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けへけへ

 路上を、汚くぼろぼろの服を着た婆さんがうろうろしている。

「けへーっ へっへっへっへっ・・・」

 見るから怪しい。霧のスタンドとか持っていそうだ。

 通りすがりの、スーツを着た、若いサラリーマン風の男に声をかける。

「けへけへぇ! おいあんた! 世の中の諸悪の根源は何だと思うね? え? なんだと思うね?」

 男は驚いたが、ここで自分の意見を発表しなければならない使命感のようなものを感じた。

「諸悪の根源は、地球温暖化です! それがだめだから、世の中はこうしてだめになっていくんです! 日本の政治家が外交には弱気なのも地球温暖化のせい! 子どもの学力低下も地球温暖化のせい! 地球温暖化は、自分のことだけを考えて、私達のことなんか微塵も考えちゃいないんだ!」

「けへーっ へっへっへっ がほっ がほっ そうかい、そうかい・・・地球温暖化が諸悪の根源だと・・・ あんたは思うわけかい、けへーっへっへっへ・・・」

婆さんはサラリーマンにもう興味を失い、他の男に話しかける。こちらもスーツを着ている。だが初老で、頭は薄く、人生に疲れているような男だ。

「そこのあんた! そう、あんただよ! 世の中の諸悪の根源はなんだと思うね? 何だと思うね?」

 初老男はうつむいて、深刻そうな顔をして答えた。

「若者。若者ですよ。テレビのニュースも見なければ新聞も読まない、今だけ楽しければいいじゃんと遊んでばかりいる。家にひきこもったりニートでいたり、働いてもフリーターだ。選挙にも行かない。携帯電話ばかりいじっている。わけのわからん音楽を聴く。ジャラジャラとした金属を体中につけて、髪は染めるし、ピアスは開ける。すぐにキレて、平気で人を殺す。娘どもは家出して、金の為に援助交際する。若者どもの頭はサル並みだ。若者さえいなければ、世の中もっと過ごしやすくなるというのに!」

「けへへぇ! そうかい、そぉうかい、あんたは若者が諸悪の根源だと思っている・・・ よぉおくわかったよ、けへへへへ・・」

 次は、頭にパーマを、顔には度のきつい眼鏡をかけたおばさんに話しかける。その眼はぎらついている。

「あんた! この世の諸悪の根源はなんだと思うね?」

「あたしかい? ふん、そんなの決まってるじゃないか! アラブ諸国だよ! あいつらが原油の値段を引き上げるから、こうして私らが苦労してるんじゃないか! 自分たちだけ儲けやがって、ふん! テロはやるし暴動は起こすしで、いいことなんかひとつもしないじゃないか! 野蛮だよ、野蛮! アメリカは一体何をしてるんだい! 核ミサイルいっぱい持ってるんだから、あのへんにぶち込んでみーんなぶっ殺しちゃえばいいってんだよ! 全く!」

「ほーほー・・・ アラブ諸国ねぇ! けへけへっ なぁるほどねぇ、けへっけへっ!」

 なんと婆さんは、私に話しかけてきた。

「あんた! 諸悪の根源はなんだと思うね?」

 私は答えた。

「アル☆アルプラーゾ☆トッフィソタゾラるむッシュ☆プロチ☆見るな蟻蛙ピプラゾー☆ハロペリ鰻鯛鮟鱇ちゃん」

「けひゃあ! アル☆アルプラーゾ☆トッフィソタゾラるむッシュ☆プロチ☆見るな蟻蛙ピプラゾー☆ハロペリ鰻鯛鮟鱇ちゃんかい、そうかい、そうかい、けへけへけへけけけ」

 い、言われた!

