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―翌日。

 (…誰だろ?こんな時間に…)

 物音に気づき目覚めたはるか。

 早朝から秀樹が、はるかと詩音が眠る部屋に訪れていたのであった。玄関を開けたはるかは寝惚(ねぼ)け顔で、目の前にいる秀樹を見るや、恥(はずか)しさに思わず手で顔を覆(おお)っていた。

「どうしたの?お兄ちゃん。」

「それがな…昨日のヤツ等を見失っちゃってな…。」

「えっ!?どうして?」

「おそらく誰かの編(あ)み出した異空間に逃げこんだのだろう。水ホタルからの通信が途切れたという事から考えれば、そういう事になる。だから計画は白紙だ。」

「じゃあ、どうすれば…。」

「最初に言ってた通り、お前がいない間は俺達が監視(かんし)しておく。ヤツ等の消息(しょうそく)が判明するまで、待つとしよう。」

「分かったわ。」

「…それにしても、ヤツ等の中にはかなりの使い手がいるみたいだな…。」

「えっ!?…どんな人なんだろ…。」

「まだ分からんな…だが、八大心拳のフェンリル[氷獣]心拳の使い手というコト以外はな…。」

「フェンリル心拳!?」

「あぁ。だがその使い手は昨日、“死んだ”と聞いたんだが…俺らの中で言う所の鮎吉師匠のような存在がいるみたいだな。まぁ考えても仕方がない。とにかく、そういう事だからお前はいつも通り学校に行くといい。」

 そう言い残し、秀樹は去っていった。


「はるかー。どうしたのー?」

 登校したものの、詩音の事が気になって集中力を欠くはるか。沙織が心配そうにはるかに言葉を投げかけたが、聞こえていない様子であった。

「はるかー!」 耳元で声を大きくすると、

「痛ぅ~…。」

 はるかは耳を痛そうにした。

「ちょっと、何するのよ!」 

「だって~。さっきから呼んでるのに、反応しないからさー。大丈夫かなと思ってー、それで呼んだんだよー。」

「だからって耳元で大きな声出さないでよ!体を揺すってみるとか、色々あるじゃないっ!」

「そっか!そういう方法もあるねー。」

「んもぅっ…」

「ところで詩音ちゃんはどうなったのー?」

「うーん…それがねぇ~…何かビミョーな感じでさ…」

 昨日からのいきさつを沙織に話すはるか。

「うーん、やっぱもう帰ろ…」

 全てを話し終えると、はるかはそう言い、帰り支度を始めた。

「え~っ…まだHRだよ!」

 驚く沙織を尻目に、はるかはそそくさと家路に向かってしまった。

「お前、どうしたんだよ?」

 はるかが帰ると、部屋には正友が詩音といて突然(とつぜん)の帰宅に驚いているようだった。

「具合でも悪いのか?」

「ううん。詩音ちゃんの事が気になって…。」

「バッカだなぁ~。オレが見張ってるから心配ねぇよ!近くには秀さんもいるしな。」

「お兄ちゃんは?」

「今、寝てるんじゃね?今日は仕事を休むって言ってたけどな。」


「そう…。ところでアンタ仕事は?」

「今日は遅番だからな。で、その後は秀さんが付くって言ってたな。お前がヘンに気を回すコトねーんだよ!ちゃんと勉強しねーとバカになるぞ!」

「わたしはアンタと違って勉強は得意なのよ!なんせお兄ちゃんに教えてもらってるんだからね!」

「秀さんの家庭教師かぁ…あの人、勉強は出来るからなぁ。オレも秀さんから習ってたら東大くらい行けてただろうなぁ…。」

「教わる人によるんじゃない?」

「そうそう。オレが本気出してりゃ、そりゃあハンパじゃないですよぉ。」

「だからそっちの意味じゃなくて…」

 はるかはからかったつもりなのだが、自信過剰(じしんかじょう)でマイペースな正友の思い込みは、自分の都合のいいように解釈(かいしゃく)し、ツッ込もうとしたが面倒臭(めんどうくさ)くなって話題を打ち切っていた。

「…それよりもご飯は食べたの?」

「あぁ、食ったよ。」

「詩音ちゃんも?」

「おぅ。美味しかったよねー。」

 同意を求めるかのような正友の言葉に、複雑そうな笑みを浮かべながらも頷(うなづ)く詩音。

「何を食べたの?」

 と、はるかが詩音に尋ねると、

「インスタントラーメン」と詩音は答えた。

「え~っ!朝からインスタントラーメン!?」

 寝起きからそれはないだろうというリアクションをはるかはしたが、詩音が複雑そうな顔をしたのは違う所に理由があった。

「分かってねぇなぁ。オレはインスタントラーメンを抜群(ばつぐん)の茹(ゆで)で加減で作れるんだぞ!スゲェ~美味いんだからな!多分、ラーメン茹(ゆ)でさせたら、道場六三郎でもオレには勝てないだろな。」

