アメーバ赤痢
■赤痢アメーバという原虫の感染に起因する疾患
アメーバ赤痢とは、赤痢アメーバという原虫の感染に起因する疾患。消化器症状を主症状としますが、それ以外の臓器にも病変を形成します。
世界各地でみられ、特に熱帯、亜熱帯での発生が多く、年間約5000万人の感染者、4〜10万人の死亡者がいると推定されています。日本においても、マラリアやトキソプラズマ感染症など他の寄生虫感染症に比べ、多くの感染者が発生しているので注意が必要です。
海外の流行地域で感染した人は少なく、男性同性愛者または知的障害者での感染がほとんどです。感染症法において五類感染症に指定されており、医師による届け出によると年間500〜600人の感染者、数人の死亡者があります。
赤痢アメーバは人、サル、ネズミなどの大腸に寄生し、糞便(ふんべん)中にシスト(嚢子〔のうし〕)を排出します。このシストに汚染された飲食物を口から摂取することで、次の人へと感染します。急性期の感染者よりも、シストを排出する無症候性の感染者が感染源として重要です。ハエ、ゴキブリを介した感染も起こります。
感染しても症状が現れるのは、5〜10パーセント程度。現れる場合の症状は、腸管アメーバ症と腸管外アメーバ症に大別されます。
腸管アメーバ症は下痢、粘血便、渋り腹、腸内にガスがたまって腹が膨れ上がる鼓腸、排便時の下腹部痛、不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイチゴゼリー状の粘血便を排出します。多くは、数日から数週間の間隔で増悪と寛解を繰り返します。盲腸から上行結腸にかけてと、S字結腸から直腸にかけての大腸に、潰瘍(かいよう)が好発します。まれに、肉芽腫(しゅ)性病変が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔(せんこう)したりすることもあります。
腸管外アメーバ症の多くは、腸管部よりアメーバが血行性に転移することにより、肝臓の膿瘍(のうよう)が最も高頻度にみられます。成人男性に多く、高熱、季肋部痛、吐き気、嘔吐(おうと)、体重減少、寝汗、全身倦怠(けんたい)感などを伴います。膿瘍が破裂すると、腹膜や胸膜、心外膜にも病変が形成されます。そのほか、皮膚、脳、肺に膿瘍が形成されることもあります。
■アメーバ赤痢の検査と診断と治療
腸管アメーバ症の症状を示す場合は、細菌性の赤痢、潰瘍性大腸炎、クローン病などと間違われることがあります。アメーバ赤痢は一般に全身状態がよく、増悪と寛解を繰り返すことがよくあるものの、腸の穿孔、腸管外アメーバ症などになると命にかかわるので、症状に気付いたら内科、感染症科などを受診します。
医師による診断は、糞便あるいは膿瘍液、大腸粘膜組織の中に、赤痢アメーバ原虫を顕微鏡下で確認することでつきます。同時に、赤痢アメーバの主要抗原蛋白(たんぱく)質を免疫酵素抗体法で検出したり、赤痢アメーバの遺伝子をPCR(DNA配列の断片を大量に増幅する分子生物学の手法)で増幅することにより、直接赤痢アメーバの存在を証明する方法が最も確実です。
また、発症者の血液の中に赤痢アメーバに対する抗体があるかどうかを調べる方法も一般的で、専門の研究、検査機関に一般の医療機関からでも依頼検査ができます。
治療では、メトロニダゾール(フラジール)、チニダゾールの経口投与が一般に有効です。重症の場合には、デヒドロエメチンの静脈注射も行われます。シスト保有者には、メトロニダゾールのほかにフロ酸ジロキサニドが用いられ、有効な場合もあります。放って置くと慢性化し、再発しやすくなります。
予防には、飲食物の加熱、手洗いの励行、適切な糞便処理が有効。また、シスト排出者との接触に注意する必要もあります。
胃潰瘍
■胃液によって胃の粘膜が傷付き、深い欠損を生じる疾患
胃潰瘍(かいよう)とは、強酸性の胃液によって胃の粘膜が傷付き、ただれて、深い欠損を生じる疾患。胃液で自らの粘膜が消化されてしまうという意味で、十二指腸潰瘍を含めて、消化性潰瘍とも呼ばれます。
欠損が浅い場合はびらんといいますが、潰瘍は欠損が粘膜固有層を貫いて、筋層まで深くえぐれたものです。十二指腸潰瘍が若者に多いのに対して、胃潰瘍は中年以降に多くみられます。
胃から分泌される胃液中の胃酸やペプシンと、この胃液から胃の粘膜を守る中性の粘液の分泌とのバランスが崩れ、胃液に対する胃粘膜の防御力が弱まることによって潰瘍が生じます。また、胃潰瘍の70~90パーセントで、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が発見されています。
つまり、ピロリ菌の感染などで胃の粘膜が傷付いて、胃液への防御力が弱まったところに、ストレスや過度の喫煙、暴飲暴食、刺激の強い飲食物などが誘因となって胃液の分泌が刺激されると、胃の粘膜が消化されて胃潰瘍が発症するのです。
症状としては、腹痛が代表的。食後少し時間が経過すると、みぞおちの痛みが起こり、背中の痛みも起こることもあります。痛みは潰瘍の活動期に起こり、安定期には無症状です。潰瘍の増悪期には、食後や空腹時を問わず痛むことがあります。そのほか、胸焼け、胃のもたれ、食欲不振、体重減少など多彩な症状を示します。
場合によっては出血を起こし、頻脈、冷や汗、血圧低下、気分不快、吐血、下血などの症状が出現します。出血量が多いと、ショック症状が現れ、生命に危険が迫ります。高齢者では、胃潰瘍による出血が心筋梗塞(こうそく)や狭心症の引き金になることもあります。
重度の胃潰瘍の場合は、胃壁の欠損が胃の外側にまでつながる場合もあり、これを穿孔(せんこう)といいます。激痛と吐血を起こし、やはりショック症状を起こします。
ピロリ菌は、胃の粘膜に生息する細菌で、1980年代の初めに発見され、胃潰瘍や慢性胃炎の発生に関係していることがわかっています。通常、胃の中は、胃酸が分泌されて強い酸性に保たれているため、細菌が生息することはできません。しかし、ピロリ菌は、胃の粘膜が胃酸から胃壁を守るために分泌している中性の粘液の中に生息し、直接胃酸に触れないように身を守っています。
ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を分泌して、胃の中に入ってくる食べ物に含まれる尿素を分解し、アンモニアを作り出します。このアンモニアも胃の粘膜に影響を及ぼし、胃潰瘍や慢性胃炎の原因の一つになると考えられています。ただし、ピロリ菌に感染している人すべてに、症状が現れるわけではありません。感染しても、自覚症状がない場合、そのまま普通の生活を送ることができます。
ピロリ菌に感染している人の割合は、年を取るほど高くなる傾向があり、20歳未満では9〜11パーセントなのに対して、40〜60歳では55~70パーセントとなっています。このように年齢によって感染率に違いがあるのは、育った時代の衛生環境に関係していると見なされています。
■胃潰瘍の検査と診断と治療
胃潰瘍と同様の症状を生じる疾患として、機能性胃腸症の頻度が最も高く、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、急性膵(すい)炎、慢性膵炎、胆石、胆嚢(たんのう)炎など、鑑別すべき疾患は極めて多くなっています。
医師による診断では、内視鏡検査やX線検査が行われます。内視鏡検査では、潰瘍の状態を観察し、疾患がどのレベルまで進んでいるかを観察します。X線検査では、潰瘍の輪郭、潰瘍の回りの粘膜や胃壁の様子を観察します。
そのほか、胃腸のどこかからの出血の有無を調べる糞便(ふんべん)潜血反応検査、胃液の量や酸の強さを調べる胃液検査を行うことがあります。
胃潰瘍の治療では、胃酸の分泌を抑え、胃の粘膜を修復する薬剤を服用します。薬剤は、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬(プロトンポンプインヒビター)など。
ピロリ菌に感染し、再発を繰り返している場合には、2~3種類の抗生物質を同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。2~3種類の抗生物質を用いるのは、1種類だけよりも効果が高いのと、その抗生物質に対する耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうのを防ぐためです。 プロトンポンプ阻害薬1種類と抗生物質2種類を組み合わせた3剤を、朝夕2回、1週間服用し続けることもあります。
出血性の胃潰瘍の場合は、内視鏡的止血法が多く行われるようになっています。そのため、従来の外科的治療は激減しています。穿孔の場合や、内視鏡的に止血、コントロールできない出血の場合は、外科的治療が行われます。
完治した後も再発を防ぐため、胃酸の分泌を抑制する薬や胃粘膜を修復する薬を継続して服用します。
日常生活では、過労やストレスを避けます。出血や胃痛など症状のひどい時は、禁酒、禁煙、またコーヒー、濃い紅茶や緑茶など胃酸の分泌を促進する飲み物を控えるようにします。
食事の量も控えめにして、少量ずつ、よく噛(か)んで、ゆっくりと食べます。空気も一緒に飲み込み、おなかが張ってしまう早食いは、好ましくありません。また、食事は1日3食、決まった時間に摂取します。長時間、食事をしないと、その間は胃酸が薄められず、胃に負担がかかるからです。
胃の粘膜を保護する食材としては、ビタミンUを含むキャベツ、ムチンを含むオクラやヤマイモ、加熱しても壊れにくいビタミンCを含むジャガイモなどが挙げられます。また、でんぷん質を分解する消化酵素を含んでいる大根や、豆腐、鶏のささ身、牛乳、豆乳など消化のよい食材もお勧めです。
逆に、繊維質が多い物、焼き肉などの脂っこい物、甘味や塩気が強い物、極端に冷たかったり熱かったりする物、強い香辛料は、避けたいところです。
遺精
■性行為、自慰行為によらず、ほとんど無意識のうちに射精が生じる現象
遺精とは、性行為、自慰行為などによらず、ほとんど無意識のうちに射精が生じる現象。
睡眠中に遺精を生じることがありますが、これを夢精、あるいは夜間遺精と呼んでいます。遺精は昼間に突然、起こることもあります。
夢精には、睡眠中に性的な夢を見てオルガズムを伴い、勃起(ぼっき)してから射精する場合と、性的な夢、オルガズム、勃起を伴わない場合があります。10~16歳くらいの思春期の男子に多くみられる生理的現象で、疾患ではありません。まれには、精嚢炎などで起こることもあります。
思春期には、精液の成分を作っている精嚢腺(せいのうせん)や前立腺が分泌液を大量に作るため、自律神経を介する射精反射が起こることが原因と考えられています。とりわけ夜間は、膀胱(ぼうこう)が尿で充満するため、これに接している精嚢腺や前立腺が圧迫されて夢精が発生すると考えられています。
かつては思春期を迎えると、夢精で精通を経験する比率が高かったとされていますが、近年は自慰行為を覚えるのが低年齢化しており、夢精を経験せずに自慰行為を始めるケースが多いと見なされています。一般的に自慰行為を頻繁に行うと夢精を経験する割合が下がり、年齢とともに少なくなっていくのが普通。一説には、成長に伴い過剰な精液の成分を排尿時に一緒に排出する能力が備わるため、夢精によって排出する必要がなくなるからといわれます。
夢精が毎晩起こったり、遺精が頻繁にみられるようになると、病的な遺精といえます。その原因となる疾患としては、脊髄(せきずい)神経疾患、精嚢炎、前立腺炎、極度の精神的疲労、神経衰弱、性的神経症、禁欲などが挙げられ、治療が必要な場合もあります。
一説には、精神的疲労や肉体的疲労がたまっている際には、筋肉の硬直から遺精が引き起こされやすいといわれます。
■遺精の検査と診断と治療
病的な遺精は、その原因となる脊髄神経疾患、精嚢炎、前立腺炎などの疾患を治すことが必要ですので、泌尿器科の専門医を受診します。精嚢炎、前立腺は細菌などによって炎症が起こるもので、あらゆる年代の男性に起こります。
極度の精神的疲労、神経衰弱、性的神経症が原因となることもありますので、できるだけ精神的な過労を避けるように努めることも大切です。
陰茎がん
■男性の陰茎の皮膚から発生する、まれながん
陰茎がんとは、男性生殖器の陰茎(ペニス)に発生するがん。いくつかの種類がある中で、全体の95パーセントを占めるのは、皮膚がんの一種である扁平(へんぺい)上皮がんです。
