目次
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人間関係図 1
人間関係図 2
人間関係図 3
珠と恋
とある少女の思い出話
とある少女の思い出話 1
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とある少女の思い出話 3
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とある少女の思い出話 5
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とある少女の思い出話 9
とある少女の思い出話 10
とある少女の思い出話 11
とある少女の思い出話 12
とある少女の思い出話 13
しすたーずぷらすわん
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しすたーずぷらすわん 2
しすたーずぷらすわん 3
しすたーずぷらすわん 4
しすたーずぷらすわん 5
しすたーずぷらすわん 6
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しすたーずぷらすわん 11
しすたーずぷらすわん 12
しすたーずぷらすわん 13
しすたーずぷらすわん 14
しすたーずぷらすわん 15
しすたーずぷらすわん 16
しすたーずぷらすわん 17
しすたーずぷらすわん 18
しすたーずぷらすわん 19
しすたーずぷらすわん 20
しすたーずぷらすわん 21
幕間 とある少女の水揚
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幕間 とある少女の水揚 4
幕間 とある少女の水揚 5
幕間 とある少女の水揚 6
鶴崎踊り真話 前編
鶴崎踊り真話 前編 1
鶴崎踊り真話 前編 2
鶴崎踊り真話 前編 3
鶴崎踊り真話 前編 4
鶴崎踊り真話 前編 5
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鶴崎踊り真話 前編 8
鶴崎踊り真話 前編 9
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鶴崎踊り真話 前編 11
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鶴崎踊り真話 前編 13
鶴崎踊り真話 前編 14
鶴崎踊り真話 前編 15
鶴崎踊り真話 前編 16
鶴崎踊り真話 前編 17
鶴崎踊り真話 前編 18
鶴崎踊り真話 前編 19
鶴崎踊り真話 前編 20
鶴崎踊り真話 後編
鶴崎踊り真話 後編 1
鶴崎踊り真話 後編 2
鶴崎踊り真話 後編 3
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鶴崎踊り真話 後編 5
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鶴崎踊り真話 後編 7
鶴崎踊り真話 後編 8
鶴崎踊り真話 後編 9
鶴崎踊り真話 後編 10
鶴崎踊り真話 後編 11
鶴崎踊り真話 後編 12
鶴崎踊り真話 後編 13
鶴崎踊り真話 後編 14
鶴崎踊り真話 後編 15
鶴崎踊り真話 後編 16
鶴崎踊り真話 後編 17
鶴崎踊り真話 後編 18
鶴崎踊り真話 後編 19
鶴崎踊り真話 後編 20
鶴崎踊り真話 後編 21
鶴崎踊り真話 後編 22
鶴崎踊り真話 後編 23
鶴崎踊り真話 後編 24
鶴崎踊り真話 後編 25
鶴崎踊り真話 後編 26
秋月の忠臣と吉岡老の授業
秋月の忠臣と吉岡老の授業 1
秋月の忠臣と吉岡老の授業 2
秋月の忠臣と吉岡老の授業 3
秋月の忠臣と吉岡老の授業 4
秋月の忠臣と吉岡老の授業 5
秋月の忠臣と吉岡老の授業 6
秋月の忠臣と吉岡老の授業 7
秋月の忠臣と吉岡老の授業 8
秋月の忠臣と吉岡老の授業 9
秋月の忠臣と吉岡老の授業 10
秋月の忠臣に吉岡老の授業 11
秋月の忠臣に吉岡老の授業 12
秋月の忠臣に吉岡老の授業 13
別府大茶会
別府大茶会 1
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別府大茶会 4
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鶴崎踊り真話 前編 1

鶴崎踊り真話 前編

 

 来ない。

 まぁ、分かっていたけど。

 生理が来ない。

 すっぱいものが食べたくなる。

 妙に眠たいし気だるい。

 胸が何だか張ったような気がする。

 妊娠の初期症状である。

 妊娠が確定した以上、今度はそれをネタにした権力闘争が勃発する訳で。

 南予侵攻の論功行賞が終わった後に来るビックイベント、加判衆の交代と毛利侵攻を闇に葬るという三文芝居にさらに演出が加わる事がこれで確定した訳だ。

 府内城の広間で行われた加判衆の評定のメンバーと序列は以下のとおり。

 

大友義鎮   大友家当主。

 

戸次鑑連  大友義鎮の陣代として大友軍を率いる。

臼杵鑑速  博多奉行として大友の外交を担当。

吉弘鑑理  大友家の武闘派で国東半島の旗頭。

志賀親守  豊後南部北志賀家当主で豊後の内政を担当。

田北鑑重  玖珠郡の旗頭兼筑前方分として臼杵鑑速の補佐。

一万田親実 伊予方分として南予および一条領の管理と宇都宮家の取次。

大友珠   大友義鎮の娘。

        右筆ゆえ発言権はないが、大友義鎮の加判を管理。

        実質的加判衆として発言権が与えられる。

角隈石宗  軍師兼大友義鎮の相談役。

        義鎮が訪ねた時のみ答え、加判衆ではなく発言権もなし。

 

