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21

 あり得ない。
 なぜ、ハッピーがアトゥム様のことを知っているの?
 それは、天界の者しか知らないはずだ!
「だから、人々に罪は無い。もちろん、魔王にだって罪はない。罪は、このセカイをこのように作り上げた神にある」
 ハッピーがシャルルの前に膝を付き、優しく語りかけた。
「わたしたちに、罪は無い……? 魔王にも、魔物にも……?」
「そうだ。だから、そんなに自分を責めなくていい。責めなくていいのだ」
 ハッピーがシャルルの頭を愛しげに撫でた。
 赤い瞳は両端を下げて細くなり……ハッピーなりの“笑顔”を表現していた。

「我われ地上に生きる者は、ただひたむきに生きている。それが罪であるはずがない。そうだろう? 魔王ディアボロ。いや、第一世界の天使長、ディアよ」
「ハッピー……」
 そうだね、とは言えなかった。
 僕らが絶対的な君として仕えてきたアトゥム様を否定されたからだ。
 アトゥム様が、間違っている?
『このセカイは、間違っている! もー、我慢ならんのだ!』
 いつか、クリスが叫んでいた言葉が去来し、僕の胸を締め付けた。
 刹那、赤いセカイが地平の彼方から差し込む真っ白な光に満たされて。
 シャルルが『クロノ・リード』と呼んでいた、今、僕たちのいるセカイが……溶けていった――

 

 

「――あ……」
 薄く開けた視界に、青空が飛び込んでくる。
 眩しくて、僕はそのまましばらく薄目で空を見ていた。
「――ぉおおおおっ!」

「――ぁああああっ!」
 少し離れた所から、猛獣のような叫び声と耳に突き刺さるような雄叫びが聞こえてくる。
 なんだろうと思いつつも、なんだか凄く心が重くて、僕はそのまま寝転んでいた。
 片腕で顔を隠し、日の光を遮る。さわさわと心地いい風が頬を撫で、僕の金色の髪を優しく揺らす。
「――目覚めたか?」
 耳元で囁かれ、僕は反射的に頷いた。
「そうか。どこもおかしなところはないかな?」
 僕はそれにも少しだけ顎を引いて答えた。
「良かった。あちらでシャルルも目覚めた、というか、戻ってきたようだ」
 シャルル?
 僕は……シャルルの精神世界で……体を貫かれて……。
 そこで、意識がはっきりした。

 そうだ! 寝てる場合じゃなかったんだ!
「シャルル!」
 がばっと上体を起こして急いで首を巡らせる。
 すぐに傍らで膝を付いているハッピーと、少し離れて座っているシャルルが目に入った。
 シャルルは板張りの地面に揃えた足を横に投げ出して、なにやら呆然としている。
 床に突いた右手がカクカクしてる。
 どうしたんだろう?
 待てよ。そういえば、僕らはシャルルの家の、居間にいたはず。
 青空が見えるなんておかしくない? もし外なら、地面が板張りってのも変だよね?
 どこだろ、ここ?
 まぁいいや。とにかくシャルルが心配だよ。

 僕はシャルルの側へと四つん這いで這い寄り、なんとなくもじもじとしながら話しかけた。
「シャ、シャルル? えっと。あの。だ、大丈夫、だった?」
 シャルルは目だけを横にずらして僕を見た。動きが緩慢だ。
 大丈夫じゃないのかな?
「……あなたこそ、わたしにあれだけの事をされて、よくそんなに平気でいられるわね」
「え? 全く平気ってわけでもないけど……うん。とりあえず大丈夫みたい」
 シャルルの言葉自体はそっけないけど、嫌味でもないみたい。
 僕は思ったままを口にした。
「シャルルは?」
 気遣ったつもりが逆に心配されたことに気が付いて、僕は再度問いかけた。
 怪我もないし、普通に返事があったから大丈夫だろうと思っての問いかけだった。
「あなたには、これが大丈夫に見えるの?」
「えっ? ど、どこか痛むの?」
 でも、そうじゃない答えが返ってきて、僕はちょっとうろたえる。

