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「待てッ。」功一がそう言い追いかけようとしたが―

「追うな功一。」

 と、秀樹が後を追おうとする功一を引き止めた。

「どうしてですか?秀さん。」

「追っても今からじゃ間に合わない。あのスピードを見ただろ?アイツらの動きが止まるまで、しばらく様子を見よう。」

「動きが止まるって…どうやってアイツらの居場所を掴(つか)むんですか?」

「あぁ。それはさっきの黒いスーツを着た男達に発信機を付けておいたから心配ない。慌(あわ)てなくても、アイツらの消息はいずれ判明する。高速移動中に捕(つか)まえるってのは難しいだろうから、それなら話し合いをしに行くがてら、アイツらが本拠地(ほんきょち)に戻るまで待てばいいだろ?」

「なるほど…そういう事だったんですね。」

「あぁ。だから皆、明日(あす)以降(いこう)に備えて体を休めておくといい。」

「でも、いつの間に発信機なんて付けたんですか?」

「あぁ…俺が内力で作った“水ホタル”と言ってな。さっきの猛獣(もうじゅう)の奇襲(きしゅう)を躱(かわ)した時に取りつけた。」

「へぇ~さすがですね。」

「ホタルが光で連絡を取り合うように、俺のホタルも特殊(とくしゅ)な交信をしていて、敵にバレないようにしてある。敵が沢山いる可能性を考慮(こうりょ)して、追跡(ついせき)部隊(ぶたい)を幾(いく)つも送ったから、向こうの出方を待つとしよう。」

 今しがたの対戦で敵はかなり疲れているようだったので、2・3日は心配ないと秀樹は睨(にら)んでいた。それを踏まえて、行動を起こすのは翌日でいいと考えたのである。

 一人考え込む秀樹から離れ、正友は詩音が眠る部屋へ向かっていた。騒(さわ)ぎの最中(さいちゅう)も顔を出さなかったはるかが、詩音の警護(けいご)に当っていると思ったので、大丈夫だとは思うが心配だったのである。


「おい、はるか。詩音ちゃん大丈夫か?」

「…うん。そっちはどうだったの?」

「おぅ、広介がちょっと負傷したけど大丈夫だよ。それにしてもかわいー寝顔だな。」

「そう。やっぱり襲って来たのは昼間の…」

「あぁ。それになんかでっかい虎と毛深いおっさんがいてよ。仲々、楽しいケンカだったぜ。ま、オレが軽くひねって追っ払ったけどな。」

「追っ払ってどーすんのよ!また襲って来たらどうするの!?」

「大丈夫だよ。明日にでも殴り込みに行くから。」

「取り逃がしたのに、どうやって殴り込みに行くのよ!ドコにいるのか聞きでもしたの?」

「んにゃ、聞いてはないけど、秀さんが目印を付けた。」

「それを早く言いなさいよ。」

 遅れて顔を出した秀樹。それに気付いたはるかは、会話の噛み合わない正友を置き去りにして秀樹と会話を始めた。

「お兄ちゃん、明日、敵の拠点(きょてん)に乗り込むの?」

「そうだな。この未明(みめい)にも向こうの居場所が分かるだろうから、その晩にでも行くつもりだ。」

「誰々と行くの?」

「うーん。それなんだが…話しあいに行くのにも、どうも相手はかなりの手練(てだ)れが揃(そろ)ってるみたいだし、その上、血の気が多いみたいだから俺と正友だけで大丈夫なのかなぁと思ってるんだ。」

「わたしも行く!」

「詩音ちゃんはどうすんだよ?」

 正友が口を挟んだ。

「アンタは黙(だま)ってて!お兄ちゃん、功一さん達に任せたらダメかしら?」


 はるかの言葉に秀樹は考え込みだした。敵の戦力が分からない以上は対抗策(たいこうさく)も立てられない。夜陰(やいん)に乗じて敵の懐(ふところ)に潜(もぐ)り込むのはいいが、逆にそれは敵の囲みの中に自ら飛び込むという危険を冒(おか)す事にもなり、リスクも高い。

 だからと言って戦力を集中するのにも抵抗があった。それはこちらの所在がバレてる以上、自分達がいない間に、別働隊が詩音を狙う可能性も考えられたからである。

「いっその事、詩音ちゃんも連れてみんなで乗り込めばいいんじゃね?」

 慎重(しんちょう)な秀樹に対し、正友が軽いノリでそう言った。しかし、妙案(みょうあん)のように思われるが、戦闘(せんとう)になった場合、誰かを守りながら戦うというのは無理がある話しであった。