 一万田親実は南予の領地管理があるから、こうして加判衆評定に毎回顔を出すのはちょっと無理がある。

 それゆえに、豊後一万田領を管理する一万田鑑実が印判で代理出席する事で話がついている。

 ついでとばかりに、一万田親実の件を使って命令の迅速化も取り決めていたり。

 大領地かつ遠距離まで広がる大友家ゆえ命令は書類で発行されるので、加判衆全員の加判を待っていたら動きが遅くなる。


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鶴崎踊り真話 前編 2

 で、まず誰も反対が出ない形で、『全員の加判があるもの』と『加判衆の過半数の加判がある物』と『加判衆の二人と大名の加判がある物』で効力が出るように取り決めを。

 大名だけの加判で効力が発揮できないのは、大友家が国人衆の神輿に担がれた守護大名だからで、大名が絶対命令権を持っていない事の裏返しでもある。

 そして、これらの命令書は借発行という形にして、後日必ず大名と加判衆全員の加判もしくは印判をつけるようにする事も決められた。

 今回の評定の議題は、南予侵攻での後始末、収支決算というか銭の話である。

 南蛮船のレンタル料金に、商業船の徴用による経済活動への悪影響、功績に伴う褒賞の授与。

 更に南予統治の費用と殖産の予算策定。

 ……本当に銭、銭、銭。

 本来商用船までの徴集までは考えていなかったのだけど、宇都宮への河野侵攻と長宗我部の一条侵攻でそんな事も言っていられず。

 豊後についてはほぼ総力戦状態に。

 論功行賞も無事に片付きいた後、私は田北鑑重に頼んで銭絡みの一つの提案をしてもらう。

「門司を町衆の自治都市にするだと?」

 声をあげたのは博多奉行兼筑前方分でもある臼杵鑑速。

 その問いかけに田北鑑重は重々しい顔で、私が言ったままに説明を続ける。

「はっ。

 こたびの戦、得たものは大きいのですが、少々銭を使い過ぎました。

 姫様のお告げにより金山が見つかったはいいが、採掘に少し手間と銭がかかるのも事実。

 博多の商人どもに銭を出させる為にも必要かと」

 南予進攻の支払いの為に出した私のへそくりその一である鯛生金山の事だ。

「宇佐八幡のお告げよ」

の一言で、香春の金堀衆に調査させて採掘を開始。

 その金をもって一時的な支出を賄う事に。

 秀吉が天下を統一した時に鉱山を直轄下に置き、秀吉の監視地ができるのと同義語だったのでいやだったのだが、朝鮮出兵で九州各地に蔵入地を作っている事を思い出して予定を変更。

