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 僕は震える声でハッピーに訊ねた。
「ね、ねぇ、ハッピー。あの二人、一体、なに、しているの……?」
「ん? ご覧の通り。戦っている。ガチで」
 ガチでって。
 僕はぽかんと口を開け、二人の戦いを見つめた。
「……あの二人のせいね。わたしの家が、ほぼ全壊しているのは……」
 はぁ、とシャルルが溜め息を吐きながら顔を上げた。
「全壊? あ? ああっ!」
 言われてみれば。
 もう、僕らのいる床しか残っていないけど。
 ここって、シャルルの家だぁ!
 良く見回してみれば、辺りの林に屋根だの窓だの、カーテンや衣服の類まで、ものの見事に散乱している。
「なんで……?」
 僕はふらりと立ち上がる。
 どうしていいのか分からないけど、とりあえず座ったままじゃいられないよ、これ!

「ふむ。私に任せて欲しいと言ったのだが……どうやら、待ちきれなくなったのだろう」
「待ち切れなかった? 誰が?」
 ひょい、と隣に並んだハッピーにまた訊ねる。
「クリスだ。ディアを心配するあまり、シャルルを殺そうとしたクリスを、ウィンザレオが止めた。結果、あのような激しいバトルにまで発展した。と、私は推理するが」
「ええええっ!? それ、どういうこと!?」
「覚えていないのかね? シャルルがキミに『クロノ・リード』を仕掛けた時、もう外は夕闇が迫っていた。今、頭上に広がっているのは青空だ」
「あっ! じゃあ、あれから一日経ってるの?」
「いや。三日だ」
「三日!?」
 めまいがした。
 気の短いクリスが、そんなに待てるはずないよ!

「そう。あの魔法は、対象の人生を見るから。長く生きている人だと、その分時間がかかるのよ」
 シャルルが無表情に捕捉の説明をしてくれた。
「そういうことだ。ディアが何百年生きているのか知らないが。こんなに長く『クロノ・リード』を使い続けた相手など、初めてじゃないかな、シャルル? ははははは」
「……いいえ。ウィンザレオの時は、これ以上だったわ。まぁ、彼の時には、未来まで見ているけれど」
「ほう」
 ハッピーが驚いている。
 もちろん、僕も驚いた。
 そんな馬鹿な。
 じゃあ。
 ウィンザレオって、一体何歳なの!?

「興味深い話しだ。そもそも『対極の槍』とは、精神世界で用いるような『神器』ではない。『クロノ・リード』の『ホルダー』が、『神器』の『オーナー』でもあると、組み合わせでこんなに面白い『力』が発現するのだね」
 手を顎に、ハッピーはふむふむと頷いている。
 記憶が戻った今、僕にもそれが理解出来た。
 魂や肉体に『魔力回路』を刻み、奇跡の『力』を起こす者を、『ホルダー(保持者)』という。
 そして、神やそれに準ずる者の作り出した『神器(アーティファクト)』を保有する者を、『オーナー(所有者)』という。
 魔力回路は強い願いにより刻まれ、神器は選ばれた者が然るべき時に与えられる。
 神器はエーテル(霊的物質)で構成され、オーナーの意志で自在に出現させられる。
 太古の昔に地上から失われた『魔法』は、今やこの『ホルダー』と、『オーナー』にしか行使出来ない。
 シャルルは、その両方を持っている。
 凄い奇跡だ、と僕は思った。
 と同時に、一つの疑問、いや、興味が湧いた。
 シャルルに『神器』を与えたのは、誰だろう――?

 


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「――はぁ。感心している場合なの? そろそろ止めないと、あの二人、本気で殺し合いを始めるわ」
「あ! そうだった!」
 シャルルの言葉で、はっと我に返った。
 て、「本気」で? あれでまだ本気じゃないの、あの二人?
 確かにクリスはまだ力を隠している。
 でも、まさかウィンザレオもそうだなんて!
 それが本当なら、ウィンザレオは僕ら『天使』にも匹敵する力を持っているってことになる!
 地上に、そんな者が?
「……セカイは、僕の思っているより、全然広い、ってことか……」
 ぶる、と体が震えた。
「はぁ? 何を嬉しそうな顔をしているの? さっさと止めてきなさいよ」
「あ。うん」
 体内の血が熱くなった所を、シャルルの命令に冷まされた。
 なんだろう、この自然な命令口調。
 こんな風に命令されるの、初めてだ。
 ま、いいや。とにかく止めなくっちゃ。
 僕は斜面を下って、二人の元へと向かった。

