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初仕事

 

すぐにでも始まると思っていたデコトラ暮らしがその気配すら見せない中、カカシ商運の一員にも成り切れない"小鳥"が相変わらず朝から自販機横に突っ立っていると、

「 おまんはぁ、なぁにをやってるでぇ 」

この日珍しく事務所にいた"大蛇"が近付いて来た。

「 いや、何もしてません 」

正直に答えた"小鳥"に、

「 毎日そうしてるだかぁ?」

"大蛇"は呆れた様な驚いた様な表情を見せ、

「 はぁ・・」

"小鳥"は自分でも情けなくなって目を伏せた。

すると"大蛇"は、

「 今"兄貴(赤鬼)"がおまんの仕事探してるからなぁ、もぉちっと待ってろぉ 」

と言い、

「 えっ?は、はい 」

ほったらかしにされているとばかり思い込んでいた"小鳥"は、

( ちゃんと探してくれていたんだ・・)

嬉しい驚きを覚えた。

「 まぁでも、それまでの間は色々と覚えとけぇ、おぃっ"キツネ"!」

"大蛇"に呼ばれて現れたのはあのツナギを着た男。

( この人は"キツネ"っていうのか・・)

ここでその名を知る事に。

自己紹介はすでに済ませていたものの、

「 "小鳥"と言います、よろしくお願いします 」

と言った時、このツナギの男は、

「 おぅ、よろしく・・」

と言っただけだった。
 
「 コイツになぁ、色々と教えてやれぇ 」

と"大蛇"から言われ、

「 はい・・」

と返事をする"キツネ"。

「 お願いします 」

"小鳥"は大きな声を出して頭を下げた。

"キツネ"は特に反応も示さず作業場に向かって歩き出す。この機を逃す訳にはいかない。

" スタスタスタ・・ "
 
"小鳥"がそれを追い掛ける。脳裏には入園式の時の幼い記憶が蘇る。

小さな椅子が並ぶその中で、ガヤつく同年に対して溶け込めず、心細くてどうしようも無い中でただただ泣きじゃくっていた"小鳥"は、後ろを振り向いては必死に母親の姿を探していた。そして後ろに並ぶ保護者達からようやくその姿を見つけた時、

( お母さん、泣いてる・・)

ハンカチを目頭に当てながらボロボロと涙を流している母親の姿は強烈で、"小鳥"は瞬間的に涙を止めていた。

( こんな俺を見たら母さんはやっぱり泣いちまうな・・)

黙々と車両の整備をする"キツネ"に張り付いた"小鳥"は、わからない事は尋ねながら、その作業を何となくも手伝った。

不思議な程早くやって来た夕方。

「 "小鳥"~、ちょっと来いや 」 

"大蛇"に呼ばれる。

「 あのなぁ、そこの道を行くと裏山に抜けるからな、"セル"を散歩させて来い!」

「 は、はい 」

"セル"とは敷地で飼われているハスキー犬の名前である。

事務所からの視線に照れながら、"セル"に首輪を着けて敷地を出る。
 
手綱を引いたり引かれたりしながらの山中で、

( 今日はなんて良い日なんだ・・)

その心情はまるで変わっていた。

この日を境にして、"小鳥"の存在はようやくカカシ商運に組み入れられる様になった。

"キツネ"が出社すると、

「 おはようございます 」

「 おぉ・・」

特に指示が無い中で"キツネ"に張り付き、そして夕方には、

「 おぅ、そろそろ行ってこぉ~」

"キツネ"から合図が掛かると、

「 はい 」

"セル"の散歩に行く。

"小鳥"がこの役割を自分のものにした事でカカシ商運の男達も会話をしてくれる様になり、"小鳥"にとってカカシ商運は徐々に居心地の悪い所では無くなって行った。そして、そのきっかけをくれた"大蛇"には並々ならぬ感謝の気持ちを抱く様になった訳である。
 
 

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キツネと小鳥

 

事務所で座談をするのが専らだった非番の男達とは対照的に、"キツネ"は一日中外にいて、敷地では車の整備や修理、少し離れた解体場では事故車や故障車のスクラップ作業を黙々と行い油と埃にまみれるばかりである。

そんな"キツネ"と行動を共にする"小鳥"は、

( きっと"キツネ"さんは・・)

今の境遇に不満を抱いているだろうと思う時がある。しかし、"キツネ"は愚痴のひとつもこぼす事は無い。

( よく黙ってやってられるよなぁ・・)

その姿には関心するばかりである。
 
そんな中、

( おっ!こんな所に・・)

