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目次

  

第1話 アロハとの出会い 

  ・アロハとの出会い

  ・イジメ克服の決断

 

第2話 親は君を守れないことを知る

  ・親は君に構っていられない

  ・親は君の社会を知らない

  ・親と現状に感謝をする

 

第3話 学校も君を守れないことを知る

  ・先生には君を守る能力がない

  ・先生は人生の達人ではないことを知る

  ・先生も君に構っていられない

  ・先生は自分のことを優先する

 

第4話 イジメの実態を知る

  ・イジメられるのには理由がある

  ・イジメっ子の実態を知る

  ・イジメっ子の特徴を知る

  ・イジメられない子の特徴を知る

  ・イジメっ子とイジメられる子の共通点と相違点

 

第5話 自分自身を変えなければならないことを知る

  ・誰かに頼るのをやめる

  ・原因は君にもある

  ・自分自身を変える

  ・自分自身を変える3つの要素

 

第6話 自分の外面(外見)を変える

  ・生活習慣を変える

  ・生活態度を変える

  ・他人からの評価をあげる

  ・身の回りを清潔に保つ

  ・晴れた日の青空みたいな人間になりなさい

 

第7話 自分の内面を変える

  ・心の中を清潔に保つ

  ・後ろめたいことをしない

  ・ストレスを上手に発散する

  ・問題に立ち向かう勇気を持つ

  ・内なる自分と対話をしなさい

 

第8話 イメージの力で自分を作り上げる

  ・潜在意識にプログラミングする

  ・将来の幸せな自分を鮮明にイメージする

  ・いじめっ子に感謝している自分を想像する

  ・幸せ力のテスト

 

第9話 自分に価値とブランドを付け、成功体験を積み重ねる

  ・好きなことを徹底的にやる

  ・人に感動を与え、喜びを分かち合う

  ・ブランド価値を付ける

  ・いちいち満足する

  ・小さな成功体験にフォーカスし、積み重ねる

 

第10話 逆風に負けるな

  ・君が成長すると周囲の態度が変わる

  ・みんな変化を恐れている

  ・自分の中の敵に負けるな

  ・周囲からの圧力に負けるな

  ・逆風を乗り越えた先に見えるもの

 

第11話 環境について知る~自分をさらに向上させろ~

  ・地位が人を育てることを知る

  ・環境を変えなさい

  ・変えられる環境と変えられない環境があることを知る

  ・レベルの高い人とつき合うこと

 

第12話 君の人生を変えよう

  ・経験を活かす

  ・すべての出来事を受け入れよう

  ・人生は素晴らしい

  ・最後のテスト

 


第1話 アロハとの出会い

 

アロハとの出会い

 

 夜の7時。今日も僕はゲームセンターにいた。

部活動をやっていない僕は、できるだけ早く学校から出ることを日課としている。

 

学校からは早く出るが、家には帰らない。そんな生活だった。

家に帰っても誰もいない。両親とも働きに出ていて、『今日も遅くなるから』とメールがあった。

 

かといって、まだゲームを続けようとは、思わなかった。

ゲームっていうのは、やってる再中は夢中になれるのだが、いったんゲームオーバーになってしまうと何ともいえない虚しさが残る。一点に集中し続けているからだろうか、終わった後にどっかりと疲れも残る。

 

今日は特に体がだるい。

「つまんね~な。生きていても楽しいことね~な。」これが、最近の僕の口癖だった。

 

小腹がすいてきたので、何か食べようと思ったが、食べたいものもないし、そんなにお金も持っていないから、ファストフード店でハンバーガーを食べることにした。

 

一人で食べるハンバーガーは旨くない。ましてや、味もどうだかよくわからない、いや興味がないといった方がよいだろう。美味しさなんか、もともと求めていない。

この、空腹感が満たされれば、それでいいんだ。

 

ハンバーガーとポテトを半ば食べ終えた頃、店に6人の学生が入ってきた。

そのうちの1人が、僕をみつけた。

 

「武じゃね~か。」

僕は、その声が聞こえると同時にうつむいた。

すると、もう一人が「なに目をそらしてんだよ!」と僕の胸ぐらを掴み、横を向いた僕の顔を無理やり正面に向けた。

 

「なにするんだよ!」僕はそいつの手を払いのけ、再び目をそらした。

  

「おい、俺らに抵抗する気か?」6人が近づき、1人が足のすねを蹴ってきた。

 

「いたっ」

 

