目次
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人間関係図 1
人間関係図 2
人間関係図 3
珠と恋
とある少女の思い出話
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とある少女の思い出話 9
とある少女の思い出話 10
とある少女の思い出話 11
とある少女の思い出話 12
とある少女の思い出話 13
しすたーずぷらすわん
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しすたーずぷらすわん 19
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幕間 とある少女の水揚
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幕間 とある少女の水揚 5
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鶴崎踊り真話 前編
鶴崎踊り真話 前編 1
鶴崎踊り真話 前編 2
鶴崎踊り真話 前編 3
鶴崎踊り真話 前編 4
鶴崎踊り真話 前編 5
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鶴崎踊り真話 前編 8
鶴崎踊り真話 前編 9
鶴崎踊り真話 前編 10
鶴崎踊り真話 前編 11
鶴崎踊り真話 前編 12
鶴崎踊り真話 前編 13
鶴崎踊り真話 前編 14
鶴崎踊り真話 前編 15
鶴崎踊り真話 前編 16
鶴崎踊り真話 前編 17
鶴崎踊り真話 前編 18
鶴崎踊り真話 前編 19
鶴崎踊り真話 前編 20
鶴崎踊り真話 後編
鶴崎踊り真話 後編 1
鶴崎踊り真話 後編 2
鶴崎踊り真話 後編 3
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鶴崎踊り真話 後編 7
鶴崎踊り真話 後編 8
鶴崎踊り真話 後編 9
鶴崎踊り真話 後編 10
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鶴崎踊り真話 後編 12
鶴崎踊り真話 後編 13
鶴崎踊り真話 後編 14
鶴崎踊り真話 後編 15
鶴崎踊り真話 後編 16
鶴崎踊り真話 後編 17
鶴崎踊り真話 後編 18
鶴崎踊り真話 後編 19
鶴崎踊り真話 後編 20
鶴崎踊り真話 後編 21
鶴崎踊り真話 後編 22
鶴崎踊り真話 後編 23
鶴崎踊り真話 後編 24
鶴崎踊り真話 後編 25
鶴崎踊り真話 後編 26
秋月の忠臣と吉岡老の授業
秋月の忠臣と吉岡老の授業 1
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秋月の忠臣と吉岡老の授業 9
秋月の忠臣と吉岡老の授業 10
秋月の忠臣に吉岡老の授業 11
秋月の忠臣に吉岡老の授業 12
秋月の忠臣に吉岡老の授業 13
別府大茶会
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鶴崎踊り真話 前編 1

鶴崎踊り真話 前編

 

 来ない。

 まぁ、分かっていたけど。

 生理が来ない。

 すっぱいものが食べたくなる。

 妙に眠たいし気だるい。

 胸が何だか張ったような気がする。

 妊娠の初期症状である。

 妊娠が確定した以上、今度はそれをネタにした権力闘争が勃発する訳で。

 南予侵攻の論功行賞が終わった後に来るビックイベント、加判衆の交代と毛利侵攻を闇に葬るという三文芝居にさらに演出が加わる事がこれで確定した訳だ。

 府内城の広間で行われた加判衆の評定のメンバーと序列は以下のとおり。

 

大友義鎮   大友家当主。

 

戸次鑑連  大友義鎮の陣代として大友軍を率いる。

臼杵鑑速  博多奉行として大友の外交を担当。

吉弘鑑理  大友家の武闘派で国東半島の旗頭。

志賀親守  豊後南部北志賀家当主で豊後の内政を担当。

田北鑑重  玖珠郡の旗頭兼筑前方分として臼杵鑑速の補佐。

一万田親実 伊予方分として南予および一条領の管理と宇都宮家の取次。

大友珠   大友義鎮の娘。

        右筆ゆえ発言権はないが、大友義鎮の加判を管理。

        実質的加判衆として発言権が与えられる。

角隈石宗  軍師兼大友義鎮の相談役。

        義鎮が訪ねた時のみ答え、加判衆ではなく発言権もなし。

 

