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床のからぶき

床のからぶき

 

 小学校の掃除の時間に、雑巾がけという仕事があるのと思い出した。

 汚れきった雑巾を使って、床を乾拭きするのだ。雑巾は表裏の区別なく使われている。雑巾に添える手が触れる面と、床に押し付けられる面に区別がない。

 とにかく汚かった。

 なぜあんなことをしたのだろう?

 それは必ず手で行われなければならなかった。上履きで雑巾を踏んで、スケートするように床を拭いてはいけなかったのだ。もしそうすると、先生や先生の言いなりになっている児童は、俺に怒りの声や批判を容赦なく浴びせたものだった。彼らはそういう機会を決して逃すことはないのだ。いつも目を光らせ、待ち構えている。スケートしたほうが、体重を乗せて雑巾を床に押し付けることができるのだから、効率がいいと思うのだけれど。何より手が汚れない。   

 でもあそこでは非効率と無意味性と不快感こそが美徳になっているらしかった。カエルみたいなポーズからスタートし、四つん這いになって床を拭くように強要されていた。そうとも、ただ床を拭くだけではいけないのだ。拭き方すら決められていた。正しい拭き方をしなくてはいけない。今となって考えれば、明らかにヒトのとる姿勢ではないと思う。当時はそんな雑巾がけが、掃除の時間中20分間、毎日繰り返されていた。それは屈辱だった。それは拷問だった。 

 あの汚い雑巾は、毎日毎日繰り返し使用され、決して洗われることがなかった。何年分もの化石みたいな汚れがしみこんでいた。布の繊維の隙間全てに汚れがこびりついて同化しているような雑巾が、平然と現役で使用されていた。それは綿ではなく汚れをかき集めて凝縮して作られたもののようだった。実質的な成分は本当に汚れだったのかもしれない。世界中のあらゆる種類の汚れをコレクションし、かき集めて、雑巾の形にしたものだったのかもしれない。表も裏も、その間の層も、汚れがびっしりと詰め込まれていた。押し込まれていた。

 汚い雑巾で汚い床を拭いていた。あるいは雑巾の汚れを床にこすり塗りたくりつけていた。何往復もしていた。惨めだった。意味のないことだった。そこまでする価値がみじんも見出せない徒労だった。徒労とわかっていても、しろと命令された。みんなは従っていた。言われた通りに従っていた。奴隷みたいに従っていた。そこには、人間の尊厳なんてものは存在しなかった。雑巾のほうがもちろん偉かった。

 あの雑巾たちを洗濯機に放り込んで洗濯するというアイディアがなぜ先生たちに浮かばないのか俺にはわからなかった。それがわかるほど俺の知能は高くなかった。洗濯すれば、せめて表層のそのまた表層くらいはきれいになるかもしれなかった。そのようなささやかな清潔さもそこでは許されていなかった。それはもう掃除とはいえなかった。ただの嫌がらせだった。ただの儀式だった。毎日飽きもせず何度も繰り返されていた。

 刑務所で、悪い看守が囚人に命令する。

「さあ、この木製コンテナを運べ! 中にはまだ乾いていない臭え豚の糞が入ってる! 糞の中には豚の寄生虫がうじゃうじゃと入ってる! 木製コンテナにエキスが滲み出るのが最高だろ! 抱きかかえろ! 貴様らの服にもエキスが染み渡り、肌にべっとりと貼り付くようにな! そして、この部屋のあちら側まで運んだら、またこっちに運んで戻って来い! それを8回繰り返せ! 終わったらまた8回! 次もまた8回! 俺がいいと言うまでやるんだ! さあキリキリ動け! ぐずぐずするなこの糞ゴミ共どもが! またこの俺様に歯を折られたいか!」

 俺はそんな気分だった。

 掃除の時間が始まると、もう逃げられないのだ。これから雑巾がけをしないといけないのだ。例外は許されない。命じられたら命に代えても実行しなくてはいけないのだ。だってそうでしょう、「みんなやってるのにどうして」。