 秀吉が統一するまでに掘りつくしてやるという心意気。

 考えてみると、筑豊の炭田も秀吉直轄下に置かれるんだろうなぁ。

 コークスの技術が広がったら輸出できるしね。あれ。

 で、その採掘費用を捻出する為に、門司を博多と同じ町衆の運営に任せようと。

 既に毛利は彦島に砦を築き、赤間関に市が立つほど栄えている。

 門司は先の戦で焼かれたが、町衆に任せれば赤間関と同じぐらい栄える事ができるだろう。

 これが、私のヘソクリその二『門司中立化構想』。


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鶴崎踊り真話 前編 3

 正確には門司だけでなく、企救半島全てとその中にある城砦まで町衆に任せる、日本最大の自治都市建設構想である。

 既に島井茂勝を通じて商人達には根回しをしており、右筆として私が差し出した企救半島全てを含んだ巨大な町の絵図面に皆度肝を抜かれる。

「この図にある通り、企救半島全てを町衆に任せる事で人口三万を超える博多と同じぐらい栄える港町になるでしょう」

 そのからくりはこうだ。

 門司の価値は瀬戸内海へ繋がるという一点に集約されている。

 博多の富の源泉である南蛮交易や大陸交易で影響力が強いのは、我が大友である。

 ところが、それを一大消費地である畿内に運ぶ為には瀬戸内海に入らねばならない。

 そして、瀬戸内海は毛利水軍の影響力が強く、結果として海運関係はほとんどが毛利側の赤間関に流れているのが現状だったりする。

 で、それを嫌った私が日本海交易に力を入れて、結果、若狭商人と繋がった事を堺商人は快く思っていない。

 その代替策として府内から土佐経由の太平洋航路を作ったが、南伊予侵攻で長宗我部が敵に回り一時頓挫。

 更に、太平洋航路は難破の危険が瀬戸内海より高く、堺商人が瀬戸内海航路を渇望していたのも事実だった。

 私もこの状況に瀬戸内海の無視ができなくなったので、ならばと高く売りつける事にしたのである。

「銭は博多と堺の町衆が出し、博多から門司までは松浦水軍が、門司から堺までの荷の運行は村上水軍が責任を持つとの事。

 運営は町衆の自治に任せ、大友も毛利も門司に兵を出さない事を約定させます」

「姫。

 村上水軍は信用できるのですか?」

 そう私に問いかけたのは志賀親守。

 いや、元案私だけど、提案者田北鑑重なんだからそっちに振れよ。

 ちゃんと答えられる様に、彼に懇々と説明したのだから。

「娘よ。

 こんな愉快な案を、あの生真面目な田北鑑重が出せるわけが無いのは分かっているから、自らの口で説明しろ。

 それぐらいの権限は与えたはずだぞ」

 父上。

 右筆というのは加判衆には入っていないので……ああ、皆の顔色、誰もがそう思っていないよ。


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鶴崎踊り真話 前編 4

 というか、田北鑑重。あんた説明しなくて済んだと安堵の顔を浮かべるんじゃねぇ!!

 あれだけ言ったのに理解できなかったな!!!

 こんちくしょう。

 やればいいんでしょ!やれば!!

 ため息一つ吐いて、私は口を開く。

「この場合、信用できないから、信用できるのです」

「なんですか?

 それは??」

 志賀親守が分からないと声をあげる。

 見ると、私以外全員分かっていないらしい。

「我々は、村上水軍を信用していない。

 それと同じぐらい、毛利も村上水軍を信用していないでしょうね」

「あ!?」

 その一言に皆も私が言わんとした事に気づく。

「戦場では、有能な敵より無能な味方に足を引っ張られる事の方が多いわ。

 さて、大友よりの博多商人の金をたらふく吸い込んだ村上水軍が、絶対の忠誠を誓えると毛利は考えるのかしら?