「痛がってんじゃね~よ。それよりさ、俺ら腹減ってんだけど、お金持ってなくてさ。お前持ってるんだろ。ちょっと、貸してくんね~かな、金。」

 

「……わかったよ」

僕は、どうせ金なんか返してもらえないのはわかっていたが、反抗すればお金だけじゃなく暴行までされるので、従うことにした。とりあえずこの場から逃げ出したい。その一心だった。

 

財布からお金を出そうとした瞬間、胸ぐらを掴んだセイジが僕の財布を奪った。

「全部、貸せよ!」セイジはニヤつきながら奪った財布ごと、6人でレジに向かった。

                                                                                                          

その時だった。

 

「君達、いい加減にしろよ。」男は、財布を持ったセイジの胸ぐらを掴んだ。

セイジは、じたばたしたが全く動けない。

他の少年たちは、そのアロハシャツを着た青年があまりにも筋肉質で、まるでプロレスラーのような体格をしていたために、手助けすらできなかった。

 

アロハの青年は、セイジから財布を取り上げ、無言で武に返した。

そして、今度は僕の胸ぐらを掴み、そのまま一緒に店を出た。

 

「あ、ありがとうございました。」僕はか細い声で義務的にお礼をいい、足早にその場を去ろうとした。

 

「ちょっと待ちなさい。あれじゃ、駄目だな。」

 

「えっ?」

 

「君は、これからもずっとあのままだ。それでいいのか?」

アロハの男は、1枚の紙を僕に渡した。

 

「君にこれをあげておく。気が向いたらそこに書いてある住所に私を訪ねて来なさい。」男はそれだけ言うと、にこやかにウインクをして去っていった。

 

それが、僕とアロハさんの出会いだった。

 

 

 

 

イジメ克服の決断

 

そこは、きれいなマンションの一室だった。

ドアに「ライフマスターカレッジ」と書かれた小さな看板があった。

 

僕は、学校の同級生であるガラの悪い6人の不良に絡まれたあの一件で、アロハシャツを着た男に助けられた。

それ以来、ずっと悩んでいた。

「気が向いたらそこに書いてある住所に私を訪ねて来なさい。」と男にメモを渡されて、3日が経った。

行くべきかどうか。

 

「同級生からは今もイジメを受けているし、自分ではどうすることもできない。ゲーム以外にやることもないし、行こうと思えば行く時間はある。

このまま、みじめな人生を送り続けるのも、もう我慢できない。」

悩んだ挙句、そう考えた僕は「とりあえず行ってみよう。」と行ってみることにした。

 

 

「こんにちは。」

小さい声で、申し訳なさそうにドアを開けると、今日もアロハシャツを着たあの男が、器具を使って、筋トレをしていた。

 

「おう。いらっしゃい。来ると思っていたよ。」

アロハシャツの男は、ニコッとして、こっちへおいでと手招きをした。

 

部屋の中は、ふんだんに汗をかいた男に似つかわしくないアロマのいい匂いで包まれていた。

シンプルな机が1つあって、椅子が男の座るものと来客用に2脚。あとは、パソコンと筋トレ用の器具があるだけだ。15~6畳ほどの広い空間には、それら以外は何もなく、殺伐とした部屋だった。

 

 

「君はいつもいじめられているのかい?」

椅子に腰かけるとアロハの男は早速、本題に入った。

 

「は、はい。学校でもカツアゲにはいつも遭いますし、反抗するそぶりをみせると蹴りを入れられたり、もっと酷いこともされます。」

 

「それは困ったね。このままじゃ明日も明後日も、同じようにカツアゲされちゃうよ。」

 

「僕は人生をあきらめています。親を見ても、幸せそうには見えないし、世の中も暗いニュースばかりで、周りを見ても楽しそうに暮らしている人なんか見当たりません。イジメにあっていることだって、僕にはどうすることもできないし、親や学校に相談しても、相手にしてくれず僕のことを理解しようとはしてくれません。親や学校にも失望しています。だからもう、どうでもいいんです。」

 

「なるほど。君はその若さで、もう人生をあきらめているのかい?」

 

「はい。今も人生が楽しくないし、将来だって、父親や母親みたいにやりたくもない仕事をやりながら、少ない給料で生活をしなくてはならないと思うと、生きている意味も分からなくなってしまいます。」

 

「では、僕が君に幸せになる秘訣を教えてあげよう。」と言ったらどうするかい?

