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 一方、大介の貫手(ぬきて)を喰(く)らい、悶絶(もんぜつ)する虎が、痛みにのたうつせいで、背中にいるビッグフッドはロデオでもしているかのように振り回されていた。

「真空豪蛇掌(しんくうごうじゃしょう)!!」

 体勢の整わないビッグフッドと虎に向かい、正友の寮(りょう)をぶち抜いた真空掌(しんくうけん)を、更(さら)に何十倍も強力にしたような気功波(きこうは)が放(はな)たれ、ひとたまりもなく、ビッグフッドは虎(とら)ごと空高く吹き飛ばされた。45度くらいの斜(なな)めに吹き飛ばされた虎とビッグフッド。とぐろを巻いた蛇(へび)のような軌道(きどう)が空に描かれた。やがて落下をはじめると、その終点で彼らは凄まじい勢いで地面に激突した。

「スゲェ~。」

 正友は大介の大技の威力(いりょく)に驚(おどろ)き、思わずそう漏(も)らしていた。

「そ、そうかなぁ~。」と、照れる大介。

 技に見とれていたのも束(つか)の間(ま)。広介の事が気になり、正友は駆け寄って行った。

「大丈夫か?広介。」

「えぇ…まぁなんとか。」

「矢が刺さった時は、本当にビックリしたよ。でも、あれくらいの刺さり方じゃ、肺までは行ってねぇと思ったんで安心してたけどな。苦しそうなフリして、迫真(はくしん)の演技(えんぎ)だったよな。」

 矢が刺さった時に倒れたのは広介の演技であった。正友はそれを瞬時(しゅんじ)に判断し、広介には何か策(さく)があると見て、その芝居(しばい)に付きあっていたのであった。

「さすが正友さん、アレを見抜いたんですね。」

「“死んだフリ作戦”とでも名付けようかな。うまくハマッたよな。」

 広介が考えた策にすぐさま対応した正友。広介は最初に抱いた不安から自分なりに気を利かせて敵の油断(ゆだん)を誘(さそ)い、倒そうとしたが、それは正友と広介が何も考えてないように見えたためで、三人で共に戦った事がないからであった。が、そんな心配は不要なのだと知った。


 達人には実戦における優れた洞察力(どうさつりょく)を元にして、柔軟(じゅうなん)に対応できる能力があるのが分かったからである。その頼(たの)もしい仲間を得た事に力強さを実感し、笑顔で健闘(けんとう)を讃(たた)えあう正友達であったが―

「うっ…」

 広介が苦しそうな声を急に出した。

「どうした広介!?」

 その急変に驚く正友。

「いや、胸がやけに痛くて…。」

 それを聞いた正友が広介の胸を見ると、矢の刺さった胸板(むないた)の辺りが青黒くなっていて、触(ふ)れるととても冷たかった。

「これは…凍傷(とうしょう)だ!」

 危険な行為だとは分かっていたが、凍傷の原因が矢じりにあると踏んだ正友は、広介の胸から矢を抜き去った。

「おい、大丈夫か?」

「えぇ…矢が抜けたら少し楽になりました。」

「なんだ?この冷たい矢は…。」

 異常な冷たさを発する矢じりは、氷の塊(かたまり)のようであった。だが、普通の氷とは何かが違う。鋼(はがね)のような広介の胸板に突き刺さり、軽度ではあったが凍傷にしてしまえるような氷などが果してあり得るのであろうか。正友には分からずにいた。すると―

「正友さーん!こっちも終わりました。」

 と、功一の声がしたので、正友はそちらに向かった。木刀を持った功一と洋一の足元には、傷つき横たわる黒服の男達がいた。

「この矢じりは何だ?答えろ!!」

 鬼の形相(ぎょうそう)で話さなければ容赦(ようしゃ)しないといった感じで、正友が男達に問い詰めた。


「それは永久(えいきゅう)凍土(とうど)の最深部(さいしんぶ)より取り出した物だ。何万年もの間、溶ける事もなく蓄積(ちくせき)された冷気は、自体だけに止まらず、触れた対象にまでも影響を及ぼす。」

 男の一人がそう答えた。

「…あの化物みたいな虎と毛深い男は、一体何なんだ。」

「その永久凍土に眠っていた太古の生物。我々がそれらを科学技術を使って再生させた。」

「ほう。それで詩音ちゃんを何の目的でさらおうとしてるんだ?」

「…。」 沈黙する男。

「答えろ!!」

 正友は語気を荒げ、男の肋(あばら)を踏みつけた。

「グワッ!!…シオンは我らが探し当てた“女王”だ。」

「“女王”!?どういう意味だ?」

「ビッグフッドとスノータイガー。この二つを組み合わせた最強の兵士には、それらを統(す)べる王の存在があった。その子孫の血を引く者がシオンだ。」

「デタラメを言うな!!詩音ちゃんはそんなコト、何も言ってなかったぞ。お前ぇらだって知らないって言ってんだ。だからこれ以上、つきまとうなッ。」

「それは彼女の血がまだ目覚めていないからだ。」

「血だと?」

「そうだ。シオンとは氷の血族に伝わる王の呼び名。先代の王[シオン]が亡くなられ、その血は絶たれたかに見えた。先代の子は第二次大戦の混乱期(こんらんき)に消息不明となったからだ。だがその子孫は生きていた。先代の王のひ孫に当たるのが、そこの少女だ。」