 とても楽しみだわ」

 いい笑顔で私は言い捨てる。

 この門司中立化構想は、対毛利戦における私の切り札と言っていいほど、十重二十重に仕掛けを施している。

「門司を町衆に任せる事に、軍事的には三つの利点があります。

 毛利が門司を攻めたら博多・堺の商人と村上水軍を怒らせる事が一つ。

 これはさっき話したわね」

 一同の顔を見渡して、今度は白紙の豊前・筑前の地図を取り出す。

 墨で門司の位置を黒く塗った後で、矢印を二つ書いて私は続きを口にする。

「二つ目は門司を攻めなかった場合、彼らの九州侵攻路が一つに限定される事です。

 以前は門司を基点に、博多を攻めるか豊前を南下するかで、我々は振り回されてきました。

 ですが、門司を候補からはずす場合、新たな上陸地を探さねばなりません」

 そのまま、私は地図に博多を書き込む。

「毛利の最終目標は博多の掌握です。

 よって、瀬戸内海側の豊前松山城侵攻はありえません。

 ここを毛利側の拠点とした場合、豊後からの応援が二日で宇佐に入る。


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鶴崎踊り真話 前編 5


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鶴崎踊り真話 前編 6

 我々の松山城攻撃は一週間もかからないでしょう。

 その短期間で博多を制圧するのは無理です」

 そして、今度は地図に芦屋を書き込む。

「毛利の強みであり、九州侵攻の前提条件は毛利が大友より水軍力で圧倒している事です。

 そして、宗像家は大友より毛利の力の強い家。

 ですから、海路で大友の拠点より遠い芦屋を上陸地に選ぶでしょう。

 芦屋から博多にかけて、このあたりで合戦が行われる事になります。

 その時、立花家がどちらにつくかは私にもわかりかねますが」

 話しながら、博多から芦屋にかけての範囲を指でぐるりと囲む。

「そして、最後ですがこれはこの合戦に勝った後の話になります。

 毛利が博多を奪う戦となれば総力をあげて兵を出してくるでしょう。

 現在攻めている尼子を滅ぼせば、毛利の勢力は安芸・周防・長門・備中・備後・因幡・伯耆・出雲・石見と九カ国に及び、九州に上がる兵数は四万と見積もっています」

「よ、四万……」

 その数に衝撃を受ける一同だが、いくらかからくりがあるのは黙っておく。

 動員だけでみたらこの国々で十万を越えるが、その全てを投入できるほどの兵給をさすがの毛利も持っていない。

 おまけに、因幡・伯耆は尼子包囲の過程で諜略されたので置くとして、備中を治める三村氏と美作・備前を治める浦上氏が既に対立関係にある。

 そして、私がたらふく太らせた事で水軍がある隠岐はまだ毛利影響下に落ちていない。

「この四万、我らが合戦で勝てば全て九州の土に変えられます。

 落ちのびる場合、いかな毛利水軍といえども四万全てを一度に運ぶのは不可能。

 彼らが夜盗化するのを避ける為にも門司は必要なのです。

 門司についたら逃げられるという希望の為に」

「それを見越して、落人狩りの兵を置くという事ですな」

 声を出したのは戸次鑑連。

 口調に完全な理解が見てとれるゆえに、声が少し震えていた。

 それは、周防長門の毛利領侵攻をまったく逆さまにした、毛利軍包囲殲滅戦の構想。

 現状での毛利領侵攻は馬鹿げているが、それを潰すためには代案が必要だったのだ。

 経済的理由と軍事的理由が混在した私の渾身の策ゆえ、私も口調強く言い切った。

「はい。

 彼らを生かして帰すつもりはありません」  

 その決意に満ちた私の声に一同押し黙る。

 私の妊娠は既に耳に入っていたのだろう。


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鶴崎踊り真話 前編 7

 一番の非戦派と目されていた私が出してきた、毛利殲滅戦構想の派手さとエグさにしばらく誰も声を出そうとはしなかった。

 仕方がないので、私は場を取り繕うように口を開く。

「もちろん、経済的にも利があります。

 博多―門司―府内間の海路が安定化され、瀬戸内海航路にて堺と繋がる事は我が大友に莫大な富をもたらすでしょう。

 既に筑前・豊前・豊後の街道整備も進み、物の流れが商人の行き来を早め、民は豊かさを享受し、大友の名前は偉大なものとなるでしょう」

 商人たちは今や完全に私の味方だ。

 私が次々と銭の種を用意したからだ。

 砲の運搬を考えて馬の品種改良にも手を出す為に、奥州馬は遠いので朝鮮半島から大陸馬を輸入したり。

 木綿栽培と養蚕業に力を入れて着物の商品開発を指示。

大友女に着せる事でブランドの確立を目指したり。

 茶道関連から肥前松浦水軍を使って磁器開発を始め、朝鮮から職人を呼び寄せ、茶葉も大事な輸出品だから、八女茶も大々的に生産を開始したり。

 判子による本の生産と同時に始めたのが、本を読み聞かせる事による娯楽の提供。

 引退した遊女達の第二の雇用先として府内や博多で運用し、同時に民衆の声を拾ってもらう耳として活躍してもらったり。

 この為、銭払いも凄い。

 南予侵攻とは別に、対毛利戦前提に豊後・豊前・筑前でかなりのインフラ整備を進めたからだ。

 大砲による防衛戦を前提にする為に駅館川と山国川、遠賀川に石の沈み橋をかける。

 これも香春の石灰石と、阿蘇の火山灰をコークスで焼いたセメントもどきがあるからこそなんだけど筑前・筑後・肥後の街道の整備も開始。

 いずれは、筑後川にも沈み橋を作る事になるんだろうけど、これに新田開発までやるからもう笑うしかないぐらいに銭が飛ぶ。

 鯛生金山で支払いを確保し、門司中立化構想で商人達に銭を吐き出させるのはこれらの大規模インフラ投資の為である。

 私は頭を垂れて父上および加判衆の一同に締めの言葉を述べる。

「毛利が攻めてこなければ我らは莫大な富を手にし、攻めてきたら蟻地獄の罠に落としこむ為の門司の自治都市化です。

 どうか御裁可を」


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鶴崎踊り真話 前編 8

 あと、秀吉が天下統一時に栄えている府内や別府を直轄地にしないように、生贄の街として門司を差し出すつもりでもあるのだが、この場では関係がないので黙っておく。

 頭を下げたまま内心ではそんなことを考えていた私に誰も異を唱える者はおらず、同時に門司中立化構想の採択によって、毛利領進攻は完全に葬られることになる。

 

 

「子供ができたか」

「はい。

 四郎の子です」

 評定の後に茶室に呼ばれた私は、畿内土産の松島の茶壷を眺めつつ茶を父に差し出した。

 できちゃった報告はしないといけないなとは思っていたけど、先に呼ばれたのは良かったのか悪かったのか。

 この時、私も父もきっと相手を殺すぐらいの覚悟でこの茶室に居たんだろうなと思ったり。

 小さな茶室で互いに武器など持たないがゆえに、その意思をいやでも感じた父と娘の話はこんな感じで始まった。

「南予の戦、ご苦労だった」

「いえ、父上の用意していただいた角隈石宗殿が、長宗我部との和議を整えていただいたお陰でございます」

 互いに互いの顔を見ていない。

 ああ、こういう時に茶器を眺める訳か。

「で、お前は毛利とどうしたい訳だ?」

 確信に触れる父の言葉に、私は意を決して口を開いた。

「毛利元就とは戦の約束があります。

 彼が老衰で死ぬか、私が父上に殺されるかで終わる戦の」

 少しの沈黙の後、父は妙に穏やかな声で呟いた。

「なるほど。

 先の加判衆の評定は、その下準備か」

 

 かこーん。

 