 一万田親実は南予の領地管理があるから、こうして加判衆評定に毎回顔を出すのはちょっと無理がある。

 それゆえに、豊後一万田領を管理する一万田鑑実が印判で代理出席する事で話がついている。

 ついでとばかりに、一万田親実の件を使って命令の迅速化も取り決めていたり。

 大領地かつ遠距離まで広がる大友家ゆえ命令は書類で発行されるので、加判衆全員の加判を待っていたら動きが遅くなる。


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鶴崎踊り真話 前編 2

 で、まず誰も反対が出ない形で、『全員の加判があるもの』と『加判衆の過半数の加判がある物』と『加判衆の二人と大名の加判がある物』で効力が出るように取り決めを。

 大名だけの加判で効力が発揮できないのは、大友家が国人衆の神輿に担がれた守護大名だからで、大名が絶対命令権を持っていない事の裏返しでもある。

 そして、これらの命令書は借発行という形にして、後日必ず大名と加判衆全員の加判もしくは印判をつけるようにする事も決められた。

 今回の評定の議題は、南予侵攻での後始末、収支決算というか銭の話である。

 南蛮船のレンタル料金に、商業船の徴用による経済活動への悪影響、功績に伴う褒賞の授与。

 更に南予統治の費用と殖産の予算策定。

 ……本当に銭、銭、銭。

 本来商用船までの徴集までは考えていなかったのだけど、宇都宮への河野侵攻と長宗我部の一条侵攻でそんな事も言っていられず。

 豊後についてはほぼ総力戦状態に。

 論功行賞も無事に片付きいた後、私は田北鑑重に頼んで銭絡みの一つの提案をしてもらう。

「門司を町衆の自治都市にするだと?」

 声をあげたのは博多奉行兼筑前方分でもある臼杵鑑速。

 その問いかけに田北鑑重は重々しい顔で、私が言ったままに説明を続ける。

「はっ。

 こたびの戦、得たものは大きいのですが、少々銭を使い過ぎました。

 姫様のお告げにより金山が見つかったはいいが、採掘に少し手間と銭がかかるのも事実。

 博多の商人どもに銭を出させる為にも必要かと」

 南予進攻の支払いの為に出した私のへそくりその一である鯛生金山の事だ。

「宇佐八幡のお告げよ」

の一言で、香春の金堀衆に調査させて採掘を開始。

 その金をもって一時的な支出を賄う事に。

 秀吉が天下を統一した時に鉱山を直轄下に置き、秀吉の監視地ができるのと同義語だったのでいやだったのだが、朝鮮出兵で九州各地に蔵入地を作っている事を思い出して予定を変更。