これから20分それが延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、延々と、ただただ繰り返されるのだ。何度も何度も汚れた雑巾で床を拭かなくてはならないのだ。20分間ずっと雑巾がけ、そう思うと眼球がくるりと上を向いた。20分後は、ずっと先のことに思えた。


駅地下鮫

 私は、家族連れの観光客溢れる、駅前の広場へと歩いていった。

 でも駅の様子はいつもと多少違っていた。そこで私はああこれは映画なんだなと理解した。これは駅前広場を舞台とした映画なのだ。私が歩いているこの場所は、きっと大きなセットなのだ。

 例えば、少林寺を舞台にしたカンフー映画だって、本物の少林寺をセットに撮るわけにいかないこともあるだろう。そういうときには本物に似せたセットの上で撮影をする。それと似たように、これは駅とその広場に似せて作られたセットなのだろうと私は思った。

 これが映画である証拠が速やかに現れた。広場の岩やら、周りのバスやら車やらが、ツイスターに巻き込まれた牛のように、広場を中心に飛びまわり始めたのである。まるで洗濯機の中のようだ。さらに岩やバスは、大根のようにスパスパと、きれいに8つくらいに切れた。切られた切片、といってもそれぞれが大きいので切片というイメージとは程遠いが、切片の断面は非常に美しかった。本当にすっぱりと、真空の刃で切ったかのごとくであった。この巨大な切片が洗濯もののように広場を中心に回転して飛んでいるのだから、ますます映画である可能性は濃厚であろう。これがCGでないはずがない。私は、きっとこのシーンはこの映画の見せ場なのだろうと思った。

 そのときさらなる異変が襲いくる。足場を構成していた地面さえもが、正四角柱となって浮き上がってきた。底面の辺の長さは2mくらいであろうか。縦に長い。四角にこれまたすっぱりと切り分けられ、ランダムにゆっくりと地面を離れていくのだ。大きな四角い井戸がくりぬかれていくようだ。広場にいた観光客たちは、自分の乗っている正方形が浮き上がってくるのに気づくと、隣のまだ浮き上がっていない正方形に飛び移るのだった。正四角柱が地面から抜けていく様は、永久歯が抜けていく様子に似ていた。

 さて正四角柱が抜けたあとの場所には、なんと水が満たされていたのだった。観光客たちは残った足場に集められた。足場は島のようであり、もちろん広場が崩壊する前よりも面積はずっと少ないので、島の上の人口密度は高くなっていた。岩やバスの切片の竜巻は、それ自体の遠心力で遠くへ散ってしまったらしく、抜けた正四角柱は上空へとゆっくり上昇していった。

 水の色は、少しだけ緑色の入った青で、きれいな水であるらしかった。その証拠にサメたちが泳いでいる。ホオジロザメであった。

 ホオジロサメはいきおいをつけて泳ぎ、頭と歯を島に上陸させ、島に避難している観光客たちを水中にさらっていった。サメの口の中に、人間一人が余裕で収まり、そしてサメは水中へと帰っていった。食べられた者を、残りの家族が呼んだ。「おかあさーん!」とか「おとうさーん!」とか、あるいはそれぞれの子どもの名前を呼ぶ声は広場中にあった。あるいは、例えば家族3人が一口の中に収まることもあった。そういうときには、誰も家族が残らず、名前を呼ぶ者もいなかった。せっかく家族で観光にやってきたのに、サメに食べられるとはとんだ災難である。

 そのとき水中に黒い影が一つ。速い。ホオジロザメよりも小型のその影は、頭から二つに分裂した。そこで私は、こいつはあのバスや岩のような性質を持っているのかもしれないと思った。二つに分裂した黒いものも、それぞれがサメのような容貌をしていた。ホオジロザメはもちろん白い。それとは対照的であった。ただ、この2匹の黒いサメのような泳体からは、生き物らしさが感じられなかった。ヒレを持ち魚のように泳ぐのだが、どうも生き物のフリをした何かのようであった。