 

「えっ」

 

「僕も学生の頃は、君と同じように考えていた。でも、僕は今、幸せな人生を送っている。仕事もしていない。ドアに貼ってあった「ライフマスターカレッジ」って看板を見ただろうが、あれは暇つぶしみたいなもんでやっている。どうだい?君も僕と同じ人生になるように、一歩を踏みだしてみないかい?」

 

「……」

 

「ん?どうしたのかい。」

 

「何かうまくだまされているような気がして……。」

 

「だましてなんかいないよ。君からはお金ももらわないし、君が損することは一つもないはずだ。疑っているようであれば、もう一度聞く。もし、君が決断できなければこの話は無かったことにしよう。どうだい?素敵な人生を歩んでみないかい?」

 

僕は、このアロハの青年が見返りもなしにこんなにうまい話をするはずはないとも思っていたし、仮に彼の言うとおりにしても本当に人生が変わるとは思えないと疑っていたが、このまま、このみじめな人生を送り続けるのも嫌だと思っていた。そして、彼が今すぐに決断しなければ無かったことにしようと言うので、思わず「やります!」と答えた。

 

「よし!よく答えた。素晴らしい!輝かしい人生を送るためには、その決断力が必要だ。目の前を通っているチャンスを一度逃してしまうと二度と戻ってはこない。君は今、人生を変えるという大きな決断で、輝かしい人生をスタートさせたんだ!」

アロハは大げさにも、とびきりの笑顔で僕に握手を求めた。

 

まだ、何も教わっていない僕は、複雑な表情で握手に応じた。

 


第2話 親は君を守れないことを知る

親は君に構っていられない

 

「さて、早速今日のレッスンに入ろう。

君は、さっきの話の中で『親や学校に相談しても、相手にしてくれず僕のことを理解しようとはしてくれません。』と言っていたね。」

 

「はい。親にイジメにあっていることを言っても、『仕事で忙しい』とか『あんたがもっとしっかりしないからよ。学校に相談しなさい』とかいうばかりで、本気でとりあってくれません。」

 

「君の親はサラリーマンかい?」

 

「はい。両親とも働いています。父も母も忙しくて、帰ってくるのは夜遅くです。」

 

「それじゃ、ご両親とも帰ってくるころには相当疲れているだろう?」

 

「ここ数年は、休日以外はほとんど一緒に夕食を食べたことはありません。帰ってきたら、簡単にご飯をすませて、さっさとお風呂に入って寝てしまいます。一言も言葉を交わさない日もあります。」

 

「なるほど。まず、君に知っておいてもらいたいことがある。

それは、親は君に構っていられないということだ。」

 

「えっ。子供の面倒をみたり、育児や教育をすることが親の義務なんじゃないんですか。」

 

「たしかに君の言うとおりだ。しかし、現実は違っている。

親は子供の面倒を見る間もなく働いている。

君が学校で嫌な思いをしているように、ご両親も職場で嫌な上司や面倒な仕事、そして無理な要求をしてくる客などに翻弄され、過度のストレスをため込んでいる状態だ。

もっと言えば、君のご両親のようなサラリーマンは、職場では上司のご機嫌をとったり、締切期限までに必ず仕上げなければならないプレゼン資料を作ったりしなければならず、精神的にも疲れている。それだけではない。

職場の人間関係にも常に気を配らなければならない。

人によっては、営業でノルマを達成しない月が3カ月もあれば、『明日から来なくていい』とか言われてしまうこともある。

毎日、『リストラに遭わないように』『会社がつぶれないように』と必死に働いているはずだ。

そして、疲れの原因は仕事中だけにとどまらない。

サラリーマンというのは職場に行くまでの満員電車で感じるストレスや職場の同僚との飲み会、営業なんかの夜の付き合い等で、疲れのピークに達しているんだ。

君は『イジメにあっている僕のことをもっと気にかけてくれ』と言いたいようだが、親はそんなことよりも『嫌な仕事を我慢して生活費を稼いできているんだ!感謝をしろ』と考えている。」

 

「……確かに先生が言うように、親も相当疲れているようです。」

 

「私が子供のころは、まだ良かった。

おばあちゃんやおじいちゃんが子供の面倒をみてくれたり、ご近所同士で協力しあう関係ができていた。

そして、何より高度成長期の時代で、活況に溢れ、みんなイキイキとしていた。

しかし、現在はその子育てネットワークが完全になくなっているばかりか、不景気でみんなの気持ちが沈んでいる。」

 