「正友!余計な事言わないでよ。お兄ちゃんが混乱するじゃない。」

「いや、いいんだ。今日はもう遅いからお前達も休め。」

 正友を叱責(しっせき)する、はるかを秀樹はなだめ、明日また考えると言ってその場を去った。

「あんたも寝たら?」

 はるかの言葉が聞こえていない様子の正友。正友は詩音の寝顔をほほえましく眺(なが)めて悦(えつ)に浸っている。

「正友!」 はるかが少し声を大きくすると―

「馬鹿ッ…詩音ちゃんが起きちゃうだろ!」

と言って、はるかに注意した。

 

「やっぱりアンタ、そんな趣味があったの?」

「何言ってんだよ。オレは妹みたいに思って、可愛いなと思ってんだよッ。」

「そうなの?」

「そうだよ…ったく。でも、この子がバケモノの血を引いてるとは、とてもじゃないが思えんな。」

「バケモノ!?どういう事?」

「あれっ…言ってなかったっけ?」


 正友は、はるかにさき程の男が言っていた話しを掻(か)い摘(つま)んで説明した。

「そうなの…。」

 思い詰めた顔をするはるか。

「なんか思いあたる節(ふし)があるのか?」

「この子の体って、体温が異常に低いの…低いというよりは“冷たい”って言った方が的確かな。」

「バカな!?…ホントだ。」

 正友が詩音の顔に手を当てると。そう言って驚いた。はるかは詩音の異常さに不安を抱いていて、フェンリルの血が覚醒(かくせい)すれば、詩音とておぞましい化物となって、牙(きば)を剥(む)くのではないかと。そうは思いたくもないが可能性を考えない訳にも行かず、もしそうなったらどうすればいいのかと正友に話すと―

「そんな事は絶対にさせない。オレが詩音ちゃんを守る。」

 と、強く言い切った。えらく気合いの入った正友の一言に、はるかは何故(なぜ)そんなに力が入っているのが不思議に思いながら、皆が帰ったのでベッドに横になったのだが。

 ウトウトしながら幼ない頃の記憶がふと甦(よみがえ)った事により、はるかは「はっ」とした。はるかが小学生の頃。正友は既(すで)に高校生となっていて、自分の面倒(めんどう)をよく見てくれていた。その時の優(やさ)しい姿を思い出したのである。

その時から、フザけるのが好きで、よくからかわれたりもしたが、今ほどイラ立ちもしなかったのに、しばらく会わない内に、何か違和感(いわかん)を感じ、拒否反応(きょひはんのう)を示すようになったのはどうしてなのか?はるかには分からないでいた。それは、年頃の少女が異性として意識した相手に対する特異(とくい)な反応なのだと悟(さと)れるのは、彼女が大人になってからであるのだろう。

 そんな事までは分からないにしても、はるかは過去を振り返った事により、正友を見る目が少し変わった夜となっていた。


―翌日。

 (…誰だろ?こんな時間に…)

 物音に気づき目覚めたはるか。

 早朝から秀樹が、はるかと詩音が眠る部屋に訪れていたのであった。玄関を開けたはるかは寝惚(ねぼ)け顔で、目の前にいる秀樹を見るや、恥(はずか)しさに思わず手で顔を覆(おお)っていた。

「どうしたの?お兄ちゃん。」

「それがな…昨日のヤツ等を見失っちゃってな…。」

「えっ!?どうして?」

「おそらく誰かの編(あ)み出した異空間に逃げこんだのだろう。水ホタルからの通信が途切れたという事から考えれば、そういう事になる。だから計画は白紙だ。」

「じゃあ、どうすれば…。」

「最初に言ってた通り、お前がいない間は俺達が監視(かんし)しておく。ヤツ等の消息(しょうそく)が判明するまで、待つとしよう。」

「分かったわ。」

「…それにしても、ヤツ等の中にはかなりの使い手がいるみたいだな…。」

「えっ!?…どんな人なんだろ…。」

「まだ分からんな…だが、八大心拳のフェンリル[氷獣]心拳の使い手というコト以外はな…。」

「フェンリル心拳!?」

「あぁ。だがその使い手は昨日、“死んだ”と聞いたんだが…俺らの中で言う所の鮎吉師匠のような存在がいるみたいだな。まぁ考えても仕方がない。とにかく、そういう事だからお前はいつも通り学校に行くといい。」

 そう言い残し、秀樹は去っていった。



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