男性生殖器に発生するがんの中では、陰茎がんは最もまれで、全体の1パーセントを占めるにすぎません。人口10万人当たりの死亡率は0.1人程度で、近年の日本では減っていますし、もともと日本は欧米に比べて低い傾向にあります。年齢的には、60〜70歳代に多く発症しています。
発生要因として、亀頭が常に包皮で覆われた、いわゆる包茎が重要視されています。がんの人に包茎が多いことや、幼少時に割礼を受けて包皮を切除する習慣を持つユダヤ教徒やイスラム教徒に、その発生が著しく少ないことから、示唆されたものです。
包茎の場合、包皮内の恥垢(ちこう)による慢性炎症の刺激があり、これが発がんと関係していると推測されています。近年では、陰茎がんの男性を夫に持つ女性で子宮頸(けい)がんのリスクが高くなることなどから、尖圭(せんけい)コンジロームを引き起こすヒトパピローマウイルスの感染と関係があるともいわれています。
通常、陰茎の皮膚にできる痛みのない腫瘤(しゅりゅう)、すなわち、おできとして発症します。進行すると、痛みや出血なども生じてきます。包茎を伴っていることが多く、包皮内の亀頭部にできやすいために、外からは気付くのが遅れることもよくあります。
典型的なものは、表面が不整なゴツゴツした外観の塊で、潰瘍(かいよう)を伴っている場合もあります。感染を伴うことも多く、膿性(のうせい)または血性の分泌物が出て、悪臭を放つこともあります。多くは皮膚から発生しても、進行して陰茎の海綿体や尿道にがんが広がれば、排尿の異常を来します。
また、太ももの付け根に当たる鼠径(そけい)部のリンパ節にがんが転移しやすく、リンパ節のはれも多くみられます。進行すると、リンパ節が硬くなったり、足がむくんだりするようになります。
■陰茎がんの検査と診断と治療
陰茎という場所のためにためらわれ、かなりひどい状態になってから医療機関を受診して手遅れになることが少なくありません。自覚症状があったら、早期発見の機会を逃がさないよう、すぐに泌尿器科を受診します。リンパ節にまで転移していなければ、ほとんどの例で治癒します。
医師による診断では、体表にできるがんであるため、肉眼的に見極められます。尖圭コンジローム、梅毒などとの見極めがつきにくい時には、病変部の一部を切除して顕微鏡で検査する生検か、病変部をこすってはがれた細胞を顕微鏡で調べる細胞診を行って、診断を確定させます。さらに、X線やCT、MRI検査などを行って、他の臓器への転移の有無を調べます。
初期の場合には、放射線療法と扁平上皮がんに効果のあるブレオマイシンの併用療法で治癒します。治癒後に、陰茎の変形や、尿道の狭窄(きょうさく)を来すこともあります。
やや大きくなり、がんが亀頭部を越えて広がった場合などでは、放射線療法とブレオマイシンの併用によりがんを縮小させてから、がん浸潤のない部分で陰茎を切除する手術を行います。全身麻酔の下、病変から約2センチ離れた部位で正常な陰茎を切断しますので、当然陰茎は短くなり排尿が難しくなることがあります。また、そのままでは性交も難しいため、形成外科的な手法で人工的な陰茎を形成する手術を行うこともあります。
根元から陰茎を切断する手術を行った場合は、会陰(えいん)部に新たな尿の出口を形成します。尿の出口が女性と同じような位置にくるので、座って排尿することとなります。
転移が疑われれば、鼠径部のリンパ節、あるいは骨盤部のリンパ節も同時に摘出します。はれていなくてもリンパ節を摘出し、転移の有無を調べることもありますが、後遺症として下肢のむくみが残ることが多いようです。
がんが他の臓器に転移しているような場合、および手術で切除しても目に見えないがんが残っている危険性がある場合の再発予防として、放射線療法や抗がん剤による化学療法が補助的に行われる場合があります。抗がん剤では、ブレオマイシン、シスプラチン、メソトレキセート、ビンクリスチンという4種が有効であると見なされ、これらのいくつかを組み合わせて使用します。
ウイルソン病
■脳、肝臓に銅が沈着してくる遺伝性疾患
ウイルソン病とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。その原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。
常染色体劣性遺伝に基づく先天性銅代謝異常症であり、病名はウイルソンという人が見付けたことに由来しますが、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれています。
銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、ウイルソン病はよく似ています。食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱり)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。
しかし、ウイルソン病においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。
近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウイルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。
ウイルソン病の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています 。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。
肝臓の症状は、疲れやすかったり、白眼や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。
脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。
さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。