「ということは、あんまり親には頼れないということですね。」

 

「残念だけど、そういうことになるね。

あ、それから僕のことを先生というのはやめてくれないかい?みんなからは“アロハさん”と呼ばれているから、君もそう呼びなさい。」

笑顔で見えた真っ白な歯が、異様に目立っていた。

 

 

 

親は君の社会を知らない

 

「それにね」

アロハさんの話は続いた。

 

「親は、君が学校でどういう風に生活しているかということを目の当たりにすることはない。そして、今の君が学校という組織の中で、どのような立場にあるかということを直接的に肌で感じることができないんだ。

君は、ご両親の職場で組織の一員となって実際に働いたことがないから、ご両親がどんなつらい目に遭わされながら仕事をしているかということを知らないだろう?

それと同じように、親だって君が学校でどんなつらい目に遭っているか、君の話を聞くだけでは、なかなかイメージできないんだよ。

だから、具体的に解決策となるアドバイスを君に教えることは難しいんだ。

すると、『あんたがもっとしっかりしないからよ。学校に相談しなさい』というような答え方になってしまうんだ。」

 

「……」

 

「ただ、ご両親に悪気はないんだ。

彼らも君と君の家族のために一生懸命働いている。だから、無条件に親が悪いと責め立てることはできないんだ。

では、何が悪いかというと、今の社会の仕組みが悪いとでも言おうかな。

まあ、この話は後で詳しく説明するが、今はただ、ご両親はご両親なりに頑張っているんだということを認識しておきなさい。

そして、親が解決してくれると過度に期待しないほうがいい。」

 

少し休憩しようかと、オレンジジュースを持ってきてくれた。

 

 

 

親と現状に感謝する

 

「今度は別の視点から話をしよう。

君はこの日本という国に生まれている。そのことは君にとって非常にラッキーなことだった。

今日のご飯の事や住むところ、着るものの心配は全くしなくても良い。病気をしても、医者にすぐに見てもらえるし、学校でまっとうな教育まで受けさせてもらっている。

ほかの国では、食べるものがなくて死んでしまう子や日本では簡単に治る病気であっても、治療できなかったり薬がなかったりで死んでしまう子だっている。そこまでひどくなくても、まだまだ先進国並みの生活ができてない国がたくさんある。」

 

「日本に生まれたことに感謝をしなさいってことですね。」

 

「君にはチャンスがあるんだ。

確かに今日本は不景気で国全体が沈んだ雰囲気になっているが、君が成功して幸せになるための環境は整っているんだよ。

そして、なにより親に感謝をすることだ。

君が衣食住に困らないのは、親が勤勉に働いているからなんだ。もし、親がリストラされたり働かなくなってしまったら、君はイジメどころか、ご飯の心配や寝るところの心配までしなければならなくなる。」

 

「わかりました。親の事はあまり好きではないですけど、一生懸命働いてくれていることに感謝をします。」アロハさんの言うことは、もっともだと思った。

 


第3話 学校も君を守れないことを知る

 

先生には君を守る能力がない

 

「今度は学校と先生の話をしよう。」アロハは言った。

 

「学校や学校の先生も、君のご両親と同じようにイジメられている君を守ることができない。」

 

「えっ、どうしてですか。」

 

「先生には、君みたいな子をイジメっ子から守る能力がないんだ。

僕は、先生という職業には、スポーツの審判やセレモニーなんかの進行役の能力が必要だと思っている。

例えば、サッカーの試合で言えば、質の良い審判がいないと試合が円滑に進まない。選手が悪質なファールをしても、ルールを無視しても、それを取り締まる審判がいないとか、ただいるだけで良いジャッジ(判断)ができない審判であれば、その試合自体が目も当てられないような試合になる。

学校でも、先生が常に目を光らせ、悪質なイジメに対して良いジャッジ(判断)を下すことができなければ、学校自体がボロボロになるのに似ている。

また、先生は進行役もできなければならない。

良いテレビ番組やすばらしい結婚式などでは、すばらしい司会者、進行役がつきものだ。感動的なオーケストラの指揮者もこれに類する。万人が満足したり感動したりするのは、場を取り仕切ることができる彼らのおかげなのだ。

学校でも、生徒全員がまとまって達成したい目標を目指したり、調和して一つのすばらしいものを作るには、先生の指揮・進行の能力が必要とされているんだ。」

 

「僕が言うのもおかしいですが、そんな先生はなかなかいません。」

 

