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「ごめん……」
 玲に伏せたままの状態で甲斐が言う。玲は黙って甲斐の長めの髪を梳いてやった。
「でも……好きなんだ」
 相変わらず甲斐の答えは一貫している。思わず玲は微笑んだ。
「ゴメンとか言いながら、それでもまだそんな事言うんだ」
 からかうようにそう言うと、
「だって、本当なんだ」
 いつもの子供っぽい拗ねた口調で言い換えす。こういう部分に騙されたと、玲は思い返す。
 だが子供じゃない。二十歳を過ぎた大人、男なのだと悟った。
「私の気持ちは永遠に手に入らないよ。それでも抱きたい?」
 ビクッとしたあと、甲斐が顔を上げる。
「欲しい」
 甲斐にしたところで自分がこの女性(ひと)と釣り合いがとれないことくらい承知している。でも自分でもどうにもならないのだ。いまは。
「なら、甲斐がそれを承知なら構わないよ。その代わり私は甲斐の彼女でも何でもないことだけは肝に命じて置いてね」
「身体だけって事?」
「もちろん甲斐のことは好きよ、嫌いな男とこんな事出来ない。でも私は誰のものにもなれない。それはわかってるよね」
「うん」
 今度は素直に頷いた。
「それがわかってくれてるならいいよ、それだけ……」
 玲には付き合う男もいる、セックスする相手もいる。でも、それ以上にはなれない。
 甲斐もしばらくすれば気づくだろう。玲が男とどういう付き合いをしているのか。
「お腹空いたなぁ。あたし作るのヤダよ、こんな状態で」
 玲は笑った。
 甲斐は呆気にとられる。
 ほんとにドライな女性なのだ。ある意味、色気なんて無いに等しい。
 はっとするほど色っぽくて、どうしたらいいのかわからないときもあるのに。
「甲斐、シャワー浴びたら食事を作りなさいよ。それくらいやるわよね、こんなことしたんだから」
「わかってるよ」
 シャワーに立った甲斐の気配が消えて、玲はほっと息を付く。この先どうなるのかなんて考えたくもなかった。
 薄闇の中、このまま眠りたくなる。食事が出来たら甲斐に起こして貰おう。
 自分が食べたくなくても甲斐には食べさせなければならない。
 食欲など初めから無いに等しかったが甲斐のために食卓には付こうと、けだるさの中で玲は思った。





この本の内容は以上です。


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