「そんな…。」 驚く正友。

「その少女を渡せ。そのお方は我らの王だ。」

 男はそう言って正友に迫った。

「そいつは出来ない相談だな。」

「秀さん!」


「話しは大体、聞かせてもらった。だが、本人が嫌がってるのに無理矢理ってのはどうかと思うな。」

 男を悟(さと)すように秀樹がそう言った。男は何も言い返せずにいた。

「どうせロクな理由じゃないんだろうよ。だから詩音ちゃんは逃げてる。違うか?」

 正友が威圧的(いあつてき)にそう尋問(じんもん)すると、口は割らなかったが、男の態度が良からぬ事を企(たくら)んでいるのを隠(かく)しきれずにいた。

「ほら見ろッ…この態度が何よりの証拠(しょうこ)だ。な、秀さん。そうだろ?…よーし、全部吐かしてやる。」

 実力行使(じつりょくこうし)で言わせようとする正友に、秀樹が「待った」をかけた。

「俺は暴力は嫌いだ。でもまぁ、コイツらの企(たくら)んでる事は想像がつく。」

何だと!?」

 男は驚き顔をのけぞらせた。

「そんなに意外な事じゃないだろ?俺達だって、ただ指をくわえているだけじゃない。どんな事態にも対応できるように、できるだけ敵となる者の情報は集めてるさ。断片的(だんぺんてき)ではあるがな。」

 秀樹はそう言って男の顔を見返した。

「どんな情報だ?」

「まぁ大方は俺の想像だが。“シオン”という名を聞いた時からピンと来てたんだが、シオンとは、ヘブライ語でエルサレム東部の聖なる山の名を指す。そこでだ、お前達の兵隊とやらは永久凍土から復活させたって言っただろ?聖書で地獄の最下層に沈めた魔物ってのが、ソイツらだと思ったワケだ。」

「…。」

 男は黙って話を聴いている。表情に乱れがないのを見た秀樹だが、構わず話を続けた。


「“エデン”とか“カナン”など。色々な名で呼ばれているが、聖書の中ではエルサレムも含め、それは当時の権力者達にとって、喉(のど)から手が出るほど欲しい“国土”って点では同じだ。閉じ込められた魔物の兵士に国土。この二つから導(みちび)き出される結論(けつろん)は、お前達の先祖が国を奪(うば)いあって敗れた事を意味する。そして現代に至(いた)っても、伝統を受け継いでる事からも、お前達の目的は明確(めいかく)だ。それは自分達の勢力(せいりょく)の復権(ふっけん)であり、国土の奪還(だっかん)を意味している。公(おおやけ)にはしていなかったが、眠っていた野心が目覚めてしまったせいで、先祖からの悲願(ひがん)を達成しようと行動した結果が、真相(しんそう)を露見(ろけん)させてしまった。違うか?」

 ズバリ秀樹の言った通りのようで、男は動揺(どうよう)している。畳み掛けるように秀樹は言葉を続けた。

「ソロモン王の秘宝。それが徳島にあるのを知り、それを手に入れれば世界支配も夢ではないと思ったお前達の先代の王。ソイツが化物を復活させ、力ずくで秘宝を奪う好機を狙っていた。その過程で、詩音ちゃんを見つけたんだろ?」

「どうしてそれを?…」

「この広い世界で人間、しかも少女一人を見つけるなんて、そう簡単にできる事じゃない。だが、ある程度的(まと)が絞(そぼ)れれば可能なんじゃないか?ソロモンの秘宝が眠る国。そこに子孫はいるんじゃないのかと。さらに付け加えるなら、先代の王の子。つまりは詩音ちゃんの祖父は、第二次大戦のどさくさに紛れ、自ら姿を消した。血筋が続いている事からも、それは否定のしようがない。理由は簡単だ、お前達や王と考えが合わなかった。どうだ?」

 男は何も言わなかったが正友が、

「図星(ずほし)みたいだぜ!」と言った。

 正友は聴勁(ちょうけい)を使って男の脈拍(みゃくはく)を計っていたようで、ポリグラフのように男の心の乱れを察知(さっち)していたのであった。



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