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ブルルル ケータイが震える。
ハルキはあわてて、ケータイを手に取った。
着信の文字は「おねえさん」
思わずドキッとする。
彼女のぬくもりや、香りや、肌の感触がふっと呼び起される。
と、同時に甘い予感が疼きだす。

「もしもし?」
「ハルキ、今、何やってんの?」
おねえさんの高飛車な声が返ってくる。
「…ゲーム」
「そう、じゃあ、これからうちに来なさいよ」
有無を言わさない命令口調だった。
「うん。わかった」
ハルキはやりかけのゲームをセーブすると家を飛び出した。


ハルキは、「AGE」として、華々しくデビューはしたが、
個人としては、まだ軌道に乗れていなかった。
事務所の力で、与えられる仕事は多かったが、それに見合う数字が出せない。

そんな中で、ハルキはグループ最年少組で、やっと二十歳をなったばかり。
「AGE」としての仕事以外は、恵まれていなかった。
メンバーの個人の仕事が増えていく中で、自分だけ仕事がない日もある。
自分自身どうしたらいいかわからず、混沌として気分で毎日を送っていた。


そんなとき、おねえさんこと、茉莉と出会った。
ハルキが準主役をつとめるドラマで共演したのがきっかけだ。
茉莉は、ハルキの姉の役で出演していた8つ年上の女優。
彼女は子役あがりで、芸歴こそ長かったが、
その演技力に見合うほどの大きな仕事に恵まれていなかった。
テレビでも顔はなんとなく見たことがある程度で、名前の認知率などほとんどない存在だった。

スタッフ、キャストの飲み会で、ハルキはそんな彼女に声をかけられた。
2次会でみんながグダグダになっている中で、芝居では清楚なイメージの茉莉に
「弟くん、私と近親相姦してみない」と囁かれたのだ。
あまりのギャップに、ハルキは彼女に興味を持った。
ハルキは、茉莉に誘われるままに、関係を結ぶようになった。
キレイな人だし、気持ちいいし、とくに拒む理由もない。



ハルキは、茉莉のマンションにつく。
広尾にあるその高級マンションは、
茉莉クラスの女優が住めるようなところではなかった。

エントランスは、高い天井が吹き抜けになっていて、壁から水が流れるオブジェがある。
共有ロビーにはイタリア製の革張りのソファーがおかれている。
受付カウンターには、専任コンシェルジュがいて、まるでホテルだ。

茉莉の事情をなんとなく察していたハルキは、このゴーシャスなエントランスを通るたびに、
いやな気分になっていた。
キャップを深くかぶって顔を隠し、
ズタボロのデニムをはいた自分は、あきらかに場違いな雰囲気で。
受付のコンシェルジュに、チェックされているようで気分が悪い。
ハルキは、とっととそこを抜けて、エレベーターに乗った。

部屋に着くと、茉莉は、ハルキを笑顔で出迎えてくれる。
その姿は、下着が透けて見えるセクシーなナイトウェアーで。
胸の谷間も、面積が最小限の総レースの下着も、
くびれたウエストも生地越しに、透けて見える
ハルキは茉莉の艶っぽい姿に、甘い予感が疼きだす。



「早かったじゃない?」
「おねえさんには、絶対服従だから」
「ふふ、イイコね」
女王さまは、満足げの笑みを浮かべて、ハルキの頭をなでる。

茉莉は広いリビングを抜け、ハルキをベットルームにつれていく。
性急な展開に、さすがのハルキもちょっと戸惑っていた。
い、いきなり、ココかよ…。
心の中でつぶやく。

茉莉は、彼の肩に手をかけて、頬をなでながら
「キレイな顔ね。私、この顔、好き。この唇も…」

茉莉からキスをされると、ハルキもスイッチが入ったよう熱いキスに応える。
ふっと離れて、見つめあう。
「今夜は、いきなりメインディッシュ?」
すっかりその気になったハルキは、まんざらでもないように言う。
「あなたにアンティパスト(前菜)はいらないでしょ。そろそろ寝ようかと思ったんだけど、ちょっと欲しくなったから」