 秀吉が統一するまでに掘りつくしてやるという心意気。

 考えてみると、筑豊の炭田も秀吉直轄下に置かれるんだろうなぁ。

 コークスの技術が広がったら輸出できるしね。あれ。

 で、その採掘費用を捻出する為に、門司を博多と同じ町衆の運営に任せようと。

 既に毛利は彦島に砦を築き、赤間関に市が立つほど栄えている。

 門司は先の戦で焼かれたが、町衆に任せれば赤間関と同じぐらい栄える事ができるだろう。

 これが、私のヘソクリその二『門司中立化構想』。


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鶴崎踊り真話 前編 3

 正確には門司だけでなく、企救半島全てとその中にある城砦まで町衆に任せる、日本最大の自治都市建設構想である。

 既に島井茂勝を通じて商人達には根回しをしており、右筆として私が差し出した企救半島全てを含んだ巨大な町の絵図面に皆度肝を抜かれる。

「この図にある通り、企救半島全てを町衆に任せる事で人口三万を超える博多と同じぐらい栄える港町になるでしょう」

 そのからくりはこうだ。

 門司の価値は瀬戸内海へ繋がるという一点に集約されている。

 博多の富の源泉である南蛮交易や大陸交易で影響力が強いのは、我が大友である。

 ところが、それを一大消費地である畿内に運ぶ為には瀬戸内海に入らねばならない。

 そして、瀬戸内海は毛利水軍の影響力が強く、結果として海運関係はほとんどが毛利側の赤間関に流れているのが現状だったりする。

 で、それを嫌った私が日本海交易に力を入れて、結果、若狭商人と繋がった事を堺商人は快く思っていない。

 その代替策として府内から土佐経由の太平洋航路を作ったが、南伊予侵攻で長宗我部が敵に回り一時頓挫。

 更に、太平洋航路は難破の危険が瀬戸内海より高く、堺商人が瀬戸内海航路を渇望していたのも事実だった。

 私もこの状況に瀬戸内海の無視ができなくなったので、ならばと高く売りつける事にしたのである。

「銭は博多と堺の町衆が出し、博多から門司までは松浦水軍が、門司から堺までの荷の運行は村上水軍が責任を持つとの事。

 運営は町衆の自治に任せ、大友も毛利も門司に兵を出さない事を約定させます」

「姫。

 村上水軍は信用できるのですか?」

 そう私に問いかけたのは志賀親守。

 いや、元案私だけど、提案者田北鑑重なんだからそっちに振れよ。

 ちゃんと答えられる様に、彼に懇々と説明したのだから。

「娘よ。

 こんな愉快な案を、あの生真面目な田北鑑重が出せるわけが無いのは分かっているから、自らの口で説明しろ。

 それぐらいの権限は与えたはずだぞ」

 父上。

 右筆というのは加判衆には入っていないので……ああ、皆の顔色、誰もがそう思っていないよ。


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鶴崎踊り真話 前編 4

 というか、田北鑑重。あんた説明しなくて済んだと安堵の顔を浮かべるんじゃねぇ!!

 あれだけ言ったのに理解できなかったな!!!

 こんちくしょう。

 やればいいんでしょ!やれば!!

 ため息一つ吐いて、私は口を開く。

「この場合、信用できないから、信用できるのです」

「なんですか?

 それは??」

 志賀親守が分からないと声をあげる。

 見ると、私以外全員分かっていないらしい。

「我々は、村上水軍を信用していない。

 それと同じぐらい、毛利も村上水軍を信用していないでしょうね」

「あ!?」

 その一言に皆も私が言わんとした事に気づく。

「戦場では、有能な敵より無能な味方に足を引っ張られる事の方が多いわ。

 さて、大友よりの博多商人の金をたらふく吸い込んだ村上水軍が、絶対の忠誠を誓えると毛利は考えるのかしら?

