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てきすぽどーじん5号 「初体験」
「親不孝ウエストゲイパーク」 山田佳江
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「テキスポで暮らした人たち」 蟹川森子編
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「惟任百里的初恋探偵物語」 あやまり堂
惟任百里的初恋探偵物語
惟任百里的初恋探偵物語(序)
惟任百里的初恋探偵物語(1)
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誤訳捏造「OUTサイダー」 茶屋休石
誤訳捏造「OUTサイダー」
誤訳捏造「OUTサイダー」(序)
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「異世界のメロディ」 松浦俊郎
異世界のメロディ
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惟任百里的初恋探偵物語







惟任百里的初恋探偵物語




あやまり堂



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惟任百里的初恋探偵物語(序)

 


 その朝僕は、空を埋め尽くす竜を見た。
 何百、何千という竜の群が、東から西へ、学校へ向う途中の空を、次々と横切って行くのだ。
 青や白、うろこさえ鮮やかに見えるような巨大な竜から、蛇のように細いものまで。
 あきらかに非現実なその景色は、一瞬、僕の意識全部を占拠したけれどたちまち消えてしまい、それが現実であったという痕跡すら残さなかった。けれどすくなくとも、僕の平穏な学園生活へ何かしらの変化が起きることを暗示したのだと、まあ、それはあとで思ったことだけれど。

 その時は何だ、単に気のせいだと思ったし、もしそれが現実だとしてもせいぜい飛行機雲とか虹とか、その辺を見間違えただけだと思った。

 僕の日常なんて、そんなもの。
 幻影を見つめて変化を期待し、結局、なにごとも起きずに季節だけが変って行く。

 ……なんて。

 とりあえず、そういうことがあったような、無かったような朝を経て、この物語は始る、始る――。


 

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惟任百里的初恋探偵物語(1)

 

 僕、惟任百里は、この日も颯爽と便所飯を済ませて午後の授業に備えるべく、中庭を横切って、図書館へ向っているところだった。

 ちなみに。
「便所飯」というのは、僕の高校における特別な用法であり、便所飯を済ませたといっても、実際に便所で飯を喰ってきたことを言うのではない。
 東海地方の海浜地区にあって、私立と公立の中間すなわち「共立」高校である僕の学校は、その特殊な創立由来もあって他校に比して過剰な学内設備を有しており、そのため便所もどちらかといえば未来的である――たとえば便所設備にいっさい手を触れることなく用を足すことが出来るほど自動化されているが、といって、便所である以上は不衛生であり、狭いし、何より臭い。妙な虫も発生する。
 そのような場所で飯を食う――?
 否、否。いかに僕が孤食を愛するといっても、そのような場所で飯を食べて満足な体でいられるわけがない。
 僕、惟任百里ば虚弱である。
 虚弱が言い過ぎなら柔弱とか非力。
 とにかく文弱の徒であってみれば、不衛生な便所などで食事をとればたちまち妙な毒素を吸収、悪質な病魔に罹患し、数日で学校中へ伝染病をまき散らすに至るだろう。
 つまり僕、惟任百里は、便所で飯を食ったりはしない。
 僕の高校において「便所飯」とは、真実ランチ・イン・ザ・トイレット、仏語で言うところのデジュネ・ドン・レ・トワレ、古い日本語ならば厠餉、雪隠食、御不浄飯などという意味ではなく要するに、食堂に隣接する自習室でひとり優雅に食事を取ること――に他ならない。
 いやはや、飲食可能な自習室を食堂に隣接して設けるなど、僕の高校は実に生徒思いである。
 僕のごとき孤食愛好家は、騒々しくも猥雑な生徒食堂で食事をする必要はなく、隣接せる自習室へ食堂ランチを持ち込み、誰に煩わされることなく食べることができるのである。
 この設備のおかげで、僕の高校ではどれほどの生徒が不登校に陥らずに済んでいることか。このシステムは、誰かと一緒に食事をしなければならないという強迫観念から、実に多くの生徒を救っているのである。