 黒い泳体は、自身の身体に刃を持っているらしく、ホオジロザメをすれ違いざまに斬った。観光客たちは、人類の味方が現れたのかと歓喜した。私も、黒い泳体を味方だと思った。黒い泳体は、ホオジロザメを尾のほうから、すぱりすぱりと均等な間隔で断っていった。巨大なホオジロザメは、尾の方を斬られたときには痛みに怒り狂い身体をよじったが、それも3断ちくらい斬られていたときには、もうよじるための尾は消失していた。斬られた尾は丸太のように水中を漂った。黒い泳体による斬撃が腹まで達したときには、もうホオジロザメは動けなくなっていた。泳体は一匹のホオジロザメを頭まできれいに断ちつくした。8等分くらいにされたホオジロザメの身体は、やはり丸太のようにぷかぷかと水中を漂っていた。最初は尾から頭へ順番に直線に浮かんでいた身は、波に従って制御をなくし、順番はばらばらに、各身は自由に浮かんだり沈んだりしていった。

 黒い泳体によるホオジロザメの解体は何しろ早く、次々と仕留めていった。ホオジロザメのほうは血の匂いに誘われて集まってくるらしく、ここ付近の個体数は一向に減らなかった。観光客も相変わらず食べられ続けていた。黒い泳体の活躍を見ようと島から頭を出した人がばくんと食べられたのを私は見た。

 ホオジロザメの主とも思われるほどの超巨大な個体が、駅本館に避難していた人々を襲っていた。頭を陸に上げるストライクの射程距離は長かった。黒い泳体は2体がかりでこの主を血祭りにあげた。この主は何しろ巨大で、泳体の刃でも先ほどのように完全に断ち斬ることができないらしく、体表面を浅く何度も切り込むようにして血祭りにあげた。ぱっくりと割れた傷口から水が入り込み、主は動かなくなった。

 黒い泳体は人類の味方のようにみなされたが、どうやら根っからの味方ではなかったらしい。もし本当に味方ならば、各ホオジロザメの急所を狙って攻撃し、最短時間で最大限のホオジロザメを殺し、最大限の観光客を救うはずである。しかしそうではなかった。黒い泳体は、もし殺すことだけが目的なら頭や首や腹を一刀両断すればよいところを、わざわざ遠回りして殺していた。まるで殺し方の美しさ、出来上がったホオジロザメの死体の美しさに酔っているようであった。人類は、たまたま彼らの獲物のホオジロザメの獲物だっただけのようだった。

 黒い泳体は、ホオジロザメの体表面にらせん状に斬り傷をつけてオブジェのようにしたり、ヒレを斬って泳げなくさせたものをしばらく喘がせ、そのあとで喉に一撃を加えてとどめをさしたりした。私はそのとき、ヒレを斬られて動けなくなっているサメはもう観光客にとって脅威ではないのだからとりあえず放って置いて、他のターゲットを効率よく狩って欲しいと思ったものだった。しかし黒い泳体は効率などまるで考えていないようで、様々な殺し方を試していた。駅前の水中には、ヒレを失ったサメや、尾を失ったサメなどが泳いでいた。また、実に様々な方法で殺された、実に様々なサメの死体が漂っていた。

 黒い泳体はあるとき、一匹のホオジロザメの正中線を一刀両断した。縦断面が美しく現れた。胃袋から、人体がまるごと浮上してきた。人体は、表面がすでに消化されていた。全体に黄色っぽかった。特に私の印象に残ったのはその唇で、ぼろぼろの海草のようになって、間に前歯が見えていたことである。