「酷いわ。本当に、酷いことになったわ……」
 シャルルは顔を膝に埋めて悲しげに呟いた。
「ええっ!? ハ、ハッピー! どういうこと!? シャルルを傷つけないようにって、言ったじゃない!」
 シャルル、凄く落ち込んでる!
 あせった僕は、側に立つハッピーの肩を掴んで揺さぶった。
「おや。私に対する第一声がそれとは。私はきっと、まずはお礼を言ってもらえるものだと思っていたが」
「は」
 そうだった。ハッピーは、僕を助けてくれたんだった。
「ご、ごめんよ、ハッピー。助かったよ。本当にありがとう。で、でも、シャルルが!」
「大丈夫だ。私はシャルルに酷いことなどしていない。シャルルが言っているのは、きっとあれのことだろう」
「あれ?」
 ハッピーの尖った指が指し示す方に目を向ける。
 そこには。

「あああああっ! な、何してるの、クリス! ウィンザレオ!」
 ここよりかなり下った山の斜面で、激しい戦いを繰り広げるクリスとウィンザレオがいた。
「はぁっ! 喰らえ! 『フェザー・エッジ』!」
「グファ! んなもん喰らうかよ! 『フット・アクセル』!」
 クリスの翼から繰り出される、鋭利な無数の羽を、ウィンザレオが残像の出来るほどのスピードで回避している。
「とうりゃ! 『アーム・アクセル』!」
 クリスの飛ばす羽の間をすり抜けて、ウィンザレオの拳がクリスを目指す。
 え? 腕が百本以上あるように見えるけど!
「はっ! 『ディフェンシブ・ウィング』!」
 それをクリスの猛烈な勢いで広がる翼が弾き返した。
 うわっ! 翼が鋼鉄みたいになってる!
 二人の戦う周囲には砂塵が渦巻き、辺りの木々を巻き込んで薙ぎ倒している。
 木が飛ぶ岩が飛ぶ空気が逆巻く。
 まるでこの世の終わりみたいな光景だ!

 


22

 僕は震える声でハッピーに訊ねた。
「ね、ねぇ、ハッピー。あの二人、一体、なに、しているの……?」
「ん? ご覧の通り。戦っている。ガチで」
 ガチでって。
 僕はぽかんと口を開け、二人の戦いを見つめた。
「……あの二人のせいね。わたしの家が、ほぼ全壊しているのは……」
 はぁ、とシャルルが溜め息を吐きながら顔を上げた。
「全壊? あ? ああっ!」
 言われてみれば。
 もう、僕らのいる床しか残っていないけど。
 ここって、シャルルの家だぁ!
 良く見回してみれば、辺りの林に屋根だの窓だの、カーテンや衣服の類まで、ものの見事に散乱している。
「なんで……?」
 僕はふらりと立ち上がる。
 どうしていいのか分からないけど、とりあえず座ったままじゃいられないよ、これ!

「ふむ。私に任せて欲しいと言ったのだが……どうやら、待ちきれなくなったのだろう」
「待ち切れなかった? 誰が?」
 ひょい、と隣に並んだハッピーにまた訊ねる。
「クリスだ。ディアを心配するあまり、シャルルを殺そうとしたクリスを、ウィンザレオが止めた。結果、あのような激しいバトルにまで発展した。と、私は推理するが」
「ええええっ!? それ、どういうこと!?」
「覚えていないのかね? シャルルがキミに『クロノ・リード』を仕掛けた時、もう外は夕闇が迫っていた。今、頭上に広がっているのは青空だ」
「あっ! じゃあ、あれから一日経ってるの?」
「いや。三日だ」
「三日!?」
 めまいがした。
 気の短いクリスが、そんなに待てるはずないよ!