目の症状としては、角膜輪(カイザー・フライシャー輪)をみます。黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見えます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。
これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、 10歳以下の小児期に多い肝型、 10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。
■遺伝性代謝疾患ながら治療は可能
ウイルソン病は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患であるウイルソン病は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。
早期発見ためには、同じ病気を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率でウイルソン病であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異でウイルソン病が発病するため、家族や血族発生のないこともあります。
家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。
ウイルソン病の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。
さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。
治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。
食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。
薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。
また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。
遠視
■調節しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態
遠視とは、目の屈折異常の一つで、自動的に調整しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態。遠視眼、遠眼とも呼ばれます。
目には、近くを見る時に網膜上に正しく焦点を合わせるため、目の中の筋肉である毛様体筋を働かせて、水晶体の屈折を強くする調節力が備わっています。調節力は、小児の時に最大に備わっており、それ以後は加齢とともに徐々に減少します。
この調節力を働かせていない状態で、遠方から眼内に入った平行光線が網膜より後ろで焦点を結ぶのが、遠視です。遠いところにある物も、近いところにある物も、調節力を自動的に働かせないと、はっきり見ることができません。遠視とは、遠くがよく見える状態ではないのです。遠くがよく見える目は、屈折異常のない目である正視です。
正視の場合、5メートル以上の遠方を見ている時には、調節力はほとんど働いておらず、近くを見る時にだけ使っています。遠視の場合、遠方を見ている時にも、本来は近くを見る時にしか使わない調整力を自動的に働かせ、遠視を補正しようとします。いわば、常に眼内の毛様体筋を働かせて、水晶体を厚くした状態を維持しなければなりません。調節し切れない場合には、物がぼやけて見えてしまいます。特に、近くを見る時は、より強い調節が必要になります。
角膜や水晶体の屈折力が弱いために起こる遠視と、眼球の長さが通常より前後に短いために起こる遠視とがあります。前者を屈折性遠視、後者を軸性遠視と呼びます
小児期は眼球が小さく長さも短いため、遠視であることが普通で特別なことではありません。5歳までの小児では、90パーセントに遠視が認められます。成長するにつれて遠視が弱くなり、正視になったり、通り越して近視になることが多くなります。
小児が遠視であっても調節力が強いため、症状が現れない場合が多いのですが、豊富な調節力をもってしても補正できないほどの強度遠視になると、目が寄ってきて内斜視になったり、視力の発達が止まって弱視になったりします。目が疲れやすく、集中して物を見ることが難しくなるために、行動にむらが出て、周囲から「落ち着きがない」、「集中力がない」、「飽きっぽい」などといわれることもあります。
軽度の遠視でも年を取るにつれ、絶えず目の調節を必要とするために、眼精疲労や体の疲労の原因になります。集中できないために、学習や仕事の能率が上がらない原因にもなります。また、光をまぶしく感じたり、肩凝りや頭痛を覚えことも多くなります。
60歳以上になると、正視だった目が遠視になったり、遠視だった目の度数が強くなる傾向があります。これは老人性遠視と呼ばれます。 60歳以前に「遠視になった」といわれるものは、ほとんどの場合、若いころは自覚されなかった軽度の遠視が調節力の低下により、自覚されるようになったものです。
■遠視の検査と診断と治療
人間の視覚の発育は、6歳ころまでにほぼ終わります。小児の強度遠視が疑われた場合には、早めに発見して適切な処置をとるために、小学校入学前にでも念のため、眼科医による検診を受けます。
小児以外の遠視の場合では、目の疲れを中心とした症状に、体の疲労が加わります。近くを見る作業を長く続けると、目や体に疲れがたまりやすいようであれば、眼科医に相談してみます。
眼科では遠視を見付けるために、調節を一時的に休ませる目薬を用いて検査します。子供では調節力が強いため、幼稚園や学校の視力検診で発見されないのが普通です。
遠視の治療としては、凸レンズの眼鏡、コンタクトレンズなどで屈折率を高め、矯正します。凸レンズは、レンズに平行に入ってきた光を集め、屈折力を強めるように働くので、 網膜の後ろで像を結ぶ遠視の矯正に用いられます。凸レンズの度数は、調節力を働かせない状態で遠方にピントが合って、はっきり見える状態に設定されます。