 黒い泳体はこの殺し方を覚えたらしく、胃袋の中の人体をサメと一緒に斬ってしまわないで、人の形を保存して斬る殺し方を始めた。

 するとサメが殺されるに従って、人体が浮上して来る。消化の程度はそれぞれ異なった。溺死したばかりのもあれば、肉が全てなくなりバラバラの骨にまで消化されたものもあった。

 浮上するにつれて、それぞれの人体を指差し、島の上で生存していた家族は、「あ! あれはお父さんだ!」とか「あれはお母さんだ!」、と叫んだり、または「あれはOOだ!」と子どもの名前を叫んだ。誰からも指名されない人体もあった。どこかに自分の家族が浮上してこないかと見回し探している家族がいる。

 今、水は、黄色く濁っていた。きっと血が薄まり、何かの具合で赤ではなくて黄色になったのだろう。

 島の上の観光客達は、水に手を入れてぱしゃぱしゃやって、浮き上がってきた人体を自分の島に引き寄せ、引き上げていった。自分の家族を引き上げている者もいるし、誰のかわからない人体をわけがわからないまま引き上げた者もいる。

 自分の家族の人体を自分のいる島の遠くに見つけた家族は、家族の人体が浮かんでいる近くの島の人に大声でお願いするのだった。「すみませーん、そこに浮かんでいるのは、私の夫なんです。引き上げておいてくださいますかー!?」というように。

 引き上げようとする手に噛み付くサメはもういなかった。

 観光客達はそれでも、もしかしたら噛み付かれるかもしれないと恐怖しながら引き上げているようにみえた。

あらかたの、人の形をした人体が引き上げられると、ばらばらになった骨が水面に浮かんでいるのが目立った。ごぼごぼと、黄色い水中を、さまざまな形の骨が浮上してきた。もはや、水面の面積の半分は骨であった。人間には215本だかの骨があることを私は思い出した。

 すると一部の観光客達は、各々の島の近くに漂っている骨を水面から拾い上げて、いい形をしたものを集めだした。拾い集める者は、子どもが多かった。子どもはそういうのを拾って集めるのが大好きなのだ。宝石でも見定めるようであった。

 いい形でないのもあるらしくて、一度手にとるけれど捨てる人も多かった。ちょうど、河原で水切り投石をするのに適していそうな石を捜し、拾ったり捨てたりすることを繰り返す様子に似ていた。

 私は、ああ、もしかしてこの水を黄色くした血の中には、血液で感染する病気があるかもしれないな、と思った。それなのに、骨を拾っている人は感染するのが怖くないのだろうか? 人間の手には気付かないほどの小さな傷があるかもしれない。感染の可能性を考慮していないのか、それともいい形の骨を集めるのが大切なのか。とにかく、私には感染が大変に恐ろしく思われた。とても私には、この黄色い水の中に手を突っ込んで骨を集めるなんていう真似はできないと思った。


けへけへ

 路上を、汚くぼろぼろの服を着た婆さんがうろうろしている。

「けへーっ へっへっへっへっ・・・」

 見るから怪しい。霧のスタンドとか持っていそうだ。

 通りすがりの、スーツを着た、若いサラリーマン風の男に声をかける。

「けへけへぇ! おいあんた! 世の中の諸悪の根源は何だと思うね? え? なんだと思うね?」

 男は驚いたが、ここで自分の意見を発表しなければならない使命感のようなものを感じた。

「諸悪の根源は、地球温暖化です! それがだめだから、世の中はこうしてだめになっていくんです! 日本の政治家が外交には弱気なのも地球温暖化のせい! 子どもの学力低下も地球温暖化のせい! 地球温暖化は、自分のことだけを考えて、私達のことなんか微塵も考えちゃいないんだ!」

