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 その愛撫を加えられると、不思議に身体中に電流が走ったように甘い痺れが流れる。ついには気が狂うのではないかと思うほどの快感に包まれ、実里は絶頂に達した。実里の内奥が烈しく痙攣しながら悠理を締め付け始めると、悠理もまた熱い飛沫をまき散らしながら達した。

 「あんたの身体って、いやらしいね。バージン喪失したばかりで、普通はこれだけ感じないはずだけど?」

  悠理は実里の身体を抱き上げると、器用にひっくり返した。腹ばいにさせられたかと思うと、後ろに回り込んだ男に腰を抱かれ、身体ごと持ち上げられる。まるで犬のようなポーズを盗らされ、実里はあまりの恥ずかしさにまた泣きじゃくった。

 悠理がまた口の布を取る。

 「あんたが嘆き哀しみながら、俺にヤラレるのって最高。俺、余計に燃えちゃうよ?」

  身体だけでなく言葉でも実里をいたぶり、嬲ろうとしているのだ。それから実里はまるで動物のように後ろから何度も犯された。

  最後の絶頂を迎えた瞬間、実里は最奥で男の精がほとばしる妖しい感覚に、身体を小刻みに震わせた。しばらく経っても、悠理の屹立はまだ熱い飛沫をまき散らしていた。感じやすい内奥が濡らされてゆく感覚が堪らなく淫靡であり快感でもあった。

 「まさか復讐のためにレイプして、あんたがここまで悦がるとは思わなかった。まあ、俺も良い思いはさんざんさせて貰ったけど」

 事が終わった後、悠理はさっさとズボンを元通りにすると、片手を上げた。

 「じゃあね。今夜の一部始終をあんたの婚約者にせいぜい教えてあげると良い」

  あまりに烈しい荒淫に、実里は心身疲れ果てていた。しばらくその場に気を失って倒れていたと思う。

 どれだけ失神していたのかは判らないけれど、気がついたときにはまだ周囲は夜の気配に包まれていた。  実里はのろのろと起き上がり、その場に散らばっていた下着や服をかき集めた。ブラウスもスーツも乱暴に引き裂かれて使い物にはなりそうになかったが、とりかくブラとパンティをつけてからブラウスを羽織り、スカートをはいた。ボタンは全部引きちぎられている。前を間に合わせでかき合わせた。  

 ストッキングは幾ら探しても見つからないので、諦めた。そうやって、とにかく体裁だけは整え―実際には到底、体裁を整えているとは言い難かったが―、とぼとぼと歩き出すと、さんざん大きな肉棒でかき回された下半身が疼くように痛んだ。


 地面の上で犯されたので、剥き出しになった素肌のあちこちが擦れて、小さな傷がついている。まさに復讐という言葉にふさわしい、相手への思いやりなど欠片も感じさせない行為だ。

  復讐という言葉を使いながらも、あの卑劣な男は自分の欲望もそこそこ満たしたようには見えた。本当に欲望処理だけのセックス。そこには、愛情など当然ながら存在するはずもなく、ただ憎しみだけがあった。

  実里には初めての経験だった。それなのに、まさか二十七年間生きてきて初めて男に抱かれるのがレイプだなんて、想像さえしたことはなかった。

  新たな涙が滲んできて、実里は低い嗚咽を洩らしながら道を歩いた。

 両親が既に寝ていたのは幸いだったといえる。謹厳な父と小心な母が今の実里の姿を見れば、卒倒するに違いなかった。  実里は玄関からそのまま二階に上がり、ベッドに倒れ込んだ。本当はシャワーを浴びて、あの卑劣な男にさんざん弄ばれた身体を清めたかった。だが、正直、今はそれだけの気力も残ってはいない。

 あの男が自分の中に入り込んで、何度も精を放ったのだと思っただけで嫌悪感に吐いてしまいそうだ。

 しかし、その時、実里は迂闊にも気づいていなかった。やがて、その夜の人知れぬ出来事によって、自分がどのように大きなリスクを背負うことになるのかを。  実里は着替える元気もなく、そのままベッドに打ち伏して泥のような深い眠りの底に落ちていった。

 