「…それでそのラーメン茹でるのが上手い人は、お昼は何を作るのかしら?」


 力説する正友に、呆(あき)れた視線でそう問いかけるはるか。

「朝は塩だったから、昼は味噌ラーメンで行こっかな。ね、詩音ちゃーん!」

 そう言って、同意を強要(きょうよう)するかのように詩音に向かって首を傾ける正友のしぐさに、詩音をふびんに思ったはるかが怒り出した。

「何言ってんのよ!そんなラーメンばっかり食べられるワケないじゃない!」

「えっ!?…あぁ。詩音ちゃん。しょう油派なのかなぁ?」

「違うわよっ!?」

「じゃあ、豚骨派か。」

「ラーメンから離れなさいよ!同じ物ばっかり食べられる訳ないじゃない!」

「えっ…オレは大丈夫だけど。」

「アンタが大丈夫とか、そういう問題じゃないでしょ!」

「だってよぉ、詩音ちゃんも好きみたいだしよぉ。」

「詩音ちゃんは気を使ってるのよ!…っもう、そんな事も分からないの?」

「…そうなのか。じゃあ詩音ちゃんは何が食べたいのかなぁ…。」

「…しょうがないわね。わたしが作るから、アンタ材料買って来てよ。」

「おぉ!そうか。何買ってくんだ?」

「ハンバーグにしよっかな。」

「おぉ!お昼から豪盛(ごうせい)だな。」

「アンタはラーメン食べるんでしょ?」

「そんな意地悪言うなよぉ~。」

 勉強だけでなく、料理の方も秀樹から習っているはるかは、買出しから戻ってきた正友から材料を受け取ると、手際(てぎわ)よく調理をした。

「お、美味ぇなぁ~。」と、上機嫌(じょうきげん)の正友。

「詩音ちゃんもおいしーい?」

 優しくはるかがそう話しかけると、詩音はコクリとうなづいた。

「良かった。」

「おー!詩音ちゃん、良かったな。朝のラーメンとどっちが美味い?」

「馬鹿なコト訊(き)かないの!」

「んでもまぁ、なんかこうしてると夫婦みたいだな。」

「ちょっと、何言ってんのよ…。」


 唐突(とうとつ)な正友の発言に気恥しそうにするはるか。正友は何気なく思った事を素直に口にしているだけで、特別な意味はなく、はるかの態度(たいど)の変化にも構(かま)わずにアッサリと次の話題に進んでいた。

「はるかはいいよなぁ~。オレも秀さんみたいな兄貴が家に居てくれたらなぁ~。」

 ちょっとでも恥ずかしがった自分が馬鹿みたいに思ってしまったはるか。

 正友の大きな一人言とも取れる話しには付き合わず流そうとしたが、一つ気になった事が頭に浮かび、箸(はし)を止めて正友に話しかけた。

「そう言えば、アンタ買い物がエラく長くなかった?」

「うん、おぉ…詩音ちゃんにおみやげ買ってたからな。」

「おみやげ?何買ったのよ。」

「へへ~。ちょっと待ってろよ!」

 正友は箸を置き、駐車場へ向かうと、両手に大きな紙袋を抱えて戻って来た。

「じゃーん…どうよ!」

 両手に抱えるほど大きな袋の中には、家庭用ゲーム機やらお菓子などが、ぎっしりと詰め込まれていた。

「どーしたのよコレ…?」

「だから買って来たんだよ。」

「アンタが?」

「そうだよ!オレが居ない間に退屈(たいくつ)しないようにと思ってだなぁ、それで遅くなっちゃたんだよ。」

「まぁ遅くなったのはいいんだけど…アンタ仕事行かなくていいの?」

「あっ!?いけねっ…」

 はるかの指摘(してき)に慌(あわ)てて準備をする正友。それを見て、詩音は気の毒だとは思いながらも、ついつい「クスクス」と笑い出していた。

 詩音の笑い声が聞けたので、はるかも正友もひとまず良かったと思ったのは、二人の共通した気持ちであった。そして、正友のぶっきらぼうではあるが“優しさ”に触(ふ)れ、また少し彼を見直すはるかであった。



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