「けへーっ へっへっへっ がほっ がほっ そうかい、そうかい・・・地球温暖化が諸悪の根源だと・・・ あんたは思うわけかい、けへーっへっへっへ・・・」

婆さんはサラリーマンにもう興味を失い、他の男に話しかける。こちらもスーツを着ている。だが初老で、頭は薄く、人生に疲れているような男だ。

「そこのあんた! そう、あんただよ! 世の中の諸悪の根源はなんだと思うね? 何だと思うね?」

 初老男はうつむいて、深刻そうな顔をして答えた。

「若者。若者ですよ。テレビのニュースも見なければ新聞も読まない、今だけ楽しければいいじゃんと遊んでばかりいる。家にひきこもったりニートでいたり、働いてもフリーターだ。選挙にも行かない。携帯電話ばかりいじっている。わけのわからん音楽を聴く。ジャラジャラとした金属を体中につけて、髪は染めるし、ピアスは開ける。すぐにキレて、平気で人を殺す。娘どもは家出して、金の為に援助交際する。若者どもの頭はサル並みだ。若者さえいなければ、世の中もっと過ごしやすくなるというのに!」

「けへへぇ! そうかい、そぉうかい、あんたは若者が諸悪の根源だと思っている・・・ よぉおくわかったよ、けへへへへ・・」

 次は、頭にパーマを、顔には度のきつい眼鏡をかけたおばさんに話しかける。その眼はぎらついている。

「あんた! この世の諸悪の根源はなんだと思うね?」

「あたしかい? ふん、そんなの決まってるじゃないか! アラブ諸国だよ! あいつらが原油の値段を引き上げるから、こうして私らが苦労してるんじゃないか! 自分たちだけ儲けやがって、ふん! テロはやるし暴動は起こすしで、いいことなんかひとつもしないじゃないか! 野蛮だよ、野蛮! アメリカは一体何をしてるんだい! 核ミサイルいっぱい持ってるんだから、あのへんにぶち込んでみーんなぶっ殺しちゃえばいいってんだよ! 全く!」

「ほーほー・・・ アラブ諸国ねぇ! けへけへっ なぁるほどねぇ、けへっけへっ!」

 なんと婆さんは、私に話しかけてきた。

「あんた! 諸悪の根源はなんだと思うね?」

 私は答えた。

「アル☆アルプラーゾ☆トッフィソタゾラるむッシュ☆プロチ☆見るな蟻蛙ピプラゾー☆ハロペリ鰻鯛鮟鱇ちゃん」

「けひゃあ! アル☆アルプラーゾ☆トッフィソタゾラるむッシュ☆プロチ☆見るな蟻蛙ピプラゾー☆ハロペリ鰻鯛鮟鱇ちゃんかい、そうかい、そうかい、けへけへけへけけけ」

 い、言われた!

 私はひとりで、敗北感を味わった。


空気読め

「ここによォーッ 手榴弾ならあるんだけどよォーッ! 今からこれで集団自決しようぜェ、みんなさァー」

「そうだなもう死ぬしかねェぜ。死のう死のう」

「ばっ 馬鹿野郎っ ここで待機の命令があっただろうが!」

「待機ってことはさァーッ もう俺らの負けじゃね? 事実上?」

「てかてめー、口挟んできてんじゃねぇよ、今さー、せっかく死のう死のうってことで場が盛り上がってんのにさ、どうしてそういう冷めること言うわけ? 空気読めよな!」

「そうだよ、全くだよ、空気読め。友達いなくなるぜ」

「自決するっつー空気読め」

「空気読め! 空気読め!」

「誰が自決なんかするか! 俺には妻も子もいるんだよッ! 生きて帰るって約束したんだ!」

「うっぜーうぜー まじうぜー 約束とかうぜーし」

「妻とかまじきめぇ! 変態! 非国民!」

「腰抜け!」

「てかてめー、まじ最初に死ね。まじ死ね」

「お前が最初に死ぬっていう空気になったから、空気読め!」

「ぶっ殺せ!」

「銃剣を刺せ!」

「がっ!!!」

「ひゃはは 死ね死ね!」

「空気読まなかったてめぇが悪りいんだぜ! 償いやがれ!」

「おいっ てめっ 俺の方に血を吹き出すんじゃねぇ!」

 