 昼休みの給湯室は実に騒がしい。仕事からひととき解放された女子社員たちが一斉に溢れ出し、ここにたむろするからだ。  慎ましい倹約家はここで持参した弁当をちゃっかりひろげている。実里は元来、あまり大勢と群れる質ではなく、大抵は同じ歳の大木ひかると二人で行動することが多い。  同年といっても、ひかるは四大を出て入社したので、実は実里の方が会社では先輩になる。しかし、付き合いも長い二人は、今では無二の親友と言って良い関係を築いていた。  二十七歳といえば、微妙な年齢である。もう入社したての若い子とはいえず、かといって三十過ぎた中年女と呼ばれるにはいささか早すぎる。


♯Detection(発覚)♯

♯Detection(発覚

 

 昼休みの給湯室は実に騒がしい。仕事からひととき解放された女子社員たちが一斉に溢れ出し、ここにたむろするからだ。  慎ましい倹約家はここで持参した弁当をちゃっかりひろげている。実里は元来、あまり大勢と群れる質ではなく、大抵は同じ歳の大木ひかると二人で行動することが多い。

  同年といっても、ひかるは四大を出て入社したので、実は実里の方が会社では先輩になる。しかし、付き合いも長い二人は、今では無二の親友と言って良い関係を築いていた。

 二十七歳といえば、微妙な年齢である。もう入社したての若い子とはいえず、かといって三十過ぎた中年女と呼ばれるにはいささか早すぎる。

 この時期になると、同期、或いは同年の女子社員たちは三分の二が退社している。その殆どが結婚を目的とした寿退社だ。もちろん、中には今の職場が合わず同業種で別の会社に移った者もいるし、新たな道を求めて旅立っていった者もいた。

  しかし、いずれも今の自分に満足できず、新たな道へと踏み出したことに変わりはない。その点、男子社員たちは女子と違い、途中で職を変わる者は少なかった。その点はやはり、男にとって仕事は一生のものという考え方がまだまだ日本に根強く残っているからだろう。  同じ年頃の女子社員たちが次々と結婚して辞めていく中で、実里とひかるだけは相変わらず今の会社でしぶとく頑張っている。

 その日、実里は給湯室に来て、ホッとしていた。しかも幸運なことに、その日はいつになく人がおらず、閑散としている。実里とひかるが入ってきたときには数人の若い子がいたが、入れ替わるように出ていった。何でもフレンチレストランでランチをするのだとはしゃいだ会話の端々から判った。

 「良いわねえ。今時の若い子は何をするにも明るくて」

 ひかるが心もち肩を竦める。  実里はすぐに同意して良いものが判らず、曖昧な笑顔を返した。

 「良いんじゃない? しかめっ面しているより、明るい方がまだ良いわよ」

  と、ひかるがプッと吹き出した。

「やだ、なに、それ。鹿田さんのこと言ってるつもり?」

 


 〝鹿田さん〟というのは、編集部にいる四十三歳のベテラン社員である。若い女の子たちからは〝鹿田のお局〟といわれ畏怖される対象だ。いまだに独身で、駅前の豪華なワンルームマンションで悠々自適の生活を送っているらしい。

 美人といえばいえなくもないが、度の強い銀縁めがねをかけ、長い髪をシニヨンにしていつも黒づくめの格好をしているので、余計に近寄りがたい印象を与える。

 「別に鹿田さんのことを言ったわけじゃないわ。人聞きの悪いことを言わないで」

 とにかく仕事に関しては厳しく、新入社員の中で鹿田さんの洗礼を受けなかった者はいないとまで言われるほどだ。去年の春には、入社したての男子社員が鹿田さんに手厳しく注意され、皆の前で大泣きしたというエピソードがある。

