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ふたつめ

 なんともへんてこな絵づらのご一行がほとりにお集まり――羽を引きずった鳥さんたちに、毛がぴたーとなったむくじゃらたち――みんなずぶぬれで気持ち悪くていやな気分。さてここで考えるべきは、どうやってぱさぱさにするか。かわかし方を話し合ううち、アリスはもうたいしておどろかなくなったというか、気づいたら鳥さんたちと仲良くお話ししていて、生まれたときからの知り合いみたくなっていてね。なるほどインコとは長々言い争ったものだから、しまいにはむすっとされたんだけど、ここで「わたしの方がお姉さんなの、だからモノをよくわかってるに決まってる」なんて言われようものなら、アリスだってインコのお年を知らないからそんなのうなづけないし、インコも自分からぜったいお年を口にしたくないので、どっちもあとは何とも言えない。
 とうとうハツカネズミが、それなりにもっともなことがあるみたいだってことで、よびかけてね、「すわれや、みなのしゅう、耳かっぽじろ! おれがすぐにでもお前らをぱっさぱさってほどにしてやる!」すぐさまみんなはふるえながらも大きく輪になってこしを下ろして、アリスがどまんなか、気になるとばかりに目をネズミに向けてね、だっていますぐにでもかわかさないと、ひどい風邪《かぜ》を引きそうだと気にやんでいたんだ。
「おほん!」とネズミはもったいつけた感じで、「みなのしゅう、いいか? こいつは知るかぎりいっとうぱっさぱさのやつよ。どうかごせいちょうを!
 ウィリアム征服王《せいふくおう》、その大義《たいぎ》が教皇《きょうこう》さまのお目がねにかなったとあって、イングランドの民《たみ》はすぐさまこれにひれふした。上に立つ者もなく、このごろは国が外から荒《あ》らされ平らげられるのが常《つね》であったからだ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの主さまは――」
「うげ!」とインコは身ぶるい。
「ごめんなすって。」とネズミは顔をしかめながらも、それでいてていねい。「あんた声あげたか?」
「いえいえ!」とあわてるインコ。
「そうかあ?」とネズミ。「まあ続きよ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの主さまも、味方するとした。スティガンド、国うれうカンタベリ大司教までもエドガー親王連れてウィリアムに面会《めんかい》し冠《かんむり》を差《さ》し出すのが得策《とくさく》と見た。ウィリアムのふるまいは初めのうちおだやかだったが――今んとこどんなぐあいだ、あ?」と言いながらアリスの方を向く。
「まだびしょびしょ。」とかわいそうなアリス、「ぜんぜんぱさぱさにならなくってよ。」
「ならば、」とドードーが立ち上がり大まじめに、「集まりの休会を提議《ていぎ》する、なぜなれば、より効果的《こうかてき》な改善策《かいぜんさく》の速やかなる採用《さいよう》が――」
「国語をしゃべれ!」とアヒル。「そんな長たらしい言葉、半分も意味がわからんし、それどころか君だってさっぱりわかってないだろ!」ここでアヒル、自分にうけてグヮグヮと大笑い。ほかの鳥さんもちらほら聞こえよがしにしのび笑い。
「言いたかったことはただ、」とドードーは気をそこねたみたいでね、「この近くに小屋があるから、そこでならこのおじょうさんもお集まりのみなさんもぱさぱさにかわかせる上、そのお話も気持ちよく聞けるということなのだ、お前さんだって我々に話をする約束《やくそく》を守りたかろうと思ってな。」とうやうやしくネズミにおじぎ。
 ネズミもこれにはむべなるかな、一同は川のほとりぞいに動いてね、(だってこのときには池ももう広間から流れ出して、きわにはイ草やわすれな草がならんでいたからね)ゆっくりと1列でドードーを先頭に進む。そのうちにじれてくるドードー、あとのみんなをアヒルにまかせて、足取りを速めて先へ、連れていくのはアリスにインコそして子ワシで、あっとういまに小屋に到着《とうちゃく》、そこでだんろをかこんでひと息、毛布にくるまっていると、とうとうほかのみんなもやってきて、ぜんいんぱっさぱさにかわいたとさ。
 さてふたたびほとりでみんな大きな輪になって、すわってネズミにご自分のむかっ話をとおねだり。
「おれのは、長々しっぽりよ!」とネズミはアリスの方を向いて、ため息。
「長々のしっぽ、ほんっとに。」とアリスはきらきらした目をネズミのしっぽに下ろしてね、そいつは輪をぐるりひとめぐりしそうなほどで。「でも、後ろの〈りよ〉って何のこと?」そうしてこのことになやみだすうち、ネズミも話し始めて、だからお話も頭のなかではこんな感じになっちゃって。

 おれらの住まい、しきものの下
   ぶあつくぬくぬく住みよしだ、
         だがなやみもありだ
            ネコときた!
               水さすや
              からが、目
             のゴミクズ
           が、気を重
          くするのが
        犬なりしか!
      ネコが
     されば、
    あとは
   ネズミの
    あそ
     びば、
      なのにある日!
        こは(らば)
          ともに来たる犬
              ネコ、おい
               かけっ
                こ、
               やられて
             ネズミぺ
            しゃんこ、
           みな
          ごろ
          しよ
          ぶあ
          つく
           ぬ
           くぬ
             く
              して
               いた
                と
                こ
 !を             ろ
   との          を
     こ―        、
       ―およろみてえ考