 私はひとりで、敗北感を味わった。


空気読め

「ここによォーッ 手榴弾ならあるんだけどよォーッ! 今からこれで集団自決しようぜェ、みんなさァー」

「そうだなもう死ぬしかねェぜ。死のう死のう」

「ばっ 馬鹿野郎っ ここで待機の命令があっただろうが!」

「待機ってことはさァーッ もう俺らの負けじゃね? 事実上?」

「てかてめー、口挟んできてんじゃねぇよ、今さー、せっかく死のう死のうってことで場が盛り上がってんのにさ、どうしてそういう冷めること言うわけ? 空気読めよな!」

「そうだよ、全くだよ、空気読め。友達いなくなるぜ」

「自決するっつー空気読め」

「空気読め! 空気読め!」

「誰が自決なんかするか! 俺には妻も子もいるんだよッ! 生きて帰るって約束したんだ!」

「うっぜーうぜー まじうぜー 約束とかうぜーし」

「妻とかまじきめぇ! 変態! 非国民!」

「腰抜け!」

「てかてめー、まじ最初に死ね。まじ死ね」

「お前が最初に死ぬっていう空気になったから、空気読め!」

「ぶっ殺せ!」

「銃剣を刺せ!」

「がっ!!!」

「ひゃはは 死ね死ね!」

「空気読まなかったてめぇが悪りいんだぜ! 償いやがれ!」

「おいっ てめっ 俺の方に血を吹き出すんじゃねぇ!」

 

「あーあ KYも殺したことだし、じゃあ死ぬか」

「そーだな、ぶっ飛ぼうぜ!」

「1分後には俺らみんな肉片だなァ!」

 場は最高に盛り上がっている。

「はいみなさんピンはつかみましたかー?」

「はーい」

「それじゃみんなで一斉に抜いて死にましょう! はい、あ、3、2、1と!」


空気読め2

「はい、上田ですー」

「・・・充助だけど」

「なんだよ充助か。どうした?」

「なぁ父さん、俺って協調性ないのかなぁ」

「なんでそう思うんだ?」

「今日俺の友達とか仲間とか、そういう人達に言われたんだ・・・すごくいい人たちなんだけど・・・」

「まぁ社会ん中で生きていくにはな、周りの人と協調してやっていくってことも必要だからな。そうやってうまくやっていくというか。自分勝手なことやってると人生うまくいかないからな。自分の欲求を抑えるべきときには抑えないと」

「父さんもそう思う?」

「そう思うよ。誰だってそう思うよ」

「そうか、わかった。じゃあ・・・ そうしてみる。もっと周りの人と協調するようにするよ」

「よかった。それなら父さんも安心だ。それで大丈夫?」

「うん、もう大丈夫」

「それじゃあな、おやすみ」

「ありがとう、おやすみ」

 

―次の日― 友達とか仲間と会う。

仲間A「上田君、来てくれたか」

上田「はい、やっぱり考え直したんです。僕は自分勝手でした」

仲間B「それでいいんだよ上田君。私たちと一緒にいれば間違いはないからね」

仲間C「おい、そ、そろそろ、き、教祖様がお話しになるぞ」

教祖登場。歓声が集会ホールに湧き上がる。

教祖「えー、・・・モゴモゴ・・・ えーと、・・・モゴモゴ・・・

明日はついに、モグモグ・・・、地下鉄にダイオキシンを撒き散らす日です!」

ホールいっぱいの仲間たち、さらに盛り上がる。

教祖「しかしですね、モゴモゴ・・・、名誉ある実行者になるはずだった、えーと、ぱうっちだっけ? 名前忘れちゃったけれども・・・モゴモゴ・・・、まぁいいや、ぱうっちということにしよう・・・ その人が行方不明になってしまいました! 連絡もつきません!」

仲間たち「なんだって!」「あいつめ!」「裏切り者だ!」「自分もダイオキシンを吸うことになるから逃げたんだ!」

仲間A「ぱうっち、なんと愚か者よ・・・」

仲間B「見つけだして生贄にするべきだねこれは」

仲間C「そ、そうだ、ほ、骨まで粉にしてやる!」

上田「全くその通りですね!」空気読んだ!

教祖「えーとね、モゴモゴ・・・ まぁぱうっちはあとで見つけ出して殺してね、地獄に落ちるようお祈りするからね、みんな安心してね。モゴモゴ・・・それでね、明日の実行者がね、いなくなっちゃったから、ここはひとつ、若い新入りの誰かがね、はい僕やりますという風にね、空気を読んでね、志願してくれるとね、モゴモゴ・・・ ありがたいんだけども。名誉ある実行者はね、あの、天国とね、50億年後の来世で、幸福で栄光あってみんなに尊敬される人物に生まれ変わって周りの人とうまくやっていくことができるとね、私の書いた教典にもあることだし」

上田「はい僕やります!」空気読んだ!