 近付かなくても、二人の怒鳴りあいは良く聞こえた。
「ちっ! なかなかやるな、獣人風情が!」
 これはクリス。
「グファファ! てめーこそ、思った以上に出来るじゃねぇか!」
 これはウィンザレオ。
 二人の所までは、まだかなりの距離がある。
 なのに、顔に吹き付ける風は目を開けていられないほどだ。
「はぁっはっはっは! 良く言う! そろそろ本気を出したらどうだ、ケダモノめ!  『獣人化』すれば、爆発的に力が上がるだろう! それより前に、まずは、その背にある大剣を抜くべきだがな!」
「余計なお世話だぜ! そう言うおめーはどうなんだ! まだ奥の手があんだろう? 分かるんだぜ、俺にはな! グファファ!」
 がんがん飛んでくる木や岩をなんとか避けて、斜面を必死に下る僕。
 怖いよ、これ! こんなのが一発でも当たったら、痛いじゃ済まないよ、きっと!
 ていうか、なんでそんなに楽しそうに戦ってんの、二人とも?
 僕には理解出来ないよ!

 挑発しあう二人の力が益々強くなり、それにつれて飛んでくる物も増えてきた。
 だめだ、これ以上近づけない! ちょっと遠いけど、ここから呼びかけよう!
「クリスーッ! ウィンザレオーッ! もう止めて! 僕はここにいるよーっ!」
 風に負けないよう、声を絞り出す。
 今の僕の声って高いから、きっと良く通るはず。これなら聞こえるはずだ。
 直後、ちゃんと声が届いたことが分かった。
 でも、その反応は信じられないものだった。
「ディアか? ちょっと待っていろ! 今すぐこのバカを片付けて、その後シャルルを撲殺し、きっとお前を助け出してみせるからな!」
「撲殺っ!? いや、僕、ここにいるってば!」
 戦いに夢中になってるんだ、クリス! こうなると、クリスに話しは通じない!
 じゃあ、ウィンザレオは?

「グファファファ! させっかよ! 大体、シャルルのあんな貧弱な精神攻撃にすら耐えられないようなヤツぁ、死んじまってもかまわねぇだろーが!」
「ええええええ! それ、割り切りすぎだよ、ウィンザレオ!」
 ウィンザレオらしいといえばらしいけど。
 それ、ちょっとひどくない!?
 僕の的確な突っ込みにも、二人の動きは鈍らない。それどころか、鋭く速くなっている。
「うわわ。二人とも、熱くなってて僕の呼びかけが届かない……。うわっ!」
 どごん、という重低音がして、僕の頭上を飛び越えた巨岩が斜面にのめり込んだ。
 バカっと割れた岩の破片が、そこら中に拡散する。
「わぁぁぁ! いたたたた!」
 破片のいくつかが僕の頭にこんこんとぶつかった。
 あああ! 角を隠すための真っ白な帽子が汚れちゃう!
「いたー! うう。し、しょうがない。こうなったら……」
 僕は心を決め、凄まじい攻防を繰り広げる二人を見下ろした。

「もう、力ずくで止めるしかない!」
 ぼう、と僕の体が青白い光に包まれた。
 ウィンザレオは力の底がまだ見えない。けど、クリスの力は分かってる。
 ごめんね、クリス。
「クリスの『力』、借りるね! 出でよ! 『レプリカント・サーヴァント』!」
 ぼぼぼぼぼ、と僕の体の後ろから、発光体が飛び出した。
 それらは一瞬直上に飛んだ後、すぐに降下を開始。
 クリスとウィンザレオを猛スピードで目指してゆく。
「むっ! これは!」
 クリスが膨大な魔力に反応し、発光体へと目を向けた。
「な! なんだ、こりゃあっ!」
 ウィンザレオもほぼ同時に確認し、叫びで驚愕を表わした。
「これは、ディア! ディアの『魔力回路』、『レプリカント・サーヴァント』か!」