 「まあ、でも、確かにああなりたくはないわよね」

 ひかるの言葉にはしみじみとした本音が感じられた。

 「でもね。知ってる? 私、大変なことを聞いたのよ」

 ぼんやりと考え事に耽っていた実里の耳許で突如として大きな声が聞こえた。

 「実里、聞・い・て・る・の」

 実里は瞬間的にピクリと身を震わせた。

 「な、何よ。耳の側でいきなり大声出さないで」

 ひかるが頬を膨らませた。

 「だって、実里ったら何を話しかけても、まるで上の空なんだもの」

 「ごめん、ごめん。で、何の話だったけ?」

 「鹿田さんよ、鹿田さん」

 「ああ、そうね。そうだったわね」  

 ひかるが更に顔を近づけた。

 「鹿田さんが営業部長の愛人だって噂、聞いたことがある?」

  声を低めて問われ、実里は首を振る。

 「まさか。そんな話、聞いたこともないけど」

 ひかるは更に小声になった。

 「それが、どうやら、そのまさからしいのよ。私も金橋君から聞いたんだけどね」

 ひかるには一年近く付き合っている彼氏がいる。金橋大悟といって、営業部二十六歳、一つ下である。爽やかなアスリート系というのか、ルックスも性格もそこそこ良くて若手女子社員たちからはモテる方だ。


「金橋君は営業でしょ。だから、部長ともよく一緒に仕事するじゃない。必然的に鹿田さんとのことも気づいたんですって。いつだったか、退社時間間際に急に鹿田さんが営業部に現れて、二人してそそくさといなくなったそうよ」

 「でも、それだけで愛人関係にあると決めつけるわけにはいかないでしょう」

 実里が指摘すると、ひかるは笑った。

 「でも、その噂って、実はもう数年前から社内では知る人ぞ知るらしいわよ」

 「そう―」

 実里は気のない様子で相槌を打った。

 今の実里には鹿田さんが営業部長の愛人であろうがなかろうが、どうでも良い。

 それよりも気になることは幾らでもあった。まず恋人潤平のことだ。あの恐怖の夜―溝口悠理にレイプされた四月半ば過ぎ以降、潤平とはずっと逢っていない。

 四月から五月の初めてかけては、潤平の方が忙しかった。いよいよニューヨーク出向が本決まりになり、仕事の引き継ぎなど多忙を極めているらしい。

 実里は不安だった。潤平にはまだプロポーズの正式な返事をしていない。なのにニューヨーク行きが決定したというのは、何を意味するのだろう。当初、ニューヨークに行くためには既婚者でならなければならないという条件が付いていたと聞いた。

  もしかしたら、潤平は実里が彼の求婚に対してNoと言うはずがないと自信と確信を抱いているのかもしれない。  実里自身、確かに今は潤平のプロポーズを受けても良いかもしれないなどと考え始めていた。それは彼には申し訳ないけれど、潤平への気持ちが強まったというよりは、あの夜の出来事―悠理に陵辱の限りを尽くされた―がかなり影響しているだろう。

  溝口早妃が死亡したことで、実里は期待していた新規プロジェクトからも外された。実里の不名誉な噂が主要メンバーには不適切ということだったのだから、もしかしたら、ここら辺で会社を辞めた方が良いのかもしれない。会社側もそれを期待しているのではと思えなくもない。

 長年温めていた夢も失い、後はただ受付嬢の仕事をするだけ。別に、若さとそれなりの外見があれば、誰でもできる仕事だ。更に二十七歳という年齢を考慮すれば、若さと外見が武器になるのも後わずかにすぎない。

 やがては受付嬢からも外され、今度は資料室配属にでもなるのだろう。資料室というのは会社関連のあらゆる資料が保管されている部署ではあるが、現実に〝資料室行き〟を命じられれば、それは永遠に出世コースからは外れたということを意味する。ゆえに社内では資料室配属になった社員を〝島流し〟と呼んでいた。

 そんな屈辱を受ける前に、こちらから身を退くべきなのは判っていた。そのためには、潤平との結婚はとてもタイミングの良い理由になるではないか。

 また、あの忌まわしい夜の記憶から逃れたいという気持ちもあった。あの夜を境にして、実里は男性恐怖症に囚われてしまったらしい。会社でも男性社員が側に来ると、忽ち身体が震え始め、顔が引きつる。

  もし偶然にでも相手と身体の一部が接触しようものなら、飛びすさってしまう。そのために何度か怪訝な顔をされたことはあるが、今のところは意思の力を総動員しているため、誰かに気づかれているということはないだろう。



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