 ししおどしの音と共に、我に帰る。

 父上も私も、茶室に入ってから目をまだ合わせてもいない。 

「わしは、お前が毛利と和議を進めると思っておった。

 ついに四郎にたぶらかされたと思ってな」

 う……それを言われると……


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鶴崎踊り真話 前編 9

 最近閨では四郎主導が多くなってきたし、珠姫丸の後で首輪プレイを気に入っちゃって。私が。

 しっかりたぶらかされてはいるんだが、それはそれ。これはこれで。

「生憎、私は父母の温情によってここまで育てられてきました。

 その恩義を裏切るつもりはございませぬ」

 その一言で父の顔が歪む。

「甘いな。

 そこで、男を取って父母を殺すと言えばわしも安心できるのだがな。

 おまえは、戦国の世で生きるには少し優しすぎる」

「……自覚はあります」

 そうなのだ。

 自覚はあるのだ。

 だが、それは平和というものを知っていた人間なら誰でも思うと信じたい。

 目の前にある死体、疑心暗鬼に落ちる人々、殺伐とした戦国の世でそれを力足らずとも救済できる地位に私が居る。

 手を差し出すのが当然ではないか。

 けど……

「一つ、南予の戦で変わった事が」

「何だ?

 言ってみろ」

 顔に浮かんでいるだろう。

 自嘲の笑みと共に私はそれを吐き出す。

「最近、人を人と思わなくなりつつある私が居ます。

 敵、もしくは数字と割り切っている私がいるのです。

 父上や養母上、親しき人達はまだ人として見れるのですが」

 そうなのだ。

 先に出した毛利殲滅戦ですら、死ぬべき毛利兵四万を数字としてとらえた。

 その四万の人間の命、彼らにかかわる家族や恋人を無視して。

 殺らなければ、殺られる。

 そんなこの時代の空気に私も染まってきている。

「はははははははは……

 良いではないか!」

 突然響く笑い声に、私はこの茶室に来て初めて父の顔を見る。

 その笑みは歓喜に歪んでいた。


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鶴崎踊り真話 前編 10

「大いに結構!

 そうでなければ、戦国の世にて家を残す事などできぬわ!

 娘よ。

 この世全てを呪い、人を人として見なくなれ。

 修羅にならねば、この大友、いやお前がまだ人として見ている者すら守る事はできぬぞ。

 お前が修羅になるのならば、この父、喜んでお前に討たれてくれようぞ!」

 その父の言葉に、私は何も返す事なく茶室を後にするしかできなかった。

 

 

「戸次鑑連。

 来ているか?」

「ここに」

 珠が出て行った後も、大友義鎮は茶室で笑い続けていた。

 その笑いが収まった後に、戸の側に控えていた戸次鑑連に声をかける。

「あれは、いい具合に育ちつつあるらしい。

 戸次鑑連。

 あれが、お前から見て大友に不要ならば切り捨てよ。

 わしが許す」

「お屋形様!」

 諫言を陳べようとした戸次鑑連を押し留めて、大友義鎮はまた笑い出す。

「そして、わしがお前から見て大友に不要ならば切り捨てよ。

 わしが許す」

 大友義鎮の笑いは止まらない。

「どうせ、今の大友はわしが親殺し、弟殺し、血の海の果てに作り上げたものよ。

 それがわしの代で滅ぶのならばそれも良かろう。

 華麗に滅びればいいのだ!

 わはははははは……」

 戸次鑑連にできる事は、ただ無言のまま平伏する事だけであった……

 

 

 府内 戸次鑑連館  数日後

 

「……そうか。

 お屋形様はそんな事を仰ったか……」


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鶴崎踊り真話 前編 11

 大友義鎮の命を受けた加判衆である戸次鑑連の報告に、ため息をついたのは大友家軍師である角隈石宗。

 戸次鑑連にとって角隈石宗は軍学の師にあたり、互いの立場もあり大友家の難局をこうして話し合ってきた仲でもある。

「姫もあの後、四郎様すら入れず奥に篭ったきりです。

 出てきても上の空で、またすぐに奥に戻り、私や麟様や四郎様も入れてもらえませぬ」

 戸次鑑連から一部始終を聞いた娘の政千代は、珠の元気の無い行動の理由が分かったと同時に、大友義鎮が珠につきつけた非常な命に顔を強張らせる。

 壷神山での珠の告白「父殺し」が、こんなに早く突きつけられるとは思っていなかったのだ。

 それゆえ、その打開策も考えられず、珠が父殺しに動いた時の覚悟もまだできておらず、何の力にもなれない自分を恨んだ。

「相変わらず、あれは餓鬼のままじゃのぉ。

 図体ばかり大きくなって、孫までできるというのに可愛いものじゃ」

 一人笑みを浮かべて笑うのは、麟の旦那吉岡鎮興の父親である吉岡長増。

 引退したので気楽に言ってのけるのだろうが、大友家百四十万石の現当主を小僧呼ばわりできるのも、実際、大友義鎮がまだ小僧の頃から仕えていた彼ぐらいのものだろう。

 と、同時に彼には大友二階崩れ以後、大友義鎮に代わって内乱で揺れる大友家を謀にて一本化させた謀略家としての側面もある。

 その見識は常に正しく、大友二階崩れによって父である大友義鑑が凶刃に倒れた後は、大友義鎮の父代わりとして彼を支えて諌め続けていた事もあって、最も彼を知る者として戸次鑑連が拝み倒して来てもらったのだった。