茉莉は、艶っぽい眼差しをして、デニムの上から熱くなったハルキに触れた。
「ん!」
ハルキはあわてて、腰を引く。
「おれ、おねえさんの「おもちゃ」じゃないんだよ」
ハルキはささやかな抵抗をする。
「そぉ? じゃ、帰ってもいいのよ」
茉莉は言葉とは裏腹に、ハルキのシャツを脱がしていく。
ハルキはされるがままだ。
茉莉は、ハルキの裸の胸に顔をうずめ、手で触れながら、頬ずりをする。

「しなやかでキレイな肌。それにココ、すごくドキドキしてる」
ハルキは平静を装いながらも、高揚した鼓動が抑えられずにいた。
茉莉の髪から、首筋からとてもいい香りがする。
彼女の指の感触が、これからのことを妄想させて、甘い予感が疼きだす。
年下の都合のいいペットにされていると分かっていても、身体が心を欺く。


茉莉は、ハルキのその小さい乳首にキスをした。
舌先で転がすと、そこはすぐに固くなった。
「んっ…ん…」
ハルキは、そこから伝わる快感に、思わず声をもらした。
女性ほどではないが、そこから下半身へと快感が伝わるのだ。
ハルキの内から、抑えられない衝動が湧き起こってくる。

茉莉は、デニムのジッパーをおろす。
きつく押し込められていたハルキが、解放されて勢いを増す。
茉莉はそのコを取りだすと、握り締めながら、愛撫をはじめた。
細く華奢な指の感触が、敏感なそこに絡みつく。
「…ん。 はぅ…」
気持ちがどんどん昂ぶっていく。


ハルキはすっかり、火がついてしまい、茉莉の胸に手を伸ばす。
「だめよ。帰るんでしょ」
茉莉は、ハルキの手をサッとふり払う。
「ねぇ、おれのこと、こんなにしてさ。もう、帰れないでしょ」

ハルキは年上の女性に愛されることを覚えて、すっかりその快楽に溺れていた。
心では抗っても、身体が甘い誘惑に勝てない。
「じゃ、私のいうこと聞くのね。そのまま、じっとしてなさい」
「はい、はい。おねえさんの仰せのままに」

ハルキは、茉莉の機嫌を損ねなければ、最高の快楽を自分に与えてくれることを知っていた。
ハルキはされるがままに、茉莉の身をゆだねる。

茉莉は、ハルキのそこを口に含むと、丹念に愛撫しはじめた。
「ああ…、
すげぇ…、気持ちいい…」

舌先で敏感にもっとも感じる部分をなめられる。
「うんっ…、
あっ…、や、やべぇ…」

唇で包みながら、先端からあふれでた蜜を吸い上げる。
「ああっ。うっ…。 んっ…」



どうしようもなく感じてしまい、身体が勝手に反応する。
自分のその部分が、甘く疼いてしかたない。
押し寄せる快感に、立っているのさえ、つらくなる。
今までつきあってきた女の子で、
ここまで男の扱いを知りつくた女性はいなかったから。

女王様の命令にしたがって、ハルキは、欲望に身を任せた。




・・・・・・。

ハルキはベッドの中で、愛された余韻に浸っていた。
気だるくて甘い感覚が、まだ身体に残っている。

抱く、抱かれるという主導権がセックスにあるなら、
ハルキはあきらかに抱かれていた。
女の子が男に抱かれるのは、こんな感覚に近いのかなとハルキは漠然と考えていた。

男は時間をかけて女の子の快感を引きだすのに、男の快楽はあっという間だ。
大して好きでもない女に、
せっせと奉仕している自分がむなしくなることがあった。
マグロでもなりたってしまう女の子がちょっと羨ましい気もする。
だから、今、ハルキは茉莉にハマッているのかもしれない。

やんちゃな年頃だから、しかたない。
それは、男のDNAに刻まれた本能だから。
気持ちより、身体が先行する関係。



それにハルキは、茉莉にはパトロンの存在を感じていた。
このマンションもそうだが、経済的に援助をうけているなら、見返りがあるはず。
ハルキは、茉莉がどっかのオジサンに抱かれている姿を想像した。
自分にしてくれたようなことを強要されているのかもしれないし、
身をまかせて抱かれているのかもしれない。
自分のしなやかな肌が好きだというのは、
あきらかにサメ肌のオジサンと比較しているからだと思った。