「お前、聞いてねえだろ!」とネズミはアリスにびしっと。「何考えてんだ?」
「ごめんあそばせ。」とおそれいるアリス。「5つめの曲がり角にいらしたところ、よね?」
「わっからんな!」と声をあげるネズミは、とげとげぷんすか。
「あ、からんだ?」というアリス、いつでも人の役に立ちたいざかりなので、目をかがやかせてきょろきょろしてね、「まあ、でしたらほどかせていただけて?」
「そんなこと何も言わねえよ!」とネズミは立ち上がって、みんなからはなれていく。「そんなからっぽの話でバカにされるなんざ!」
「思いちがいよ!」とアリスは苦しまぎれの言いわけ。「でもあなただってずいぶんいらちだこと。」
 ネズミの返事はただうなり声だけ。
「さっさとお話の続きをしめてくださる?」とアリスが背中《せなか》によびかけると、ほかのみんなもあとからそろって、「そうだ、しめるんだ!」ところがネズミは耳をふるだけで、そそくさと去っていって、たちまち見えなくなって。
「ざんねん、お去りだなんて!」とインコがため息、そしておばさんガニはついでとばかりにむすめに小言。「ほらね! つまり、あなたもかっかしちゃダメってことなのよ!」「ママはだまってて!」と子ガニはややつっけんどん。「がまん強いカキだってどうにかなりそうよ!」
「ここにうちのダイナちゃんがいたらな、できるのに!」とアリスの大声は特にだれに向けてというわけでもなく。「あの子ならあいつをたちまち連れもどしてきてよ!」
「そのダイナってどなた? よろしければ教えてくださらない?」とインコ。
 アリスは乗り気のお返事、だっていつでも自分のペットのお話をしたいざかり、「ダイナはうちのネコ。ネズミ取りにかけてはもう一流なの、おわかり? それにああ! 鳥を追いかけるあの子をお見せできれば! もう、小鳥なんかねらいをつけたとたんにがぶりよ!」
 こんなお返しをしては、一同大さわぎになるわけで――たちまちにげまどう鳥もいたほど、おじさんカササギなんかそうろっと身じたくを始めてこう口に出してね、「そろそろうちに帰らねばな、夜風はのどをいためるので。」それからカナリアは声をふるわせながら子どもたちによびかけてね、「あの子に近づいちゃダメ、あんな子とお友だちになっちゃダメだからね!」いろいろ言いわけを作って、去っていくみんな、アリスはたちまちひとりぼっち。
 しばらくみじめにじっとすわってたんだけど、ほどなく気を取り直してね、例のごとく、ひとりごとの始まり。「だれかしら、もうちょっといてくださってもよろしくてよ! あんなに、仲良くなりかけてたっていうのに――ほんとに、あのインコとあたくし、もう姉妹みたいなものだったのに! あのかわいい子ワシちゃんにしてもそうよ! それからアヒルにあのドードー! あのアヒル、すてきに歌ってくれたのに、みんなで泳いでいるさなかに。あとドードーが、あのすてきな小屋への道をごぞんじなければ、ぱさぱさにできていたかわからなくてよ――」と、このままだといつまでもこんなふうにしゃべっていたかわからないところ、ふとぱたぱたという足音が耳に入ってね。
 なんと白ウサギがとろとろと引き返してきたわけで、歩きながらあたりをきょろきょろ、なくしものでもしたみたいで、そのひとりごとが聞こえてくる。「御前《ごぜん》さま! 御前さま! おお、ぴょんぴょん! ああ、ぴょんぬるかな! このままではあの方に打ち首にされよう、白イタチのようにまさしく! どこで落としたものか、はてさて。」アリスははたと気づいてね、あの花束と白ヤギの手ぶくろをさがしてるんだって、だから見つけようとしたんだけど、もうどこにも見当たらなくって――すっかり様子が変わったみたいで、池で泳いでイ草とわすれな草のならんだ川ぞいを歩いてからこっち、ガラスのテーブルも小さなドアも消えてしまっていて。
 まもなくウサギに気づかれたアリスは、ちょうどふしぎそうにちらちらしながらつったってたんだけど、たちまち早口で怒《おこ》られてね、「おいメリアン! こんなところで何をしておじゃる! とっとと家へもどって、化粧台から手ぶくろと花束を見つけて、持っておじゃれ、全速力で、わかったな?」するとおびえきったアリスはすぐさまかけ足、ものも言わずにウサギの指さす方へいちもくさん。
 気づけばあっというまに目の前にこじんまりしたおうち、ドアのところにはつるつるした金ぞくの表札《ひょうさつ》、お名前には〈シロー・ウサギ〉。立ち入るなり、階段《かいだん》をかけのぼった、だって本物のメリアンと出くわすといけないからね、手ぶくろ見つける前に家から追い出されちゃうし。広間でなくしたのはわかってた、「とはいっても」とアリスは思ってね、「家のなかには、代えがたくさんあるもの。なんてけったいなのかしら、ウサギのお使いだなんて! 今度はダイナがあたくしをお使いにやるんじゃなくって?」すると、こうなるのかなって、あれやこれや思いうかんできてね、「アリスおじょうさま、ただちにこちらへ、おさんぽのごしたくを!」「今行くから、ばあや! でもこのネズミ穴を見はらないと、ダイナがもどってくるまで、あとネズミがにげでてこないか見ておかないと――」「でもたぶん、」とアリスは続ける、「もうダイナはうちに置いとけなくなってよ、そんなことをあの子が人間に言いつけだしたら!」
 このときまでになんとか入れたお部屋はこぎれいなところで、まどぎわにテーブルがひとつあり、上には鏡がついていて、(アリスの思った通り)ちっちゃい白ヤギの手ぶくろが何組か置いてあった。1組取り上げて出て行こうとしたとき、目に飛びこんできたのが、鏡わきに立てられた小びん。今度は〈ノンデ〉の札《ふだ》もなかったのに、気にせずせんをぬいて口につけてね、「きっとなにか面白いことが起きるにきまっててよ。」とひとりごと。「なにか食べたり飲んだりするといつもそう、だからこのびんだってたぶん。今度は大きくなってくれるといいな、だってもうあんなにちーっちゃくなるのなんてうんざり!」
 してこれその通りに、しかも思ったよりも早々《はやばや》、びん半分ものまないうちに、気づけば頭が天井におさえつけられるので、首が折れないようにと身をかがめて、あわててびんを下に置きながらひとりごと。「もうけっこうよ――もう大きくならなくていいから――あんなに飲むんじゃなかったわ!」
 なんたること! もはや手おくれ、ぐんぐん大きくなっていって、たちまちひざをつくほかなくなり、またたくまにそうするよゆうもなくなって、なんとか横になろうとしてね、ひじをドアにぶつけたり、反対のうでを頭まわりでまるめたり。まだまだ大きくなるから、最後の手としてうでの片方をまどの外へ出して、片足をえんとつのなかにつっこんで、そこでひとりごと。「もうこれでせいいっぱい――これからあたくしどうなるの?」