「そう。あの魔法は、対象の人生を見るから。長く生きている人だと、その分時間がかかるのよ」
 シャルルが無表情に捕捉の説明をしてくれた。
「そういうことだ。ディアが何百年生きているのか知らないが。こんなに長く『クロノ・リード』を使い続けた相手など、初めてじゃないかな、シャルル? ははははは」
「……いいえ。ウィンザレオの時は、これ以上だったわ。まぁ、彼の時には、未来まで見ているけれど」
「ほう」
 ハッピーが驚いている。
 もちろん、僕も驚いた。
 そんな馬鹿な。
 じゃあ。
 ウィンザレオって、一体何歳なの!?

「興味深い話しだ。そもそも『対極の槍』とは、精神世界で用いるような『神器』ではない。『クロノ・リード』の『ホルダー』が、『神器』の『オーナー』でもあると、組み合わせでこんなに面白い『力』が発現するのだね」
 手を顎に、ハッピーはふむふむと頷いている。
 記憶が戻った今、僕にもそれが理解出来た。
 魂や肉体に『魔力回路』を刻み、奇跡の『力』を起こす者を、『ホルダー(保持者)』という。
 そして、神やそれに準ずる者の作り出した『神器(アーティファクト)』を保有する者を、『オーナー(所有者)』という。
 魔力回路は強い願いにより刻まれ、神器は選ばれた者が然るべき時に与えられる。
 神器はエーテル(霊的物質)で構成され、オーナーの意志で自在に出現させられる。
 太古の昔に地上から失われた『魔法』は、今やこの『ホルダー』と、『オーナー』にしか行使出来ない。
 シャルルは、その両方を持っている。
 凄い奇跡だ、と僕は思った。
 と同時に、一つの疑問、いや、興味が湧いた。
 シャルルに『神器』を与えたのは、誰だろう――?

 


23

「――はぁ。感心している場合なの? そろそろ止めないと、あの二人、本気で殺し合いを始めるわ」
「あ! そうだった!」
 シャルルの言葉で、はっと我に返った。
 て、「本気」で? あれでまだ本気じゃないの、あの二人?
 確かにクリスはまだ力を隠している。
 でも、まさかウィンザレオもそうだなんて!
 それが本当なら、ウィンザレオは僕ら『天使』にも匹敵する力を持っているってことになる!
 地上に、そんな者が?
「……セカイは、僕の思っているより、全然広い、ってことか……」
 ぶる、と体が震えた。
「はぁ? 何を嬉しそうな顔をしているの? さっさと止めてきなさいよ」
「あ。うん」
 体内の血が熱くなった所を、シャルルの命令に冷まされた。
 なんだろう、この自然な命令口調。
 こんな風に命令されるの、初めてだ。
 ま、いいや。とにかく止めなくっちゃ。
 僕は斜面を下って、二人の元へと向かった。

 近付かなくても、二人の怒鳴りあいは良く聞こえた。
「ちっ! なかなかやるな、獣人風情が!」
 これはクリス。
「グファファ! てめーこそ、思った以上に出来るじゃねぇか!」
 これはウィンザレオ。
 二人の所までは、まだかなりの距離がある。
 なのに、顔に吹き付ける風は目を開けていられないほどだ。
「はぁっはっはっは! 良く言う! そろそろ本気を出したらどうだ、ケダモノめ!  『獣人化』すれば、爆発的に力が上がるだろう! それより前に、まずは、その背にある大剣を抜くべきだがな!」
「余計なお世話だぜ! そう言うおめーはどうなんだ! まだ奥の手があんだろう? 分かるんだぜ、俺にはな! グファファ!」
 がんがん飛んでくる木や岩をなんとか避けて、斜面を必死に下る僕。
 怖いよ、これ! こんなのが一発でも当たったら、痛いじゃ済まないよ、きっと!
 ていうか、なんでそんなに楽しそうに戦ってんの、二人とも?
 僕には理解出来ないよ!