でも、不思議と茉莉のパトロンに対して、嫉妬する気持ちは起こらなかった。
経済力以外に、オジサンが勝てるものはない。
それに茉莉とは、ペットと飼い主のような妙な従属関がなりたっていた。
茉莉が主導権を握る、都合のいい時に逢って、気持ちがいいだけの関係。

お互いに、束縛や嫉妬など、ドロドロし感情を持ち込まない。
そんな割り切った関係を望む茉莉に、
ハルキは深い感情を抱くこともないと思っていた。

デビュー前に冴香と別れてから、まともな恋愛をしたことがなかった。
正確には、する気にもなれなかった。
本気になって、もう、傷つくのは嫌だったのだ。

面倒な関係を嫌うハルキにとっても、
茉莉は、都合のいい相手だった。




ハルキがまどろんでいると、
茉莉はスッとベッドから起き上がり、キッチンに歩いて行く。
ハルキは茉莉の背中を不思議な想いで、見つめた。

スタジオや画面で見せる彼女と、ギャップがあまりにもあるからだ。
茉莉は、昼は淑女、夜は娼婦の典型のような人だ。

プロポーションもよく、整った顔立ちのいわゆる美人顔だ。
強いていえば、華がない代わりに、クセもない。
フツーの人を演じさせたら、文句なく素晴らしい演技をしている。
作品の世界にぴったり収まり、脇をしっかり固めてくれる存在だ。

そんな彼女が、夜になると妖艶に輝きだす。
どんな女優よりも、セクシーな表情や仕草をする。





キッチンからもどった茉莉は、スパークリングウォーターをハルキにさしだす。
「のど渇いたでしょ」
「サンキュー。今夜は優しいんだね」
「がんばったご褒美よ。なかなか、よかったわよ」
茉莉は、ハルキの頭をくしゃくしゃと撫でる。
こんなペット扱いでも、ハルキは心地よかった。
男としてほめられるのは、なんとなく嬉しいものだ。
ハルキは、ペリエを受け取ると、一気にのどに流し込む。
ハルキの火照った身体に、炭酸の冷たい刺激が浸みわたった。


「ねぇ、前から聞きたかったんだけどさ…」
ハルキは、自分に背を向けてベッドに腰掛けている茉莉に話しかけた。
「何?」
「おねえさん、すげぇ艶っぽいのに、普段はそんな欠片も見せないほど、
全然フツーの人じゃん? 
オーラを消してるっつーかさ。なんで?」
ハルキは日頃から抱いている疑問を、茉莉にぶつける。

「求められてないからよ。あなたのおねえさん役に、それはいらないでしょ」
「あの役はそうだけどさ。おれ、おねえさんの女王様キャラ、
嫌いじゃないからさ。もっと自分を出せばいいのに」
ハルキには、茉莉がもつ本来の魅力を押し殺しているように見えた。

「…だから、私はハルキとは立場が違うの。あなたは「AGE」のハルキを要求されるでしょ。でも、私に要求されているのは、主役を引きたて脇を固めるフツーの人よ」
茉莉は、めんどくさそうに言う。

ハルキは、その言葉を聞いて、改めて自分の立ち位置を思い知らされた。
役者ではなく、アイドル枠の出演だから、自分らしさが必要になる。
ファンもそれを目当てにして見ている。
ドラマの内容よりソコが重要なのだ。
そして、その「AGE」としての数字が欲しくて、テレビ局はキャスティングする。
自己を滅して役になりきる役者である必要はないと…。

「そうだよね…。おれは、アイドル枠だもんな」
ハルキは、自嘲した笑みを浮かべた。
茉莉は、クイッとハルキのアゴを持ち上げる。
「何、落ちてんのよ。事務所が力入れてくれているうちが華よ。
私も昔はちやほやされたけど、今は仕事があるだけでありがたいわよ。
この世界、オファーされなきゃ生きていけないでしょ」
芸能界の大先輩の言葉が、ハルキの心に響いていた。
彼女は3歳からこの世界にいる。芸歴25年の大ベテランだ。
ハルキは茉莉に惹かれている理由が、身体だけではないんだなと思った。
卓越した演技力があるのに脇に徹する姿勢や、芝居に対する考え方など。
彼女は、自分にいろんなことを教えてくれる。
セックスだけでなく、彼女と接するだけで役者としての何かを学んでいた。