 アリスにさいわい、まほうの小びんのききめはここで打ち止め、もう大きくはならない。とはいえやっぱりいごこち悪く、それにどうにもこのお部屋の外には出られる見こみもなさそうで、気がふさぐのもむりはなく。「おうちにいた方がまだいい。」とは、ふびんなアリスの想い。「ずっとのびちぢみしてばっかりとか、ネズミ・ウサギに頭ごなしってこともなくって――あのウサギ穴に入らなきゃよかった、って思うけど、けれど――どこかへんてこ、ほら、こんな世界って。ふしぎなの、どんなことが起こってくれるのって! いつもおとぎ話を読んでると、こんなことぜったい起こりっこないってきめつけるのに、いま、ここで、あたくしはそのまっただなか! なら、あたくしについて書かれた本があってもよくてよ、じゃなくて? 大きくなったら書くんだから――まあ、今だって大きいけれど。」と、いじらしい口ぶり、「といっても、ぎゅうぎゅうでここではもう大きくなれなくてよ。」
「だとすると、」とアリスは思う。「今よりもう年は取らないってこと? ほっとしなくはないわ――おばあちゃんにならなくていいし――でもそうなると――いつまでもお勉強の山! えっ、そんなのぜったいいや!」
「もう、アリスのバカ!」とまだまだ。「ここでお勉強なんて、できっこないんだから! ね、あなただけでぎゅうぎゅうだから、ぜんぜん入らなくってよ、教科書なんか!」
 というわけでそのまま、まずひとりめの役、それからもうひとり、というように、かけ合いをぜんぶひとりでやってたんだけど、何分かすると外から声がしたので、やめて耳をそばだてる。
「メリアン! メリアン!」とその声。「とっとと手ぶくろを持っておじゃれ!」そのあと、階段《かいだん》からたたたたとかすかな足音。アリスはウサギがさがしに来たとかんづいて、ふるえだしたらなんと家までぐらぐら、すっかりどわすれ、自分が今ウサギの何千倍も大きいなんてことはね、だったらこわがらなくていいわけで。そくざにウサギはドアのところ、で、開けようとしたのに、内側に開《ひら》くドアだから、アリスのひじがつっかえて、いくらやってもできずじまい。アリスの耳にひとりごとが、「ならば回りこんで、まどから入るでおじゃる。」
そんなのむーりー!」と思うアリス、待ちかまえて、まどのま下にウサギの気配がしたところで、いきなり手をのばして、そのままつかむそぶり。何もつかまえられなかったけど、聞こえてくる小さなさけび声と、ずっこけてガラスをわる音。というわけで頭のなかでは、キュウリのなえ箱かそんな感じのものにつっこんだのかも、てなことに。
 お次に来るのはぷりぷり声――ウサギのね――「パット、パット! どこにおじゃる!」それから今度は聞いたことのない声。「ここにおりますだ! リンゴほり中で、あのその、おやかたさま!」
「リンゴほり、ほおお!」とぷんすかウサギ。「こちへおじゃれ、ここから出すでおじゃる!」――さらにガラスのわれる音。
「さあ教えるでおじゃる、あのまどからはみ出てるものは何ぞえ?」
「きっとうんでだで、おやかたさま!」(正しくは、うで、ね。)
「うで! あほうが! あんな大きさのうでがおじゃるか! ほれ、まどわくいっぱいぞえ、の、のお?」
「そうでごぜえますが、おやかたさま、やっぱどう見てもうんでだで。」
「なぬ、そんなの知ったことか、あれめを片づけておじゃれ!」
 そのあと長々と静かで、ときどきささやき声が聞こえたくらい、それも「ぜってえいやですだ、おやかたさま、めっそうもねえ!」「言うた通りにおじゃれ、へたれめ!」といったもので、とうとうもう1度手をのばしてまたつかむそぶりをするはめに。今度はふたつの小さな悲鳴、それとまたしてもわれるガラス――「いっぱいたくさんキュウリのなえ箱があるのね!」とアリスは思う、「お次はどう出るかしら! まどの外へ引き出すっていうなら、願ってもないことだけど! ほんっともうここから出て行きたくてしかたなくってよ!」
 しばらくじっとしているあいだ、何も聞こえなかったのだけど、ついに耳に入るごろごろにぐるまの音、たくさんの話し合うざわめき、わかった言葉は、「もうひとつハシゴがおじゃったな――はあ、おらはひとつしか持ってこれんで、ビルがもひとつ持ってて――ここ、この角に立てかけ――ちがう、まずふたつつなげねえと――その高さだと、まだとどかな――おお、これでちょうどいい、やかまし言うな――ここだ、ビル! このロープをつかめ――やねはだいじょうぶか?――気をつけろ、あのかわら、ずれて――あ、落ちてくる! まっさかさ――」(ずどーん)「さて、だれがあれやる?――ビルじゃねえか――だれがえんとつおりるでおじゃ――やめろ、おらあいやだ! てめえ行けよ!――んな、おらだってそんなの――行くべきはビルでおじゃる――おい、ビル! おやかたさまがおおせだ、お前さんえんとつを下りてけって!」
「まあ、ならビルがえんとつを下りなくちゃいけないってこと?」とアリスはひとりごと。「ふぅん、ぜんぶビルにおしつけたみたいね! あたくしも、たくさんもらったってビルの代わりはおことわり。だんろはすごくきちきちだけど、たぶんちょっとけり上げるくらいは!」
 できるだけだんろの底の方まで足を引いて、小動物の気配がするまで待ちぶせ、(相手の正体もよくわからないままに)がりっそろそろと、えんとつのなか間近まで、とそのとき、「こいつがビルね」とひとりごとついでにしゅっとけり上げて、またじっとして次に起こることをさぐる。
 まず初めに「ありゃビルだ」の大がっしょう、それからひとりウサギの声、「受け止めるでおじゃる、生けがきのそばぞ!」しーんとしたあと、また今度はざわざわあわてふためく、「どういうことだ、おめえさん。何があった? 子細《しさい》を教えてくれ。」
 おしまいには、弱々しげなきぃきぃ声、(「こいつがビルね」とはアリスの考え)言葉はこう、「んあ、よくわかんねえ――頭がこんがらがって――何かがこっちに来た、びっくり箱みてえに、んで、もう次にはぴょーんとロケット花火みてえで。」「たしかにそんなんだった、おめえさん!」と一同の声。
「この家を焼きはらわんとな!」とはウサギの声、そこでアリスはあらんばかりの大声でさけぶ、「やってみなさい、あなたたちにダイナをけしかけてよ!」これがきいて、またしーん、そこでアリスが「でもどうやってダイナをここへ連れてくるわけ?」と考えているうち、気づけばたいへんうれしいことにどんどんちぢんでいく。あっというまに、息苦しい横向きの身のほどからもぬけ出せて、このいどころからも出てゆけるようになるほどで、ものの数分もするとまたまた7センチの背たけに。
 全速力でそのおうちからかけ出ると、見つかるのは外で立ちつくす小動物のむれ――モルモット、ラッテといったネズミたちにリスどもと、ミドリカナヘビっていうトカゲの〈ビル〉くん、モルモットの1ぴきにかかえられててね、ほかにもびんから何か飲ませてやってるのもいたり。みんなして、出てきたのを見るなりおそいかかってきたんだけど、アリスはひっしで走ってね、たちまち気づくと深い森のなかにいて。