 それは、ともかく。

 この日も僕、惟任百里は、三畳ほどの落ち着いた、閑静な空間で食堂のうどんを食し終えて、午後の授業に備えるべく、禅寺のごとき石庭から飛び石伝いに中庭へ出て、図書館へ向っているところだった。
 石庭の雅趣は、昼食後のまったりした気分で眺めるのに最適だ。まったく、僕の学校はさまざまな空間の趣味が良い。
「あ、百里先輩!」
 と、向うから少女の声がした。
「ていうか、やっぱりここだったんですね――っ」
 笑顔で手を振り、飛び石伝いに、とんとん、とこちらへ跳ねて来るのは、幽齋蓮花、一年生である。
 課外活動団体、学園探偵団を一人で結成、部長を務めていて、僕が以前、「幽齋蓮花・通信簿紛失事件」の解決に智慧を貸した縁で知り合った。――というか、通知表を無くして泣きそうになっていたところへ偶々通りかかり、見つけ出してあげただけだが、とにかくそれから顔なじみになっている、可愛い後輩であった。
 短めの髪を無理やり二つ結びにしているのが、小柄な彼女によく似合っている。制服がぶかぶかしているのは、これから背丈が伸びることを期待してのことだろう。
 その蓮花が駆けてくる、僕は立ち止まる――ちょうどその、中間地点だった。

 ドオン。

 唐突に、数トンはあろうかという大きな騎馬武者像が、僕たちの目の前へ落下してきたのである。
 ガラガラと、大げさすぎるほどの音を轟かせ、銅像は大破した。
 正確に言えば、大破したのは主にコンクリートの台座部分であり、ブロンズの武者像は、兜の前立てを吹っ飛ばし、馬の首がひゅーんと、僕の鼻先をかすめて食堂の壁へ突入していったくらいであった。

 

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惟任百里的初恋探偵物語(2)

 
 騎馬武者像――正確に言えば、楠木正成公のブロンズ像。
 今は昔、すべての学校には楠木正成公の像があったと言われる。
 知勇の誉れ高き、南朝の忠臣、大楠公。
 鎌倉末期、「太平記」の時代に後醍醐天皇の倒幕運動に尽力、さらに逆賊将軍足利尊氏が叛旗を翻した後は、劣勢の南朝、後醍醐天皇のために奮戦するも最終的に足利のため敗死、さらに息子正行も徹底抗戦する中で命を失うという悲劇の武将……。
 微妙に、これから日本の将来を担う子供の規範とするには、縁起の良くない人物だと思われるが、いや待てよ――大義のためには命は惜しくないのだ、励めよ若人、と教えるのだから良いことなのか。のんべんだらりと長生きした老人どもが社会資産を浪費するのは、それを支える立場の人間からすると邪魔くさく、目障りでしかない。
 いや、そんな個人的見解はともかく。
 その楠木正成公の像と、薪を背負いながら読書をする勤勉家・二宮金次郎像は、だいたいどこの学校にも置かれていたと、僕の知るいくつかの古文書に書かれていた。
 ちなみに僕の「古文書」の定義は、古くさい人間が書いた本――である。決して僕が遠い未来に生きている、というわけではない。
 ……そういう古くさくも重厚な騎馬武者像が、どんがらがっしゃんっと、食堂のある建物の屋上から降ってきたのである。
 落下地点が十メートルくらいずれていれば、僕、惟任百里もしくは後輩、幽齊蓮花は、漫画・アニメ的表現でいうところのぺったんこ、実際はミンチ肉になって即死していただろう。
「これって、何なんですか、先輩……」
「僕にも分らない。とにかく、怪我をしてないよな、幽齋――」
 と屋上辺りへ目を凝らした瞬間、ふと誰かが屋上でこちらを覗き込んでいる気がした。
(……だれだ?)
 しかしすぐに見えなくなったから、目の錯覚だったかもしれない。だいたい屋上は立ち入り禁止になっているはずだ。
 ていうか……。
「こんなもの、うちの学校にあったのか?」
 僕はとにかく、蓮花とともにその場を離れて安全を確保すると、食堂や、自習室などから飛び出し、わあわあ騒ぎ回る他の生徒たちをよそに、冷静に、砕けた騎馬武者像を見つめた。
 幸か不幸か、銅像が落下してきたときに石庭へ出ていたのは僕たち二人だった。
 ゆえに怪我人はいないはずだ。
 石庭は、いわゆる中庭の一部であるが、年中日陰になっていることもあって自習室の孤独ラバーズのほかは、あまり近寄らない。位置的にはちょうど学園の北の外れである。ブロンズ像の落下の衝撃で、石庭に描かれた波紋が、きれいに波打っていた。
「先輩、これ何ですか?」
 と、蓮花が一枚の紙片を拾った。小さな長方形で、錦の袋へ収められており、袋には、
 ――江ノ島弁財天護符。
 とある。
「お守りだな……犯人が落したのかな」
 と言っている間に、教師連があたふたと走って来て、いろいろ叫びながら要するに生徒を追い立て始めた。怪我をした者はいないか、事故が起きた瞬間を見た者はいないか。とにかく一度教室へ入りなさい――云々。
 僕、惟任百里は、出しゃばることと、面倒なことが大嫌いである。
 それを好む性格なら、先生にも状況を逐一報告したであろうし、事故の様子を携帯カメラで撮影、すぐさまネットにアップロードしていたはずである。
 が、僕は現実でもネット上でも、万事、控えめである。そんな疲れることはしない。
 僕はすばやく蓮花の手を引くと、誰に気づかれることなく、その場をあとにした。
 いずれにしても、怪我をさせられたわけではないし、僕に関わりのあることではない――と、すくなくとも僕はその時、思っていた。
 けれど幽齋蓮花は早くも両眼をきゅぴーんと光らせ、ここに学園探偵団として二つ目の、難事件のにおいを感じ取っていたようである。
 