 挑発しあう二人の力が益々強くなり、それにつれて飛んでくる物も増えてきた。
 だめだ、これ以上近づけない! ちょっと遠いけど、ここから呼びかけよう!
「クリスーッ! ウィンザレオーッ! もう止めて! 僕はここにいるよーっ!」
 風に負けないよう、声を絞り出す。
 今の僕の声って高いから、きっと良く通るはず。これなら聞こえるはずだ。
 直後、ちゃんと声が届いたことが分かった。
 でも、その反応は信じられないものだった。
「ディアか? ちょっと待っていろ! 今すぐこのバカを片付けて、その後シャルルを撲殺し、きっとお前を助け出してみせるからな!」
「撲殺っ!? いや、僕、ここにいるってば!」
 戦いに夢中になってるんだ、クリス! こうなると、クリスに話しは通じない!
 じゃあ、ウィンザレオは?

「グファファファ! させっかよ! 大体、シャルルのあんな貧弱な精神攻撃にすら耐えられないようなヤツぁ、死んじまってもかまわねぇだろーが!」
「ええええええ! それ、割り切りすぎだよ、ウィンザレオ!」
 ウィンザレオらしいといえばらしいけど。
 それ、ちょっとひどくない!?
 僕の的確な突っ込みにも、二人の動きは鈍らない。それどころか、鋭く速くなっている。
「うわわ。二人とも、熱くなってて僕の呼びかけが届かない……。うわっ!」
 どごん、という重低音がして、僕の頭上を飛び越えた巨岩が斜面にのめり込んだ。
 バカっと割れた岩の破片が、そこら中に拡散する。
「わぁぁぁ! いたたたた!」
 破片のいくつかが僕の頭にこんこんとぶつかった。
 あああ! 角を隠すための真っ白な帽子が汚れちゃう!
「いたー! うう。し、しょうがない。こうなったら……」
 僕は心を決め、凄まじい攻防を繰り広げる二人を見下ろした。

「もう、力ずくで止めるしかない!」
 ぼう、と僕の体が青白い光に包まれた。
 ウィンザレオは力の底がまだ見えない。けど、クリスの力は分かってる。
 ごめんね、クリス。
「クリスの『力』、借りるね! 出でよ! 『レプリカント・サーヴァント』!」
 ぼぼぼぼぼ、と僕の体の後ろから、発光体が飛び出した。
 それらは一瞬直上に飛んだ後、すぐに降下を開始。
 クリスとウィンザレオを猛スピードで目指してゆく。
「むっ! これは!」
 クリスが膨大な魔力に反応し、発光体へと目を向けた。
「な! なんだ、こりゃあっ!」
 ウィンザレオもほぼ同時に確認し、叫びで驚愕を表わした。
「これは、ディア! ディアの『魔力回路』、『レプリカント・サーヴァント』か!」


24

 さすがはクリス。て、知ってるんだから当然か。
 そう、これが僕の能力。
 本物と同じ『力』を持つ『僕(しもべ)』を作り出し、操るのが僕の『力』!
「うおおおおいっ! こんなの卑怯じゃねぇのかぁっ!」
 ウィンザレオが背中の剣に手をかけた。
「バカが! 勘違いするな! これは私であって私ではない! これは、これは!」
 クリスが翼を最大にまで広げ、無数の羽を周囲に浮遊させて、防御の陣を展開した。
「これは! ディアの複製した『私』! 私と同じ『力』を持つ、幻影だ!」
 クリスとウィンザレオに迫っているのは、僕の作り出した『クリスたち』だ。
 本当はもっと出せるけど、とりあえず五体のクリスを作ってみた。
 僕の操る五人のクリス対、一人のクリスとウィンザレオ。
 これなら、絶対止められるよね!
「さぁ、行け! 僕の『サーヴァント』たち! 二人を拘束して、戦いを止めさせるんだ!」
 僕は二人に向けて手を振り下ろした。