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最終更新日 : 2012-12-10 22:15:09

みっつめ

「第1にやるべきことは、」とアリスは森をうろうろしながらひとりごと。「元の背たけになること、それから第2は、あのすてきなお庭へ出る道を見つけること。どうもそうしてみるのがいちばんよさそう。」
 たしかに、してみるにうってつけで、すっきりわかりやすい思いつきに聞こえるんだけど、ただひとつこまったことに、とっかかりがさっぱりわからなくってね、そうして、あたりの木々のあいだをそわそわとのぞきこんでいると、ワンとほえる声が頭の上からして、それはもうびくっと顔を起こしたんだ。
 1ぴきの図体のでかいワンコが、くりくり大きなお目々でこっちを見ていてね、ぷるぷると前足をのばしてさわろうとしてくる。「よしよし!」とアリスはあやす言葉のあと、口ぶえを強くふこうとしたんだけど、相手がはらぺこなのかなと気づいたらふるえがとまらなくなっちゃってね、そうなってくると、いくらなだめてもやっぱりむしゃむしゃ食べられちゃうわけで。もう思わずとっさに木切れをひろい上げてワンコにつきだしてみた。するとワンコはたちまちおどりあがって、きゃんきゃんはしゃぎながら木切れにとびかかる、どうもじゃれたいみたいでね、そこでアリスもふみつぶされないよう、でっかいアザミのかげにひらりとよける、そして反対側から出ると、すぐさまワンコが木切れめがけてまたつっこんできたんだけど、でもつかまえようとあせるあまりすってんころりん、これはもう、考えてみれば馬車馬とふざけ合ってるみたいなものだから、アリスも足でふみつけられそうなときには、そのたびごと、はっとしてかけ足でアザミに回りこむ、だからワンコにしても小きざみに木切れへしかけるようになってね、じわじわ前につめるかと思いきや大きく後ろ、しじゅうぐるるるとほえっぱなしだったんだけど、はてにはとうとうはなれたところでへたりこんで、はあはあと口から舌を出して大きなお目々も半びらき。
 これにアリスも、にげるのは今しかないとふんで、すぐさま動いてかけ足、やがてワンコのほえる声も遠くかすかになっていってね、そのうちこっちもへとへとで息切れ。
「まあでも、あんなワンコ、かわいらしいものね!」とアリスはひと息つこうとキンポウゲにもたれかかり、花の葉っぱであおぎながら、「芸をしこんでみるのも面白そう、その――元の背たけになったらの話だけど! もう! もう少しで元通りになるのをわすれるところよ! う~んと、どうやればうまくいくのかしら。たぶん何かしら食べるか飲むかすればいいんだろうけど、いったいぜんたい、何を?」
 その通り、いったいぜんたい、何を? アリスがあたりをながめまわしても、草花あれど、都合よく食べられそうなものはその場に何も見当たらない。ところがそばに大きなキノコ、背たけと同じくらいで、見上げたり、両わき、後ろに回ってみたりするうち、かさの上に何があるのか、目を向けてたしかめたいという気持ちになってくる。
 つまさき立ちで背のびして、キノコのへりからのぞきこむと、目にとびこんできたのが、こっちを向いた大きな青虫、すわりこんでうでを組み、ひそやかに水ぎせるをふかして、こちらにも何にも気にとめるそぶりさえない。
 しばらくだまったまま目を合わせていると、とうとう青虫が口から水ぎせるを外して、けだるそうに声をかけてきた。
「おぬしはだれじゃ。」と青虫。
 こんなきっかけでは話も始めづらくって、アリスもどこかもじもじしながら答えてね、「あたくし――よくわかりませんの、今のところ――少なくとも今朝起きたときにはだれだったかわかってたのに、そのあとあたくし、どうも何度か変わってしまったみたいで。」
「どういうことなの?」と青虫。「はっきりしてくれ!」
「だからはっきりしませんの、あいにく!」とアリス。「あたくしがあたくしじゃないの、わかって?」
「わからん。」と青虫。
「あいにく、これ以上何とも言えませんの。」とていねいに受け答えするアリス。「だって自分でもよくぞんじませんし、ほんと、1日でこんな色々な背たけになれば、頭もこんがらがってよ。」
「そうでもない。」と青虫。
「ふん、きっとあなたはまだあんまりおわかりでないのね。」とアリス。「でもあなただってほら、いずれさなぎになって、そのあとちょうちょに変わったりしたら、そういうのやっぱりちょっとけったいに思えるものでしてよ、そう思わない?」
「いささかも。」と青虫。
「少なくとも、」とアリス。「あたくしにはけったいに思えるってこと。」
おぬしとな!」と青虫は鼻でわらいながら、「そのおぬしはだれなのじゃ。」
 というわけで、また話はふりだしに。アリスは、青虫のそっけなすぎるしゃべり口にちょっといらいらしてね、そこでむねをはって、いたけだかに言う、「まずはご自分から名乗るのがすじとぞんじますけど?」
「なぜかね?」と青虫。
 これはまたまたなやましい。とっさの言いわけもできないアリス、青虫もひどく気げんをそこねているみたいなので、ぷいっと歩きさろうとしたんだけど。
「そこへもどれ!」と青虫が後ろから声をかけてきてね、「大事なことを教えてやる!」
 悪くない話に思えたから、アリスはくるっとして引き返す。
「そう怒《おこ》るな。」と青虫。
「それだけ?」とアリスは、なるだけいらいらを飲みこむ。
「いや。」と青虫。
 ほかにすることもないので、とりあえず待つことにすれば、そのうちきっと青虫も耳をかせるだけのことを話してくれる、そうアリスはふんだ。しばらくのあいだ、もの言わず水ぎせるをぷかぷかさせてたんだけど、やがてうでをほどいて、ふたたび口からきせるを外して、ひとこと。「自分が変わったと申すのじゃな?」
「そうですの。」とアリス。「前知ってたことが思い出せないの――『がんばるミツバチ』を歌ってみたけど、ぜんぜんちがってて!」
「ならばどうだ、『ウィリアムじいさん』は。」と青虫。
 アリスは手を重ねて、歌い出す。
「もう年なんだ、ウィリアムじいさん。」
わかもの言った、「頭は白髪《しらが》、
なのにいつでも、逆立ちばかり――
自分の年をわきまえろよ!」
むすこに向かって、じいさん言った、
「わかいころは、ケガおそれた、
だけどもともとバカだと気づき、
それからあとは、打ちこむのみよ。」
「もう年なんだ、わかってくれよ、
どっから見ても太りすぎだよ、
なのに戸口でバク転なんて――
いったい何を考えてんだ?」
しらがふりわけ、じいさん言った、
「わかいころには、しなやかじゃった、
このぬり薬のおかげでな――
ひと箱5シル、どうじゃふた箱?」
「もう年なんだ、はぐきも弱い、
やっとあぶらみ食えるくらいで、
ガチョウをほねごとがりがり食べる――
こりゃいったいどうなってんだ?」
「わかいころには、へりくつばかり、
ことあるごとに、にょうぼと言い合い、
おかげでアゴもきたえられてな
死ぬまでずっとそのままじゃろな。」
「もう年なんだ、ふつうだったら、
目のほうだってしょぼしょぼのはず、
それでも鼻にウナギを立てて、
じいさんどうしてバカほどきよう?」
「3べん言えば、わかるじゃろ!
いいかいお前、いい気になるなよ、
こんな話はもうたくさんじゃ。
いなねば上からけりおとす!」