"小鳥"は、少しずつ広がる行動範囲に小さな商店を見つけ、夕食後の洗濯の合間にそこでお菓子を買って食べるという楽しみを持った。そして、それと平行して少しずつ周囲の様子が見えて来ると、気付けば昼飯のおかずにも箸を伸ばせる様になっていた。
 
"キツネ"と揃って事務所に呼ばれる。
 
「 いいかぁ、これから金型を積み込んでなぁ、明日の朝、千葉まで飛べ!」

"小鳥"にとって初めてとなる運送の指令に、

「 はい 」

いち早く返事をしたのは"キツネ"。
 
しかし"赤鬼"は、

「 運転を見てやれ・・ おまんは運転するじゃないよぉ~」

何やら意味深な事を言う。

( どういう事だ?あぁ、なるほど・・ 俺に運転を覚えさせる為に・・)

"小鳥"は新人教育の一環なのだと解釈して浅く浅く聞き流す。

「 じゃぁ、行くけ?」

「 はい、よろしくお願いします 」

初の4tトラックを走らせる"小鳥"の横に乗った"キツネ"は、

「 早い・・」

「 遅い・・」

「 甘い・・」

「 ヤバイ・・」

ギヤの入れ方やハンドルの切り方を穏やかに鋭く指摘して、

「 ちっと待ってろ・・」

目的地に到着してからは素早くトラックから降りて、

「 オーライ・・ オーライ・・」

機敏にバックの誘導まで行い、まるで教官と助手の両方を務めた。

( 先輩なのに・・)

いささかの感動を覚える。

そんな"キツネ"の協力の下、積み込みは無事に終わり、

「 じゃぁ、明日の朝4時にここで・・」

出発の約束をしてこの日の仕事を終える。
 
翌朝。

初めてトラックに乗った興奮と喜び、そして千葉まで行くという緊張が思考を占拠した"小鳥"の夜は浅く短く過ぎて行き、約束の時間よりだいぶ早めに部屋を出て、まだ暗い中でトラックのエンジンをかけて"キツネ"の到着を待つ。

すると意外にも早く現れた"キツネ"。

( おっ?)

いつものツナギでは無く、トラックに乗る男達と同じで背中に社名と犬の絵が描かれた上下揃いの制服姿に、

( "キツネ"さんも持ってたんだぁ・・)

やや驚きながら、缶コーヒーを二本買い込む。
 
そして、

「 おはようございます・・ よろしくお願いします 」

"小鳥"はいよいよ憧れていたトラック野郎になるべく、ゆっくりと敷地を飛び立った。
 
 

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キツネ記 1

 

千葉での仕事を無事に済ませた後は再び油と埃にまみれたのも束の間に、

「 "ネズミ"がなぁ、連絡がとれねぇからしばらく二人で福川に入れ 」

"小鳥"と"キツネ"は"赤鬼"から次なる指令を受けた。

福川とは福川運輸の事で、そこに下請けとして入っていた"ネズミ"という男が行方をくらました為、2tトラックでの集配業務を代わりに行う必要が出来たのである。
 
福川運輸での業務は、まずターミナルにつけたトラックに伝票で個数を確認しながら荷物を積み込み、バーコードリーダーという端末で伝票のバーコードを読み込んで " 持ち出し中 " の登録をする。そしてひと通りの配達先を回った後に、不在で持ち帰った荷物はターミナルに戻し、受領印が押された伝票は " 配達完了 "分として再びバーコードを読み込んで事務へと回す。それが終われば、発送希望者の元へ荷物を引き取りに行き、その日の発送分としてターミナルに仕分ける。
 
何とも細かい作業の連続に、初めは戸惑ったりイラついたりも頻繁だったが、"キツネ"と二人で掛かれば荷降ろしも早く、"キツネ"が近道や渋滞を交わすルートを知っていた事もあって数日が過ぎる頃にはすっかり落ち着いていた。

通常ならばワンマンでこなしている業務をツーマンでこなす訳であるから、肉体的にも精神的にも楽である事は確かで、一度だけではあっても4tトラックを運転した"小鳥"は、

( 意外と楽勝だな・・)

2tトラックを運転する事に対してはそんな風に思っていた。

しかし、そんな矢先、思いもよらない事件が起きる。

20号バイパス沿いにある甲府中央市場の界隈にある卸問屋への配達で、路上に仮置きした数十個のダンボールをいよいよ台車に乗せて運び込もうとした時、

「 ちっと車をどかしてくれるかい?」

そこの主から声が掛かった。

「 いいよ、おまんは運んどけ 」

と"キツネ"はその場を仕切り、

「 はい 」

と返事をした"小鳥"が、一人で搬入作業に取り掛かる。
 
 

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奥付


 
  著者 : k.kaminari
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