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「貴様(きさま)らは知らんのだ…氷の騎士団(きしだん)の恐ろしさを、王不在の中、我らを主導(しゅどう)するのは四天王(してんのう)と言われる騎士達。卓越(たくえつ)した戦闘力を持つ我が騎士団の中でも、その強さたるやズバ抜けている。ノコノコ話し合いなどと悠長(ゆうちょう)な気持ちで出向いたら、殺されるぞ!貴様らの強さも仲々(なかなか)の物だが、あのお方達と比べればまだまだ…なんせ四天王は伝説の氷獣フェンリルの子孫と言われてるのだからな。」

「ほ~う。そりゃ面白い。オレがきっちり話をつけてやるから、連れてけ!」

 男の言葉が明らかに自分達を四天王より弱いと決めつけたのが余程気にくわないらしく、どっちが強いか教えてやるよと言わんばかりに、そう言って静かに正友は凄んで見せた。

「まぁそんな今の内から殺気立つな。」

秀樹が闘志を燃やす正友に対し、そう言ってなだめた。

「でもまぁ、どの道こちらから四天王とやらのいる所に出向かねばならないみたいだな。」

 自分を諌(いさ)めながらも、出向くというリスクをおかそうと二律背反(にりつはいはん)する秀樹の言葉に正友が「なんで?」という顔をした。

「その四天王とやらは、聞くかぎりの話しでは相当に強引で腕っぷしが強いみたいだし、こんな人里で物騒(ぶっそう)な真似(まね)を次々と仕掛けられてはたまらないからな。」

「あっ、そういう事か!おい、聞いたか?案内しろッ。」

 結局は自分の思惑(おもわく)どおりになったので、正友は勢(いきお)いよく命令口調で、男にそう言うと―

「コラコラ…そういう乱暴な言葉使いはよせよ。俺達は、悪(あ)くまで“話し合い”に行くんだ。」

 正友は、またもや秀樹にたしなめられ、口をつぐむ羽目(はめ)に陥(おちい)ってしまっていた。


「ま、そういう事だから、アンタの上役のいる所まで連れてってくれないかな?」

 返す刀で秀樹は、優しく男にそう話しを持ちかけた。

「…それは出来ない。」

 男はタイミングを見計らったかのように、沈黙(ちんもく)から一転し、秀樹の持ち掛けた話しにきっぱりと断りを告げた。

「何だと!!」 正友は男の言葉にひどく怒った。

「…どうしてダメなんだ?」

 なるべく穏便(おんびん)に且(か)つ理を説いたつもりが、どうして拒(こば)まれるのか。秀樹にはそれが理解できず、男を問いただすと―

 「こういう事だ!!」と、男が言った。

 それと同時に強い突風(とっぷう)が、秀樹達の頭上から吹いてきて、思わず空を見上げると、頭上に巨大な狼のような四ツ足に翼の生えた獣の姿があった。

「な、なんだ!?あのでっかい獣は!!どうやってオレの結界(けっかい)に入り込んだ…」

 急な爆風(ばくふう)に焦(あせ)る正友。冷静沈着(れいせいちんちゃく)な秀樹でさえも、想定外(そうていがい)のアクシデントに混乱(こんらん)している。巨大な獣は猛烈(もうれつ)な勢いで、秀樹達に襲いかかってきた。

「逃げろッ正友!!」

 珍(めずら)しく秀樹が大声を張(は)りあげた。

 有無(うむ)を言わせぬ強襲(きょうしゅう)に、考えるゆとりがなかったので、とりあえず逃げる事を考えたのだが。そのせいで、黒服の男達への拘束(こうそく)が解けてしまっていた。

 秀樹と正友の安否(あんぴ)に気を取られた洋一や功一達。彼らが一瞬、目を離した隙(すき)に、満身(まんしん)創痍(そうい)のビッグフッド達も力を振り絞って逃げ出し、黒服の男達もその後を追って共に巨大な獣の背に飛び乗ってしまった。

「ハハハハッ…惜(お)しかったな!次はこうは行かんぞ!!」

 黒服の男の一人が去り際(ぎわ)に高笑いをしながらそう言い、闇夜に消えて行った。


「待てッ。」功一がそう言い追いかけようとしたが―

「追うな功一。」

 と、秀樹が後を追おうとする功一を引き止めた。

「どうしてですか?秀さん。」

「追っても今からじゃ間に合わない。あのスピードを見ただろ?アイツらの動きが止まるまで、しばらく様子を見よう。」

「動きが止まるって…どうやってアイツらの居場所を掴(つか)むんですか?」

「あぁ。それはさっきの黒いスーツを着た男達に発信機を付けておいたから心配ない。慌(あわ)てなくても、アイツらの消息はいずれ判明する。高速移動中に捕(つか)まえるってのは難しいだろうから、それなら話し合いをしに行くがてら、アイツらが本拠地(ほんきょち)に戻るまで待てばいいだろ?」