「そうなんだ。彼らは、そんな教育を受けて先生にはなっていない。それに、そんな試験も受けていない。だから、彼らには取り締まる審判の能力も、場を取り仕切る指揮・進行の能力も持ち合わせていないんだ。

おそらく、彼らのほとんどは、それらの能力を身につける必要があることすら、考えていないと思うよ。」

 

「クラスや学校が荒れるのは、先生の責任なんですね。」

 

「いや、先生の責任だけとは言えない。

先生は、先生なりに一生懸命やっている。ただ、そういう教育を受けていないだけなんだ。

審判も指揮・進行についても、そのことをしっかり学び、試験でもいいし、研修のようなものでしっかりと習得していれば、ある程度にはなれる。

サッカーの審判だって、野球の審判だって、研修を受け、試験に合格しなければ、審判の資格が与えられない。その後、経験を積むことによって、立派な審判として円滑な試合進行が可能になる。

教育という現場にはその仕組みがないだけなんだ。いや、本当のことを言えば、仕組みがないことはない。研修制度だって、あるはずだ。

ただ、そのことを重要だと認識していないことと、教育者を教育する崇高な講師がいないだけなんだ。

先生になるまでの過程で、教育者を育てるための試験や教育制度の質をもっと向上させれば、先生の能力はついてくるはずなんだ。

では、誰の責任かといえば、これも社会の責任と言えるだろう。先生を作り上げるまでのシステムが悪いから、クラスを取り締まり、取り仕切ることができない。

だから、君らの先生を含めて教育者自身の根本的な能力とは関係がない。」

 

 

 

先生は人生の達人ではないことを知る

 

「先生の質が低いのは、もう一つ理由がある。

学校の先生というのは、本来の実社会を知らない。そして、生き方の達人ではない。

彼らのほとんどは、幼いころから高校を卒業するまで学校で教育を受け、大学へ進み、それからまた教育の現場へ身を投じる。

つまり、彼らは、教育現場以外の実社会に足を踏み入れたことがないんだ。

社会がどういう仕組みでまわっているのか、よくわからない。

彼らは、商品を売ったこともないし、ノルマに頭を悩まされたこともない。

世界中を旅して大きな視野から現実をみたこともないし、おそらくほとんどの先生が税務署へ申告したこともない。

政治・経済を知らなくても生徒への指導に支障はないし、外国人と英語が話せなくても英語教師になれたりもする。

そんな、知識や経験、実績などがない人たちが、これから世界へ羽ばたこうとする子供たちへ教育をしている。

考えただけでも、ぞっとするよ。

生き方の達人ではない彼らに、イジメを辞めさせるように助けを求めても、大した解決にはならないし、過度に期待しない方がいい。」

 

 

 

先生も君に構っていられない

 

「そして、先生はかわいそうなんだ。」

休憩をしようと言って、ジュースを飲んでいたアロハさんが不意に言った。

 

「先生はやらなければならないことが山ほどあるんだ。

君のイジメだって、もしかしたら相手にしていないわけじゃないのかもしれない。

先生というのは、イジメの事実があれば、学校に報告しなければならない。ほとんどの真面目な先生は、イジメに気付いたら、その実態を学校に相談もしくは報告をしているはずだ。

だけど、それだけでは終わらないんだ。

何かのきっかけで事件にでもなれば、市区町村などの地方自治体の教育委員会、都道府県の教育委員会、さらには国へそれぞれ詳細に報告書を提出して協議が行われるようになる。

書類を作ったり、協議会の準備や手配に大忙しだ。

地方の議員や国会議員だって、黙ってはいない。

彼らが理解し、納得できる資料もまた作成して説明までしなければならない。

イジメの当事者である父兄とも、密に連絡を取らなければならないし、PTAだって黙ってはいないだろう。

マスコミなんかまで入ってきたら、もう一人の先生や一つの学校では、どうすることもできない。

そんなことしている間に、当事者たちは放っておかれ、現場への迅速な対応や判断がおろそかになり、結果的に取り返しのつかないことになってしまったりする。

もっと、現場に生徒と関わる時間を与えてやるほうが得策なのに、全くの逆方向へ向かっている。

だれか『先生は報告書なんか一切書かなくていいから、生徒と向き合う時間を優先しなさい』と言えるような優秀なリーダーが現れてくれないかと思うよ。

ここまで言えば、先生がただ悪いってだけじゃないのはわかっただろう。」

 

