閉じる


<<最初から読む

65 / 66ページ

31

「わわわわわ! クリス、殺しちゃダメだよ!」
「なにぃ? 面倒だ。領主ごと、皆殺しにすればいいだろう? 生活に必要な物など、そのついでに略取すればいいだけだ。これで全て解決だ」
「グファファファファ! そりゃあいいな! アルクデスタの守備兵は五百ってとこか。ガードナーも、さぞや腰を抜かすだろうぜ! グファファファファ!」
「えええええ! ウィンザレオ! キミまでそんなこと言うのっ!?」
 この二人なら、それぐらいホントに簡単にやってのけるよ、きっと!
 でも、こんなの!
「き、貴様らっ! それは反乱の意思あり、ということかっ!?   そんなことをしてみろ! アーク公国本国からも増援が来るであろうし、我らの支配が及ぶうちでは、もう二度と人間らしい暮らしは出来んぞ!」
 だよね。僕らはともかく、シャルルが困るよ、それ!
「んじゃあ、国を全て乗っ取るか。それなら文句ねぇだろう? グファファファ!」
「ほほう。それは面白い。こんな小娘どうでもいいが、ディアを舐められたままでは引っ込めん。一つ、私も力を貸そう」
 なんでノリノリなの、クリス!? 話がでっかくなってるよ!

 雪だるま式に大きくなってゆく話におろおろとしていると、今まで黙って成り行きを傍観していたシャルルが口を開いた。
「やめて。もういいわ」
 それは、穏やかな口調だった。
「シャルルにゃん?」
 ぎゅっと握られた手にもう片方の手を添えて、ハッピーがシャルルの顔を覗きこむ。
 ウィンザレオが「ぐ」と苦しげな声を出し、騎士の剣に少し押された。ハッピーの一言にダメージを受けたようだ。
 意外な弱点だなぁ、ウィンザレオ。
「も、もういいだって? こいつら、ウィルを都合よく使ったあげく、捨てるつもりなんだぜ? それが許せるのかよ、シャルルッ!」
 でも、ウィンザレオは頑張った。ハッピーの声にもめげず、シャルルに真意を問い質す。
「同感だな。こんなやつらがのさばっているから、ディアが苦しまねばならなかったのだ。いっそ全てぶち壊し、私が理想郷を築いてやってもいいのだぞ」
 そうか。クリスはこういう人間が『闇』を生み出す元凶だと思っているんだ。
 確かにそうかも知れないけど……本当にそうなのかな?

 シャルルはクリスとウィンザレオを見比べると、また同じ言葉を繰り返した。
「いいのよ。いいの」
 そんなシャルルの纏う空気に、僕は背筋を凍らせた。
 クリスとハッピーは気付いていない。でも、ウィンザレオは僕と同じように、何かを感じているみたいだ。
「クリス。ウィンザレオ」
 僕は二人に気を静めるよう促した。
「ふん。ディアが止めろと言うなら、従うしかないな」
「グファ。シャルルがいいって言うんなら、ただのでしゃばりか。つまらねぇぜ」
 しぶしぶとクリスが翼を引っ込め、ウィンザレオが剣を引く。
「……ふん。出来もせんことを。勢いだけで生きている馬鹿どもめ。シャルルに感謝するがいい。自殺行為を止めてもらえて、良かったではないか? ほっほっほっほっほ!」
 デーンが調子付いて毒舌を振るった。
 シャルルはそれでも表情を変えていない。
 我慢強い? いや、そうじゃないね。
 何を考えているの、シャルル……?

「では、これを」
「ええ。今までどうもありがとう。ご苦労様、デーン男爵」
 デーンから差し出された書簡を、シャルルはうやうやしく受け取った。
 男爵だったのか、この紳士。
「これで、シャルル様……いや、シャルルはただのイノセント(平民)である。  以後、城下街に入るにはシビリアン(文民)の資格を得るか、商用の通行証が必要となるので、そのつもりで。行くぞ」
「ははっ」
 言いたい事を言った後、デーンはくるりと身を翻して去っていった。
「……なんで? どうして一言もなく帰したの、シャルル?」
 僕はデーンを見送るシャルルの、小さな背中に向かって訊ねた。
 隣では、まだハッピーが手を繋いで立っている。
 結局、シャルルはなんの抗議もしなかった。一番怒りたいのは、シャルルのはずなのに。僕にはそれが腑に落ちなかった。
「シャルルには、見えているからさ。だろ? シャルル」
 答えたのはウィンザレオだった。シャルルは道の先に消えてゆくデーンを見つめたままだ。

「ウィンザレオ? 見えているって、何が?」
「それはな」
「ウィンザレオ。余計なことは言わないで」
 言いかけたウィンザレオを、シャルルがぴしゃりと制した。
 ウィンザレオは「分かったよ」と言って苦笑いを浮かべた。
「そうか、にゃん。シャルルにゃんは……」
「ハッピー?」
 ハッピーが何かを思いついたように呟いた。頭の上で、ネコ耳がぴくぴく動いている。
 その耳、本物だったんだ。
「あーあ。これでわたしは明日の食べ物にも満足にありつけない身の上になってしまったわ。困ったものだわ」
 手を後ろに振り返ったシャルルは、舌を出して笑っている。
 あんまり困っているように見えないけど、これはきっと虚勢だろう。
 兄を亡くし、一人ぼっちになったところへ、働いたこともなさそうなシャルルは、唯一の収入源を失ったんだ。
 笑っていられるわけがない。笑っていられる、はずがない、よ……。
「ふーむ。まずは生活をどうにかしないとな」
 ウィンザレオが無精髭の生えた顎をさすり、辺りを面目なさそうに見回した。
「生活、かぁ……」
 と言っても、家すら床しか残っていない。
 新生活は、完全にゼロからの出発だよね、これ。

「どうした? 生活なんぞ、なんとでもなるだろう? 悩むことなど何もない。はっはっはっはっは」
 クリスが能天気に笑っている。
 場を和ませるためかと思ったけど、多分、いや、絶対そうじゃない。
 僕もそうだけど、クリスに人間の生活感覚なんかあるはずないもの。
「おかしいな? 『カイロスの盾』だけ渡して終わるはずだったのが、なんでこんなことになってんだ? グファファ」
 ウィンザレオも笑い出した。けど、これはただのごまかしだよね?
「はぁ」
 とシャルルが溜め息した。それを見て、胸が詰まった。
「大丈夫だよ、シャルル! 僕らがきっと、なんとかするから!」
 気付けば、僕はそう断言してしまっていた。
「「「僕”ら”?」」にゃん?」
 クリスとウィンザレオとハッピーが、同時に声を上げた。

 

                        

                                      ~ 第二巻に続く ~ 

 


奥付


男の娘 魔王のクロニクル


http://p.booklog.jp/book/60798


著者 : 峯みると
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/minemiruto/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/60798

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/60798



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ



この本の内容は以上です。


読者登録

峯みるとさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について