「正しくないのう。」と青虫。
わりとね、あいにく。」とアリスはおずおず。「ところどころちがってはいてよ。」
「初めから終わりまでまちがっておる。」と青虫はばっさり、そのあとしばし、しぃん。さきに口をひらいたのは青虫。
「どれくらいの背たけになりたい?」とたずねてきてね。
「べつに、背たけにこだわりなんかなくって、」とあわててお返事するアリス、「ただ、ころころ変わるのはいただけなくてよ、やっぱり。」
「今は足りておるのか?」と青虫。
「う~ん、もうちょっとばかり大きいほうがいただけそう、といったところね。」とアリス。「7センチの背たけって、なってみるとみじめなものよ。」
「こりゃほどよい背たけなんじゃぞ!」と怒《おこ》った青虫が声をはりあげて、しゃべるままに背すじをのばす(ちょうど7センチのたけにね)。
「でも、こんなのしっくりこなくてよ!」と、弱ったアリスはみじめたらしく食いさがりながら、こう思う。「ここの生き物、こらえしょうってもの、ないのかしら!」
「そのうちしっくりこようて。」と青虫は口に水ぎせるをくわえて、またふかし始める。
 今度もアリスは、相手がまた話す気になるまでじっと待ってね、数分すると青虫は口から水ぎせるを外して、キノコから下りて、草むらへとくねくねと立ち入り、去りぎわのすて言葉。「かさのところでのびる、えのところでちぢむ。」
のかさ? のえ?」と思うアリス。
「キノコのじゃ。」と青虫、口に出てない言葉に返事したと思いきや、まばたきするともう目の前から消えていて。
 アリスは少しのあいだキノコにうたがわしい目を向けていたんだけど、そのあともぎって、おそるおそるふたつにぽっきり、片手にえのところ、もう片手でかさを取って。「えでどうなるんだっけ?」とか言いながら、試しにちょびっとかじってみると。またたくまもなく、いきなりアゴにどんと何かがぶつかる。なんと足とごっつんこだ!
 このいきなりの変わりように、たいへんおそれをなしたものの、ちぢむのはそこまで、キノコのかさもとりおとしてないから、まだあきらめたりしません。アゴが足にくっついているから、口を開けるのもむりに近いのに、なんとかやりとげて、ついにキノコのかさをちょびっとかみちぎる。
*  *  *  *  *
「うん! ようやく頭が楽になってよ!」とアリスがはしゃいだのもつかのま、すぐにうろたえだしたのは、自分の肩《かた》がどこにも見えなくなったからだ。かぎりなくのびた首をながめおろすと、遠く下に広がる緑の葉の海から1本つき出ているみたいで。
「あの緑のしろものは、何だっていうの?」とアリス、「それにあたくしの肩は、どこに行って? それから、もう! なんてこと、あたくしの手は? どうやったらそんな迷子《まいご》に!」と口にしながら、あれこれ動かしてみたんだけど、どうもそのあとに起こったのは、葉っぱのざわざわだけ。そこで頭を手のところまで下ろしてみようとしてね、しかもうれしいことに、なんと首はあらゆる向きへやすやすと曲げられる、ヘビみたいに。そこで首をたくみにうねうねと曲げてみせ、葉っぱのなかへつっこんで初めて、自分がそれまでうろついていた森の木々のてっぺんにいると気づいたんだけど、せつな、しゃーっとおどかす声にさっと引っこめると。顔に飛びかかってくる大きなハト、したたかに羽を打ちつけてくる。
「ヘビめ!」とさけぶハト。
「あたくしヘビじゃなくてよ!」とアリスもぷんすか。「よして!」
「どこへ行っても!」と、やりきれないといったふうに、ハトはしくしく。「どうしようもないのよ!」
「いわんとすること、ちっともぴんと来なくてよ。」とアリス。
「木の根元も行ってみた、土手にも行った、生けがきも行ってみたのに。」とハトはこっちそっちのけで続ける、「あいつらヘビが! いつまでもあきたらない!」
 ますますわからないアリスだけれど、口を出してもしかたないので、終わるまでそのまま。
「まるで、そうやすやすとタマゴはかえさせんぞ、とじゃまされてるみたい!」とハト。「いつだってヘビにぴりぴりしなくちゃいけなくて、昼も夜もよ! あああ、この3週間、ひとねむりもしてないっていうのに!」
「おなやみお気の毒さま。」とアリスにも、言わんとすることがわかってきた。
「だから森いちばんの高い木にのぼって、」と声をうわずらせるハト、「やっとのがれられたと思っていたところ、来るなら空からおちてくるしかないってのにさ! うげっ! ヘビ!」
「でも、あたくしヘビじゃなくてよ。」とアリス。「あたくし――あたくし――」
「ふん! 何だっていうの?」とハト。「何かごまかそうとしてんじゃないの。」
「あたくしは――女の子よ。」と言いつつ、どこかしっくりこないアリス、これまでいく度となくのびちぢみしたのを思い出してしまってね。
「都合のいい言いのがれね!」とハト。「生まれてこのかたおおぜい見てきたけれど、あんたみたく首の長いのはひとっこひとりいなかったね! そうよ、あんたはヘビ、そんなことはお見通しなんだから! どうせ次には、タマゴなんて味わったことないって言いくさるんだろ!」
「タマゴくらい味わったことあってよ、ええ。」と言うアリスはほんとに正直もの、「でも、わざわざあなたのものなんかいただくもんですか。生《なま》なんていただけなくってよ。」
「ふん、なら、しっしっ!」とハトはまた自分の巣におさまる。アリスはアリスで、木々のあいだ、なるだけ身をかがめたんだけど、首が枝にからまるばっかりで、何度もとちゅうでほどくはめに。そのときふと、手ににぎったままだったキノコのかけらを思い出してね、あらためてそうろっとあつかいながら、まずはひとつをかじり、さらにもうひとつ、のびたりちぢんだりしながら、ようやくいつもの背たけにおさまることができた。
 かなりひさびさの元の背たけなので、初めはとっぴに思えたけど、ものの数分もするとしっくりくるくる、そしてれいのごとくひとりごとの始まり。「ふう! これで半分はかなったわけね! ほんとわけわかんなくてよ、ころころ変わるなんて! 次から次へと、何になっていくのか読めないし! とはいっても、また元の背たけになれたんだから。お次は、あのきらびやかなお庭に入ることね――どうやってやったものかしら?」
 こんなことを言っているうちに、ふと目についた一本の木、そこに何やらなかへと続く戸口がついていて。「まあ、へんてこりん!」とアリスは思ってね、「でも今日はみんなへんてこりん、だから入ってもまあよろしくてよ。」というわけで、なかへお立ち入り。
 すると気づけばまたもや大広間、そばには小さなガラスのテーブル。「さあて、今度こそうまくやってみせてよ。」とひとりごと、まずはちっちゃな金の鍵《かぎ》を手にとって、庭へ続くドアを開ける。それから手をつけるのがキノコのかけら、食べていって最後は38センチくらいの背たけに。そのあと短いろうかをぬけていって、そしてお次は――気づいたらとうとうきらびやかなお庭だ、あたりにはきらめく花園《はなぞの》、すずしげな泉《いずみ》だ。