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 さすがはクリス。て、知ってるんだから当然か。
 そう、これが僕の能力。
 本物と同じ『力』を持つ『僕(しもべ)』を作り出し、操るのが僕の『力』!
「うおおおおいっ! こんなの卑怯じゃねぇのかぁっ!」
 ウィンザレオが背中の剣に手をかけた。
「バカが! 勘違いするな! これは私であって私ではない! これは、これは!」
 クリスが翼を最大にまで広げ、無数の羽を周囲に浮遊させて、防御の陣を展開した。
「これは! ディアの複製した『私』! 私と同じ『力』を持つ、幻影だ!」
 クリスとウィンザレオに迫っているのは、僕の作り出した『クリスたち』だ。
 本当はもっと出せるけど、とりあえず五体のクリスを作ってみた。
 僕の操る五人のクリス対、一人のクリスとウィンザレオ。
 これなら、絶対止められるよね!
「さぁ、行け! 僕の『サーヴァント』たち! 二人を拘束して、戦いを止めさせるんだ!」
 僕は二人に向けて手を振り下ろした。

 目的は戦いを止めること。二人を倒すことじゃあない。
 クリスの本気モードでサーヴァントを使役することも出来るけど、それじゃあ二人とも殺してしまいかねない。
 だから、僕は。
「サーヴァントたち! 『鎖翼(さよく)』展開! 二人を拘束せよ!」
 そう命じ、五体のサーヴァントを二人の頭上で旋回させた。
 五人のクリスがそれぞれ真横に翼を広げると、その下側の羽が全て急速に伸び、ザクザクザクザクと地面に突き立つ。
 五人を頂点として、ドーム状になった翼の結界が出来上がった。
 これで『翼の檻』の完成だ。二人は、もう逃げられない。
「グファファ! 何をしてきやがるんだ、こりゃあ? グファファ」
 ウィンザレオは背中の大剣を引き抜くと、両手で構えてサーヴァントたちを見上げた。

「バ、バカか、貴様は! 見ろ! もう、ディアはこちらに無事戻ってきている! 戦う理由などないだろうが!」
 クリスは翼で自分の周りを囲い、防御の姿勢を取っている。
 クリスの魔力回路は『マター・アルティレーション』。
 自分の全てを自由に、望むままに変質させることが出来る。
 魔水晶になっていたのも、この力によるものだ。
 本物のクリスは翼を鋼鉄に変質させて、僕の攻撃に備えている。
 良かった。正気に戻ったのなら、攻撃しなくて済むもんね。
 問題は、ウィンザレオか。こっちの方は厄介だなぁ。
 ウィンザレオ、こうなってむしろ嬉しそうだもん。
 僕の『力』が知りたいんだね、きっと。
 その気持ち。戦いが嫌いな僕でも、さ。
 僕でも、なんとなく分かるよ、ウィンザレオ!

「『チュールの鎖』、発動! ウィンザレオを巻き取れ、サーヴァント!」
 僕はサーヴァントを動かした。
「うお、おおおおおっ!?」
 ウィンザレオが見上げたままに雄叫びを上げる。
 僕のサーヴァントたちの翼から、羽を変化させて作り出された鎖が、ウィンザレオに向かって、じゃらららららと、何本も何本も高速で伸びてゆく。
「ぬおおおおおおっ!」
 ウィンザレオの剣が唸りを上げた。
 は、速いっ! 動きが全然追えないよ! 
 見えない壁があるかのように、ウィンザレオの周りで弾かれてゆく『チュールの鎖』たち。
 この銀色の鎖は天界にしか存在しない『オリハルコン』を輪状に作り、繋げたものだ。
 地上で一番硬い、成型可能な物質は鋼鉄。剣はこれで出来ている。
「驚いたな。でも、それだけじゃあ。『チュールの鎖』は、防げないよ!」
 剣の動きはみるみる遅くなっていった。鎖が徐々に絡みつきつつあるからだ。
 ウィンザレオの肉厚で幅広、僕の身長ほどある大剣は、その刀身を巻きついた鎖で隠していった。

「ちぃっ! なんだ、この鎖!? 切れやしねぇ!」
 ぱ、とウィンザレオは剣を手放し膝を曲げて腰を落とした。
 そして、宙に浮かぶ五人のクリスに向けて跳び上がる。
 ごぅ、とウィンザレオがクリスたちの一体に迫る。
 大人しくなった本物のクリスは手で顔を隠して「あーあ」と溜め息をついていた。
「ぐ、えっ!」
 ウィンザレオが空中で苦しそうに呻き声を上げた。
 ぴた、と宙で静止したウィンザレオは動かない。
 ウィンザレオの体は鎖で出来たミノムシのようになっていた。
 当然だね。
 下より、上の方が。
 鎖の密度、高く出来るもん。
 ウィンザレオは、ものの見事に僕の戦術にはまってくれた。
 まずは上から攻撃。通用しない場合、敵が上がってくるのを待つ。空が見えるようにしたのはこの為だ。
『囲師は周するべからず』。
 相手の動きをコントロールするには、常に選択肢を一つだけ与えるものなんだよね。