「はい。でも、やっぱり先生は、生徒と直接関わるんですから、ちゃんとしてないといけませんよね。」

 

「先生をその学科の知識だけではなく、生徒を健全に育成させる能力を持たせるための仕組みづくりと、書類作りや周囲への対応に追われずに先生と生徒がもっと密接に関わりあえる環境を与えてやることが、一番大事なことかもしれないね。」

 

 

 

先生は自分のことを優先する

 

「本当を言うとね。」アロハさんは、ゆっくりと話し始めた。

 

「親だって学校だって、本気になれば君のようなイジメられっ子を救うことは可能なんだ。」

 

「えっ。さっきアロハさんは親にも学校にも頼るなと言ったじゃないですか。」

 

「例えば、親が学校までついてくるとか、先生がずっとイジメられっ子に付き添うとか。

先生が横にいれば、イジメられることは現実的に考えられない。にもかかわらず、彼らはそれを実行しない。

『ずっと、その子だけに付き添うのは無理だ』と言うだろう。

でも、本当にそうだろうか?

実際に、付き添うくらい誰にでもできるはずなんだ。

イジメという現実から君を隔離することはできるはずなんだ。」

 

「できるのなら、どうしてやってくれないんですか?」

 

「それはね。親だって学校の先生だって、それぞれの事情があって、それを優先しているに過ぎないんだ。

親は、仕事を優先せざるを得ないし、先生は明日の授業の準備や日報を書かなくてはいけない。

もし、生徒の付き添いをしないといけないから今日は日報を書きませんなんて言ったら、学年主任や教頭がカンカンになって怒ってしまう。

そんなシステムの中で、働いているんだ。

この社会は、少々間違っているんじゃないかなと思わないかい?

もちろん、今の君にこんな話をしても、君がすぐにそのシステムを変えることはできないから、このことは考えなくていい。

君には、今、君自身が直面しているイジメから抜け出す方法を伝授するつもりだ。

ただ、君が将来、イジメを乗り越え、立派な大人になって大きな視野から教育の事を考えることがあるならば、このことを覚えておいてほしい。

イジメられていたという経験が、君の役に立ち、果ては君がこの社会のシステムを変えることができるかもしれない。」

 

「今は、イメージできませんが、なんとなく覚えておきます。」

 

「それでいい。さあ、君の周りからイジメをなくすことに話を戻そうか。」

 

そういうと、話題は“イジメの実態”へと移っていった。

 


第4話 イジメの実態を知る

 

イジメられるのには理由がある

 

「君がなぜイジメられているのか、その理由にせまってみる前に、僕が高校生の時のことを話そう。

僕のクラスにはね、イジメられている子がいた。とても太ったヤツでね。でも、すごくいい笑顔をもった優しいヤツだった。

その子がね、クラスメイトにイジメられていたんだ。

机に『死ね』とか『クサイ』とか書かれていて、クラスからは常に仲間外れにされていたな。

暴力といったイジメではなく、精神的ダメージを負わせるようなやり方だった。

ある日、そのイジメ軍団がね、僕にその子をイジメるように促してきた。

『アイツ、クサイよな。お前からも言ってやれよ』ってね。

僕は、断ったんだ。はっきりとね。それで、『お前らのやり方は汚い』と言ったんだ。

それからは、僕もクラスメイトから無視されるようになってね。少し孤独だったよ。

でも、少しずつ僕にも仲間ができてきた。

たぶん、僕と同じ気持ちを持った連中だったんだろうね。

だから、イジメている連中とは、卒業まで距離を置くことになったけど、特に嫌がらせを受けることもなく過ごせたんだ。」

 

「さすがですね。僕もそんな風になりたいな。」

 

「僕は、イジメをする奴らが嫌いでね。

仲直りしてからも、どうしても距離を縮めることができなかった。

だけどね、イジメっ子たちの気持ちが少しわかるような事件が起こってきた。」

 

「事件ですか?」

 

