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バトルボーラーはるか

 

 

第二集

星間戦争

 

 

 

第6章

誤解

 

作・Ψ (Eternity Flame)


 「おい、何しょぼくれてんだ?」

 正友はイタズラな感じで、はるかにそう語りかけた。

 「…。」

 放心(ほうしん)している様子のはるか。正友の語りかけも耳に入っていない調子で、ただ黙って、隕石群(いんせきぐん)が消え見通しの良くなった地球を眺めていた。

 「…地球って綺麗(きれい)だろ?」

 少し間を置き、秀樹がはるかにそう言って話しを持ちかけた。

 「…うん、綺麗だね…。」

 「この宇宙の静けさ…遠くに数多(あまた)の星々を散りばめるだけの虚空(こく

  う)の世界。それが何とも美しく、見てるだけで不思議と心が癒(いや)される。

  そこに地球が現れると、ひときわ美しく見とれてしまうよな。」

 「うん…。」

 「闇に散らばる星々の世界。その広大な世界で、地球だけが、ひときわ美しい

  色彩を持って輝いて見える。まるでそこに暮らす我々人類を讃美しているか

  のようにな。」

 「え!?…」

 自分が思った感想を、そっくりそのまま秀樹に代弁されたので、はるかは「はっ」として陶酔(とうすい)から目覚め、現実に引き戻されていた。

 「…どうして…それを?」

 「心の中を見透かされたようでビックリしたか?大まかだが考えてるコトくらい

  は分かるさ。」

 「そうなの…」

 「だが、その“想い”は半分は言い得(え)てるが、半分間違ってるな。」

 「どういう事?」

 「地球が美しいのは、俺達人間が生きてるからじゃない。ちょっとした言葉

  (ことばじり)の問題なんだが…地球が美しいからこそ、俺達は生きてられるん

  だ。」

 「???…」


 「ハハハハ。ちょっと説明が難しかったかな…例えばこの真空状態(しんくう

  じょうたい)の中、ケルビムのおかげで俺達だけは生きてられるが、普通の

  人達はこの空間で生きてく事は出来ない。それは分かるよな?」

 

 「…うん。」

 

 「緑があって空気があって…色々な物質があるからこそ人は生きてけるんだ。

  ホントにちょっとしたニュアンスの違いなんだけどな。だが、同じような言葉

  でも今の二つの言葉の意味合いは大きく違う。つまり、人が生きてるという

  のは、物事の成り立ちからして根源(こんげん)がなければならない。空気・水・

  太陽、他にもいろんな物質が先(さき)んじて存在していなければ生息(せいそく)

  できないんだ。我々は、いろんな環境が充分(じゅうぶん)に整ってこそ生きて

  く事ができた訳だから、結果としての存在であって原因とはなり得ない。」

 

 学者のような口ぶりで話す秀樹に、はるかは思考が付いていけてないようであった。

 

 「簡単に言えば、そうだなぁ…人間があって地球という星がある訳じゃない

  だろ?地球があるからこそ、人が住み暮らしてけるんだからな。」

 

 これ以上、秀樹は簡単な説明は思いつかなかったが、なんとなくはるかは分かってくれたようであった。その様子を見て、秀樹はさらに説明を続けだした。

 

 「俺達は地球に育てられてるってコトだ。さらにこの地球は、もっとより広大

  なこの宇宙に育てられている。」

 

 「地球は、宇宙がなきゃ存在できないってコトでしょ?」


 「そうだ。小さな器が大きな器を納(おさ)められないようにな。その観点から

  行くと、宇宙は地球の親のような存在という事になる。よく“母なる地球”

  って言うだろ?砂浜で聴(き)く波の音は、お母さんのお腹にいる時に胎児

  (たいじ)が耳にする音と一緒だと言うが、その波が押し寄せる海が満ち潮

  (みちしお)の時に人は生まれると言う。その潮の満ち引きには月の引力(いん

  りょく)が影響(えいきょう)してるんだ。そういう意味では、人の親が地球で

  宇宙はその親というのも何となく理解できるだろ?」

 「うん…そうだね。」

 「俺達が生まれる前。母親の胎内(たいない)にいるかのような環境。宇宙空間

  は、それにどことなく似てるんだ。だからこの何もないような世界なのに、

  心が安らぐんだよ。」

 「そうなんだね。でも…」

 「何だい?」

 「宇宙って何からできたの?」

 「“原始の炎”という所までしか俺にも分からないな。」

 「そうなんだ。」

 「その“原始の炎”、神などとも呼ばれる存在が宇宙を造った。その“炎”に

  関する秘密がソロモン王の秘宝に隠されていると言われている。それを逆説

  的(ぎゃくせつてき)に考えた者が、宇宙を造(つく)ったという事の意味をどう

  履(は)き違えたかを考えれば、何でこんな秘宝を巡る戦いが生じたのか分かる

  んだが…お前には分かるか?」

 会話の流れで、今しがたの戦いとは関係のない話が出て、はるかは少し考えた。それで秀樹の話を整理する事は出来たが、質問に対して答える事は出来ないでいた。

 「ちょっと今の戦いとは関係ないが…秘宝の話になってしまったので、こう

  いう話になってしまったんだが分からないか?」

 「うん、ちょっと…ね。」


 「宇宙を造ったという事は、地球も人も…富も力も全てが、その秘宝には内包

  (ないほう)されているんじゃないかと履き違えた。だから、それを手に入れよ

  うと愚(おろ)かな人間が躍起(やっき)になったと推測(すいそく)するのが自然

  じゃないか?」

 「あっ!…なるほど。」

 「無論、ソロモン王の秘宝など数千年にも及ぶ歴史の中で誰も本物なんて見た

  者はいない。“原始の炎”に関する謎が秘められてると言ったって、それす

  らホントかどうか定かじゃないんだ。噂に尾ヒレ背ビレがついて…そこに欲

  深い連中が絡んで…。本当に俺達には迷惑以外の何ものでもないだろ?」

 「そうだね。」

 「そこでだ。結局、俺の言いたい事が分かったか?」

 「えっ?」

 秀樹の話は起承転結(きしょうてんけつ)が見事で、一見、何を言ってるのか分からないような事でも、最後にはきちんと繋がっている。深い洞察と観察力に裏打ちされた話しぶりは、大学の心理学や歴史の講義以上の膨大な広がりを持つ問題提起(もんだいていき)の複雑さと、検証(けんしょう)から結論へ導く過程への洗錬(せんれん)された合理性と発想力と考察力ゆえ、質問などされても答えなど出せる者など滅多(めった)といないのだが。本人はそれが当り前なので、今イチ分かっていない。

 はるかが答えに困ってるのを見て、秀樹はさっと結論を述べ出した。

 「…つまりだな。俺が言いたいのは、お前がさっき地球を見ていて思った発想

  について、俺が意見を言っただろ?」

 「うん。」

 「俺はどう言った?」

 「ちょっとしたニュアンスの違いなんだけど、私は誤解してるって言ったわ。」

 「そうだ。お前がした誤解。なら秘宝を巡って争いが起きる原因は何だと言っ

  た?」

 「欲深い人が秘宝の意味も定かでないのに噂に尾ヒレ背ビレがついて…」

 じれた秀樹が、はるかの言葉にかぶせるように喋(しゃべ)り出した。

 



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