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失われた世界

零れる光。目敏く見付けた命の灯火。
煌々と仄かな暖色の明かりが照っている。
その先に居るであろう、生物の存在。

寝息をたてる事すら躊躇う
無音が支配する心許ない夜。
闇が光りを。静穏を怒号が。
好機を瞬間を狙いすまして息を潜めている。


今にも掻き消えそうな蠟燭が陰鬱な部屋を
目一杯の力で灯らせている。
部屋の隅に浮び上がる黒々とした不穏な影。
暗澹な未来が差し迫っている事を示唆しているかの様に、
徐々に色濃く染まっていく。


光に照らされ淡く輝く、一つの拠り所。
この右手に持つ、切先が鋭く刺突を目的とした物。
暇さえ有れば何度も何度も磨きあげて鋭くしていた。
心を少しでも宥める為、鎮める為。
少しでも自分を励ませるため。
コレを眺めている間は平穏でいられる。


甲高く響くガラスの割れる音。
碎け散る破片と共に飛び現れてきた一つの存在。
禍々しい凶器を片手で握りしめ
狂気に満ちた仮面を被った輩。

その虚ろな瞳が覗き込んでいるモノ。
ソレと対峙している自分の姿。
今まで想像してきたのに、いざとなると手も足も動かない。
激しく脈打つ鼓動。粘り気を帯た汗。
汗で掌で握りしめていた物が滑り落ちた。
道具が転げ落ちた事に気付く余裕すら残されてない。
荒い息遣いだけがこの世界で音を発している。


脳を駆け巡る今までの出来事、思い出。
一瞬の内に半生を振り返る、記憶の解放。
疾風の如く溢れかえった記憶の中には
一つも、この瞬間に巧く立ち回る為の記憶はなかった。
『 --------------------------っはははは!!!!!。』
笑う事しか出来なかった。
涙は滲む。心は今にも崩れ落ちそうだ。
でも、泣きはしない。
コレが今の自分に出来る精一杯の抗い。


怖くない。
だから笑える。
怖くない。
だって笑えてる。
怖くない。
だって今、笑ってるんだから。


この本の内容は以上です。


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