 


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「……おい。息は出来ているか、ウィンザレオ?」
 五体のサーヴァントの冷たい瞳に見下ろされる、宙ぶらりんとなったミノムシ型ウィンザレオに、クリスが同情の篭った声をかけた。
「……一応な。グファ。魔王って、強えんだな……」
 鎖の隙間から、ウィンザレオの意気消沈した声が漏れ聞こえた。
「良かった。ウィンザレオも、もう戦う気がなくなったみたいだね」
 少し離れた斜面から、僕は満面の笑顔を二人に向けた。

 

 

 ウィンザレオとクリスを大人しくさせることに成功し、僕らはシャルルの家へ……いや、シャルルの家だった場所へと戻った。
 『クロノ・リード』発動中、シャルルと僕が倒れていたと思われる、床だけしか残っていないシャルルの家。
 その床で、クリスとウィンザレオが正座している。
 シャルルとハッピーは僕の後ろでそんな二人を見下ろしている。
 僕はすぅっと息を吸い込み、二人へと声をかけた。
「さ、じゃあ、シャルルに謝ってよ、二人とも」

「なんでだよ? 俺ぁ、シャルルをこの暴虐な天使ちゃんから守っただけだぜ」
「誰が暴虐だ、ウィンザレオッ! そして、なぜ謝らなければならないのだ、ディア? 私はそのちんちくりんな小娘から、お前を助けようとしただけだ」
 僕が謝罪を求めるも、二人はあっさり拒絶した。
「ちんちくりん、ですって?」
 ぴく、とシャルルの眉が跳ね上がった。
 確かにシャルルは僕より小さい。本人も気にしているみたいだ。
「もう、クリス。理由は分かるし僕は感謝してるけど、シャルルの家を壊しちゃったのは事実でしょ?  ウィンザレオだって、クリスを止める為にやむを得なかったかも知れないけど、あの様子だとそれを楽しんでいたんでしょ?」
「む。それはそうだが……」
「グファファ。まぁな。途中から、この天使ちゃんの相手が楽しくなってたのは確かだな」
 クリスは納得がいかないらしく、顔を背けて唇を尖らせた。なんかぶつぶつ言っている。
 ウィンザレオに至っては、もう言い訳する気もなさそうだ。

「はぁ。分かってるんじゃないか。だったら潔く謝ろうよ。他のことは置いといて、家を壊したことだけは間違いなく悪いんだ。そこだけは謝ろう。ね?」
 僕は二人の、主にクリスの顔を覗きこんで出来るだけ優しく促した。
 ウィンザレオは多分、「潔く」に反応する。
 でも、クリスには気を遣わなくっちゃならないから、ちょっと面倒臭いなぁ。
「分かった。ディアのお願いを私が聞かないわけにはいかないからな」
 クリスが険しい顔をシャルルに向けた。
 まだ言い訳するんだ、クリス。僕のお願いになっちゃってるし。往生際が悪いというか、素直じゃないというか。
「うし。潔くないと思われるのは気に入らねぇ。俺もずばっと謝るぜ」
 ウィンザレオはにやりと笑ってシャルルにウィンク。
 それが謝る態度なの?
 二人とも、謝る理由がおかしいよ。

 シャルルはそんな二人を見てどう思ったのか、黙って静かに立っている。
 まず、クリスが口を開いた。
「悪かったな、小娘っ! 謝ってやるからありがたく思うがいいっ!」
「えええええ! それ、謝ってないよね、クリス!?」
 僕は激しく突っ込んだ。
 なんで胸を張ってるの、クリス!?
「悪かったぜ、シャルル! でもまぁ、家なんざまた建てればいいこった。あんまりクヨクヨすんじゃねぇ! グファファファファ!」
「えええええ! なんでそんなに偉そうなの、ウィンザレオ!?」
 こっちにも猛烈な突っ込みを入れた僕。
 入れずにはいられないよ、これ!
「……あ、あんたたちはっ……」
 シャルルが拳を握り締めて肩をわななかせた。


