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直ちに健康に被害が出るレベルではない

 この発言に対し怒ったとあるテロリストは、国会に時限爆弾を設置した。

 するとせーじかは言った、「ただちに爆発するわけではない」

 こうして、時限爆弾は無事に爆発することができたのである。

 何人かのせーじかがささやかに死んだ。

 生き残ったせーじかは言った、「誠に遺憾である」


通り魔つぁひゅっ

 つぁひゅっ という音がして、見ると俺の首から血液が噴き出していた。熱かった。俺は膝をついた。周りで声がする。

 醜いおばさんがブルドッグみたいな口元を動かした。

「あらまー、違うじゃない。間違えちゃった。いやねぇ、ほら、似てるもんだからつい。」

 そんな。

 俺の視界は、深緑色の網が何重にも重ねられるようにして急速に濁っていった。耳の穴と鼓膜との距離が無限大に引き伸ばされるように音が聞こえなくなっていった。

  

 まさかこんな死に方とはね。

 俺は心底驚いたものだった。


新入生歓迎会の思ひ出

 俺が大学2年生の時、新入生歓迎会飲会の最中だった。いかにも学生向け飲み放題の店でのことだった。500円プラスすると飲み放題メニューで選べる酒の種類が増える。

 「ねぇ、何か面白いことやろう」とあるテーブルグループがみんなに提案した。

 俺の向かい側の先輩がそれに答えた。

「ロシアンルーレットなんてどうすか? 誰かリボルバー持ってなきゃできないけど」

「アタシ持ってるよ」と3年生の女の子がバッグから取り出した。周囲からは、用意がいいね、さすが、という声援が飛んだ。典型的な銀色リボルバーで、普通の大きさだ。最近は「女の子だからといって軽くて小さな拳銃を選ぶのは負けだ!」というCMが繰り返されている。長く使った年季は読み取れなかった。

「で、ロシアンルーレットでいいの?」彼女が問うと、誰か答えた。

「いいとおもいまーす」男の高い声だった。

「6人、どうやって選ぶ?」

「テーブルごとにやっていけばいいよ」

「そうか、それで順番にね」

「全部のテーブルができるくらい弾ある?」

「あるよ。ぎりぎり」

「いいだしっぺのテーブルからやる?」

「いや、それは最後にとっておいたほうがいいんじゃないか?」

「そうか、なら最後に」

 大きな飲み部屋の、いいだしっぺの隣のテーブルからやることになった。ここからスタートしてぐるっと一周し、最後にいいだしっぺテーブルがやるのだ。

 リボルバーを持ってきた女の子がリボルバーを中折りして、元々装填されていた弾を一度全部抜いた。そのあとで、1発だけ込めた。指でくるっと弾倉を回した。もうどこに入っているか分からない。

 弾倉が回っているままで、ガチリと中折りを閉じた。銃の形に戻った。

 女の子はファーストテーブルまで歩いて行って、4年生の男子部員に笑顔で渡した。

「じゃ、オレが、まず行くから」

 彼が起立して、みんなが座った。さっきまではみんな好き勝手におしゃべりして笑っていたけど、今は静かに、彼に注目していた。みんな緊張し、集中していた。廊下のほうから、4名様入りますという店員の声が届いた。他の部屋からの他の飲み会のざわめきが聞こえた。そんな雑音は存在しないかのようにみんなは彼を見ていた。

 彼が右のこめかみに銃口を押し付けて、撃鉄を親指で起こした。

「よし、はい、やるよ」

 彼は目いっぱい目をつぶり、口を笑わせ、肩に力をいれた。

 がちぃん。

 外れだった。

 彼は緊張を解いて息を吐いた。

 みんなも緩んで、「おぉぅ~~い」と声を上げた。彼から視線をはずして久々に彼以外の場所を見た。

「まぁ、最初だからね」

「うん、一人目からとかはないよね」

「ありえなくはないけど、ないよね」

「うん、ない」

 彼は隣の女の子に銃を渡して座った。新入生の女の子で、さっき自己紹介していた子だ。

 ポルノグラフィティとBUMP OF CHICKENが好きだと言っていた。

「え~ まじですか 怖いんですけど」と楽しそうに言った。

「大丈夫だって。2人目で当たりってのも、まだ結構ありえない。オレも大丈夫だったし」と彼が言った。

「“結構” じゃないですか」と彼女は笑いながらつっこみをいれた。 

「うん、“結構” 大丈夫だよ」と、みんなはそこをわざと強調して声をかけた。みんなが言うものだから、同じような言葉が重なりあって聞こえた。

 やがて彼女は撃鉄を起こして自分の右こめかみに当てた。みんなに顔が見えるように角度を変えて「まじこわい!」と笑いながら言った。目をつむって、

 がぅん!

 彼女の脳が壁とテーブルに飛び散った。体もテーブルの上の料理やカクテルの上に倒れた。

 みんなは「おお~」と歓声をあげながら拍手した。ぱちぱちぱちぱち。

「2発目で、もう当たりが出ちゃったかあ」「こういうのって結構レアじゃね?」と騒いだ。部屋の中は血の匂いでいっぱいになった。

 みんなは彼女の死体を見に行った。だからその周辺に異様に人だかりができて、なかなか自分の席に戻ろうとはしなかった。携帯で写真を撮っていた。「カシャぁリ」とか「ぽわわうん」という撮影効果音達が聞こえた。俺は5杯目のカクテル(モスコミュール)をちびちび飲みながらその様子を見ていた。血の匂いがするのでいつもとは違う味だった。「うわ~ すっげ~」「かわいそうになあ」「ちょっと品のない死に顔だな」「てか臭えな」「壁紙がこんなに汚れちゃったねェ」「お店の人に弁償求められるのかな」とかコメントした。俺は人だかりが引いた頃に見にいった。近づくと血の臭いがさらにひどかった。あごが大きく開いていて、片方の眼球が飛び出していた。何より、あたりに飛び散った脳漿の量が半端じゃなかった。脳の本とか読むと色分けされたイラストが載っているものだが、実物は全部赤かった。テーブルから垂れ落ちた血が畳の上で面積を広げていた。脳漿を眺める俺に、誰かが「まじ半端ネェよな!」と声をかけた。

 すぐそばで、最初にチャレンジした4年生の先輩が彼女の指をリボルバーのグリップからはがした。リボルバーにも血が沢山ついていた。

「はい! 次のテーブル! 誰からやる!?」

 みんなはもう、さっきの彼女のことは忘れて、次のテーブルの方へ歓声と拍手を送っていた。弾が一発込められて弾倉がまわされ、ガチリと中折が閉じられた。そして次のテーブルに渡された。

 まだ始まったばかりなのだ。でも、ここで帰ると空気の読めないやつ認定を受けてしまうことを、俺は知っていた。


透視ビーム

「透視ビーム!」

「いやン やめてよ エッチぃ!」


かぶとむし

「おっ おい こいつはっ!」

                       

「かぶとむしじゃねぇかっ!」

「・・・おおっ うおおっ! 動いている! 頭を動かしたぞっ!」

「くっ なんていうか・・・ 少年時代の感覚が蘇ってくるよなぁっ!」

「そうだっ! 俺達はかぶとむしを探して捕まえて飼っていたぜっ!」

「うおおおっ マイかぶとむし カムバ嗚呼アアアック!」

「でも、みんな死んじまったよな・・・ 夏が終ると。かごの中でよ、動かなくなって・・・」

「うわあああ それを言うなよぉお」

 

みんな死んだよ。

 

ところで、兜が発明される前には、かぶとむしはなんて呼ばれていたんでしょうね。



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