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「それは永久(えいきゅう)凍土(とうど)の最深部(さいしんぶ)より取り出した物だ。何万年もの間、溶ける事もなく蓄積(ちくせき)された冷気は、自体だけに止まらず、触れた対象にまでも影響を及ぼす。」

 男の一人がそう答えた。

「…あの化物みたいな虎と毛深い男は、一体何なんだ。」

「その永久凍土に眠っていた太古の生物。我々がそれらを科学技術を使って再生させた。」

「ほう。それで詩音ちゃんを何の目的でさらおうとしてるんだ?」

「…。」 沈黙する男。

「答えろ!!」

 正友は語気を荒げ、男の肋(あばら)を踏みつけた。

「グワッ!!…シオンは我らが探し当てた“女王”だ。」

「“女王”!?どういう意味だ?」

「ビッグフッドとスノータイガー。この二つを組み合わせた最強の兵士には、それらを統(す)べる王の存在があった。その子孫の血を引く者がシオンだ。」

「デタラメを言うな!!詩音ちゃんはそんなコト、何も言ってなかったぞ。お前ぇらだって知らないって言ってんだ。だからこれ以上、つきまとうなッ。」

「それは彼女の血がまだ目覚めていないからだ。」

「血だと?」

「そうだ。シオンとは氷の血族に伝わる王の呼び名。先代の王[シオン]が亡くなられ、その血は絶たれたかに見えた。先代の子は第二次大戦の混乱期(こんらんき)に消息不明となったからだ。だがその子孫は生きていた。先代の王のひ孫に当たるのが、そこの少女だ。」

「そんな…。」 驚く正友。

「その少女を渡せ。そのお方は我らの王だ。」

 男はそう言って正友に迫った。

「そいつは出来ない相談だな。」

「秀さん!」


「話しは大体、聞かせてもらった。だが、本人が嫌がってるのに無理矢理ってのはどうかと思うな。」

 男を悟(さと)すように秀樹がそう言った。男は何も言い返せずにいた。

「どうせロクな理由じゃないんだろうよ。だから詩音ちゃんは逃げてる。違うか?」

 正友が威圧的(いあつてき)にそう尋問(じんもん)すると、口は割らなかったが、男の態度が良からぬ事を企(たくら)んでいるのを隠(かく)しきれずにいた。

「ほら見ろッ…この態度が何よりの証拠(しょうこ)だ。な、秀さん。そうだろ?…よーし、全部吐かしてやる。」

 実力行使(じつりょくこうし)で言わせようとする正友に、秀樹が「待った」をかけた。

「俺は暴力は嫌いだ。でもまぁ、コイツらの企(たくら)んでる事は想像がつく。」

何だと!?」

 男は驚き顔をのけぞらせた。

「そんなに意外な事じゃないだろ?俺達だって、ただ指をくわえているだけじゃない。どんな事態にも対応できるように、できるだけ敵となる者の情報は集めてるさ。断片的(だんぺんてき)ではあるがな。」

 秀樹はそう言って男の顔を見返した。

「どんな情報だ?」

「まぁ大方は俺の想像だが。“シオン”という名を聞いた時からピンと来てたんだが、シオンとは、ヘブライ語でエルサレム東部の聖なる山の名を指す。そこでだ、お前達の兵隊とやらは永久凍土から復活させたって言っただろ?聖書で地獄の最下層に沈めた魔物ってのが、ソイツらだと思ったワケだ。」

「…。」

 男は黙って話を聴いている。表情に乱れがないのを見た秀樹だが、構わず話を続けた。


「“エデン”とか“カナン”など。色々な名で呼ばれているが、聖書の中ではエルサレムも含め、それは当時の権力者達にとって、喉(のど)から手が出るほど欲しい“国土”って点では同じだ。閉じ込められた魔物の兵士に国土。この二つから導(みちび)き出される結論(けつろん)は、お前達の先祖が国を奪(うば)いあって敗れた事を意味する。そして現代に至(いた)っても、伝統を受け継いでる事からも、お前達の目的は明確(めいかく)だ。それは自分達の勢力(せいりょく)の復権(ふっけん)であり、国土の奪還(だっかん)を意味している。公(おおやけ)にはしていなかったが、眠っていた野心が目覚めてしまったせいで、先祖からの悲願(ひがん)を達成しようと行動した結果が、真相(しんそう)を露見(ろけん)させてしまった。違うか?」

 ズバリ秀樹の言った通りのようで、男は動揺(どうよう)している。畳み掛けるように秀樹は言葉を続けた。

「ソロモン王の秘宝。それが徳島にあるのを知り、それを手に入れれば世界支配も夢ではないと思ったお前達の先代の王。ソイツが化物を復活させ、力ずくで秘宝を奪う好機を狙っていた。その過程で、詩音ちゃんを見つけたんだろ?」

