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夢日記

・琥珀色の夢

「どちらを選ぶ?どちらを選んでも正解だ。どちらを掴もうとも間違いに成りうるのだから。

鉾、絶対的な力、誰かを守るために迎え撃つ絶対的な力。他者を傷つけ他者を駆逐する感情の力。

盾、絶対的な守、誰かを守るために攻め入らせぬ絶対的な守。自己が傷つかぬよう他者を排除する理性の力。

どちらを選ぶ?どちらも貴方が望む物。どちらも貴方が排除したい物。どちらを掴んでも正解だ。どちらを選んでも間違いに成りうる。さあ選ぶのだ、夜明けなる夕暮れはすぐ其処まで来ている。さあ。」

言葉は暗闇に浮かび上がり一閃している様に思えた、暗闇は徐々に黒から濃紺に濃紺から紺へ紺から青へと光を取り戻して行った一閃の言葉は繰り返した。

「どちらを選ぶ?夕暮れの夜明けに向かっている。」

言葉は焦るように私に尋ねた。私は目を閉じ光を取り戻しつつある世界から自己を遠くへ置いた。言葉は更に焦った様に私に尋ねて来た。

「どちらを選ぶのだ?決めなければ私はここに存在する理由と事実が無くなってしまうではないか!」

私は言葉の焦る様をまるで遠くで起きて居る事象の様に、それで居てその現実が事実では無いかの様に、目を細め徐々に光を取り戻す世界に漂い横たわって居た。

 

・僕

けたたましく鳴る目覚まし時計は窓から射した光で一つの安価な絵画の様に見えた。けたたましく鳴る目覚ましを止め私は寝床から出た。いつも通りの朝が来たのだ。朝の支度を整えながら私は今朝方見た夢を思い返してみた。

相変わらず変な夢を見た。そもそも夢は脳を休ませるために断続的な現実的映像で記憶の整理をしている生理現象だと云うのに私は相変わらず私にすら理解できない夢を引きづって居る。オカルト的な物によれば過去の自己、時空間の自己、生と死の合間だとか諸々の説がある。それでいて私は私の見る夢を引き連れてしまうのはオカルト的要素を心のどこかで信じて居る様にも考えられた。まるで子供のころに異世界や多次元世界や神や悪魔、幻想動物や妖精や小人、今になっては特別信じるに値しない何かが何処かに存在すると思う気持ちにも近いのだ。ある日、目覚めたら別世界の別人に成って居たとか、今居る現実と呼んでいる世界が実は幻想なる夢の世界で私は私であると云う現実を見ないように夢の中で現実の自分を演じ続けているだとか。そんな空想を肥大化させ結局、いつも通りの日常を消化していくのである。会社に行き、仕事をし、食事をして、仕事をして、帰宅し、食事をして、眠りにつく其れだけを飽きもせず繰り返している。ルイスキャロルのお話に出てくる時計を持ったウサギは私の前には現れはしない。そう通常や普通や現実がいつも通りの日常を運んでくる。現実的に細部の細部まで見れば現実も全く同じ事を繰り返して居る訳ではないが、私はただただ私の生活の全体像を眺めた時に其れが如何に退屈で下らない事だと思ってしまうのだった。

一度、そんな話をした事があったが失笑された記憶がある。友人の一人にそんな話をした時、まるでマスコミが騒ぎたて居る終末論を聴くように好奇な話しとして聴いてくれたが、それは決して私の求める物では無かった。そうこの話に答え等要らなくどんな対応をされても満たされる事は無く、誰かに話しをする事では無いのだとその時に思ったのだった。それから私は相変わらず現実と云う自己を正常で普通と云った仮面で覆い人前では「普通」を一生懸命演じるのであった。

 

・彼

早く決めて貰わないと僕は僕で居られなくなる。僕は僕の中の他の僕の囁きが徐々に大きく成り、一定の大きさに成った時に消えてしまう、そんな言葉に弄ばれて居た。空想の世界では確定されない現実が幻覚の様に広がっているのだから。この声に従おうとも従わなくとも僕は僕で無くなってしまうだろう。それでも僕は僕で居る間に僕が出来うる全てをしなければいけないと思うのだ。夢を見る彼は僕であり僕は現実と空想を分ける僕は紛れも無く、彼の幻想空想の僕なのだ。彼は現実で夢を見るように、僕は空想の世界で現実を見る。彼が決めなければいけないのは彼自身。そしてそれは僕を決める事でもある。そう此処と其処が違うように僕も彼も想像が出来ない何処かへ行く事になってしまう。それでいて僕は此処が本当に空想と現実を分ける場所なのかも解っていないのだから。

 

・誰か

「こんなに可笑しな話はないですね。彼らは同じ何かを見るように全く別の何かを見ているようですね。」

男は鏡を覗き込みながら笑みを浮かべ、一頻鏡を見終わると鏡横にある椅子に腰かけ含み笑いで言葉を続けた。

「彼らの世界を捻じ曲げれば彼らを自己として認識出来なくなってしまうだろうに。さてどのタイミングで捻じ曲げよう。」

男は親指を顎に人差し指を口に付け何やら考え込んで居た。

 