 目的は戦いを止めること。二人を倒すことじゃあない。
 クリスの本気モードでサーヴァントを使役することも出来るけど、それじゃあ二人とも殺してしまいかねない。
 だから、僕は。
「サーヴァントたち! 『鎖翼(さよく)』展開! 二人を拘束せよ!」
 そう命じ、五体のサーヴァントを二人の頭上で旋回させた。
 五人のクリスがそれぞれ真横に翼を広げると、その下側の羽が全て急速に伸び、ザクザクザクザクと地面に突き立つ。
 五人を頂点として、ドーム状になった翼の結界が出来上がった。
 これで『翼の檻』の完成だ。二人は、もう逃げられない。
「グファファ! 何をしてきやがるんだ、こりゃあ? グファファ」
 ウィンザレオは背中の大剣を引き抜くと、両手で構えてサーヴァントたちを見上げた。

「バ、バカか、貴様は! 見ろ! もう、ディアはこちらに無事戻ってきている! 戦う理由などないだろうが!」
 クリスは翼で自分の周りを囲い、防御の姿勢を取っている。
 クリスの魔力回路は『マター・アルティレーション』。
 自分の全てを自由に、望むままに変質させることが出来る。
 魔水晶になっていたのも、この力によるものだ。
 本物のクリスは翼を鋼鉄に変質させて、僕の攻撃に備えている。
 良かった。正気に戻ったのなら、攻撃しなくて済むもんね。
 問題は、ウィンザレオか。こっちの方は厄介だなぁ。
 ウィンザレオ、こうなってむしろ嬉しそうだもん。
 僕の『力』が知りたいんだね、きっと。
 その気持ち。戦いが嫌いな僕でも、さ。
 僕でも、なんとなく分かるよ、ウィンザレオ!

「『チュールの鎖』、発動! ウィンザレオを巻き取れ、サーヴァント!」
 僕はサーヴァントを動かした。
「うお、おおおおおっ!?」
 ウィンザレオが見上げたままに雄叫びを上げる。
 僕のサーヴァントたちの翼から、羽を変化させて作り出された鎖が、ウィンザレオに向かって、じゃらららららと、何本も何本も高速で伸びてゆく。
「ぬおおおおおおっ!」
 ウィンザレオの剣が唸りを上げた。
 は、速いっ! 動きが全然追えないよ! 
 見えない壁があるかのように、ウィンザレオの周りで弾かれてゆく『チュールの鎖』たち。
 この銀色の鎖は天界にしか存在しない『オリハルコン』を輪状に作り、繋げたものだ。
 地上で一番硬い、成型可能な物質は鋼鉄。剣はこれで出来ている。
「驚いたな。でも、それだけじゃあ。『チュールの鎖』は、防げないよ!」
 剣の動きはみるみる遅くなっていった。鎖が徐々に絡みつきつつあるからだ。
 ウィンザレオの肉厚で幅広、僕の身長ほどある大剣は、その刀身を巻きついた鎖で隠していった。

「ちぃっ! なんだ、この鎖!? 切れやしねぇ!」
 ぱ、とウィンザレオは剣を手放し膝を曲げて腰を落とした。
 そして、宙に浮かぶ五人のクリスに向けて跳び上がる。
 ごぅ、とウィンザレオがクリスたちの一体に迫る。
 大人しくなった本物のクリスは手で顔を隠して「あーあ」と溜め息をついていた。
「ぐ、えっ!」
 ウィンザレオが空中で苦しそうに呻き声を上げた。
 ぴた、と宙で静止したウィンザレオは動かない。
 ウィンザレオの体は鎖で出来たミノムシのようになっていた。
 当然だね。
 下より、上の方が。
 鎖の密度、高く出来るもん。
 ウィンザレオは、ものの見事に僕の戦術にはまってくれた。
 まずは上から攻撃。通用しない場合、敵が上がってくるのを待つ。空が見えるようにしたのはこの為だ。
『囲師は周するべからず』。
 相手の動きをコントロールするには、常に選択肢を一つだけ与えるものなんだよね。

 