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最終更新日 : 2013-03-06 20:53:07

よっつめ

 大きなバラの木が1本、庭を入ったところに立っていて、ついてるバラはどれも白なのに、その場にいた3まいの庭係が、いそいそとそいつを赤にぬっていてね。これがアリスにはすごくへんてこなことに思えたものだから、じっくり見ようと足を向けると、近づくなり聞こえてくる、うちひとりの言葉、「気ぃつけろよ、5まい目! そんなふうにこっちへ絵の具をはねかけんな、こら!」
「しょうがねえだろ。」と5まい目はむっとした声を返す、「7まい目がこっちのひじを小づきやがった。」
 それに7まい目も顔を上げて口をはさむ、「やんのか、5まい目! いつもいつもひとのせいにしやがって!」
てめえ言ってるばあいかよ!」と5まい目。「聞いたぜつい昨日、クインのやつがてめえの首はねようかっつってな!」
「ワケは?」と口火を切ったやつ。
「てめえの知ったこっちゃねえよ、2まい目!」と7まい目。
「いいや、知ったこっちゃあるんだな!」と5まい目、「だから教えてやんよ、ワケってのはジャガイモとまちがえてチューリップの根っこを料理係に持ってったってな!」
 7まい目はハケを放り出してまくし立てる、「はあ? そんなおかどちげえ――」とここで目にうつるアリス、ふいに話が止まる。ほかの2まいもふり返り、みんなしてかぶりものをぬいで、ふかぶかおじぎ。
「もし、教えていただけて?」とアリスはおずおず、「どうしてバラに色なんかつけてらして?」
 5まい目と7まい目は2まい目をにらむだけで、おしだまっている。そこで2まい目が小声で、「その何だ、じょうちゃん、実はさ、本当は赤いバラの木のはずだったんだけど、手ちがいでオレら白いのを植えちまってさ、クインに見つかるはめにでもあったら、もうオレらみんなそろって打ち首よ。つーわけでさ、来ないうちやれることやっとこ――」と、まさにこのとき、庭の向こうをそわそわと見つめていた5まい目が声をあげる、「クインのやつだ! クインだ!」庭係の3まいはあわててぺたんとうつぶせにたおれる。おおぜいの足音にふり返ったアリスは、当のクイーンにじいっと目をそそぐ。
 まずやってきたのが、こんぼうをかまえた10まいの強者《つわもの》、すがた形は庭係3まいと同じで、ぺらぺらの長四角、角のところに手足がついててね。お次は10まいのそばづかえ、そろってダイヤで色取られ、強者と同じで2列になって歩いている。そのあとに来るのが王子さま王女さま、10まいいらっしゃて、このかわい子ちゃんたち2人1組で手をつないで、うきうき軽やかに進む、そろってハートがらのおあしらい。次に来るのがお歴々、キングにクイーンがほとんどだけど、そのなかにアリスはあの白ウサギを見つけてね、でもせかせかとお話しながら言われたことにはあいそ笑いするばかりで、気づかずに前を通り過ぎて。そのあと続くのがハートのジャック、おしいだいたるふわふわの台の上にはキングのかんむり、そしてこの大ねり歩きのとりをかざるのが、ハートのキングとクイーンだ
 ねり歩きはアリスのまん前まで来ると、そろって立ち止まって目を向けてくる、そこでクイーンが一言ぴしゃり、「こやつはだれよの。」たずね先はハートのジャック、だけど返ってくるのはおじぎとにこにこだけ。
「バカ者!」とクイーンは鼻をつんと上げ、今度はアリスにたずねる。「名は何と言う?」
「あたくしの名前はアリスです、クイーンさま。」とアリスは強気の受け答え、だって心のなかでは、「ふん、ただのトランプ1組! おそるるに足らずよ!」
「あれは何よの。」とクイーンが指さしたのは、バラの木のまわりにたおれた3まいの庭係、だってうつぶせになっていたし、背中のがらはどのトランプもおんなじだから、そこにいるのが庭係なのか、強者、そばづかえ、はたまた自分の子どもたちなのか、さっぱりでね。
あたくしに聞かないで。」というアリス、その気の強さに自分でもびっくり、「知ったこっちゃなくてよ。」
 怒《いか》りで真っ赤になるクイーン、ちらっとにらみつけてから、やにわ声をとどろかせ、「こやつの首をちょん切――」
「からっぽ!」とアリスが大声で言ってのけると、クイーンはしーんと静かに。
 キングがその手をクイーンのうでに置いて、おずおず言い出す、「これお前、考え直さんか! ほんの子どもだ!」
 クイーンはぷいっと顔をそむけて、ジャックに言いつける、「こやつらひっくり返せ!」
 ジャックは、そうろっと片足でやってのけた。
「立てい!」とクイーンがきぃきぃ大声をあげると、3まいの庭係はたちまちとび起き、おじぎを始めてね、キングにクイーン、王子王女にみなみなさまへ。
「ええいやめい!」とかなきり声のクイーン、「目が回る。」とそこでバラの木の方を向いて続ける、「ここで何をしておったのだ?」
「おそれながらクイーンさま。」とへりくだる2まい目は、しゃべるあいだ片ひざをついて、「なんとか3まいで――」
もうわかった!」と、そのあいだにバラをたしかめていたクイーンは、「こやつらの首をちょん切れ!」そしてねり歩きは動き出し、手を下すための強者が3まい、あとに残されたので、追いつめられた3まいの庭係はアリスにかけよって助けを求める。
「打ち首なんかさせなくってよ!」って、アリスは3まいともをぽっけにつっこんでね。だから3まいの強者には、ぐるりと1周さがされただけで、あとはみんなの後を追ってすたすたすた。
「首はのうなったかえ?」とクイーンの大声。
「みな首なしにて、」と強者の返事も大声、「ございまする、クイーンさま!」
「よろしい!」とクイーンの大声、「そちはクローケーができるか?」
 おしだまった強者ども、目を向ける先はアリス、つまりどうも、聞かれてるよってことみたいで。
「はいっ!」とアリスの声は大きくうわずってね。
「ならばこちへ!」と声をひびかせるクイーン、ねり歩きの仲間になったアリスは、これから何が始まるのか気になる気になる。
「これ――よいお日がらであるな!」とおずおずひそひその声。なんととなりを歩いていたのはあの白ウサギ、こわごわ顔をのぞかれていてね。
「本当に。」とアリス、「御前さまはどちら?」
「しっ、しーっ!」と小声で返すウサギ、「聞こえるでおじゃる。クイーンさまがその御前さま、知らんでか?」
「ええ初耳。」とアリス、「何をおおさめ?」
「ハートどもの女王にして、」とウサギはひそひそ声で耳打ち、「ウミガメフーミどもをすべておじゃる。」
「えっ、それ何?」とアリスが口にしたんだけど、返事のひまもなくってね、だってもうクローケーをやる場所についていて、すぐに試合が始まったんだ。
 アリスは思った、生まれてこのかたこんなへんてこなクローケー場見たことないって。そこらじゅうが凸凹で。クローケーの玉は生きたハリネズミだし、ボールを打つつちは生きたダチョウ、それに強者どもがわざわざ両手両足をついて身体を2つ折り、玉のくぐるところをつくってね。