 とても楽しみだわ」

 いい笑顔で私は言い捨てる。

 この門司中立化構想は、対毛利戦における私の切り札と言っていいほど、十重二十重に仕掛けを施している。

「門司を町衆に任せる事に、軍事的には三つの利点があります。

 毛利が門司を攻めたら博多・堺の商人と村上水軍を怒らせる事が一つ。

 これはさっき話したわね」

 一同の顔を見渡して、今度は白紙の豊前・筑前の地図を取り出す。

 墨で門司の位置を黒く塗った後で、矢印を二つ書いて私は続きを口にする。

「二つ目は門司を攻めなかった場合、彼らの九州侵攻路が一つに限定される事です。

 以前は門司を基点に、博多を攻めるか豊前を南下するかで、我々は振り回されてきました。

 ですが、門司を候補からはずす場合、新たな上陸地を探さねばなりません」

 そのまま、私は地図に博多を書き込む。

「毛利の最終目標は博多の掌握です。

 よって、瀬戸内海側の豊前松山城侵攻はありえません。

 ここを毛利側の拠点とした場合、豊後からの応援が二日で宇佐に入る。


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鶴崎踊り真話 前編 5


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鶴崎踊り真話 前編 6

 我々の松山城攻撃は一週間もかからないでしょう。

 その短期間で博多を制圧するのは無理です」

 そして、今度は地図に芦屋を書き込む。

「毛利の強みであり、九州侵攻の前提条件は毛利が大友より水軍力で圧倒している事です。

 そして、宗像家は大友より毛利の力の強い家。

 ですから、海路で大友の拠点より遠い芦屋を上陸地に選ぶでしょう。

 芦屋から博多にかけて、このあたりで合戦が行われる事になります。

 その時、立花家がどちらにつくかは私にもわかりかねますが」

 話しながら、博多から芦屋にかけての範囲を指でぐるりと囲む。

「そして、最後ですがこれはこの合戦に勝った後の話になります。

 毛利が博多を奪う戦となれば総力をあげて兵を出してくるでしょう。

 現在攻めている尼子を滅ぼせば、毛利の勢力は安芸・周防・長門・備中・備後・因幡・伯耆・出雲・石見と九カ国に及び、九州に上がる兵数は四万と見積もっています」

「よ、四万……」

 その数に衝撃を受ける一同だが、いくらかからくりがあるのは黙っておく。

 動員だけでみたらこの国々で十万を越えるが、その全てを投入できるほどの兵給をさすがの毛利も持っていない。

 おまけに、因幡・伯耆は尼子包囲の過程で諜略されたので置くとして、備中を治める三村氏と美作・備前を治める浦上氏が既に対立関係にある。

 そして、私がたらふく太らせた事で水軍がある隠岐はまだ毛利影響下に落ちていない。

「この四万、我らが合戦で勝てば全て九州の土に変えられます。

 落ちのびる場合、いかな毛利水軍といえども四万全てを一度に運ぶのは不可能。

 彼らが夜盗化するのを避ける為にも門司は必要なのです。

 門司についたら逃げられるという希望の為に」

「それを見越して、落人狩りの兵を置くという事ですな」

 声を出したのは戸次鑑連。

 口調に完全な理解が見てとれるゆえに、声が少し震えていた。

 それは、周防長門の毛利領侵攻をまったく逆さまにした、毛利軍包囲殲滅戦の構想。

 現状での毛利領侵攻は馬鹿げているが、それを潰すためには代案が必要だったのだ。

 経済的理由と軍事的理由が混在した私の渾身の策ゆえ、私も口調強く言い切った。

「はい。

 彼らを生かして帰すつもりはありません」  

 その決意に満ちた私の声に一同押し黙る。

 私の妊娠は既に耳に入っていたのだろう。


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鶴崎踊り真話 前編 7

 一番の非戦派と目されていた私が出してきた、毛利殲滅戦構想の派手さとエグさにしばらく誰も声を出そうとはしなかった。

 仕方がないので、私は場を取り繕うように口を開く。

「もちろん、経済的にも利があります。

 博多―門司―府内間の海路が安定化され、瀬戸内海航路にて堺と繋がる事は我が大友に莫大な富をもたらすでしょう。

 既に筑前・豊前・豊後の街道整備も進み、物の流れが商人の行き来を早め、民は豊かさを享受し、大友の名前は偉大なものとなるでしょう」

 商人たちは今や完全に私の味方だ。

 私が次々と銭の種を用意したからだ。

 砲の運搬を考えて馬の品種改良にも手を出す為に、奥州馬は遠いので朝鮮半島から大陸馬を輸入したり。

 木綿栽培と養蚕業に力を入れて着物の商品開発を指示。

大友女に着せる事でブランドの確立を目指したり。

 茶道関連から肥前松浦水軍を使って磁器開発を始め、朝鮮から職人を呼び寄せ、茶葉も大事な輸出品だから、八女茶も大々的に生産を開始したり。