「あーあ KYも殺したことだし、じゃあ死ぬか」

「そーだな、ぶっ飛ぼうぜ!」

「1分後には俺らみんな肉片だなァ!」

 場は最高に盛り上がっている。

「はいみなさんピンはつかみましたかー?」

「はーい」

「それじゃみんなで一斉に抜いて死にましょう! はい、あ、3、2、1と!」


空気読め2

「はい、上田ですー」

「・・・充助だけど」

「なんだよ充助か。どうした?」

「なぁ父さん、俺って協調性ないのかなぁ」

「なんでそう思うんだ?」

「今日俺の友達とか仲間とか、そういう人達に言われたんだ・・・すごくいい人たちなんだけど・・・」

「まぁ社会ん中で生きていくにはな、周りの人と協調してやっていくってことも必要だからな。そうやってうまくやっていくというか。自分勝手なことやってると人生うまくいかないからな。自分の欲求を抑えるべきときには抑えないと」

「父さんもそう思う?」

「そう思うよ。誰だってそう思うよ」

「そうか、わかった。じゃあ・・・ そうしてみる。もっと周りの人と協調するようにするよ」

「よかった。それなら父さんも安心だ。それで大丈夫?」

「うん、もう大丈夫」

「それじゃあな、おやすみ」

「ありがとう、おやすみ」

 

―次の日― 友達とか仲間と会う。

仲間A「上田君、来てくれたか」

上田「はい、やっぱり考え直したんです。僕は自分勝手でした」

仲間B「それでいいんだよ上田君。私たちと一緒にいれば間違いはないからね」

仲間C「おい、そ、そろそろ、き、教祖様がお話しになるぞ」

教祖登場。歓声が集会ホールに湧き上がる。

教祖「えー、・・・モゴモゴ・・・ えーと、・・・モゴモゴ・・・

明日はついに、モグモグ・・・、地下鉄にダイオキシンを撒き散らす日です!」

ホールいっぱいの仲間たち、さらに盛り上がる。

教祖「しかしですね、モゴモゴ・・・、名誉ある実行者になるはずだった、えーと、ぱうっちだっけ? 名前忘れちゃったけれども・・・モゴモゴ・・・、まぁいいや、ぱうっちということにしよう・・・ その人が行方不明になってしまいました! 連絡もつきません!」

仲間たち「なんだって!」「あいつめ!」「裏切り者だ!」「自分もダイオキシンを吸うことになるから逃げたんだ!」

仲間A「ぱうっち、なんと愚か者よ・・・」

仲間B「見つけだして生贄にするべきだねこれは」

仲間C「そ、そうだ、ほ、骨まで粉にしてやる!」

上田「全くその通りですね!」空気読んだ!

教祖「えーとね、モゴモゴ・・・ まぁぱうっちはあとで見つけ出して殺してね、地獄に落ちるようお祈りするからね、みんな安心してね。モゴモゴ・・・それでね、明日の実行者がね、いなくなっちゃったから、ここはひとつ、若い新入りの誰かがね、はい僕やりますという風にね、空気を読んでね、志願してくれるとね、モゴモゴ・・・ ありがたいんだけども。名誉ある実行者はね、あの、天国とね、50億年後の来世で、幸福で栄光あってみんなに尊敬される人物に生まれ変わって周りの人とうまくやっていくことができるとね、私の書いた教典にもあることだし」

上田「はい僕やります!」空気読んだ!

教祖「あ、いた。誰か知らんけど。よかった。じゃあ決定」

仲間A「いいぞ上田君! 協調性がある!」

仲間B「空気読んでるね!」

仲間C「き、君は、め、名誉ある、じ、実行者になったのだ!」

 父さん、僕は天国でも来世でも、周りの人とうまくやっていけそうです。

 



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