 なかでもいちばんむつかしいってアリスがまず気づいたのが、ダチョウのあつかい。そいつのどう体を、おさまりのいいよう、わきにおしこんで、足をぶらぶらさせてみたんだけど、たいていは、首をうまくまっすぐにして頭で打とうとしたとたん、そいつに身体をひねられ顔をのぞきこまれてね、相手があまりにこまった顔をするもんだから、ぷっとふきだしちゃうしかなくって。それから頭を下向きにしてしきりなおしても、今度はハリネズミが丸まってくれずにちょろちょろどっか行き出すもんだから、なやましいったらなくて。ましてやそれどころか、ハリネズミをどこへ転がしたいにしても、たいていその方向には凸か凹、それに2つ折りの強者どもはしじゅう起き上がってべつのところへ歩いていっちゃうから、アリスもたちまち、この試合むつかしすぎると思うにいたる。
 やってる人も自分の番をまたずにみんないっせいにやるし、ずーっと大声で言い合い、ものの数分でクイーンは怒《いか》りばくはつ、どしんどしん歩いていって、「あの男/あの女の首をちょん切れ!」ってどなることおよそ1分に1回。言いわたされたやつはみんな、強者にしょっぴかれていくから、そうなるともちろん玉くぐらせの役ができなくなるわけで、そんなこんなで30分かそこらもたつと、残ったのはキングとクイーンとアリスだけで、あとはみんな打ち首を言いわたされてしょっぴかれてしまった。
 そこでクイーンも手をとめて、ぜえはあ言いながら、アリスに一言。「そちはもうウミガメフーミに会うたか?」
「いいえ。」とアリス、「そもそもウミガメフーミが何だかぞんじませんし。」
「ならばこちへ。」とクイーン、「さすれば本人がいわれを教えてくれよう。」
 いっしょになってそこをはなれるとき、アリスの耳へ、キングがその場のみんなにかける声がかすかに、「このたびはみな大目に見る。」
「はあ、ほっとしてよ!」と思うアリス、クイーンが打ち首をたくさん言いつけてかなり心をいためていたからね。
 まもなく行き当たったのが1ぴきのグリフォン、日なたですやすやねていてね(グリフォンがどんなのか知らないなら、さし絵をごらん)、「起きよ、なまけもの!」とクイーン、「この姫君《ひめぎみ》をウミガメフーミのところへあないして、いわれを聞かせてやれい。わらわはもどって、言いつけた打ち首を見とどけねばならん。」とはなれていって、残されたアリスとグリフォン。アリスはこの生き物のつらがまえがそこまで気に入ったわけではないんだけど、考え合わせてみると、ここにいても、あのぷんすかクイーンについていくのも、どっちでもあぶないのは変わりなさそうだから、じっとしてたんだ。
 身体を起こしたグリフォンが目をこすって、そのあと見えなくなるまでクイーンをまじまじ。そのあとふくみ笑い。「けっさくでい!」とグリフォンは、ひとりごと半分でアリスに言う。
「けっさくって、何が?」とアリス。
あの女さ。」とグリフォン。「みんなあいつの思いこみでい、だれひとり打ち首なんてねえってことよ、こっちだ!」
「ここの方々『こっちだ』ばっかり。」と思いつつもアリスはグリフォンについていく。「生まれてこのかた、そんなふうに言いつけられたことなくってよ――なくってよ!」
 歩いてほどなく遠くに見えてくるウミガメフーミ、いわおの小さなでっぱりに、ひとり悲しそうにこしかけていてね、近づくにつれ聞こえてくるため息、まるでむねがはりさけたみたい。だから心からかわいそうになって、「何が悲しくって?」とグリフォンにたずねたんだけど、グリフォンの答えは、さっきのとほとんど同じような言葉でね、「みんなあいつの思いこみでい、悲しいことなんてべつにありゃしねえ、こっちだ!」
 で、ウミガメフーミのところまでたどりつくと、大きな目をうるうるさせて見てくるわりに、ものも言わない。
「こちらの姫君《ひめぎみ》が、」とグリフォン、「おめえのいわれを知りてえんだとさ。」
「申します。」とウミガメフーミは、消え入りそうな声で、「おすわりくだせえ、しまいまでどうかお静かに。」 というわけで、こしを下ろして、しばしのあいだみんなだんまり。そこでアリスは考えごと、「始まらないなら、おしまいも何もないんじゃなくて?」でもじっとこらえる。
「昔は、」とついに口を開くウミガメフーミ、ふかいため息ついて、「あっしもまっとうなウミガメでした。」
 そう切り出したあと長い長い間があってね、ときどきグリフォンの「ひっくるぅー」というおたけびがはさまったり、ひっきりなしウミガメフーミのさめざめという泣き声が聞こえたりするくらいで。アリスは立ち上がって「面白いお話ご苦労さま。」と言い捨てそうになるところだったけど、きっと何かあるはずとどうしても思えるのもあって、すわったままだまっていたんだ。
「まだ小せえころは、」とウミガメフーミはおもむろに続きを話し出してね、たびたびまだしゃくり上げたりしながら、「海の学びやに通うもんで。先生はウミガメのじいさんで――あっしらはよくスッポンと呼んどり――」
「どうしてそんなあだ名になって? ほんとはちがうのに。」と口をはさむアリス。
「まっさらな本は素本《すほん》と言うだろ。」とウミガメフーミはぷんすか、「あんたほんとににぶいむすめだ!」
「てめえそんな当たりめえのこと聞いてはずかしくねえのか?」とグリフォンが追いうち、そのあとはふたりとももの言わずすわったまま、かわいそうなやつと目を向けてくるので、アリスは穴があったら入りたい気持ちになってきて。やがてグリフォンがウミガメフーミに声をかけてね、「続けろい、こんにゃろ! 日がくれちまう!」するとウミガメフーミはこう言葉をついでいく。
「もしやおめえさんは海の底でくらしたことがなくて――」(「なくてよ。」とアリス。)「するってえとまさかロブスターにも顔合わせたことがねえ――」(「食べたことはあ――」と言いかけたけどあわてて口をつぐんで、「ない、ぜんっぜん。」と言い直すと、)「なら、ごぞんじねえわけですな、うっきうきのロブスターのカドリールは!」
「ええ初耳。」とアリス、「どういうダンスなの?」
「そりゃあ、」とグリフォン、「海辺ぞいに1列になってな――」
「2列でい!」と声を上げるウミガメフーミ、「アザラシにウミガメにシャケにいっぺえよ――2歩前ん出て――」
「てめえごとで相手にロブスターをだな!」と声をはるグリフォン。
「そうともさ。」とウミガメフーミ、「2歩出て相手につらを向けてな――」
「ロブスターを取りかえ、元の列にもどる――」と横入りするグリフォン。
「それからほら、」と先を続けるウミガメフーミ、「投げんだよ――」
「ロブスターを!」とさけぶグリフォン、ぴょーんとおどり上がる。
「できるだけ海の遠くへ――」
「で追っかけて泳ぐ!」とグリフォンのおたけび。
「海んなかでとんぼ返りよ!」と大声のウミガメフーミはやたらはね回る。
「またロブスターの取っかえ!」とあらんかぎりにわめくグリフォン、「そんで――」
「おしまい。」とウミガメフーミはとたんに声をひそめて、ふたりはそれまでずっと頭おかしいくらいにぴょんぴょんしていたのに、またもの悲しそうにすわりこんで、アリスに目をやる。
「それなりにすてきなダンスじゃなくて?」とアリスはぎこちない。
「ちっとばかし見たかあねえですか?」とウミガメフーミ。
「ええぜひ。」とアリス。
「さあ、ひと回りやってみやしょうぜ!」ウミガメフーミからグリフォンへ、「まあロブスターなしでもできましょうて。どっちが歌いやす?」
「よし! てめえが歌え!」とグリフォン、「文句をわすれちまってな。」
 と、もったいぶりつつ始めると、アリスのまわりをぐるぐる、たびたび近づきすぎては毎回つま先をふんづけていきつつ、ふしを取ろうと前足ふりふり、そのあいだ歌うのはウミガメフーミ、しみじみこんなふう。

