて、こう言うしかなかった。

 

 

 ごめんね。

 何の事だか、分からないや。

 

 

 君はあたしに一礼し、再び走ってこの場を去って行った。

 君が去った後、あたしは地にへたり込む。

 あたしのせいだ。

 リープは、未来から来た人に過去の人が上書きされてしまうんだ。

 なら、あたしが未来へ戻れば……。

 早く帰ろう。

 先と同じ様に、ギュッと目を瞑り、力強く両手を握る。

 

 

 お願い、未来に返して!

 

 

 数分、数十分、祈り続けても、あたしがこれ以後、時間を移動できる事はなかった。

 リープは一方通行。

 未来には飛べなかった。


1

 公園の遊具の中で、へたり込んでいた。

 未来には帰れない。

 君は、あの頃のあたしには会えない。

 自分が冒した事態が腹立たしい。

 心の中で自分を罵倒し続けて、また泣いた。

 

 

 あの……。

 

 

 遊具の外から聞こえて来る、幼い少年の声に振り向く。

 

 

 外から中を覗いていたのは、君だった。

 慌てて涙を拭いて、笑顔を作る。

 

 

 俺、どうしても気になって。

 だから……その、何か知っている事とか、本当にないのかなって……。

 

 

 こんなに泣きそうな君は、見たくない。

 だから事情を説明しようとしたけど、寸手のところで止めた。

 君に全てを打ち明ける事。

 それはダメだって、どこかで気付いていたから。

 

 

 どうして……さっきから、こんな所にいるんですか?

 

 ちょっとね、家を追い出されちゃって。

 

 

 歯を出して笑って見せ、信憑性のない嘘を吐いた。

 しかしそんな嘘でも、君は真面目に受け止めてくれた。

 

 

 じゃあ俺の家、来ますか?

 

 

 この頃、君の両親は共働きで、家にいない事はよくあった事を覚えている。

 その度に、あたしの家で夕飯を一緒していたんだっけ。

 でもこの時代のあたしがいない今、そんな事は出来ないんだ。

 

 

 結局、あたしは君の家に泊まった。

 寝る時は、両親にバレテしまわないように、君の部屋の押し入れの中に布団を敷いて。

 なんだかドラえもんみたいで、少しだけ笑えた。

 

 翌日から、君は学校をサボってまで、あたしを探し出す、と言い出した。

 あたしは彼の額にデコピンを喰らわせ、その任はあたしが負った。

 凄く辛かった。

 あたしのせいでいなくなってしまった、この時代のあたしを探すと、君に嘘を吐いて、あたしはこの時代をノウノウと歩いている。

 次の日も、その次の日も……。

 君は学校から帰ると、ランドセルを家に放り出し、すぐに街中を駆け回りに出掛けた。

 そして帰って来た頃には、必ず泥んこで、ボロボロになって帰って来る。

 膝や肘、体の節々にできた君の傷が、痛々しかった。

 君の心も体も……全てボロボロになっていく。

 

 

 やめて。

 あたし、ここに居るよ。

 だから、どこにも行かないで……。

 

 

 あたしが君の家に来て、一カ月が経とうとしている頃。

 長い冬は終わり、やがて暖かくなった気候は、春の訪れを予感させていた。

 そんな時、君から両親の話を聞いた。

 これから両親の転勤の為、遠くの街に引っ越す事。

 あたしも、家出なんか続けてないで、早く家に戻った方が良い、と。

 

 

 このままじゃ、いつまでも前に進めないんです。

 だから、ここを発ちます。

 

 

 いなくなったあたしを残し、君はここを発つと決めた。

 

 

 もし、あなたがあの人だった、よかったのに。

 

 

 そう言い残した。

 引っ越しは翌日から始まった。

 君の両親や業者に、あたしを見られるのは面倒だと想い、あたしは君の自宅近辺で、様子を見守る事にした。

 結局、何も伝えられずに、あたしはここに残るのだろうか。

 嫌だ。

 そんなの、絶対に嫌だ‼

 今こそ、彼に本当の事を伝えよう。

 今までの事を全部。

 だから全力で、私の元から去っていく彼の手を取った。

 そして君と同様、ボロボロになって本当の事を伝えた。

 

 年上の綺麗な女性。

 リープ。

 一方通行。

 過去と未来のあたしの上書き。

 

 

 そして、ありがとう。

 

 

 その瞬間、視界が暗転し、景色が割れた。

 見慣れた街、空、桜の木、地面、そして君。

 それら全てに、硝子の様な亀裂が入り、ひび割れた空間へ私は吸い込まれていった。


2

 きっと、あたしへの罰だったんだ。

 一面、灰色の世界。

 崩れたビル群の景色。

 その中を吹き抜ける砂埃。

 全て、この目に写る現実。

 それら全てが、君を騙し続けたあたしへの罰。

 

 君と最後に話し、ひび割れた景色の隙間に吸い込まれ、この世界にやって来て、果たしてどれ程の時が経ったのだろう。

 あの時、ふと気付けばあたしが手に持っていた、古びた一枚の写真。

 隅にいるあたしを含め、仲間達に囲まれて、無邪気にカメラ目線で笑っている君の笑顔が眩しかった。

 そんな君に会う為、あたしは再び、この場所から旅(リープ)を始めた。

 

 

 また笑えるかな、あたし。

 この世界で……。

 

 

 君の写る写真は、この場所に置いて再び歩き出した。

 

 笑い合えるって凄く幸せな事。

 君はあたしに、そう教えてくれたね。

 

 その意味に、今になって気付く事が出来た気がした。




読者登録

麗さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について