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①ゾンビin中野富士見町 「エスニック料理を食らう!」1.

グルメなゾンビ ① ゾンビin中野富士見町・エスニック料理を食らう!
 
ゾンビが街を徘徊している?
いや、それは違う。
徘徊などしているわけではなく、あのゾンビはこれから店にご飯を食べに行くところなのだ。
 
今日、彼が降り立ったのは地下鉄丸ノ内線の中野富士見町。
文字通り中野区にある駅だ。
しかし、中野富士見町という地名は存在せず、駅があるのは中野区弥生町。
そして駅から出て少し歩くとすぐに杉並区に突入するのだが、
あのゾンビはどうやらその近辺で発生したらしい。

①ゾンビin中野富士見町 「エスニック料理を食らう!」2.

申し遅れたが、私はこのゾンビの生態を担当している桂島徹治(かつらしま てつじ)。
どうぞよろしく。
私はすごくスイーツが大好きで特にマンゴーロールなんて目がないわけで・・・
って・・・申し訳ない。
私の自己紹介はともかくとして・・・
 
このゾンビはなんというか、実に・・・
実に「食」に関しては敏感で貪欲というか。
 
それはもちろんゾンビであるから食べることには貪欲になるのは間違いない。
大半のゾンビは「食べる」という本能だけが残り、人間としての感情や理性などは完全に消え去り、人や家畜などを襲ってはそれをただ無心で貪るのみである。
多くの人がそう思っているであろうし、また実際にそうであろう。
 
しかし私が担当しているこのゾンビは違う。
 
そう・・・なんとも・・・実に・・・
グルメな野郎なのだ。

①ゾンビin中野富士見町 「エスニック料理を食らう!」3.

彼にはほどよく社会性も存在していると言える。
なぜならこの駅まで来るのにしっかりと電車を乗り継ぎ、さらに電車賃までちゃんと支払ってきている点である。
一体どこでお金を稼いでいるのか、担当の私でさえも謎だ。
もちろんお店で料理を食べたあとにもちゃんと代金は支払うのである。
生意気にもサービスが良かった店にはチップまで払う。
 
ふたつめに挙げるとすれば、ゾンビのくせに車を運転するという点。
ここも実に興味深い。
 
車を所有しているということは、駐車場を借り、届出を済まし、定期的に車両点検にも出して、毎回しっかりとガソリンスタンドで給油をしていると思われる。
車にはナンバープレートもちゃんと付けられていた。
自身で車を持っているとはなんたる生意気なゾンビだろうか。
 
なんでも運転するときはシートベルトを欠かさないそうだ。
本来もう死んでいるはずなのに、事故を起こして吹っ飛ぶのが嫌なのか、
それとも警察に違反切符を切られたくないからかはわからないが、
なんとも生真面目な奴ではないか。
 
いずれにせよこんなゾンビは今までに見たことがない。
ゾンビ自体が変異体ではあるが、その中でもさらに異種で希有な存在と言えよう。
 
とはいえ、たまに人を食べてしまいそうなときもあるようだが・・・

①ゾンビin中野富士見町 「エスニック料理を食らう!」4.

おっと、彼の行動を追っていかねば。
歩くのが遅いようで、ちょっと目を離すといつも見失ってしまう。
 
中野通りに出た彼は十貫坂上の方、つまり新中野駅の方面へと坂道を上がっていく。
 
じゃあ、最初から新中野の駅で降りればよかったんじゃ?
 
基本、丸ノ内線は荻窪~池袋間を走っている。
新中野はその路線内に入っているが、中野富士見町は入っていないので
中野坂上で方南町行きの電車に乗り換えなくてはいけないので若干めんどくさいのだ。
 
たまに乗り換えなしで直通で行けるときもあるので、それにでも乗ってきたのなら納得できる。
いずれにしても社会性が備わってるとはいえ、頭が若干腐ってきているゾンビなだけに行動は奇怪だ。
いや、このような行動をしているだけでも奇跡的と言える。
 
もうすぐで鍋横の商店街に入ろうかという辺りで彼は突如、右を向いたかと思うと素早く店の中へと消えていった。
ゾンビとは思えぬスピーディさだ。
よほど飢えていたのだろう。
よくここまで人間を襲わずに来たな、と関心さえする。

①ゾンビin中野富士見町 「エスニック料理を食らう!」5.

どうやらこの店はスパイシーな料理を提供する店のようだ。
エスニック系を売りにしている。
 
結構なイケメン店員が出てきてカウンター越しになにやらゾンビと話をしている。
 「う~、うう~」
うなっているだけだ。
そりゃそうだ、ゾンビは喋ることができない。
 
しかし、ここが摩訶不思議なところ。
 
前途した通り、彼は大変なグルメで色々なところに食べに出歩いている。
当然、注文をしなくてはいけないのだが、ただ「うー、うー」と唸っているだけで、
なぜか店員は涼しい顔でゾンビの注文を理解できてしまうのだ。
普通の客と同じように。
 
何かサイキックなパワーでも持ち合わせているのだろうか?
 
少し高さのあるバーチェアーのようなイスに座って優雅に外の景色を眺めるゾンビ。
薄っすら笑んでいるようにも見える。
 
 「よくここまで人間を食わずに来たな、オレ」ってところか。
 「間食は我慢しました」的な。
もっともそんな心の声を発しているかどうかは不明ではあるが。
 
しばらくすると・・・
 「お待たせいたしました!」


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