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 「寂しい、会いたい。」狼が黒い夜に向かって吼えました。宛て先の無い叫びです。その叫びは白い靄となって、そして、消えていきました。
 どこからともなく、風がやってきて囁きました。
 「僕で良ければ、いつでも。」
 姿は見えません。しかし、葉が音を立てたので、そこに居ることは確かでした。
 狼は、その掴みどころの無い来訪者が、優しい言葉が、たまらなく嬉しいのでした。その反面、どうしようもなく不安で、ちりんと胸が痛むのでした。そのせいか、自分の中の頼りない喜びを、葉がくすくすと笑っているようにさえ聞こえました。
 「君は、見えないね。」狼が最初に放った言葉は、本音とは少し違った形をしていました。
 風からの返事はありませんでした。狼は、申し訳なく思いました。それでも、不安が間違っていなかったことに安心できたのです。
 もうすぐ夜明けです。遠くでは、ごうごうと唸るような音が響いています。

この本の内容は以上です。


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