「なるほど…そういう事だったんですね。」

「あぁ。だから皆、明日(あす)以降(いこう)に備えて体を休めておくといい。」

「でも、いつの間に発信機なんて付けたんですか?」

「あぁ…俺が内力で作った“水ホタル”と言ってな。さっきの猛獣(もうじゅう)の奇襲(きしゅう)を躱(かわ)した時に取りつけた。」

「へぇ~さすがですね。」

「ホタルが光で連絡を取り合うように、俺のホタルも特殊(とくしゅ)な交信をしていて、敵にバレないようにしてある。敵が沢山いる可能性を考慮(こうりょ)して、追跡(ついせき)部隊(ぶたい)を幾(いく)つも送ったから、向こうの出方を待つとしよう。」

 今しがたの対戦で敵はかなり疲れているようだったので、2・3日は心配ないと秀樹は睨(にら)んでいた。それを踏まえて、行動を起こすのは翌日でいいと考えたのである。

 一人考え込む秀樹から離れ、正友は詩音が眠る部屋へ向かっていた。騒(さわ)ぎの最中(さいちゅう)も顔を出さなかったはるかが、詩音の警護(けいご)に当っていると思ったので、大丈夫だとは思うが心配だったのである。


「おい、はるか。詩音ちゃん大丈夫か?」

「…うん。そっちはどうだったの?」

「おぅ、広介がちょっと負傷したけど大丈夫だよ。それにしてもかわいー寝顔だな。」

「そう。やっぱり襲って来たのは昼間の…」

「あぁ。それになんかでっかい虎と毛深いおっさんがいてよ。仲々、楽しいケンカだったぜ。ま、オレが軽くひねって追っ払ったけどな。」

「追っ払ってどーすんのよ!また襲って来たらどうするの!?」

「大丈夫だよ。明日にでも殴り込みに行くから。」

「取り逃がしたのに、どうやって殴り込みに行くのよ!ドコにいるのか聞きでもしたの?」

「んにゃ、聞いてはないけど、秀さんが目印を付けた。」

「それを早く言いなさいよ。」

 遅れて顔を出した秀樹。それに気付いたはるかは、会話の噛み合わない正友を置き去りにして秀樹と会話を始めた。

「お兄ちゃん、明日、敵の拠点(きょてん)に乗り込むの?」

「そうだな。この未明(みめい)にも向こうの居場所が分かるだろうから、その晩にでも行くつもりだ。」

「誰々と行くの?」

「うーん。それなんだが…話しあいに行くのにも、どうも相手はかなりの手練(てだ)れが揃(そろ)ってるみたいだし、その上、血の気が多いみたいだから俺と正友だけで大丈夫なのかなぁと思ってるんだ。」

「わたしも行く!」

「詩音ちゃんはどうすんだよ?」

 正友が口を挟んだ。

「アンタは黙(だま)ってて!お兄ちゃん、功一さん達に任せたらダメかしら?」


 はるかの言葉に秀樹は考え込みだした。敵の戦力が分からない以上は対抗策(たいこうさく)も立てられない。夜陰(やいん)に乗じて敵の懐(ふところ)に潜(もぐ)り込むのはいいが、逆にそれは敵の囲みの中に自ら飛び込むという危険を冒(おか)す事にもなり、リスクも高い。

 だからと言って戦力を集中するのにも抵抗があった。それはこちらの所在がバレてる以上、自分達がいない間に、別働隊が詩音を狙う可能性も考えられたからである。

「いっその事、詩音ちゃんも連れてみんなで乗り込めばいいんじゃね?」

 慎重(しんちょう)な秀樹に対し、正友が軽いノリでそう言った。しかし、妙案(みょうあん)のように思われるが、戦闘(せんとう)になった場合、誰かを守りながら戦うというのは無理がある話しであった。

「正友!余計な事言わないでよ。お兄ちゃんが混乱するじゃない。」

「いや、いいんだ。今日はもう遅いからお前達も休め。」

 正友を叱責(しっせき)する、はるかを秀樹はなだめ、明日また考えると言ってその場を去った。

「あんたも寝たら?」

 はるかの言葉が聞こえていない様子の正友。正友は詩音の寝顔をほほえましく眺(なが)めて悦(えつ)に浸っている。

「正友!」 はるかが少し声を大きくすると―

「馬鹿ッ…詩音ちゃんが起きちゃうだろ!」

と言って、はるかに注意した。

 

「やっぱりアンタ、そんな趣味があったの?」

「何言ってんだよ。オレは妹みたいに思って、可愛いなと思ってんだよッ。」

「そうなの?」

「そうだよ…ったく。でも、この子がバケモノの血を引いてるとは、とてもじゃないが思えんな。」

「バケモノ!?どういう事?」

「あれっ…言ってなかったっけ?」



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