子供の場合は、生理的な状態にあるものにまで矯正をする必要はありません。しかし、遠視の度が強かったり、斜視や弱視がある時、また眼精疲労を訴える時には、矯正を行います。
おたふく風邪
■耳下腺が腫れる合併症の多い感染症■
おたふく風邪とは、ムンプスウイルスによる急性ウイルス感染症で、耳の前から下にかけての腫(は)れを特徴とします。しっかり腫れると、おたふくのお面のように、下膨れします。流行性耳下腺(じかせん)炎、ウイルスの名前をとってムンプスとも呼ばれます。
感染者の唾液(だえき)から、飛沫(ひまつ)感染します。流行に周期性はなく、季節性も明確ではありませんが、春先から夏にかけて比較的多く発生します。かかりやすい年齢は1~9歳、とりわけ3~4歳。感染しても発病しない不顕性感染が、30~40パーセントの乳幼児、学童にみられます。
耳の下の唾液腺の一種である耳下腺が腫れることで知られますが、ムンプスウイルスは、体中を回って、ほかのいくつかの臓器にも症状を起こします。
突然、37~38℃の発熱が1~2日続いた後に、耳の下に痛みを訴え、片側の耳下腺が腫れてきます。子供は口を開けたり、触ったりすると痛がります。発熱せず、最初から耳下腺が腫れてくるケースもあります。
一般的に、1~3日して、もう片方の耳下腺が腫れてきますが、4人に1人は片方の耳下腺しか腫れません。腫れは3日めぐらいがもっともひどく、その後、徐々にひいて、5~7日で消えていきます。
発熱がある間は、水分を十分に与え、静かに過ごさせましょう。耳下腺の腫れたところは、冷湿布などで冷やして痛みを和らげます。食事は流動食、ないし軟らかい物とし、刺激物は避けましょう。特に酸っぱい物や香辛料は、耳下腺からの唾液の分泌を増加させ、痛みが強くなります。
一度下がった熱が再発し、腹痛、嘔吐(おうと)、頭痛、精巣の腫れなどを生じた場合、無菌性髄膜炎、膵(すい)炎、精巣炎などの合併症が起きた可能性がありますので、医療機関を受診しましょう。
ムンプスウイルスに効く薬はありませんが、精巣炎を起こしていれば副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬を使ったり、頭痛や耳下腺の痛みに対し鎮痛薬を使うことがあります。
おたふく風邪は合併症の多い感染症ですから、全身状態がよくても安静、保温、栄養など、乳幼児、学童に対する基本的な看護が大切です。
外陰炎
■いろいろな原因により、女性性器の外陰部に発生する炎症
外陰炎とは、いろいろな原因によって女性性器の外陰部に発生する炎症。
外陰とは、性器の外側の部分である恥丘、大陰唇、小陰唇、陰核、外尿道口、腟前庭(ちつぜんてい)、会陰(えいん)の総称です。この外陰部に、細菌やウイルス、かびなどの病原体が感染したり、薬物などの化学物質や腟からの下り物などが刺激になって、急性、慢性の炎症を引き起こします。
外陰単独に発生することもありますが、多くの場合は膣炎を合併しており、その下り物の刺激に体の抵抗力の低下が加わって発症しています。糖尿病やアレルギーのある人は、特になりやすい傾向があります。また、高齢者や子供のように外陰部の皮膚や粘膜が弱い人でも、発症しやすくなります。
初期の症状としては、かゆみですが、炎症が進むと赤くはれて痛みます。ただれたりすると、少量の出血をみます。炎症が慢性化すると、皮膚や粘膜が白っぽくなり、頑固なかゆみが続きます。
■外陰炎の検査と診断と治療
外陰部のかゆみが現れて2〜3日しても治らない時は、婦人科あるいは産婦人科を受診します。頑固なかゆみが続く時は、外陰部の粘膜が白く硬くなる硬化性苔癬(たいせん)や悪性病変も考えられるので、必ず受診するようにします。
医師による診断では、まず外陰部を視診します。次いで、外陰や腟分泌物中の病原体を検出します。糖尿病があると発症しやすいため、しばしば再発するような時は、糖尿病の有無も調べます。
治療では、原因に応じて、細菌やウイルス、かびに効く抗生物質の入った軟こうを用います。時には、かゆみを止める抗ヒスタミン剤や、ステロイドホルモン含有の軟こうを用います。高齢者のように外陰や腟粘膜の弱い場合は、ホルモン剤を投与して強化を図ります。
なお、外陰炎がある時は、局所を化粧せっけんなどで洗うと症状が悪化するので、お湯で洗い流すだけにするか、無刺激性のせっけんを使用するようにします。
外反母趾
■足の親指の先端が小指側へ曲がり、痛みを伴う
外反母趾(ぼし)とは、足の親指(母趾)の付け根が外側を向き、親指の骨頭が内側に向いた状態。通常、痛みを伴います。
発生の原因としては、先天性あるいは遺伝性の解剖学的要素と、足の指に外から加わる環境因子とが組み合わさって発生したり、関節リウマチなどの疾患で発生します。
解剖学的要素とは、親指が人差指より長いエジプト型前足部であったり、親指の骨頭が巨大であったり、偏平足であったり、親指の骨が内反していたり、腱(けん)、筋(すじ)などの走行に異常があった場合などに出現します。環境因子は、窮屈な履物の常用であり、また路面や床面が硬くなったことが原因として挙げられます。
男女の発生では女性が男性の10倍ぐらい発生し、好発年齢は初経期(13~14歳頃)と閉経期(50歳代)の2つのピークがみられます。また、前者には高頻度の家族内発生がみられます。
足の親指の付け根関節において、親指のそれより先端が外反して小指側へ曲がると、関節の内側が突出して、時にはこの部分に炎症を引き起こし、痛みを生じます。そして、外反変形が進むと親指が人差し指の底側に入り込み、人差し指と中指の付け根関節の底側に痛みを伴うタコを形成します。発症の初期には、窮屈な履物を履いて行動した時しか親指の基部に痛みは生じませんが、症状が進むと、裸足で立っているだけで疼痛(とうつう)が出るようになります。症例によっては、親指以外の他の足指の骨頭部が痛んだり、痛みのあるタコができます。
■外反母趾の検査と診断と治療
外反母趾に特徴的な症状で、ほぼ診断はつきます。そして、荷重時、非荷重時の足部X線撮影を行い、外反母趾角および親指、人差し指角を測定します。外反母趾角は15°以上、親指、人差し指角10°以上を病的と診断し、また親指の付け根関節の変形性変化、脱臼(だっきゅう)、亜脱臼の有無、側面像では偏平足のチェックも行います。