「吉岡様。

 可愛いなんて仰らないでくださいませ。

 下手すればまた二階崩れが起こるというのに……」

「起したいのであろうよ。あれは。

 それなくば、大友を背負う事はできぬと。

 あれなりの愛情表現よ。

 不器用で愛いやつではないか」

 吉岡長増は笑って政千代に諭すが、彼自身、いや戸次鑑連も角隈石宗も、その二階崩れとその後の内乱鎮圧に東奔西走した仲だったりする。

 そんな三人が共通していたのは、誰一人として珠姫を小娘と侮っていない事だった。

 大友義鎮と珠姫が争えば、かつて豊後を震撼させた小原鑑元の乱以上の規模になり、豊前・筑前、最悪毛利の介入まで含めた西国十数カ国の大乱になる可能性を孕んでいた。

 だからこそ、三人はこの場に集まった時点で暗黙の内に、この第二の二階崩れ阻止で合意していたのである。


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鶴崎踊り真話 前編 12

 そんな男達の機微を政千代は分からないから、ただ頬を膨らませて拗ねるばかり。

「角隈殿。

 何か策はありますかな?」

 吉岡長増は角隈石宗に振り、角隈石宗は顎に手を乗せて考える。

「さて。

 生半可な手では殿が納得せぬし、かといって姫にも自重を求めるとなれば中々手が見つからぬの」

 三人とも大友義鎮の闇の深さを知っているし、政千代も珠姫の闇が深いという事を三人に伝えていた。

 それでも大友義鎮を闇から救えるのは珠姫しかいないだろうと三人は考えていた。

 政千代はそんな父娘を諭すというのはかなりというか、もの凄く難しいと思えたのだが。

「乱を起こさせぬ為にはいくつかせねばならぬ事がある。

 まずは同紋衆の警戒を解く事」

 角隈石宗が指を折ると戸次鑑連が声を続ける。

「それはそれがしと加判衆に任せていただきたい」

 戸次鑑連の真剣な評定に安心したのか、軽く笑みを浮かべた角隈石宗が次の指を折った。

「次は他紋衆に自重を求める事」

「わしが動こう。

 今は隠居の身ゆえ、気軽に動ける。

 佐田殿に田原殿、佐伯殿に繋ぎをつけておく」

 吉岡長増は事もなげに言ってのけるが、それができるだけの人脈と連絡手段を持っている事が大友家の長老として鎮座していた証である。

「後は、お屋形様と姫様の闇を取り払う事よ。

 その為にはどうしても比売様の力がいる」

 角隈石宗が折った最後の指には政千代が頷いた。

「既に姫様は宇佐に使いを出しており、いずれ比売様は杉乃井にお越しになるかと。

 麟様と共にお力になりたいと思っております」

 緊張の色を隠そうともせずに告げる政千代の顔に力強さより若さを感じてしまう三人だが、それゆえに手を貸すことを即座に目で確認する。

「そういえば、姫様がわしや田北殿を招きたいとか言っていたな」

 まぁ、有能で元気なじじいである吉岡長増を隠居生活なんぞに追い込ませるかと、右筆の書類仕事が激増した珠姫の執念というか、意地悪というか、色々なものが混じった配慮の結果だったりする。


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鶴崎踊り真話 前編 13

 何しろ色狂いより書物狂いの方が長い珠姫がかき集めた図書館なるものが杉乃井にはあるし、姫巫女衆をはじめとして遊女達は基本読み書き算盤を叩き込まれるので、若い衆が下心みえみえとはいえ、読み書きできねば女すら口説けぬという事態に。

 で、決定打になったのが、先ごろ府内城で起こった珠姫大立ち回りの大騒動。

 南予遠征の論功行賞で一歩下がった田原親賢の陰口を珠姫が聞いた事が発端である。

「ふん!

 奴など槍働きより、算盤ぐらいしかできぬではないか!

 領地などもらえぬのは当然!

 茶器すら渡すのも勿体無いわ!!」

 聞いた瞬間珠姫がぷっちーんとキレて、影口叩いた若武者の襟首掴んでかっくんかっくん揺さぶっての大説教。

「算盤を馬鹿にするなぁぁぁぁっ!!

 あんたが戦場で白いお飯食べられるのは、誰のおかげだと思っている!

 矢や火薬を運んでくれるのは、誰のおかげだと思っている!!

 討ち取った首を功績に数えて、供養するのは誰だと思っている!!!

