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流れ星

「お前さあ、彼女のところとか、行かなくていいの?」
「彼女、いないし」
「もてるのに? 二組の長谷川に告られたって、噂は?」
「好みじゃないから、断った」
 おれは、おれの部屋に転がり込んで、漫画なんぞを読んでいる田村に声を掛けた。
「西田こそ、俺がこうして、ここに居たら邪魔か? ひょっとして、彼女を連れ込もうとか計画していた?」
「そりゃ、おれに対する嫌味か」
 おれは自分の外見を思い描く。顔は悪くないほうだと思う。が、おれは背が低く、体格もひ弱で、やたらと女に間違われる。対する田村は、背も高く、体つきもがっしりしている。中学時代、陸上部のエースだったとか。おれとは大違いだ。
 おれは、改めて田村を見た。だらりと寝そべって、持参したポテチをつまみつつ、漫画を読んでいる。
 妙なことになった。おれは再度、田村に聞いた。
「田村、ほんとに、こんな所に居ていいのか? 世界が、終わるかもしれないのに」


 それは、いつの間にか広まった噂だった。
 もうすぐ、星が落ちてくる。
 その星の衝撃で、人類は滅亡する。
 噂の元になったのは、インドだかどこかの古文書に載っていた予言らしい。
 ノストラダムス並の胡散臭い話だ。
 だが二ヶ月前、NASAだかどこかのエライ機関が、地球の側を隕石が飛んでいく、と発表した。
 その機関の話では、あくまで地球の側を通過するだけで、衝突したりはしないと強調していたが、世界は終末ムード一色に染まった。
 新興宗教の指導者とやらは「悔いあらためよ」と叫び、将来を悲観した人間がビルから投身自殺を図ろうとして、駆けつけた警官に説得されたり、自暴自棄になった人間が略奪・強盗を働いて社会問題になったり。大騒ぎだ。
 そんな大騒ぎの中、おれの通う学校でも、異変が起きた。
 学校に通学する生徒の数が減っている。
 登校しなくなったやつの言うには、最後は自分のやりたいことをやって死にたい、とのこと。
 確かに、本当に隕石がぶつかるなら、学校に通っている場合じゃないだろう。
 趣味に打ち込むもよし、
 愛する人と、最後の日々を過ごすもよし。
 むしろ、そうすることが自然だろう。

 ――本当に、世界が終わるなら。

 おれは、世界が終わるとは思えなかった。
 政府の「隕石は衝突しません」という報道を、世間の半分くらいの人は嘘だと決めつけている。が、おれには嘘だと思えない。
 本当に隕石が落っこちるなら、最初から隕石のことなんか報道しなければいいんだ。そうすれば余計な混乱は起きない。
 今、世間は不安定な状態だ。終末が来ると思っている人と、そんなことは起きないと思っている人と、温度差があって日常と非日常がごっちゃになっているのだ。
 だから、終末を信じてない人が店を営業していると、終末を信じている人に商品を略奪されたりする。
 学校では、ちゃんと出席しろと教師が言っても、生徒は出席しない。
 一般の会社でも、同じような現象が起きているらしい。
 おれは終末を信じていない。隕石はぶつからないと思っている。
 でも、そう思うのは、おれのクラスでは少数派だった。隕石が最接近する日が近づくにつれて、クラスメイトはひとり、ふたりと減っていき――気がついたら、教室で授業を受けているのはおれと田村だけになっていた。
 
「西田は、終末、信じてたのか?」
「信じてない」
「なら、いいじゃないか」
「気になるだろ。二ヶ月前は、ほとんど喋ったことなかったじゃないか。今日も、突然、おれの部屋にあがりたいだなんて」
 田村はむくり、と起き上がった。
「俺は、終末を信じていない。でも、それは怖いからだ。怖いから信じたくない。ガキの発想だな」
 そして、田村はおれを見る。
「西田はそうじゃないだろ。頭っから信じていないだろ。俺は、西田の、そういう強いところに憧れる」
 何を言い出すのだ、この男は。
「俺が、西田のこと、好きだって言ったら、どうする? 心の強い美人が、俺の好みなんだ。だから、最後は西田の側にいたいと思った」
 田村は同性愛者だったのか? 
「西田は、男は駄目か? どうしても?」
「駄目もなにも、おれは田村のことを知らなさすぎる」
 おれは田村に言い聞かせる。
「恋愛ってのは、相手のこと、よく知らないと」
「今夜、隕石がぶつかったら、知り合う時間なんてないじゃないか」
「ぶつからないよ」
 おれは田村に近づいた。隣に座る。
「これから、一緒に、流れ星に願いをかけよう。お互いのこと、よく知り合えますように、と」
「西田?」
「さっき、気になるって、言っただろ。好意を持ちつつある相手が、自分の部屋に転がり込んできたら、質問したくなる。そして、その人物が、おれのこと好きだなんて言い出したら、相手のことがもっと知りたくなる」
「……」
「隕石はぶつからない。おれたちは恋愛するんだ。……怖くないだろ」
「ああ」
 田村の腕が、おれの肩にまわされる。おれは、自分の身体を田村に預けた。
 
 翌日。世界は終わらなかった。
 それはそれで、大混乱を招いたわけだが――おれは恋人を手に入れて、それなりに楽しく学校に行っている。


奥付



BLな小話 流れ星


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著者 : 招木かざ
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