「どうしてそれを?…」

「この広い世界で人間、しかも少女一人を見つけるなんて、そう簡単にできる事じゃない。だが、ある程度的(まと)が絞(そぼ)れれば可能なんじゃないか?ソロモンの秘宝が眠る国。そこに子孫はいるんじゃないのかと。さらに付け加えるなら、先代の王の子。つまりは詩音ちゃんの祖父は、第二次大戦のどさくさに紛れ、自ら姿を消した。血筋が続いている事からも、それは否定のしようがない。理由は簡単だ、お前達や王と考えが合わなかった。どうだ?」

 男は何も言わなかったが正友が、

「図星(ずほし)みたいだぜ!」と言った。

 正友は聴勁(ちょうけい)を使って男の脈拍(みゃくはく)を計っていたようで、ポリグラフのように男の心の乱れを察知(さっち)していたのであった。


「木を隠すなら森の中って言うが、詩音ちゃんの親御(おやご)さん達は数代に渡り、お前らの担(かつ)ぎ出す王の捜索(そうさく)から身を隠していた。それには、もう一つ意味がある。秘宝の近くには、必ずそれを守護(しゅご)する俺達のような存在がいる。それがお前等から自分達を護(まも)ってくれるだろうと思ったからだろう。だから、以上の事から詩音ちゃんが嫌がってるのに、無理にお前達に引き渡す訳には行かない。本人が望んでるならまだしもな。」

「くッ…。」

 二の句が出ない男。

「もひとつ付け加えれば、詩音ちゃんが記憶を失くしてるのにお前達を恐れてるってのは、かなりお前達が乱暴な振る舞いをしたからじゃないのか?恐ろしさの余り、気が動転してるのか記憶がホントに失われたのかは分からんが、そう考えるとつじつまが合う。悲願(ひがん)だか何だか知らんが、そんなのは力ずくでやるんじゃなくて、誰にも迷惑(めいわく)かけずに自分達だけで地道(じみち)に築(きず)いてけばいいんじゃないのか?旧態(きゅうたい)依然(いぜん)の思想にしがみついてないで、もっと広い目で世の中を見たらどうだ。」

 理(り)に適(かな)った秀樹の説得にも、がんとして男は耳を傾(かたむ)けてないようであった。それどころか―

「あの子を返さねば、お前達もただでは済まんぞ。」と、逆におどしをかけてきた。

「お前、何言ってんだ?そんな無様(ぶざま)な恰好でイキがったって、説得力がねーんだよ!コイツどうする?秀さん。」

「…しょうがないな。お前達のトップに直接会って話をつけるとするか。」

 正友の問いかけに秀樹がそう答えた。正友は男の胸ぐらを掴(つか)み―

「お前の上役のいるトコまで案内しろ!」

 と、脅(おど)し返すように言った。しかし、男は一向に怯(ひる)まず、逆に秀樹達に忠告(ちゅうこく)しようとした。


「貴様(きさま)らは知らんのだ…氷の騎士団(きしだん)の恐ろしさを、王不在の中、我らを主導(しゅどう)するのは四天王(してんのう)と言われる騎士達。卓越(たくえつ)した戦闘力を持つ我が騎士団の中でも、その強さたるやズバ抜けている。ノコノコ話し合いなどと悠長(ゆうちょう)な気持ちで出向いたら、殺されるぞ!貴様らの強さも仲々(なかなか)の物だが、あのお方達と比べればまだまだ…なんせ四天王は伝説の氷獣フェンリルの子孫と言われてるのだからな。」

「ほ~う。そりゃ面白い。オレがきっちり話をつけてやるから、連れてけ!」

 男の言葉が明らかに自分達を四天王より弱いと決めつけたのが余程気にくわないらしく、どっちが強いか教えてやるよと言わんばかりに、そう言って静かに正友は凄んで見せた。

「まぁそんな今の内から殺気立つな。」

秀樹が闘志を燃やす正友に対し、そう言ってなだめた。

「でもまぁ、どの道こちらから四天王とやらのいる所に出向かねばならないみたいだな。」

 自分を諌(いさ)めながらも、出向くというリスクをおかそうと二律背反(にりつはいはん)する秀樹の言葉に正友が「なんで?」という顔をした。

「その四天王とやらは、聞くかぎりの話しでは相当に強引で腕っぷしが強いみたいだし、こんな人里で物騒(ぶっそう)な真似(まね)を次々と仕掛けられてはたまらないからな。」

「あっ、そういう事か!おい、聞いたか?案内しろッ。」

 結局は自分の思惑(おもわく)どおりになったので、正友は勢(いきお)いよく命令口調で、男にそう言うと―

「コラコラ…そういう乱暴な言葉使いはよせよ。俺達は、悪(あ)くまで“話し合い”に行くんだ。」

 正友は、またもや秀樹にたしなめられ、口をつぐむ羽目(はめ)に陥(おちい)ってしまっていた。



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