 槍働きができずに算盤を馬鹿にするなら、まず私を馬鹿にしなさいよっ!!!!!」

 事を聞きつけた政千代達が止めるわ、府内城詰めの侍が駆けつけるわという大騒動に。

 で、この影口叩いた若武者ってのが秋月騒乱で功績をあげた小野鎮幸(おの しげゆき)。

 珠姫が我を忘れて説教していたので、我に返ってやっと気づいたというていたらく。

「この度は、姫様に無礼を働いた事、慙愧に耐えぬ所存。

 本来なら、切腹を申し付ける所でござるが、この侍、姫様もご存知のとおり実に豪勇無敵の士であります。

 彼に城を預ければ、いかなる敵であっても落とされると言う事はございませぬ。

 真に武夫の本領を得た者であり、何卒寛大な処置をお願いしたく……」

 彼の上司になる戸次鑑連が彼を連れて珠姫に詫びを入れる事態となり、彼は読み書き算盤を覚える事を約束させられたという。

「小野鎮幸の件もあるし、わしと田北で別府に出向くか」

 苦笑する吉岡長増だが、田北鑑生と共に学問と武芸を教えている姿を珠姫がこっそりと『老後の楽しみ学校』と呼んでいたりするのを政千代から聞く事になるのは少し後の話。

 

 かくして、三人の男達は父娘の殺し合いを止める為に奔走する事になる。


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鶴崎踊り真話 前編 14

別府 杉乃井御殿 本殿 数日後

 

 ある日のこと。

 珍しく若衆の方以外の方が私をご指名されまして。

 きちんと晴れ着を着て部屋に入ったのですが、見たところ好々爺、という言葉が一番しっくりくるようなご老人でした。

「ほほ、主が恋かの?

 確かに若衆が入れ込むのも判るくらい、姫によう似ておるわ」

 部屋に入った私を見るなり、そう言われました。

 もう姫様に似ていると言われる事にも慣れましたし、若衆の方々が私を姫様に見立ててこの身体を求めて来る事も自覚しています。

 しかし、今日のお客様は。

 失礼だとは思いますが、もうそこまで元気があるようにはとても見えなくて。

「ああ、わしの事ならそう気に掛けんでもよいぞ。

 主の身体が目当てで来た訳ではないからのぉ」

「は、はあ……」

「まあ、自己紹介からじゃの。

 わしは吉岡長増、見ての通りの隠居じゃよ。

 今日来たのは最近若衆に人気の遊女を一目見ておきたくての」

 吉岡様はそう言うとからからと笑い。

 突然表情を引き締めると私の顔を正面から見据えられました。

「ふむ。

 中々にいい目をしておるの。

 それが判っただけでも良しとするか。

 して、恋。主は茶は点てられるかな?」

「あ、はい。

 少々お待ち下さいませ。

 すぐに用意を致します」

 由良姉さんから一通り茶道も習っていますし、この部屋には茶器も一式揃っています。

 急いで湯を沸かし、作法通りにお茶を点てて。

「……どうぞ」

「ふむふむ、基本に忠実じゃな。

 筋も悪くない。

 とがった所はないが、その分安心して飲める茶になっておるわい」


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鶴崎踊り真話 前編 15

 ゆっくりと私の点てたお茶を飲み、満足げに笑っておられます。

 なんとかご不興を買わずに済みました。

 これも由良姉さんから徹底的に仕込まれたおかげです。

「さて、恋よ。

 主にひとつ頼みがある」

「あ、はい。

 なんでございましょう?」

「なーに、お主の茶を教えてやって欲しいのじゃよ。

 なんせ武芸は仕込まれておってもこちら方面はとんと苦手な女子がおるでの。

 無論、主の空いている時間で構わぬ」

「……私に出来る事でしたら」

 この時は吉岡様の言っている意味がよく判りませんでした。

 この日、吉岡様はお茶や和歌を楽しみ、満足げに笑いながらお帰りなさいました。

 ……後日吉岡様と一緒に私の部屋へ参られた方々に、私は絶句する事になるのですけれど。

 戸次政千代様、宇都宮家の八重姫様、九重姫様。

 吉岡様に連れられて私の部屋へ参られたのは、私などとは身分も何もかもが違う3人の姫様方。

 このような方に私のような遊女が何かを教えるなど、恐れ多い事でございまして。

 その旨を吉岡様に伝えて辞退しようとしたのですが、私のその態度に3人の姫様方が固まっておられます。

 吉岡様もそのような姫様方を見て、笑いを堪えておられます。

 なぜこのような事になったかというと、先ごろ加判衆を退かれた吉岡様と田北様のお二人が、珠姫様の招きによってここに来る若衆に武芸を教える事になりまして。

 彼らの勉学に励む姿を見て姫様方も負けじと励もうと。

 一通りの学と武芸は修めている姫様方ですが、交渉や商いの場になりつつある茶席での振舞いは知らず、吉岡様にお伺いを立てた結果、珠姫様の了解を得て私に白羽の矢が立ったとの事。