外反母趾があっても、痛みがなければ特に治療はしないことが原則です。治療にも含まれますが、日常生活において窮屈な革靴、例えばハイヒールなどの履物をやめ、窮屈すぎない靴、材質が柔らかく、靴の先端が広くかつ足のアーチ構造が無理なく保持できるアーチ・サポートがあるものを選びます。
そして、体重を増やさないこと、長時間の立位、歩行を避けること、親指の付け根関節の内反、外旋運動、足部の筋肉の強化訓練などを行います。症例により、靴の中に入れる足底挿板、靴型装具を作成する場合もあります。それで、痛みはかなり軽減されるはずです。
治療用装具としてゴム、革、プラスチックなどを材料とした各種装具が開発されていますが、これらの装具を徹底して装着するのは無理なようです。そのためにかえって、鎮痛消炎剤の経口投与、湿布などが必要となったり、また、なるべく気に入った靴などを履きたい要望が多くなります。そのような人には、夜間のみでもよいので装具を付けるよう指導します。また、関節リウマチなどの疾患で発症している場合は、それに対する治療が必要です。
手術療法は、保存療法をいろいろ行っても治療効果のない場合に行われます。手術法にもいろいろありますが、マックブライト法が一般的に行われています。これは軟部組織の手術を主体としたもので、親指の基節骨外側に付いている内転筋を切り離して、親指頸部(けいぶ)外側に移行するもので、比較的軽症の人に行われます。重症例には、親指の骨切り術を主体とするハーモン法、ミッチェル法が行われます。変形性関節症が強い症例では関節固定術が行われる場合がありますが、最終的な手術法と見なされています。
開放隅角緑内障
■自覚症状に乏しく、徐々に視野が欠損するタイプの緑内障
開放隅角(ぐうかく)緑内障とは、眼球内での房水(ぼうすい)の流れが悪いために眼圧が上昇し、慢性的に視神経が圧迫されて、徐々に進行する緑内障。原発開放隅角緑内障とも呼ばれます。
眼球には、角膜や強膜でできた壁の内側に、眼内液である房水が入っていて、その壁の弾力と房水の充満状態によって、一定の硬さを保っています。この硬さが眼圧であり、正常眼圧は平均15mmHgと外気圧より高いことで、眼球の形を保っています。眼内を満たす房水は主に毛様体で作られて後房に分泌され、前房へ流れて水晶体や角膜に酸素や栄養を与え、前房隅角より出て静脈に戻ります。
ほとんどの緑内障は、前房隅角に問題があり、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。この開放隅角緑内障では、前房隅角は広く開いているものの、それより先の部分の排水路である線維柱帯が目詰まりしているために、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。線維柱帯が目詰まりする原因としては、コラーゲンや異常な蛋白(たんぱく)質の蓄積、線維柱帯を構成している細胞の減少などがいわれています。
開放隅角緑内障は、慢性緑内障の典型的な病型といえ、青そこひとも呼ばれる緑内障の約90パーセントを占めます。
目が重い、目が疲れやすい、肩が凝るなどの症状が出ることもありますが、多くはかなり進行するまで無症状です。気が付かないうちに徐々に視神経が侵され、中期〜末期になると視野欠損を自覚します。
視野の欠損の初めは、光の感度が落ちる程度で、いきなり黒い物が出現するわけではありません。また、両目で物を見る場合には脳が不具合を補正する両眼視機能が働くために、たとえ片方の目に開放隅角緑内障による視野の欠けがあったとしても、視野の欠けが消失してしまうのです。両眼視機能には視力を向上させる働きもあり、片目だけの時よりも、両目で見ると少し視力が上がるため、片目の視神経の50パーセントを失っても、まだ自覚症状がありません。
初期の視野欠損の段階では、視野の中心部分から欠けていくことは、まずありません。通常、中心の少し上あたりか、鼻側から欠けていき、次に、耳側のほうが欠けていきます。視野の中心部分は、網膜の黄班(おうはん)部や中心窩(か)に映っている映像で、黄斑部や中心窩は視神経の線維が強くできているためです。最終的には、中心部分だけが見えるため、まるで筒からのぞいているような見え方になります。
このまま何もせず開放隅角緑内障の症状を放置すると、失明することになりますが、検診で見付かるケースが多くみられます。
■開放隅角緑内障の検査と診断と治療
開放隅角緑内障を予防する方法はないものの、視野が狭くなる、目が重い、目が疲れる、軽い頭痛がする、肩が凝るといった自覚症状があれば、眼科医の診察を受け、早期の治療で進行を食い止めます。
開放隅角緑内障では、眼圧検査で22mmHgを超えることがあること、視神経乳頭の検査で緑内障性の視神経乳頭の障害を認めること、視野検査で視野欠損を認めること、隅角検査で開放隅角であること、原因となるようなそのほかの目や全身の病気がないことが、診断基準になります。
開放隅角緑内障の治療では、まず薬物による眼圧下降が選択されます。点眼治療から開始し、効果が不十分な場合は内服薬、レーザー治療、手術と順次疾患の進行によって選択されます。点眼薬はまず1剤から開始し、眼圧下降の効果をみながら追加していき、次いで、炭素脱水酵素阻害剤を内服するようにします。
薬物、レーザー治療、手術治療を問わず、眼圧を10〜12mmHg程度にコントロールすることが、視野異常の進行を止めるのに効果的だとされています。
開放隅角緑内障は、慢性の進行性の疾患ですので、長期に渡って定期的な眼科受診が必要です。薬による治療はきちんと続ける必要がありますが、必要以上に気にしないことも大切。特に生活上の規制は必要ありません。
過活動膀胱(OAB)
■膀胱の活動性が過剰になり、尿意切迫感を伴う状態
過活動膀胱(ぼうこう)とは、膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を主症状とし、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁を伴うこともある排尿障害。OAB(overactive bladder)とも呼ばれます。