「生き残るためには、必要とされる存在になることでしょ。
キャスティングのとき、この役は、コイツしかいないって思い出してもらえる存在にならないと。
その点、ハルキは第一ハードルはクリアだから、結果を出して次に繋げばいいでしょ」
「結果か…。どうしたらついてくんのかな…」
ずっと引きずっている課題を、目の前に突きつけられて、ハルキは苦笑い。
「答えは簡単には見つからないわよ。誰もが、探しているんだから」
茉莉は優しく、ハルキを抱きしめる。
「ハルキなら大丈夫よ。あなたは周りの空気が読めるから。
周りが自分に何を望んでいるかに気付くことじゃない。
私たちは、まわりに生かされて存在しているのよ」

茉莉の温もりが、言葉が、ハルキの心を癒してくれる。
『ハルキなら、大丈夫よ』その言葉は、本当の肉親から言われたような安心感があった。
行き場のない想いが、一瞬だけど、消えた気がした。


「どうしたの? おねえさん、今日はやけに優しいじゃん」
素直に感謝の気持ちが言えないハルキは、こう切りかえす。
「本当は、優しいのよ。わかってるくせに」
「ふっ…。なんでもお見通しだね」
ハルキは、甘えた笑みを浮かべた。
今のハルキにとって、茉莉は、身も心も甘えられる存在になっていたから。
守らなきゃいけない彼女としての存在ではなく、ただ、甘えさせてくれる存在。
茉莉は、ハルキの身体以外は、何も求めてはこなかったから。
弱みを隠すことも、自分を偽る必要も、かけひきもいらない。


だから、誰にも言えない心の想いも、茉莉には言えた。

「ねぇ……。おねえさんは、今のままでいいの?」
ハルキは、茉莉に本当に聞きたいことをきいた。
多くを望めば、大女優の道もあるだろうに、現状に甘んじている。
現実を突き付けられている先輩が、どういう道を選択したいのか知りたかった。

「私の役割って、おねえさんなんだと思う。
世の中にいる多くの女性を演じることに、今は満足しているのよ」
ハルキには、茉莉の言っている意味がわからなかった。
「どういう意味?」

茉莉は、日本の数多の女性たちが、名前ではなく、○○さんのママ、○○さんの奥さんと呼ばれている話をした。
自分のことを後回しにして、何よりも家族のために奔走している女性たち。
誰かに従属する生き方を幸せとしている多くの女性たちがいることを。
自己を主張するのではなく、脇を固めて誰かを輝かせる役も重要だと説明した。

「私はあなたと違って、主役にはなれない。この世界、芝居が上手な人なんて腐るほどいるのよ。
それだけじゃ、オファーされないってわかっているでしょ」
「そうだけどさ…」
「ハルキだって、私を『おねえさん』って呼ぶじゃない。そういう存在なんだと思う」
茉莉は以前から、その呼び方が気にかかっていた。
茉莉個人としてではなく、年上の女性なら誰でもいいというような総称されたイメージに聞こえる。

『!』
ハルキは、茉莉の言葉に驚いていた。
「おねえさん」は、撮影の現場でずっと「姉ちゃん」と呼んでいた名残だった。
実姉のいるハルキにとって、「姉ちゃん」と違って「おねえさん」は別な意味の呼称だった。
憧れをこめたキレイなおねえさん的な意味が含まれていた。
何気なく呼んでいた言葉が、彼女を傷つけていたなんて。

「おれ、そんなつもりで呼んでないよ。茉莉さんのこと」
「初めて、茉莉って呼んだわね。なんか照れるから、おねえさんでいいわよ」

茉莉は、ハルキと本気の恋愛ができるわけがないし、求めてもいなかった。
年下の男はやがて離れていくものだから、
深入りしないように茉莉自身、心にガードを張っていた。
そのため、女王様を演じて、ハルキにペットのような従属関係をつけた。
「本気にならない」それが茉莉にとっての選択だった。

「でもさ…」

「いいから、もう一回するわよ」
茉莉は、ハルキを押し倒す。

「マジで? 夜が明けちゃ…」

CHU
茉莉は有無を言わさず、唇で口封じする。

ハルキはされるがままに、また、快楽の淵に身を落とした。








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