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王様のパラレルワールド

余は、小さいながら一国一城の主である。
整然とした我が国には、パラレルワールドが12個存在する。

主としては、パラレルワールドのすべてを把握しておかなくてはならないので、
余は、頻繁に視察に出かけることにしている。

本日の視察予定は、パラレルワールド3層目だ。
この3層目の世界は、かなりうまく回っており、とても清潔な世界である。
民は平和主義であり、常に会話と微笑みであふれている。

余は満足である。

しかし、先日視察に訪れた12層目の世界はひどいものだった。
その世界の民は、あいさつというものをどこかに忘れてきてしまったようだった。
頻繁にガラス窓が割られたり、あちこちの窓から罵声もよく聞こえてくる。
ついに、12層目の世界を抜け出そうとして、空へ飛び出す者さえいた。
その者は、違うパラレルワールドに移動できず、異次元空間で彷徨うことになってしまった。

余は非常に残念である。

明日はどの階層を視察に訪れようか。
その世界が平和で美しいことを願っているが、
それはそこに生きる民が選ぶ道。
余はそれをコントロールしようとは思わぬ。
さて、今日はもう休むことにしよう。


TV<今日のニュース一番しぼり!>

アナウンサー:
「先日高層マンションの12階から飛び降り自殺のあった事件の続報です。
どうやらこのマンションの住人は、妙な霊現象によく遭遇していた模様です。
霊能者に同行してもらって取材した映像をご覧下さい。」

霊能者:
「ええ、なにやら黒い影が見えます。
この霊は、ボタンを押すのが好きなようです。
…なになに?……パラレルワールドへ行くスイッチですか。
自分のことを王様か何かだと思っている霊のようですね。
霊さん、霊さん、あなたが移動手段だと思っている乗り物はね、
エレベーターって言うんですよ。
さあ、お迎えが来ましたよ~、成仏しましょうね。」

透明人間

わお!
オレ透明じゃん!
やったぜ~!
透明人間になれたよ~!
女湯とか覗き放題だぜ~!
あはは!
何からやろうか~

まずは、
ほんとにバレないかどうか確かめないとな。
母ちゃんの目の前に立ってみよう。
目の前で手を振っても全然気付かないみたいだ。
なんだよ、誰と話してるんだか、さっきからず~っと電話してるし。
ま、いいさ、やったね!大成功じゃん!
オレって天才!

次は、片思いだったあの娘の家に忍び込んじゃおう~
お、意外にこざっぱりしてんなぁ。
もっとぬいぐるみとかいっぱいあるのかと思ったんだけどな。

料理中だな、そのエプロンがいいね~
あ、誰か来た、やべ!
ってオレ、別に隠れる必要ないんだった、あはは。

なんだ、男かよ…
彼氏…?ではなさそうだな。
ふたりでなんだか相談してるみたいだけど、
あれ?彼女泣いてる…?
ちっ!おれが透明じゃなかったら、この男ぶっとばしてやるのに。

あ~なんか面白いことできね~かなぁ。
銀行強盗してみるか!
いや、強盗じゃないよな。
誰にも気付かれないんだから、誰かを脅す必要もないし。
ん~、でもオレが透明でも、札束は透明じゃないんだから、
ふわふわと金が浮いて移動してたら、やっぱバレるよな…

よっしゃ、密航だ!
飛行機に乗って世界一周するぜ~!

>>>世界一周中>>>

ふぅ~
世界ってのは広いもんだなぁ。
オレが知らない風景や、びっくりするような常識がいっぱいあるもんだ。
そろそろ家に帰るか。

>>>帰宅>>>

なんだ?葬式?
オレがいない間に誰か死んだのかよ?
母ちゃん、ただいま!
って、オレ透明なんだった~~!
うーん、どうやって元に戻ればいいんだよ。
っていうか、オレ、そもそも、どうやって透明になったんだっけ…?
透明になる直前、オレは…
バイクでツーリングに出かけていて…




うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!
事故に遭ったんだよ~
オレ死んでるのか~~~?!
オレの葬式なのか~~~~~?!
だから肉体がないのか~~!



ってことは…





やっぱり、女湯覗き放題じゃん!!
やったぜ~~~!
幽霊ばんざ~い!

「檻」からの脱出

おいら、いつからここにいたんだろう…?
気がついたらとても小さな部屋にいた。
たぶん「檻」と呼ばれる場所だと思う。

部屋にはおいらしかいない。
時々、壁の向こうから、誰かが話しかけているような気がするけど、
何を言っているのかおいらには聞き取れなかった。

お腹がすくと、
誰かが飯を運んできてくれた。
おいらの担当はひとりじゃないらしい。

おいらは、そのうちのひとりの女性に恋をした。
彼女が飯を運んできてくれるのが待ち遠しくて、
違う人の時はがっかりだが、
彼女が来た時には、最高の笑顔で話しかけてみたさ。
彼女はとても優しく接してくれた。
たぶん、彼女もおいらに好意を持っていたはずだ。
だけど、彼女は決しておいらの部屋には入って来なかった。
そりゃそうだよな…檻だもんな。

