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バトルボーラーはるか

 

第三集

氷の美少女

 

 

第1章

波乱の雨

 

 

作・Ψ (Eternity Flame)


 「今年は雨が多いねー。」

 梅雨時(つゆどき)を前に、前例のない大雨が連日に渡って降(ふ)っている。そんな空を見上げながら沙織はため息まじりにそう言った。

 「そんなコトより急がないと遅刻しちゃうよ!」

 そんな沙織をさておき、登校(とうこう)を急かすはるか。陰気(いんき)な雨の日々に、気分まで下降気味(かこうぎみ)の沙織が少し寝坊(ねぼう)したため、気まじめなはるかは授業に遅れまいと焦っているようで、天候など気にもしていない様子。

 「やっぱさーコレって地球があったかくなってるせいかなー?」

 「えっ!?…もーッ、急いでよ!」

 「あっ…ちょっとー。」

 「何!?…忘れ物でもした?」

 「パン食べながら行っていーい?」

 「もーッ…早くしないとホント遅刻しちゃうよ!」

 朝食もロクに取らせてもらえないのかと、沙織は空腹に辛(つら)そうな顔をした。さすがに可哀想(かわいそう)に思ったのか、はるかは引き返すのを許(ゆる)した。しかし、パンをかじりながら一緒に登校するのが恥(はずか)しいのか、はるかはバスの中で、ムスッとしていた。大雨はやがて雷雲(らいうん)となり、空に鮮烈な光と轟音(ごうおん)を響かせ始めた。

 「…うぅ…怖い。」

 「ハハハ…こんなに大っきくなったのに、はるかはまだ雷が怖いんだねー。」

 雷の轟音に身を縮こませ畏(おそ)れるはるかを、あっけらかんとした感じで笑う沙織。チャン・リンシャンとの戦いで、雷を嫌と言うほど目にしていたのに驚いた風ではなかったが。それは壮絶(そうぜつ)な戦いの中で極度の緊張状態にあったからであろうか。

 死線に身を置く日々。こんな他愛(たあい)もないひと時が、なんだかんだ言いつつも、はるかは好きであった。傘(かさ)を差しながらバス停へと駆ける二人を後ろから呼び止める者がいた。


「おーい沙織ちゃーん!」

 その声の主は正友であった。

「あっ正友さん!?おはよーございまぁーす。」

「やっぱり沙織ちゃんだ。おっ!?はるかも一緒だったのか。」

「“も”とは何よ。何か用なの?」

「いやっ、何もねぇよ。」

「それじゃ、わたし達急ぐから。」

「おい、待てよ。オレも一緒にバスに乗るからな。」

「アンタ仕事は?」

「休みだよ。」

「ふ~ん…こんな雨の日に街中(まちなか)にナンパでも行くつもり?」

「バカッ…んなワケねーだろがッ!…それよりも急がなくていいのか?」

 正友の話に気を取られていたはるか。その間にバスが停留所に着いていた。

「あーッ!!」

 はるかは慌てて駆け出した。沙織と正友も後を追ったが、はるかが先に行ってバスを喰い止めるだろうからと思い、ほどほどに小走りをしていただけであった。

「何とか間に合ったねー。」

「そだな。」

 沙織と正友は仲良くそう言いあったが―

「んもうっ…なんでわたしがびしょ濡れになんなきゃならないのよ!」

 はるかは自分達を引き留めた張本人(ちょうほんにん)である正友に怒りをぶつけた。

「…走ったからだろ?」

「誰のせいで走ったと思ってるのよ!」

「まぁいいじゃんか。皆でバスに乗れたんだからよぉ。それにびしょびしょになったワケじゃねぇんだから、固ぇコト言うなよ。」

 はるかが怒ったのは雨に濡れたからではなく、髪のセットや身だしなみが乱れたコトに対してであったのだが。満員のバスで大声をあげるのはみっともなかったので怒りを鞘(さや)に納めた。


「ところで正友さんはドコに行くんですかぁー?」

 一瞬、思い詰めたような顔をした正友は、

「…最近な。街中で不審者(ふしんしゃ)が出没(しゅつぼつ)してるらしくてな。で、オレが治安を守るという名目でパトロールしてるってワケだ。」

 と沙織の質問に答えた。

「へぇ~スゴイですねー。」

「エヘへへへ。いやぁ~…まぁ…そうかなぁ…。」

「嘘でしょ。」

 呆(あき)れた風な顔をしてはるかがそう言った。

「えっ!?…なんで分かったんだ?」

「顔を見れば分かるわよ。」

「え~っ。嘘だったんですかー?」

 沙織は、嘘をつかれたのが悲しいというか残念だと言わんばかりの視線を、正友に送った。

「うっ…いや、まぁ…おいっはるか!」

「何よ。」

「お前の学校、その停留所じゃね?」

「そうよ。だからどうしたの?」

「じゃー早く行けよ。遅刻するぞ!」

「まだ停留所(ていりゅうしょ)に着いてないじゃない。」

「だから前の方に行っといて着いたらすぐ降りろよ!」

「なんでアンタがそんな事。指図(さしず)すんのよッ。」

 正友は、はるかと会話する事で、沙織の非難(ひなん)の視線を躱(かわ)そうとしていた。だが、正友が考えているほどには沙織は今のやりとりを気にしてはおらず、ほどなくしてバスがはるか達の学校の前に着いたので、二人は降りて行った。


「ふぅ~アイツ勘(かん)だけはやたら鋭くなって…まるで昔のまゆみ姉さんみたいだな。ま、それはさておき今日はドコに行こっかなぁ♪」

 正友は踊り出しそうな程のルンルンなステップで、街中(まちなか)のマックへと入って行った。しかし、あまり長居もせず、そそくさと店から出て来てしまった。両手にはテイクアウトの袋を抱え、顔はムスッとしていた。

「ちぇッ…あの娘(こ)辞(や)めちゃったのかなぁ…。」

 どうやら正友にはお目当ての店員がいたようで、どしゃ降りの雨の中、足しげく通っているようであったが、その娘はいないので不機嫌(ふきげん)なようであった。

「ま、いっか。次行ってみよう♪」

 誰に向かって喋(しゃべ)っているのか分からないが、正友はハンバーガーを食べながらそう呟(つぶや)いて気分を立て直し、次の場所へと歩いて行った。

その頃―

「えぇ~ッ!?」

 はるかは教室で驚(おどろ)きの声を上げていた。

「せっかく学校に来たのに…。」

 ホームルームで担任が開口(かいこう)一番(いちばん)に、大雨洪水警報の為に休校になったことを告げ、はるかは残念がっていた。他の生徒はラッキーといった感じで喜んでいたが。一般の人間とは違った生活を送っているはるかにとって、学校こそが平凡(へいぼん)な日常に浸(ひた)れる安息(あんそく)の場であり、何気(なにげ)ない周りの雰囲気(ふんいき)が好きでもあったのである。

 だが、担任は大雨なのであるから真っ直ぐに家路につくようにと念を押すと、そっけなく教室を後にした。

「はぁ~…何だったんだろ。」

 学校での平凡な日常を満喫(まんきつ)できないなら、せめて街にでも繰(く)り出して社会の中に佇(たたず)んでみたかったが、それすらも許されないと言われ、がっかりした様子のはるかであった。



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