 結局、その日から時折私の部屋で姫様方と共にお茶を点て。

 気づけば点てたお茶を飲みながら、吉岡様から軍略のお話をお聞きするようになり。

 自然と姫様方だけでなく私も軍略を習うようになりました。

 どんな内容であれ、知らぬものを知る、というのは楽しいものです。

 そして共に吉岡様の話を聞く姫様方も、私と立場を超えたお付き合いをして下さいまして。

 由良姉さん以外で初めて出来た、その、このような言い方はとても不敬であるかもしれないのですが。

 私にとって大切な友人となったのです。 


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鶴崎踊り真話 前編 16

 吉岡様と共にやってくる田北鑑生様は武芸が中心で、こちらは杉乃井御殿の中庭が臨時の修練場に。

 この時も私が一緒に行くことになっておりまして、万が一の為に薬箱を用意して吉岡様と一緒に修練を見学する事に。

 私も簡単な手当や包帯の巻き方は由良姉さんから習ってはいるのですが、本当に使うようになるとは思いませんでした。

「やあっ!」

「とりゃあっ!」

 木刀がぶつかる激しい音が響き。

 一人の手から跳ね飛ばされた木刀がカラン、と地面に落ちて。

「勝者、元鎮殿!

 双方、礼ッ!」

 吉岡様、田北様それぞれのお稽古に四郎様が来ておられるからなのです。

 おそらく珠姫様が身ごもった為だと思いますが、この間の府内城より珠姫様と四郎様のまぐわいがなくなったとか。

 それで四郎様に手空きの時間が増えたそうで、その時間をこの杉乃井御殿での修練に当てているのだそうです。

 吉岡様にお聞きしたところ「珠姫様にいつまでも頼って欲しい」と頑張っておられるとの事。

 ほんの僅かでも私もその中に入れれば良いな……と思ってしまうのは我儘だと自覚してはいるのですが。

 いつの間にか姫巫女衆が控えていたと思ったら、四郎様を見る為に珠姫様が参られました。

 突然の珠姫様来訪に若衆の方々も緊張しているようで。

「あー、四郎の稽古姿見にきただけだから、私の事は気にしなくていいわよ」

 ……他の方は眼中にないと言わんばかりの物言いに、若衆方の肩が一斉に落ちました。

 珠姫様はまだ正式に結婚されている訳ではないので、皆様良い所を見せようと思ったのでしょう。

 きっと珠姫様の事ですから、若衆の方々へあえて先手を打ったのだと思います。

 そして田北様と並んで座る私の隣へ腰を下ろし、面白そうに稽古を眺め。

「……それにしてもここにいる連中、みんな恋を抱いてるんじゃないの?」

「!?」

 突然私だけに聞こえるようにそう言われました。

 実際、ここに来られる方は大抵一度は私の元へお客様としてお越し頂いている訳でして。

 事実は事実なのですが、はっきりそう指摘されるとさすがに恥ずかしく。

 きっと今の私は顔が真っ赤になっていると思います……。


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鶴崎踊り真話 前編 17

「ははーん、やっぱりねぇ。

 最近こっちに来る連中が増えたのはそのせいね。

 まあ、理由はどうあれ勉強するのは悪いことじゃないからね」

 私の顔を見ながらうんうんと頷き、何か得心した様子の珠姫様。

「姫様」

 楽しそうに笑っていた珠姫様の顔が、いつの間にか近づいていた姫巫女衆が耳元で何か囁くとみるみる厳しいものに変わってゆきます。

「とりあえず連れてきて」

「かしこまりました」

 その目にはもう若衆だけでなく、四郎様すら映っていないのでしょう。

 これがこの遊郭の主であり、大大名大友家の姫君という一面。

 それをまざまざと見せつけられた私は何も声をかける事もできず、ただ時が過ぎるのを神仏に祈る事しかできませんでした。

 どれぐらいの時が経ったでしょうか。

 そんなに長くはないはずなのに、ものすごく長く感じた時間が終わったのは、私の目にもとある一人の巫女が姫巫女衆に連れられてやってくるのが見えたからでした。

 歳は由良姉さんぐらいでしょうか。

 顔かたちとも姫様によく似て、きっと姫様がお年をめすとこうなるのだろうなと思わせる美貌の持ち主でした。

 そして、珠姫様よりこの巫女の正体が告げられます。

「お待ちしておりました。母上様」

 その瞬間、水面に投げられた石が波紋を広げるように、姫巫女衆に若衆、田北様や吉岡様に驚愕が広がってゆきます。

 そんな私たちの驚きなど気にする事なく、母上様と呼ばれた巫女様が楽しそうな顔で口を開きました。

「娘も元気そうでなにより。

 積もる話は部屋でするとしましょう。

 隣の部屋をお借りしますよ」

「あ、はい」

 娘、という言葉でようやくこの方が珠姫様の母君様である事に気付きました。

 何度か比売御前というお名前はお聞きしていたのですが。

 私の控え室へ入って行く比売御前と珠姫様を見送りながら、ふとそんな疑問が頭を過ったのでした。



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