普通、膀胱が正常であれば400~500mlの尿をためること可能で、尿が250~300mlくらいになると尿意を感じて排尿が始まりますが、過活動膀胱では100ml前後の尿がたまると膀胱が収縮するために、突然の尿意を催して、我慢できなくなるのが特徴です。膀胱が正常であれば、尿意を感じ始めて10~15分ぐらいは我慢できることもありますが、過活動膀胱ではそれも難しいとされています。
尿意切迫感のほか、トイレが近くなる頻尿、夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿、トイレまで我慢できずに漏れてしまう切迫性尿失禁があることもあります。
近年の調査によると、日本における過活動膀胱の潜在患者は推定830万人。40歳以上では、8人に1人の12パーセントという高率を示しており、この中の約半分では切迫性尿失禁があります。年齢とともに、過活動膀胱の有病率は高くなっています。
病因に基づき、脳と膀胱(尿道)を結ぶ神経のトラブルで起こる神経因性過活動膀胱と、それ以外の原因で起こる非神経因性過活動膀胱に区別されます。
神経因性過活動膀胱は、脳卒中や脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害で起こります。非神経因性過活動膀胱は、老化、男性では前立腺(せん)肥大症、女性では出産や加齢による骨盤底筋の障害などで起こります。
■過活動膀胱の検査と診断と治療
排尿に関係した症状などで日常生活に支障がある場合は、不安がらずにまず泌尿器科などを受診します。
一般的に、初診時に行われるのは問診です。どんな症状で困っているのかを、医師に具体的に伝えます。過活動膀胱かどうかを調べるための過活動膀胱スクリーニング質問票(リンク)や、過活動膀胱の症状の程度を調べるための過活動膀胱症状質問票(OABSS)という簡単な質問票が、診断のために使われることもあります。
問診以外には、膀胱の状態を調べるための検査を行うこともあります。排尿に関係した症状があるからといって、必ずしも過活動膀胱とは限りませんので、ほかの疾患の可能性も含めて確認するための検査です。初診で行う検査は、主に腹部エコー検査(残尿量の測定)、血液検査、尿検査など比較的簡単な検査で、過活動膀胱の検査には尿流測定、パッドテスト、ストレステストなどもあります。
過活動膀胱の治療では、膀胱の収縮を阻止し、神経に働く抗コリン剤(ポラキス、BUP−4)、または排尿筋を弛緩(しかん)させるカルシウム拮抗(きっこう)剤(アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン)を用います。抗コリン剤を1~2カ月内服すると、80パーセントの発症者で改善されます。
次の治療では、できるだけ尿意を我慢して、膀胱を拡大するための訓練をします。毎日訓練すると、膀胱が少しずつ大きくなって尿がためられるようになりますので、200~400mlくらいまでためられるように訓練します。排尿間隔を少しずつ延長させ、2時間くらいは我慢できるようになれば成功です。尿道を締める筋肉の訓練も必要です。
難産を経験した女性、40歳を過ぎた女性では、時に腹圧性失禁を経験することがあります。腹圧性失禁とは、腹にちょっと力が加わっただけで尿が漏れる状態で、もともと男性に比べて女性のほうが排尿に関連する筋肉が弱いことと、泌尿器の構造上の問題が加わって起こります。
あまりにひどい場合には、手術を検討されることもありますが、骨盤底筋群を鍛える体操によって、症状を和らげことができます。さまざまな体操が考案されていますので、そのうちの1つを紹介します。
床に肘(ひじ)と膝(ひざ)をついて、横になります。そのまま、腰を浮かせて四つんばいになります。肘をついたまま、手であごを支えます。この体勢で、尿道と肛門(こうもん)を締めるように、10秒間力を入れます。次に、力を緩めて楽にします。これを繰り返します。
50回を1セットとして、1日に2~3セットくらい行うと、より効果的です。簡単な体操ですので、3か月程度続けてみて下さい。3カ月以上たっても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。
角膜変性
■角膜に混濁が生じたり、形状が変化したりする疾患
角膜変性とは、黒目の表面を覆う透明な薄い膜である角膜内に、本来は存在しない脂肪や石灰などの成分が沈着して混濁が生じたり、形状が変化したりする疾患。 角膜の表面の上皮だけでなく、その奥の実質にも濁ったり、薄くなったりといった影響が出ます。
進行すれば、視力障害を起こします。混濁の種類によっては、異物感を覚えることもあります。
原因はさまざまで、遺伝性のものから、老化現象によるもの、腎臓(じんぞう)病など全身疾患から生じるもの、緑内障やぶどう膜炎などの合併症として生じるものまで、多岐に渡ります。頻度の高い角膜変性症として、角膜老人環、角膜若年環、角膜ジストロフィー(家族性角膜変性)、帯状角膜混濁、角膜脂肪変性が挙げられます。
角膜老人環は、老人の角膜実質の回りに、幅1~2ミリの輪状の白い混濁ができる疾患。自覚症状はありませんし、白目の表面を覆う薄い膜である結膜の充血もありません。角膜の辺縁部の退行性変性で、輪状の混濁が非常に濃くなることもあるものの、中央部まで進むことはありませんし、潰瘍(かいよう)にもなりません。視力には影響しませんので、そのまま放置します。
角膜若年環は、若い人の目に、角膜老人環と同様の変化がみられるものをいいます。
角膜ジストロフィー(家族性角膜変性)は、青少年に発症し、家族の間に起こることが多い遺伝性の疾患。一般的に、両方の目の角膜表層に灰色の混濁ができ、徐々に進行します。しかし、まぶしさや痛みといった刺激症状や、粘膜の充血などはありませんし、潰瘍にもなりません。