ある日、なぜか、
本当に突然、おいらはその檻から出ることができた。
車に乗せられて、どこか違う場所へ移動させられるらしい。
だけど、誰も何の説明もしてくれなかった。
あの彼女はほんの少しだけ悲しそうな顔をして、
それから、最高の笑顔で見送ってくれた。

車を降りて、連れていかれた場所は、
思いのほか広い、明るい、とても気持ちのいい部屋だった。
「檻」じゃなさそうだ。
そして、何よりひとりぼっちじゃなかった。

車を運転していた女性がその部屋で一緒にいてくれるらしい。
監視役ってことか…。
ただ、言葉が通じなかった。
彼女はしきりにおいらに話しかけてくれたし、
おいらも一生懸命伝えようとしたが、
どうしても意思の疎通が図れなかった。
時間をかけるしかなさそうだ。


そんな彼女との暮らしが始まって間もなく一年が経とうとしていた。
おいらは少し前から彼女とベッドを共にするようになっていたが、
相変わらず、彼女の言葉はおいらには理解できなかったし、
おいらの気持ちも、彼女には伝わらなかった。
おいらは部屋の外へ出たいと思っていたが、彼女が絶対にそれを許してくれなかった。
やっぱり、ここもちょっと広いだけの「檻」なんだな。
おいらは、いったいどんな罪を犯したんだろう。まったく思い当たる節がないんだが…
誰も面会に来ないってことは、家族もおいらのことを見放しているのか…。

それでもたぶん、おいらはだいぶ、彼女のことを好きになりかけていたんだと思う。
外には出られないが、そんなに苦痛というわけでもなかった。

しかし、チャンスは突然やってきた。
ある日、宅配便かなにかがやってきてドアを開けたんだ。
彼女はちょうど着替えていて、すぐに出られなかった。
今だ!
もう無我夢中だった。宅配便の人の脇をすり抜けて、
外に出てとにかく走り続けた。

太陽がまぶしい。
風がおいらのヒゲとしっぽを優しく通り抜けていく。

遠くで彼女が叫んでいる。
「きゃ~!誰かうちの猫をつかまえてください!」

おいらには彼女がなんて言っているのか全然理解できなかったが、
「檻」に連れ戻されるだろうことは予想がついた。

「やだぁ~!ペットショップで買ってきた血統書付きなのに~!」
なんだかわからないが、彼女は叫びながら泣いているようにも見えた。

自由だ!
おいらは自分の意思でどこにでも行けるんだ~!

次の日…
自由ってのは腹が減るなぁ。

その次の日…
やっと言葉が通じるやつに出会えたけど、
そいつにひっかかれたぜ。「俺の縄張りに入るな!」って言われたよ。ちっ。

その次の日…
ああ、腹減った…。もうだめだ。
うぉっ!あぶねえじゃねえか!黒い丸い早い転がるやつに襲われそうになったぜ。
おいらはそいつを睨みつけてやったさ。逃げていったよ、ははは。

「わ!あぶなく猫をひくところだったわ!
さっさと道路を横切れば良いのに、
なぜか猫っていったん道の真ん中で立ち止まるのよね~」

それにしても、腹減ったぜ。
あ…なんか聞いたことのある音だな…
キラキラのグラスを銀色のスプーンで叩くような音…
この音が聞こえたら、おいしい缶詰にありつけるんだよな。

おいらはふらふらしながら音のする方へ導かれていった。


「あああああ!ミィちゃん、今までどこに行っていたのよ。
本当に心配したんだから~~!こんなに痩せちゃって~、
でも帰ってきてくれてよかったぁ~~~」

「檻」の暮らしも悪くはないよな…。
だけど、やっぱり一度は外に出てみたいってもんだろ。
じゃないと、「檻」が快適だったなんてことに気付かないもんな。
うん、おいら、もう脱走はしないぜ。
ゴロゴロ…ゴロゴロ…


神々の牧場

「おい、今晩ヒマ?一緒に飯食おうぜ、あの幻の食材がついに手に入りそうなんだよ。」

「お、すげぇじゃん!行く行く!」

「ここしばらくはさ、ありきたりなものしか食ってなかったじゃん。
こっちの牧場では、早く成長するようにいろいろ新しい餌を与えていたのに、
さっぱり効果を感じなかったもんな。」

「確かに、まぁ育つのは早いっちゃ早いんだけどな、中身がないっていうか、
ちっともおいしいと思えなかったよなぁ。」

「あっち側の牧場はさ、ちょっと厳しい環境でも育つかなぁと思って、
ほとんど日が当たらないようにして、あまり栄養も与えなかったんだけど、意外にうまかったよな。」

「うんうん、なんていうか味が複雑で、噛めば噛むほど味が出るって感じだった。」

「今日のは特別だぜ。
いろんな牧場を定期的に移動させて育てたんだ。
しかも、こいつはそのすべての牧場で、他の家畜たちのリーダーになったんだぜ。」

「牧場は全部環境が違うし、家畜たちはみんな性格も違うのに?」

「ああ、運動能力の高いグループでは、誰にも負けないパワーを出したし、
ちょっと賢いグループに放った時も、他のやつらが一目置くようになったんだ。
大食いのグループじゃ、一番餌を食ってたし、
餌を与えないグループに放り込んだ時は、水だけで生きていやがった。」