・僕

 今日も日が落ちて行く。今日が終わりを告げようとしている。今日を生きる現実の今日の私は今日死を迎え、また明日、私は明日の私として生れるのだ。それを繰り返し行う事で今日の私が居る。本当の本物の死が来た時にそのサイクルが終わりを告げるのだろう。眠るまでの時間はいつもと同じ時間を潰す作業に成っている。今日見る夢は一体どんな夢だろう。相変わらず変わらない何の変哲も無い世界に身を置き普通を偽り其れを脳が現実を捻じ曲げる事で私は通常では無い夢の世界に身を置く其れが曲解して今日の私をより可笑しく作り上げて行く。私は私を作り上げる神の様に不敵に笑みを零していた。

 

・彼

 彼は今日もこの世界に来る。彼が彼で有る事を僕が彼に教えなければ僕も彼も自己を失った儘になってしまう。僕は彼を彼は僕を失った儘。そうなる事で僕らは永遠に彼を知る事も無く彼ら僕を知る事が無くなってしまう。そもそも「僕」は誰?「彼」は誰?同一する自己で有る気もしたが、それはこの幻想が作り上げた空虚な偽りなのかも知れない。出来うる事をしなければ。そう自分に言い聞かせなければ。僕は僕を偽って居る?僕は僕の出来うる事を

 

・誰か

 男は椅子の前に置かれた時計を見て言葉を発した。

「さて、時間が来ましたね。私も行く事にしましょう。彼らが見て居る何も無い世界が現実であり幻想であり全てが有る無の世界で有る事を。」

 男は椅子から立ち上がりゆっくりと鏡の中に入って行ったのだった。

 

・夢

私は誰?

僕は誰?

私は誰でしょう?

誰も言葉を発する事無く歪んだ世界に漂っていた。其処には私だけが居たのだった。此処は何処?現実から見た幻想、空想?幻想、空想から見た現実?それとも幻想の中の空想、空想が作り上げた幻覚?此処は何処でしょう?僕は彼。彼は僕。違う、僕でも彼でも無い。歪んだ空間は無限を感じさせた。無限は無限に広がり、それで居て限定した空間を作り上げて居た。

「誰か教えてくれ」

言葉が勝手に漏れた。

「教える誰か何て居ないじゃないですか。」

勝手に口が動き言葉を発していた。

「僕じゃない」

「私ですよ」

「私じゃない」

独り言が誰かと話すように勝手に続く気配を見せた。しかし其れから私は口を閉ざした私は私で有り私で無くなった事実を受け止めようとして居たが其れを現実として受け止める事が出来なかったのだった。

「現実じゃないですよ。そして、幻覚でも無いですね。」

また勝手に言葉を吐いて居た。

「一体、なんなんだ!」

「あ、あそこに、」

私じゃない私は指を指した。指した先には鉾と盾が漂っていた。

「どちらか選ばなきゃ」

私はまた勝手に言葉を発していた。身体は漂いながらも鉾と盾に近づいて居た。鉾と盾に近づきたいと願えば願うほどに近づく速度は上がって居た。鉾と盾の前に来て私はどちらかを手にしなければいけないと直感が頭を過ったのだった。私は鉾と盾を凝視した。

「鉾、絶対的な力、誰かを守るために迎え撃つ絶対的な力。他者を傷つけ他者を駆逐する感情の力。盾、絶対的な守、誰かを守るために攻め入らせぬ絶対的な守。自己が傷つかぬよう他者を排除する理性の力。」

私の口はまた勝手に物話して居た。

「知っているから黙って居てくれない?」私は私の中の私以外の者に私の口で私の言葉で言ったのだった。

目の前には鉾と盾が漂い揺れて居た。どちらを手にすれば?

「両方とも手にしてみたら良いじゃないですか?」

また勝手に言葉を吐いて居た。

「五月蠅い」

私は私に向かって言葉吐いた。怒りの感情に任せて言葉を吐いたつもりが顔は悪意のある笑顔をしていた。私はどうなってしまったのだ。手で顔を覆い私は私の中で勝手に話す私が何者なのかを探していた。決して解る事は無いと解って居たが顔を手が覆っている間、飽きる事無く思考の探索を止めなかった。どれだけ時間を使い諦めを覚えたのか解らなくなっていた。無限に続く歪んだ世界は相変わらず無限で限定した世界だった。鉾と盾はまだ其処に漂っていた。私は鉾と盾を見すえ手を伸ばした瞬間、鉾と盾は目の前から消え、歪んだ世界は輪郭を取り戻し始めた様に思われた。宙に浮く身体は下へ下へと私をゆっくり下ろした歪んだ世界の輪郭は初めから其処には無かったのだ。

 

気が付くと私は何も無い真っ白な空間に一人立っていたのだった。

目覚める事も無く、此処が、今居るこの場が、そして自分が何者かでは無く、この場を如何様にも色彩付けられると理解して。


この本の内容は以上です。


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