「まあ、事件というか、出来事だな。

そのイジメられている子と数人の友達とで、休み時間や放課後なんかは一緒にいたんだけど、その子はいつも約束を守らないんだ。

大量に出た宿題を分担して、手分けしてやろうと言っても、そいつだけやってこない。

ある日、仲間の一人が盲腸で入院してね。みんなでお見舞いに行こうと言ったんだが、当日に特に理由もなくキャンセルしたんだ。ドタキャンだよ。しかも、2回続けて。

さらに、ひどいことがあった。

数学の授業中に模擬テストをやっていてね。

生徒自身が自己採点したものを先生が集計して、後日教室に点数と順位を掲示板に貼るようになっていたんだ。

すると、その子が必ず1番か2番になっていた。

最初は、『数学が得意なんだ』と思っていたんだけど、本番のテストになると、クラスでも下から数えたほうが早いほど悪い点数なんだ。

後から聞いた話では、自己採点の時に解答を鉛筆で書き換えていたらしい。

この時ばかりは、僕も腹が立ったよ。

そして、この話はイジメグループのなかでも、割と仲のいい一人から聞いたんだけど、中学校の時からそうだったんだと言ってたな。

『いつも、ズルをするし、何かと言い訳をしたり、ごまかしたりする。』と。

僕は、それを聞いて『なるほどな』と思ったよ。

『イジメられるのには、訳がある』ってね。

君はどうだい?心当たりないかい?」

 

「い、いえ。特に思いつきません。」

僕は、ドキっとした。何か、見透かされているような気がした。

 

「僕は、君をイジメから救おうと本気で考えている。

それだけではなく、君がどの環境にいても、みんなから愛され、君自身がイジメのような問題に悩まされることなく快適に暮らすことができるように、さまざまな真実を話したいと思う。

だから、君に甘えたことは言わない。

君にとって、つらいことを言うかもしれないけれど、真摯に受け止めてほしい。

そうすれば、君に明るい未来が開けてくるはずだ。」

 

真剣なアロハさんの姿に、僕は感極まった。

そして、『真剣に取り組もう』と心に決めた。

 

 

 

イジメっ子の実態を知る

 

「それでは、今度はイジメっ子の実態にせまってみよう。

どうして、彼らは君をイジメるんだと思う?」

 

「う~ん。よくわかりませんが、僕を見ると、イジメたくなるんだと思います。」

 

「まず、イジメっ子は日常から満たされていないんだ。

自分の人生に失望したり、夢や希望なんかを全く持てない子、将来が見えない子がイジメを行う。

『必ずプロ野球選手になりたい』と思っている子や『絶対に東大に合格するんだ』と心に決めた学生が、イジメをする暇があると思うかい?

そんな暇があるなら、一回でも多くバットを振ろうとするし、一問でも多く過去問を解こうとするもんだよ。

わかるだろう?自分の目標にひたすら突き進んでいる限り、イジメをしようという考えには至らないんだ。

そして、イジメっ子に共通していることがある。

それは、過度のストレスを常時抱えているんだ。

彼らは、そのストレスを誰かに押し付けることで、解消しようとしているんだ。

逆に、いつもニコニコしていて、さわやかな子は、満たされている人生を送っているし、過度にストレスもないので、誰かをイジメようなんて考えないものなんだよ。

要するに、イジメっ子っていうのは、君と同じように『人生がつまらない』と思っているし、夢や希望をもてない連中なんだ。」

 

「そうやって聞いていると、なんだか可哀想ですね。」

 

「可哀想なのは、イジメられる方だよ。

その満たされない部分を、自分より弱い人に押し付けようとしているんだからね。

まあ、一つだけ言えるのは、彼らも彼ら自身を取り巻く環境の犠牲者なのかもしれないと言うことだね。

彼らに、将来の夢や希望を持つことの素晴らしさを教える人がいなかったり、彼ら自身に過度のストレスや嫌な思いをさせる輩がいる可能性が大きいからね。」

 

 

 

イジメっ子の特徴を知る

 

「イジメっ子に、カツアゲされたりイジメられるときには、必ず集団で来るだろう?」

 

「あ。そういえば、確かにそうです。彼らはいつもつるんでいて、一人でいるところをほとんど見たことがありません。」

 

「実は、彼らは一人では何もできない

集団であるからこそ、イジメることができるんだ。

彼らもイジメが悪いことだということは十分に認識している。

『赤信号、みんなで渡れば怖くない』のような心理があって、彼らは仲間と悪さを共有することによって、安心しているんだ。

それに、彼らは孤独を異常に恐れる

孤独に耐えられない奴らが集団になる。

そして、その集団の中にはちゃんと組織があって、それぞれに役割が与えられ、そうやってお互いに自分の存在意義を確認しあう。

例えば、リーダーの子は手下にイジメるよう命令する。

手下が命令を忠実に実行することで、自身の存在意義を確認する。

逆に手下は、リーダーに忠誠を誓い、命令を真摯に実行し、リーダーにお褒めの言葉をいただくことで、存在意義を確認する。

そして、彼らは意外に臆病だ

だから、自信のない体育の授業やテストなんかは避けてしまい、無断で授業に出ないような習性がある。

大抵『ばかばかしいんだよ』とか言ってるときは、避けている証拠だ。

他にも特徴的なのは、君が一対一でケンカを仕掛けられることもない。なにせ、臆病だからね。」

 

