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バトルボーラーはるか

 

 

第三集

氷の美少女

 

 

第4章

記憶

 

作・Ψ(Eternity Flame)


 詩音が忽然(こつぜん)と姿を消し、一夜明けた翌日。秀樹にゆっくり休むように言われたはるかだが。詩音の事や鮎吉に言われた事が気になった上に、伍籐(ごとう)との戦いの興奮とが加わり、昨晩は熟睡(じゅくすい)できず寝坊(ねぼう)をしていた。

 そんなはるかを目覚めさせるように、インターホンが部屋中に鳴り響いた。誰だろうかと思ったが、寝惚(ねぼ)け顔で玄関に出る訳にも行かず、慌てて髪を手櫛(てぐし)で直しながらドア越しに返事をすると、そのドア越しの相手は正友であった。

「おーい起きてたのか?」

「何か用なの?」

「昨日はハードな夜だったから寝坊してねぇかと思ってよ~。」

 詩音がいなくなったので、自分の部屋に戻ったはるか。その真下の部屋で暮らす正友は、昨日の一連の出来事で精神的・肉体的にも疲れているだろうと、彼なりにはるかに気をつかって来たのであったが。ドアノブを「ガチャガチャ」とガサツに鳴らし、いきなり部屋に入ろうとしたので―

「ちょっと何やってんのよ!?」

と、はるかは声を荒(あら)げた。

「いや、一緒(いっしょ)に朝メシ食おうと思ってよ。」

「私は、まだ着替えてもしてないからダメよ!」

「…お前やっぱ寝過ごしたんだな?」

「だから何よ。」

「早く用意しないと遅刻すんぞ?」

 そう言われ、掛(か)け時計を見たはるか。

「あーッ!!」

 始業に間にあうバスの最終便が、最寄(もよ)りのバス停に来るまで、あと20分しかなかった。

 (もう休んじゃおっかなぁ…)

 叫んだ後、朝イチから訪れたショックに意欲が萎(な)えたはるかは、投げやりな気持ちとなり、そんな考えをしていたのだが…


「おい、ちゃんと学校行けよ!」

 そんなはるかの考えを見透(みす)かしたかのように、正友がそう言って登校を促した。

「…もう間に合わないもん。」

「ちょっとくらい遅れたって、いいじゃねぇかよ。オレなんか遅刻なんて当り前にヤリまくってんぞ。」

「…何をエラそうに、そんな事言ってるのよ。よくクビにされないわね。」

「余計なお世話だっつーの!…まぁ、んな事ぁどーでもいいや。送ってやるから支度しろよ。」

「えっ!?アンタ車持ってるの?」

「持ってるよ。何か文句(もんく)ある?」

「えっ!?ない…けど…。」

「けど何だよ?」

「運転は大丈夫なのかなぁなんてさ。」

「失礼な。んな事ばっかり言ってると送ってやんねぇぞ!」

「はいはい。じゃあ、ちょっと待ってて…」

 そう言って慌てて準備を始めたはるかだが、髪をセットして制服を着たりして身だしなみを整える為、結局30分近くを費やしてしまっていた。車で直接学校へ行くとなれば、逆算(ぎゃくさん)すればそれくらいかけたとしても間に合うと踏んだからである。

 そこには微妙(びみょう)な女心があって、遅刻はするわ身支度は整えねばイケないわと考えると、急に億劫(おっくう)になっていたのだが、正友の助け舟(ぶね)でなんとか間に合うと思った途端(とたん)にやる気が出てきて、そんな段取りを考え出していたのであった。

「遅ぇぞ!」

「ごめんごめん。」

「まぁいいや。行くぞ!」

 正友について行くと、真新しい軽自動車があり。二人はそれに乗り込んだ。


「この車いつ買ったの?」

「この前だよ。」

「いつ納車(のうしゃ)したの?」

「昨日だよ。」

「昨日!?」

「んじゃ、出ぱーつ!」

 嫌な予感がしたはるかだが、もうバスにも乗れないので、助手席で大人しくしているしか選択肢(せんたくし)はない。

 案の定、その予感は当たり。正友の無謀(むぼう)な運転に、はるかは顔を引きつらせた。

「アンタ、免許はいつ取ったの!!」

「ん、先週だな。」

「先週!?教習所以外で運転したのは?」

「今日が始めてだよ。」

 信号待ちでやっと話しができたが、聞かなければ良かったと、はるかは心の中でつくづく思った。

「ちょっと…きゃぁぁ~ッ!!」

 ジェットコースターなど及びもしないほどのスリルに、なんとか学校に着きはしたものの、はるかはゲッソリとしてしまっていた。ラッシュ時間なので、スピードはそんなには出ないであろうとタカをくくっていたのだが、裏道ばかりを猛スピードで走られ、生きた心地がしなかった。

「着いたぞ。」

「…死ぬかと思った…。」

 そう言って、はるかはよろめきながら登校する羽目に陥っていた。いつもなら怒ったりもするのだが、そんな元気すら失くなっていたのである。裏道を飛ばしたお陰で、15分近くも始業時刻より早く教室に入ったはるか。

「あれぇー!?はるか、来てたのー?」

 少し遅れて教室へ入った沙織が、はるかを見つけびっくりした様子で近寄って来た。


「…。」

「どうしたのー?ぐったりしてぇ…バスで見かけなかったから、今日は休むのかなぁって思ったよぉ。」

「正友に送ってもらったんだけど、運転がメチャクチャで…すごく疲れたの。」

「車で…あっ!?そっかー!はるか、遅刻しそうになったんだねぇ?」

「…うん。」

「昨日はハードだったからねぇ。」

「…うん。だから、ちょっと静かにしてて…」

 はるかは机にもたれかかり、寝そべったまま始業ベルが鳴るまで動かないでいた。しかし、一旦(いったん)HRが始まると、背筋を伸ばし普段通りに授業をこなしていた。

 だが、朝食を摂れなかったのと寝不足との疲労(ひろう)で、瞳は開いていても、頭の中では意識が朦朧(もうろう)としていた。英語の授業になると、先生が読む英文が、まるで睡魔(すいま)を呼び寄せる呪文(じゅもん)のように聞こえ、眠気はピークに達していた。そんな折(おり)―

 教室の引き戸が突然開けられたかと思うと、廊下(ろうか)から伍籐が姿を現した。

「ブッ殺してぇぇよ!!」

 血みどろのナイフを手にし、物騒(ぶっそう)な言葉を吐く伍籐。瞳は血走るというよりも、眼球(がんきゅう)自体が風の谷のナウシカに出てくる怒った時のオウムのように真紅に染まり、それはそれは恐ろしい容貌(ようぼう)をして近づいて来ていた。

 気が動転(どうてん)するはるかだが、「やられる!!」と思った瞬間。机の上に銃があったので、とっさの判断で走り寄って来る伍籐へ向けて射(う)つと、数発放たれた内の一発が見事に顔に命中したのだが…

 



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