教祖「あ、いた。誰か知らんけど。よかった。じゃあ決定」

仲間A「いいぞ上田君! 協調性がある!」

仲間B「空気読んでるね!」

仲間C「き、君は、め、名誉ある、じ、実行者になったのだ!」

 父さん、僕は天国でも来世でも、周りの人とうまくやっていけそうです。

 


プロのプロデューサーからの伝達

 次回の右脳を鍛えるクイズ番組では、東大生を出演させようと思う。むろん視聴者は、東大生が番組内で間違え、大恥をかくことを期待している。視聴率のためには、もちろんこの期待に応えなければならない。

 それにより、視聴者が東大生へ抱くイメージが悪くなっても、それは私達の責任ではない。

 だめな東大生のイメージといえば、勉強ばかりしか能がなく、親の期待に応えて勉強し、入学したとたんに生きる目標を失い、自分でものを考える能力はまるでなく、何かに感動することもできず、そのくせプライドだけは高く、楽しく遊ぶ方法を知らず、精神的には幼稚なままテストの点数だけが大人になったというタイプだ。

 むろん、東大生の多くはそうではない。彼らは実に聡明で、活力に溢れ、人を思いやる気持ちがあり、精神力も強く、友達も多くいる。

 しかし、我々はプロの番組スタッフだ。視聴者の期待に応えなければならない。よって、私は君に頼みたいと思う、だめなイメージを体現したような東大生を見つけ、つれてくることを。

 東大生でない人間を、東大生だと偽るのは、倫理的によくない。従って、本物の東大生の中から探してくること。


反抗期のビデオ

 家庭科の授業。ビデオを見る。

 回転寿司のシーン。両親と、小6の男の子と、小2の女の子。

 両親は割り箸を割った。子どもにも割り箸を薦める。女の子はとったが、男の子は「僕はいいよ」と言う。

男の子「手でつかんで食べたい。そのほうが粋なんだ! さっき、手で食べるためにちゃんと手を洗ってきたんだ」

母親「ちゃんと箸で食べなさい。そのために割り箸がここに置いてあるんだから」

男の子「割り箸を使うかどうかは客の自由だよ」

父親「どうして箸では食べられないんだ? お父さんもお母さんも、ほらチエだって箸を使ってるじゃないか」

男の子「でも僕は手で食べたい。粋でかっこいい。そのほうがきっと美味しいんだ」

母親、大声で「どうしてそんなわがまま言うの! みんな箸で食べてるでしょ!!」

女の子は両親の剣幕に驚き口を開け沈黙している。

父親「そうだぞ、お母さんの言うことをちゃんと聞きなさい。どうして聞かないんだ? わがまま言わないでちゃんと箸で食え」

男の子「今日は手で食べようって楽しみにして来たのに! 手で食べたいよ!」

 

ナレーション「親の言うことに、理由なく反発する。これが、反抗期です」

 

 シーンは、回転寿司を食べ終わった後の、駐車場へと移る。

 男の子はしょぼんとしている。両親は不機嫌そうである。女の子はどうしていいかわからない雰囲気である。

母親「あー せぇっかく回転寿司に来たのに、ぜぇんぶヨシタカのせいでつまんなくなった! あーああーつまんなかった!!」

父親「そうだぞ、ヨシタカのせいで、せっかくの寿司もゲロまずだったな」

女の子チエは、両親の味方に付く。「お兄ちゃん、どうして箸で食べなかったの」

母親「ヨシタカのことは二度と回転寿司には連れてこない! 二度と連れてこないからね! ヨシタカがいるとせっかく楽しいはずの回転寿司が糞つんっっまんなくなるから! 家で留守番してカップ麺でも食ってろ! あーああー お前なんか生まなきゃよかった! いいんだからね! 今からでも施設に預けたっていいんだからね!」

 

ナレーション「反抗期には、毅然とした態度で臨みましょう」



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