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【本編】マナーを教えてくれるもの。

介護とは・・・「マナーを教えてくれるもの」

 

数年前、僕たちのデイサービスに一人のおじいさん、Oさんが利用となりました。Oさんは僕たちに介護職もサービス業の一つだということを教えてくれました。

 

Oさんは僕たちのデイサービスではまだ若い70代後半の方で、既往歴としては混合型認知症(ピック病の疑いあり)がありました。


Oさんは若い頃、大工職人として働いていました。その職人気質がデイサービスではときにトラブルにもなりました。

 

僕たちが洗い終わったコップなどを食器棚に片付けるときに発する”ガッチャン”という音やコップを棚に片付けるときのちょっとした音(と僕たち介護職は思っていた)がフロア内に響く・・・

 

すると、すぐさま


「おい!!」

とOさんの怒鳴り声がフロア内を響かせました。僕たち介護職がその瞬間思うことは同じです。

 

「あぁ、また怒られる・・・」

そんな僕たちの気持ちにお構いなしにOさんは言います。


「お前商売人だろ!」

 

Oさんが言うには僕たち介護職はボランティアをしているのではない。介護という商売をしているのだから、そこにいるお客様に対して不快な想い(余計な音を出すこと)にさせてはならないと怒鳴ったあとに必ず僕たちに説いていました。

(そのおじいさんの怒鳴り声の方が周りの人間にしてみたら不快だと一部のスタッフや周りのお客様からは大変不評でした。)


しかし、ぼくはOさんの意見はもっともだと感じたのです。


僕は7年間、福祉関係で働いていますが、それまでお客様がいるところやフロア内で食器類を片づけたり、ドアの開け閉め、階段の上り下りで生じる音がお客様の耳障りになるかもしれないと気にかけたことがありませんでした。・・・僕は恥ずかしながら、そのようなことを何一つ気遣ったことはなかったのです。

 

ちょうど、同じころ、違うお客様の一人がデイサービスの階段の近くにあるソファーで休んでいたところ、毎回職員が階段を昇り降りする音がうるさくて休みたくても休めないという苦情がありました。

 

そうだったんです。僕達が気づいていないだけで、本当はお客様達は僕達が発するちょっとした物音が気になっていたのです。

 

Oさんはわたしたち介護職に対して、高齢者の排泄介助、食事介助、入浴介助といった介護施設特有のサービス以外にも大切なことがあることを教えてくれたのです。介護職がサービス業であり、サービス業に大切なマナーがあることを教えてくれたのです。


それから、僕は仕事中や自宅に帰ってからも食器類を片づけるときやドアの開け閉め、階段の上り下りでは不必要に大きな音を出さないように気をつけるようになりました。


Oさんがデイサービスを体調を崩して利用中止になり、この世を去ったあとも僕の中にはその心は残っています。

 

Oさん、たくさんの学びをありがとうございました。

 

介護とは・・・「マナーを教えてくれるもの」


介護現場には気づかれていないだけで、たくさんのマナーがある。

岡本大輔。


【考察】マナーを教えてくれるもの。

僕が大学2年生の時に初めて介護実習に行った後、実習指導の先生とこのような話になりました。

介護職が車椅子のお客様の移動介助をしているときにドアの開け閉めを足でやることについての話でした。

そのとき、実習指導の先生はこう話しました。

 

「いくら介護の仕事中とは言え、足を使ってドアを開け閉めするのはちょっとね・・・」

 

僕は先生のその言葉に噛み付きました。

 

「お客様の介護をするのが僕達の仕事であり、ドアの開け閉めのときに車椅子を押していることやお客様を片手引き介助していることだってあります。そのようなときに、ドアを手で閉めるほうがいいだなんて言ってられないと思います。」

 

当時の僕の考えは、”緊急時”であれば致し方ないことと感じますが、普段から足でドアを開け閉めすることが正しいことか、それを見ている周りの人がどのような気持ちになるのか?僕はいいか悪いかの極論でしか物事を判断できていなかったのです。

 

第3者はどう見るか?という視点が欠けていました。若すぎてまだまだケツが青かったと反省ばかりです。

 

先生は介護という素晴らしい仕事をちょっとしたマナーができていないだけで気持ちが伝わらなくなることはもったいないと伝えたかったはずです。

 

介護という大変な仕事をしているのだから、足でドアを開け閉めすることくらいどうだって・・・、食器を片付ける時の音くらい大目に見てよ、という考えは、他のサービス業であれば許されないことでしょう。

 

平林都さんの「平林都の接遇道」には”お客様にときめきと感動を与える”とあります。

彼女が話す”ときめきと感動”は普段とは違う非日常の場面だからこそ有効であり、日常生活に密着している介護サービスにおいて、”ときめきと感動を与える”となると難しいかもしれません。

 

しかし、介護の仕事が本当に尊いのならば、介護職一人一人が自覚するのならば、目の前のお客様へ介護すると共に、周りで見ている人が不快にならないよう配慮していくことが僕達介護職のこれからやることです。

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

コメントは自由制です。一見さんも読者も大歓迎です。

※心無い非難・誹謗・中傷等は削除させていただきます。

 

次回配信日は12月3日です。

「介護とは・・・踏み越えてはいけないラインを知るもの。」

 

【参考文献】

大和書房
発売日:2009-11-20

 

 

 

 

 

 


この本の内容は以上です。


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