 判子による本の生産と同時に始めたのが、本を読み聞かせる事による娯楽の提供。

 引退した遊女達の第二の雇用先として府内や博多で運用し、同時に民衆の声を拾ってもらう耳として活躍してもらったり。

 この為、銭払いも凄い。

 南予侵攻とは別に、対毛利戦前提に豊後・豊前・筑前でかなりのインフラ整備を進めたからだ。

 大砲による防衛戦を前提にする為に駅館川と山国川、遠賀川に石の沈み橋をかける。

 これも香春の石灰石と、阿蘇の火山灰をコークスで焼いたセメントもどきがあるからこそなんだけど筑前・筑後・肥後の街道の整備も開始。

 いずれは、筑後川にも沈み橋を作る事になるんだろうけど、これに新田開発までやるからもう笑うしかないぐらいに銭が飛ぶ。

 鯛生金山で支払いを確保し、門司中立化構想で商人達に銭を吐き出させるのはこれらの大規模インフラ投資の為である。

 私は頭を垂れて父上および加判衆の一同に締めの言葉を述べる。

「毛利が攻めてこなければ我らは莫大な富を手にし、攻めてきたら蟻地獄の罠に落としこむ為の門司の自治都市化です。

 どうか御裁可を」


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鶴崎踊り真話 前編 8

 あと、秀吉が天下統一時に栄えている府内や別府を直轄地にしないように、生贄の街として門司を差し出すつもりでもあるのだが、この場では関係がないので黙っておく。

 頭を下げたまま内心ではそんなことを考えていた私に誰も異を唱える者はおらず、同時に門司中立化構想の採択によって、毛利領進攻は完全に葬られることになる。

 

 

「子供ができたか」

「はい。

 四郎の子です」

 評定の後に茶室に呼ばれた私は、畿内土産の松島の茶壷を眺めつつ茶を父に差し出した。

 できちゃった報告はしないといけないなとは思っていたけど、先に呼ばれたのは良かったのか悪かったのか。

 この時、私も父もきっと相手を殺すぐらいの覚悟でこの茶室に居たんだろうなと思ったり。

 小さな茶室で互いに武器など持たないがゆえに、その意思をいやでも感じた父と娘の話はこんな感じで始まった。

「南予の戦、ご苦労だった」

「いえ、父上の用意していただいた角隈石宗殿が、長宗我部との和議を整えていただいたお陰でございます」

 互いに互いの顔を見ていない。

 ああ、こういう時に茶器を眺める訳か。

「で、お前は毛利とどうしたい訳だ?」

 確信に触れる父の言葉に、私は意を決して口を開いた。

「毛利元就とは戦の約束があります。

 彼が老衰で死ぬか、私が父上に殺されるかで終わる戦の」

 少しの沈黙の後、父は妙に穏やかな声で呟いた。

「なるほど。

 先の加判衆の評定は、その下準備か」

 

 かこーん。

 

 ししおどしの音と共に、我に帰る。

 父上も私も、茶室に入ってから目をまだ合わせてもいない。 

「わしは、お前が毛利と和議を進めると思っておった。

 ついに四郎にたぶらかされたと思ってな」

 う……それを言われると……


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鶴崎踊り真話 前編 9

 最近閨では四郎主導が多くなってきたし、珠姫丸の後で首輪プレイを気に入っちゃって。私が。

 しっかりたぶらかされてはいるんだが、それはそれ。これはこれで。

「生憎、私は父母の温情によってここまで育てられてきました。

 その恩義を裏切るつもりはございませぬ」

 その一言で父の顔が歪む。

「甘いな。

 そこで、男を取って父母を殺すと言えばわしも安心できるのだがな。

 おまえは、戦国の世で生きるには少し優しすぎる」

「……自覚はあります」

 そうなのだ。

 自覚はあるのだ。

 だが、それは平和というものを知っていた人間なら誰でも思うと信じたい。

 目の前にある死体、疑心暗鬼に落ちる人々、殺伐とした戦国の世でそれを力足らずとも救済できる地位に私が居る。

 手を差し出すのが当然ではないか。

 けど……

「一つ、南予の戦で変わった事が」

「何だ?

 言ってみろ」

 顔に浮かんでいるだろう。

 自嘲の笑みと共に私はそれを吐き出す。

「最近、人を人と思わなくなりつつある私が居ます。

 敵、もしくは数字と割り切っている私がいるのです。

 父上や養母上、親しき人達はまだ人として見れるのですが」

 そうなのだ。

 先に出した毛利殲滅戦ですら、死ぬべき毛利兵四万を数字としてとらえた。

 その四万の人間の命、彼らにかかわる家族や恋人を無視して。

 殺らなければ、殺られる。

 そんなこの時代の空気に私も染まってきている。

「はははははははは……

 良いではないか!」

 突然響く笑い声に、私はこの茶室に来て初めて父の顔を見る。

 その笑みは歓喜に歪んでいた。



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