海《うな》ばら
ロブスターびっしり――
かこまれ、ふたりで
ダンスを、シャケさま!

 グリフォンもコーラスで歌にくわわる、文句はこう。

行ったり来たり!
おっぽふりふり!
海の魚の
いちばんはシャケさ!

「ご苦労さま。」とアリスは、ダンスが終わってほっとした気分。
「もうひと回りとしゃれこむか?」とグリフォン、「それよかお歌が好みか?」
「ええ、お歌をお願い!」とアリスの返事があまり本気なので、グリフォンもちょっときずついたみたいで、「へえ! 人も好き好きか! 『ウミガメフーミスープ』を歌ってやれ、こんにゃろめい!」
 深くため息をついたウミガメフーミは、時になみだにむせびながらも歌い出す。

すてきなスープ こくみど
おさらでほかほか!
がまんできない、もう!
よぉるのスープ すてきなスープ
よぉるのスープ すてきなスープ
すぅ~てきなスぅ~プ!
すぅ~てきなスぅ~プ!
よぉ~るのスぅ~プ
すてきなすてきなスープ!

「※くり返し!」とグリフォンが声をはって、ウミガメフーミがふたたび歌い始めたまさにそのとき、「おさばきの始まり!」というさけび声が遠くから聞こえてきて。
「こっちでい!」とグリフォンはアリスの手を取ってかけ出していく、歌の終わるのもまたずに。
「何? おさばきって?」とアリスが走りながら声をふりしぼったのに、グリフォンは「こっちだ!」って返すだけでどんどん早足、追い風がふいてるせいか、ますますかすかになっていくうらぶらげな声。

よぉ~るのスぅ~プ
すてきなすてきなスープ!

 つくと、キングとクイーンが高いところにすわっていて、そのまわりにはおおぜいがお集まり。ジャックが引っ立てられてて、それにキングのすわる前にはあの白ウサギ、片手にトランペット、もう片手に羊の皮のまき紙。
「しきり役! おかされた罪を読み上げよ!」
 これを受けて、白ウサギはトランペットを3ふき、それからまき紙を広げて、こう読み上げる。

ハートのクインがタルトを作る
夏のさなか1日かけて
ハートのジャックがタルトをぬすむ
かくれてこっそりひとりじめ!

「さてこれよりたしかめる。」とキング、「そののち言いわたす。」
「いいえっ!」とクイーン、「言いわたすのが先、たしかめるのは後《あと》!」
「からっぽ!」とさけぶアリス、あまりの大声にみんなとび上がる、「言いわたすのが先だなんて!」
「だまらっしゃい!」とクイーン。
「だまらない!」とアリス、「あんたたちなんてただのトランプ! だれが言うこと聞いて?」
 せつな、トランプがいっせいにおどり上がり、空からふりそそいでくる。きゃッと、びくついたあと打ちはらおうとしたら、気づけばもとの池のほとり、お姉さまにひざまくら、木から頭にひらひら落ちかかっていた葉っぱをやさしく取りはらってくれていて。
「起きて、いとしいアリス。」とお姉さま、「ほんと長々としたお昼ねだこと。」
「ねえ、あたくしもう、へんってこなゆめ見てたの!」とアリスはお姉さまに自分の地底めぐりのことを、ここまで読んできた通りぜんぶおしゃべり、終わるとお姉さまはキスをしてくれてね、こう言った。「へんてこなゆめだったのね、ほんと! でもすぐにお茶へかけ足しないと。このままだとちこくよ。」
 というわけで、アリスはかけ足、走りながら心のなかは(そりゃやっぱり)、これまでのふしぎなゆめのことでいっぱい。
――――――――――――――――――
 ところがお姉さまはその場にしばらくあとまですわったまま、夕ぐれをながめながら、小さなアリスと地底めぐりのことを考えているうち、今度は自分もうつらうつらゆめを見始めてね、そのゆめっていうのはこう。
 目の前には大むかしの大きな街、そのそばを原っぱぞいに川がそよそようねうね、その流れをゆっくり静かにさかのぼっていくボートには、楽しそうな子どもたちの集まり――聞こえてくるおしゃべり、水面《みなも》にかかる音楽のような笑い声――そのなかにはもうひとり小さなアリスがいて、きらきら目をかがやかせながら語られるお話に耳をかたむけていて、自分もそのお話の言葉に耳をすませてみると、なんと! それは妹のゆめそっくりそのまま、さあボートはゆっくり進む、きらきら夏の日の下、楽しげに乗る一行とおしゃべり・笑い声の調べを連れて、やがてうねる川のどこかを曲がると、何も見えなくなる。
 そうして(いわばゆめのなかのゆめとして)思いうかべるのは、この当の小さいアリスがこれから先、ひとりの女に育っていくさま。大人にふくらんでいくなかでも、子どものころの、すなおなあたたかい心を持ち続けていくのか。そして、だれかの子どもをまわりに集め、たくさんふしぎな話をしては、その子たちの目をきらきらかがやかせるのだろうか。その話は、遠い昔に小さなアリスがめぐったお話そのものだったり? すなおに悲しむその子たちのそばで、自分もと、すなおにはしゃぐその子たちにかこまれ、楽しかったと気づくのかな、自分の子ども時代の思い出、あの幸せな夏の日々に。

6
最終更新日 : 2012-12-23 16:20:51











Original Text : Alice's Adventures Under Ground (1864)
Original Author : Lewis Carroll (1832-1898)

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最終更新日 : 2012-12-10 18:57:11

奥付



アリスの地底めぐり


http://p.booklog.jp/book/61968

著者 : ルイス・キャロル
訳者 : 大久保ゆう

発行 : Alz
発行元情報:http://p.booklog.jp/users/alz/profile

※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」
http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。
上記のライセンスに従って、訳者に断りなく自由に利用・複製・再配布することができます。

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最終更新日 : 2012-12-10 18:58:46

この本の内容は以上です。


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