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「はっはっはっはっは。これはいかにもお二方らしい。はっはっはっはっは」
 ハッピーが体を折り曲げて笑い出した。
 心の底からおかしそうだね、ハッピー。
「ご、ごめんね、シャルル。後で僕が良く言ってきかせるから! とりあえず、ここは二人を許してあげて! ね? ね?」
「……うー……」
 僕は必死でフォローした。おろおろとする僕に、シャルルは犬のように唸っている。
 なんで僕がこんなに気を遣わなくちゃならないの?
 シャルルはしばらく僕の目をじぃっと見つめ、
「まぁ、いいわ。それより、あなたって、本当に魔王なのね。ウィンザレオをあんなに簡単に止めちゃうなんて。……ねぇ。『魔王』って、一体なんなの?」
 と、興味の矛先を変化させた。

「え? う、うん。『魔王』ってね、この地上に溢れ出た『闇』を吸い込んで、きれいにして返すのが役目なんだ。これぐらいの『力』がないと、務まらないから」
 シャルルの機嫌が多少なりとも良くなったようなので、僕はほっとした反動から素直に話していた。
「そう。凄いのね、魔王って……。それが、まさかこんなにかわいい女の子だなんて。とても信じられない気もするけれど……」
 すると、シャルルは僕のことを、上から下までじろじろと眺め始めた。
 あ。そうだ。
 今の僕って、頭にはきのこみたいな、角を隠すための白い帽子。体はワンピースにベストを羽織って、足には短いブーツを履いているんだ。
 僕、女の子にしか見えない姿なんだった!
 誤解されてる! 訂正しとかなくっちゃ!
「わ? わわっ?」
 でも、「僕は男だよ」って言うことは出来なかった。
 シャルルが、僕に抱きついてきたから。
 なななな、なんで? どうして?
 クリスとケイオスにしかされたことのない抱擁に、僕は激しく動揺した。

「な! 私のディアに、一体何をしているのだ、このちんちくりんっ!」
「まぁまぁ。いいじゃねーか。グファファファ」
 腕を振り上げるクリスを、ウィンザレオが羽交い絞めにした。
 クリスは「離せ! 離せぇっ!」と怒鳴っている。
「……魔王が何か、知らなかったからって、わたしのしたことはやっぱり酷いと思うわ。だから、家を壊されても仕方がない……。ごめんなさい、魔王……いえ、ディア」
 意外だった。
 シャルルは、僕に謝罪したかったんだ。
 僕の過去を見たから?
 それしか考えられないけど。
「い、いいんだよ、シャルル。僕だって、今まで忘れていたんだから。思い出せたのはキミのお陰だよ。記憶が戻って、自分の能力も前みたいに使えるようになったし。ありがとう。そして、ごめんね。嫌なもの、見せちゃって」
 何か言わなくちゃと思って出た言葉だった。
 でも、シャルルはそれを聞くと、びくっとしながら僕から体を離した。
 青く大きな瞳が見開かれ、きらきらと輝いている。
 きれいな子だな、と僕は思った。
 同時に、いつかの疑問がまた湧いた。
 シャルルには、何も無い?
 一体、どういうことだろう?
 でも。
 シャルルは、きっといい子だ。
 僕はそう確信していた。

「優しい魔王、か……。変なの」
 くす、と笑い、シャルルはまた僕の胸に顔を埋めた。
 そして、
「あなたも胸が小さい、ていうか、ないのね。わたしと同じだわ。うふふっ」
 と、笑い声を漏らした。
 あ、と。そうだ。「僕は男だよ」って言わなくちゃ。
「ははははは。一件落着、かな? ディア」
 が、ハッピーの楽しげな笑いに阻止された。
「で、あなたは何? 何者なの、あなたは?」
 僕の胸から顔をぐりんと横に向け、シャルルがハッピーに訊ねた。
 それは僕も気になるな。
「それはまだ明かせない。時が来れば、いやでも知ることになるだろう」
 でも、ハッピーは答えない。
 気になるなぁ、もう。
 でも、いい人、ていうか、いい悪魔なのは分かった。
 そうだ!
「ねぇ、ハッピー。願い事、訊いてくれる?」
 僕はハッピーに願いたいことを思いつき、シャルルの頭に手を置いて訊ねた。

「ほう? 願いが決まったのかね? いいとも。なんなりと言ってごらん」
 ハッピーは大きく頷き、快諾。
「な! バカ、ディア! お前の命が!」
「お? また面白そうなことになってきた」
 クリスがウィンザレオに捕らえられたまま、じたばたともがいている。
 心配ないよ、クリス。
 僕はクリスに目でそう伝えた。
 けど、あんまり分かってくれてないみたいだ。
 ま、いいか。
 僕は願いを、素直な思いを言葉に乗せて。
 ハッピーへ伝えようと口を開いた。
 叶えて、ハッピー。
 僕の、願いを!



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