25

「……おい。息は出来ているか、ウィンザレオ?」
 五体のサーヴァントの冷たい瞳に見下ろされる、宙ぶらりんとなったミノムシ型ウィンザレオに、クリスが同情の篭った声をかけた。
「……一応な。グファ。魔王って、強えんだな……」
 鎖の隙間から、ウィンザレオの意気消沈した声が漏れ聞こえた。
「良かった。ウィンザレオも、もう戦う気がなくなったみたいだね」
 少し離れた斜面から、僕は満面の笑顔を二人に向けた。

 

 

 ウィンザレオとクリスを大人しくさせることに成功し、僕らはシャルルの家へ……いや、シャルルの家だった場所へと戻った。
 『クロノ・リード』発動中、シャルルと僕が倒れていたと思われる、床だけしか残っていないシャルルの家。
 その床で、クリスとウィンザレオが正座している。
 シャルルとハッピーは僕の後ろでそんな二人を見下ろしている。
 僕はすぅっと息を吸い込み、二人へと声をかけた。
「さ、じゃあ、シャルルに謝ってよ、二人とも」

「なんでだよ? 俺ぁ、シャルルをこの暴虐な天使ちゃんから守っただけだぜ」
「誰が暴虐だ、ウィンザレオッ! そして、なぜ謝らなければならないのだ、ディア? 私はそのちんちくりんな小娘から、お前を助けようとしただけだ」
 僕が謝罪を求めるも、二人はあっさり拒絶した。
「ちんちくりん、ですって?」
 ぴく、とシャルルの眉が跳ね上がった。
 確かにシャルルは僕より小さい。本人も気にしているみたいだ。
「もう、クリス。理由は分かるし僕は感謝してるけど、シャルルの家を壊しちゃったのは事実でしょ?  ウィンザレオだって、クリスを止める為にやむを得なかったかも知れないけど、あの様子だとそれを楽しんでいたんでしょ?」
「む。それはそうだが……」
「グファファ。まぁな。途中から、この天使ちゃんの相手が楽しくなってたのは確かだな」
 クリスは納得がいかないらしく、顔を背けて唇を尖らせた。なんかぶつぶつ言っている。
 ウィンザレオに至っては、もう言い訳する気もなさそうだ。

「はぁ。分かってるんじゃないか。だったら潔く謝ろうよ。他のことは置いといて、家を壊したことだけは間違いなく悪いんだ。そこだけは謝ろう。ね?」
 僕は二人の、主にクリスの顔を覗きこんで出来るだけ優しく促した。
 ウィンザレオは多分、「潔く」に反応する。
 でも、クリスには気を遣わなくっちゃならないから、ちょっと面倒臭いなぁ。
「分かった。ディアのお願いを私が聞かないわけにはいかないからな」
 クリスが険しい顔をシャルルに向けた。
 まだ言い訳するんだ、クリス。僕のお願いになっちゃってるし。往生際が悪いというか、素直じゃないというか。
「うし。潔くないと思われるのは気に入らねぇ。俺もずばっと謝るぜ」
 ウィンザレオはにやりと笑ってシャルルにウィンク。
 それが謝る態度なの?
 二人とも、謝る理由がおかしいよ。

 シャルルはそんな二人を見てどう思ったのか、黙って静かに立っている。
 まず、クリスが口を開いた。
「悪かったな、小娘っ! 謝ってやるからありがたく思うがいいっ!」
「えええええ! それ、謝ってないよね、クリス!?」
 僕は激しく突っ込んだ。
 なんで胸を張ってるの、クリス!?
「悪かったぜ、シャルル! でもまぁ、家なんざまた建てればいいこった。あんまりクヨクヨすんじゃねぇ! グファファファファ!」
「えええええ! なんでそんなに偉そうなの、ウィンザレオ!?」
 こっちにも猛烈な突っ込みを入れた僕。
 入れずにはいられないよ、これ!
「……あ、あんたたちはっ……」
 シャルルが拳を握り締めて肩をわななかせた。



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