角膜にみられる混濁の形から顆粒(かりゅう)状ジストロフィー、斑(はん)状ジストロフィー、格子状ジストロフィー、膠様滴(こうようてき)状ジストロフィーなどに分類されているほか、日本人ではまれで欧米に多いフックス角膜内皮ジストロフィーもあります。疾患の原因として、代謝の異常が関与していることがわかっており、多くのタイプのジストロフィーでは原因となる遺伝子が特定されています。
帯状角膜混濁は、緑内障やぶどう膜炎に合併する表在性混濁で、灰白色で微細な斑点の集まりからなり、角膜のほぼ中央を横断して帯状の混濁を生じる疾患。結膜の充血、まぶしさや痛みといった刺激症状、炎症症状はほとんどありません。
角膜脂肪変性は、灰色の斑点状の混濁ができて徐々に進行し、角膜の縁を除いてほぼ全面に広がる疾患。視力は著しく減退し、多くは両目に起こります。原因は不明。
■角膜変性の検査と診断と治療
角膜変性には、いくつかのタイプがあり、その状態によっても治療方法は異なります。角膜老人環、角膜若年環に対しては、治療の必要はありません。そのほかの角膜変性で視力障害のある時は、角膜の表面を削ったり、角膜移植を行います。
角膜の表層部分までの混濁であれば、メスを使って混濁を除去するか、エキシマレーザーを使って紫外線を角膜に当てることにより、混濁を除去します。従来からのメスを使って行う手術よりも、 エキシマレーザーを使う手術は精密に行えるため、良好な結果が期待できます。このエキシマレーザーは、近視矯正手術でも使われているものです。
角膜の深部まで混濁が起こっている場合には、角膜移植手術が行われます。この手術では、濁った角膜を円形にくり抜いて除去し、アイバンクに登録された透明な角膜を移植し、特殊なナイロン糸で縫い付けます。 角膜以外に目の病気がなく、拒絶反応の少ない角膜変性であれば、移植後に1.0以上の視力が得られることも珍しくはありません。
角膜ジストロフィー(家族性角膜変性)でのエキシマレーザーや角膜移植の成績は、一般に良好なものの、原因が内因性であるため再発してくる可能性があります。タイプによっては、何年かたつうちに移植した角膜にも同じ症状が起こってくることがあります。
過眠症
■突然に起きる強い睡眠発作を中核症状とする神経疾患
過眠症とは、突然に眠り込んでしまう激しい睡眠発作を中核症状とする神経疾患。ナルコレプシー、居眠り病とも呼ばれます。
夜の睡眠は十分に取れていても、昼間、急に睡魔が襲ってきて自分では抑制できず、眠ってしまいます。会話中、車の運転中、食事中、はたまたセックスの最中など、通常では考えられない状況で、突然、すーっと眠り込んでしまうといった具合です。
睡眠発作は1日に何度も起こることもあれば、ほんの数回しか起こらないこともあります。1回の発作で眠っている時間は、普通30分以下。意図的に短い仮眠を取った時には、すっきりと目覚めます。この睡眠発作は、ノンレム睡眠を経過せずに、いきなりレム催眠に入るのが特徴です。
過眠症のもう1つの特徴は、脱力発作(情動脱力発作、カタプレキシー)です。笑ったり、喜んだり、怒ったり、驚いたり、自尊心がくすぐられたりなどの突発的な感情が誘因となって、全身の脱力発作が起こって力が抜け、物を落としてしまったり、ろれつが回らなくなったり、数秒~数分間、筋肉がまひしてその場に崩れ込んでしまったりします。
意識ははっきりしているし、見たり聞いたりもできますが、ただ動けないだけです。この脱力発作は、レム睡眠に入ると筋肉の緊張が完全に消えることと似ています。
ほかに、睡眠まひ、入眠時幻覚を伴います。睡眠まひでは、寝入ったばかりや目が覚めた直後に、体を動かそうとして動かせない状態になります。いわゆる金縛りと呼ばれる状態で、開眼し意識はあるものの随意筋を動かすことができません。本人は非常な恐怖に駆られますが、他の人に体に触れてもらうと治ります。周りに人がいなくても、まひは数分後には自然に治まります。
入眠時幻覚では、睡眠発作により眠り込んだ際や、夜間に寝入った直後、まれに目覚めた際に、現実感の強い幻覚、幻聴を経験します。これらの幻覚、幻聴は正常な夢に似ていますが、もっと強烈で鮮明です。
夜間は、頻回の中途覚醒(かくせい)や、睡眠まひ、幻覚を体験するなどのため、睡眠も妨げられます。
日本人の過眠症の有病率は、1万人当たり16人~18人といわれています。すべての人種において発病がみられる中で、日本人の有病率は世界で最も高く、欧米では1万人に2~4人といわれています。
家族内に起こる傾向がありますが、原因は不明です。過眠症のほとんどは通常、思春期から青年期にかけて発症するため、脳の性的成熟と関係があるとも考えられています。また、オレキシンという視床下部から分泌される神経伝達物質の欠乏と関係があるとも考えられています。
症状は一生涯続きますが、症状のすべてが現れる人は全体の約10パーセントにすぎず、大部分の人は2、3の症状が出るだけです。
■過眠症の検査と診断と治療
昼間に強い眠気を感じる時は、内科や睡眠外来、神経内科を受診します。
根治的治療方法はありませんが、対症的療法でかなりよくなります。中枢神経刺激剤を使用することで眠気を抑制することができ、メチルフェニデート、モダフィニル、ペモリンアンフェタミン、デキストロアンフェタミンなどが使用されます。中で、モダフィニルは他より副作用の少ない薬剤です。脱力発作や睡眠まひの症状を軽くするためには、イミプラミン、クロミプラミンなどの三環系抗うつ剤、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が使用されます。
イライラ、異常行動、体重減少などの副作用が起こらないように薬剤の量の調整が必要なため、薬物療法を行っている人の体調は慎重に監視されます。
抗うつ剤によって夜の眠りを安定させ、中枢神経刺激剤を朝と昼に服用することにより、日中の睡眠発作をほとんどなくすことができます。しかし、根気よく治療を続けることが必要で、長い年月がたつと症状がかなり軽くなり、多くのケースでは薬剤の量を減らすことができるようになります。
治療では、薬剤によって症状を軽減するとともに、生活習慣の改善も図ります。大事なのは規則正しく生活をし、夜にしっかり睡眠を取ることで、睡眠表をきちんとつけることにより、自分の睡眠生活が理解できるようになります。日中に15〜20分程度の短い昼寝をこまめに取ると、睡眠発作の予防効果があります。