「臆病なのかはわかりませんが、たしかにアロハさんが言うように、一人でいるところをほとんどみることはないですね。」

 

 

 

イジメられない子の特徴を知る

 

「さあ、次はイジメられない子の特徴についてだ。君のクラスにもイジメられない子っているだろう。」

 

「はい。スポーツのできる子や、オシャレで女の子にモテる子とかは絶対にイジメられたりしません。」

 

「抜きんでた能力を一つでも持っていたり、さわやかな子なんかはイジメられることはない。

不良というのは、影があったり陰湿なものを好む。そして、弱味につけ込む習性がある。

だから、眩しいほどに輝いている人には寄りつかないのだ。」

 

「僕は、スポーツも苦手だし、女の子にもモテたことがないので、すぐにそのような人にはなれないと思います。」

 

「これについては、後で訓練をしよう。

確かに、すぐにスポーツができるようにはならないし、一瞬で女の子にもモテるようにもならない。

でも、少しずつ訓練していけば、『輝いている人』になることは十分可能だ。

ほかにも、イジメられない子の特徴はある。」

 

1 活力がある

2 声が大きい

3 清潔感がある

 

「当たり前のようなことばかりですね。」

 

「その当たり前のことが、できないからイジメられる。

今の君は、活力があるとは思えないし、声も小さくて自身なさげだ。髪だって、ボサボサじゃないか。

今の君は、変えないといけないことがいくらでもある。

しかし、今君が言ったように、当たり前のことを、しっかりやるだけで、人生が大きく変わることになる。」

 

 

 

イジメっ子とイジメられる子の共通点と相違点

 

「実は、イジメっ子とイジメられる子には共通点がいくつもある。」

 

「えっ。そんなことはないでしょう?」

 

「今から、イジメられる子の外面の特徴をあげよう。」

 

1 清潔でない

2 だらしがない

3 活力がない

4 声が小さい

5 約束を守らない

6 時間を守らない

7 表情がない

 

「これらは、イジメっ子の特徴とほとんど同じだ。ただし、イジメられる子は自然とそうなるのに対して、不良はわざとそのように振る舞うことが相違点だ。」

 

「今度は、内面の特徴を見てみよう。」

 

1 夢や目標がない

2 やる気がない

3 人生に失望している

4 ネガティブ思考

5 外的要因に心が揺さぶられる

6 自分自身が好きになれない

 

「これらも、イジメっ子の特徴とほとんど同じだ。

違うのは、これらの要因からくるストレスを自身の中で解消するのか、モノやヒトなどの外部に押し付ける形で解消するかだ。

ストレスを自身で解消する子は、一人で楽しみを探したり、解消できない部分は一人で抱え込み、自尊心を削ることで相殺している。

逆に、外側に押し付ける子は、どんどん暴力的になっていき、社会的に問題を起こすようになっていく。」

 

僕は、意外な共通点にびっくりした。でも、確かにその通りだと思った。

 

「ここまで『イジメ』について話してきた。『イジメ』がどういう仕組みで起こるのか、わかったかい?」

 

「はい。でも、何か悲しい気持ちです。

親や先生は、いつも大変でストレスを抱えているとアロハさんは言いました。それだけでなく、イジメっ子もイジメられる子も、同じように問題を抱えているようです。

とても、前向きな気持ちにはなれません。」

 

「そう深刻に考える必要はない。

人生をイキイキと過ごしている人だって、世の中にはたくさんいる。

例えば、僕はストレスとは無縁だ。これから、僕と一緒にリハビリを行っていこう。そして、この社会に渦巻くストレス網から脱却すれば、君からもイジメがなくなって、人生が明るく見えるようになる。

僕を信じて、そしてなにより自分を信じて頑張ろうじゃないか。」

 

僕は、まだ信じられなかったが、アロハさんが言うことは正しいと思ったし、説得力があった。

今日のレッスンはここまでで終了したが、まだどうすればイジメられないようになるのかについては、全く聞けなかった。

 

次は実践編だとアロハさんが言うので、また、来週会うことにした。



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