「すげぇな、どんな環境にも適応できるなんて、完璧じゃねぇか!
こいつの遺伝子をクローン増殖させれば、もう他の家畜は必要ないんじゃねぇのか?」

「ああ、もちろんやってみたさ。
だけど、クローンじゃダメなんだ。
大事なのはDNAじゃなかったんだ。」

「ってことは何か他に大事なものがあったのか?」

「ああ、家畜たちがうまく育つために一番大事だったのは何だと思う?
経験値だよ。
環境をどんどん変化させれば、それに対処できたやつは、それだけ経験値が上がる。
経験値はDNAに書き込まれるんじゃないんだぜ。」

「どこだよ?」

「魂だよ。」

「ああ!そうか!経験値の高い魂が一番うまい!ってことか!
今までいくつも魂を食ってきたのに、気付かなかったぜ。」

「今日の魂はな、最初はオリオン座の牧場で生まれたんだよ、
その後、M78星雲を経て、太陽系の金星で長い事育てたんだ。
でも、こいつが経験値を一番上げた星はどこだと思う?」

「うーん、アンドロメダ?じゃないよな?」

「お前、知ってる?すげぇ小さな星でさ、太陽系の中にある地球って星なんだぜ。」

「ああ、知ってるよ、ほとんど地獄って呼ばれてる星だよな。」

「その地球で育てた、経験値の高い人間の魂が、もうすぐここへ届くのさ~!
とびきりの食材だよ。」

「その家畜、地球じゃなんて呼ばれてたんだ?」

「ああ、確かイエスとか言ったかな。
さぁ、やつの魂が、そろそろこっちへ上がってくる頃だな。
ツルッと踊り食いしちゃおうぜ~~!」



神々の牧場〜第2章「羊たちのアセンション」

メリー「もぐもぐ、もぐもぐ。」

メー太郎「もぐもぐ、もぐもぐ。」

メリー「クシュン!」

メー太郎「おや、メリーちゃん風邪かい?くしゃみなんかして」

メリー「だって、今朝すっかりふわふわの毛を刈られちゃったのよ。寒くてたまらないわ。」

メー太郎「ああ、そうかどうりでなんかスッキリしてると思った。もぐもぐ。」

メリー「もう!あんたはどうしていつもそうなのよ!私が髪型変えても、まつげのエクステしても、
  まったく気付いてくれないし。」

メー太郎「うん、ごめん。もぐもぐ。」

メリー「ねぇ、あんたは食べることとヤルことしか興味ないわけ?」

メー太郎「もぐもぐ、もぐもぐ。」

メリー「羊ってさ、なんのために生きてると思う?」

メー太郎「食ってヤッて子孫残すためだろ、もぐもぐ。」

メリー「ほんとにそれだけなのかな。あの柵の向こうに何があるのか知りたくない?」

メー太郎「そんなこと考えたってムダムダ。
  ここにいればさ、とりあえずメシ食えるじゃん。
  安心して子育てできるじゃん。柵を出たやつはオオカミに食われるんだって聞いてるぜ。
  そりゃふわふわの毛を刈られるのは辛いけどさ、それは羊の義務でしょ。
  その代わり、柵で敵から守られて、飢えることもないんだからさ、いいじゃん。
  メリーったらもしかして欲求不満なの?後から乗っかってカクカクしてあげよっか~?」

メリー「やめてよ!もうこんな生活うんざり!
  昨日まで一緒に草を食べてたメー助が、どこに連れていかれたのか、あんたは気にならないの?
  羊は死んだらどこに行くのかあたしは知りたいのよ。」

メー太郎「行いのいいヤツは天国。悪いヤツは地獄って決まってるじゃん。」

メリー「そんなおとぎ話、あんた本気で信じてるの?
  あたしは自分で確かめたいのよ。
  あの柵の向こうに何があるのか、死んだ羊がどうなるのか、一体何のために生きているのか。」

メー太郎「またその話かよ。考えたってわかんねぇんだからよ、
  考えるのをやめて、毎日、草食って楽しく生きて行けばいいじゃん。」

メリー「もういいわ。あたしひとりで行くから。
  あの柵を越えて、きっと真実にたどり着いてみせるわ。さよなら。」

メー太郎「はいはい。もぐもぐ。もぐもぐ。」


~~~天上の神々の会話~~~

「お、ちょっと見てみろよ、こっちの牧場で、一匹アセンションした羊がいるぜ。」

「ほう、この羊、この後オオカミに食われる予定だろ?
そしたら魂の経験値上げてもらうためにさ、土星とかに生まれ変わらせようか。」

「あ、それいいかも。またちょっと個性的な魂が食えるぞ~!楽しみだなぁ。」




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