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惟任百里的初恋探偵物語(3)

 
「ていうか、ていうか先輩。今日も自習室でご飯食べてたんですか?」
 放課後。
 正確にいえば九月二十八日、火曜日。
 騎馬武者像落下事件の一週間後の放課後、学園の下駄箱付近――。
 いつものようにあっさり帰宅しようとしていた僕は蓮花に呼び止められ、右の質問を投げつけられた。
 言わんとするところは「一人で昼飯を食べるなんて、寂しくないですか?」だ。
 うむ――人間は別に、友だち百人できなくても生きて行けるから、寂しいわけがない。以上。分ったか。
 ところでこういう問いかけで思い出すのは、幼心へ強迫観念を植え付けるかのごとき、あの歌だ――我悩出来乎友達百人。与百人我欲食握飯於富士山上。
 笑止。
 そのような歌、少なくともこの僕、惟任百里は信じていない。
 だいたい、百人いれば百とおりの人生があり、それぞれ勝手に生きているのであれば、それらをどうして、興味ある対象として見続けることができよう。
 たとえばツイッターなりフェイスブックで、フォロワーを百人をゲットしたとする。今の時世、そうした交友を求める輩は五万といるだろうから、百人、二百人、あるいは三百人のフォロワー確保も簡単にできるだろう。
 だが、そうしてみたところでどうだ?
 絶えず更新され続ける情報の膿――そう、膿だ。変換ミスではない、膿のごとき情報の奔流に溺れ、うんざりさせられるだけではないか。
 興味のない音楽の話を延々と繰り広げる奴と同時進行で、人生の哲学を語る奴がいる。と思えば、今日は何を着てどこへ行って何を買って何を食べてと克明な記録を垂れ流す者がいる中で、数人の友人が一緒にカラオケへ行ってエンジョイしたよと表現する――友達のはずの自分を、そもそも誘いもせず!
 だいたい、だ。
 僕は、百人もの名前を覚えきる自信がないし、百人もの他人の人生に興味がない。また僕自身が、そうして百人の人間に僕を見て欲しいとも思わない。
 世界何十億の人間とネットで繋がりうるこのご時世、仮に百人の濃密な友達に囲まれたところで、交友関係の分母は何十億であり、それはつまりほとんどゼロと同じではないか。
 ゆえに昼飯を一人で食うことぐらい、何だというのだ。
 ――以上の文脈を思考した僕は、大きく頷き、次の言葉に凝縮して返答した。
「うん。静寂は良いものだ」
 蓮花はそれに、ちょっと顔をうつむかせたけど、変らずにこやかに、
「でもでも、何ていうか、たまには誰かと一緒に食べても良いって思いませんか?」
「そうだな。別に僕も、誰かと一緒に食事をすることを悪だと思っているのではない。でもその誰かを探そうと一生懸命になるより、一人で食べてた方が手っ取り早いし、何より平和だと思っているんだ」
「じゃあ、誰かに誘われたらどうしますか?」
「相手による。一緒に食事をしたいと思わせる相手なら歓迎するが、そうでない相手だと、これはたいへん難しい問題だ」
「どうして?」
「すくなくとも『あなたと一緒では飯が不味くなるから嫌だ』などといって断るわけには行かないから、とりあえず愛想笑いでごまかすか、それとも『宿題があるから』などといって断るしかないが、そうすると相手にも僕の抱いた感情が何となく伝わり、その後の関係がぎくしゃくするだろう。僕を食事に誘おうという相手なのだから、すくなくとも僕との関係は悪くなかったはずなのに、そうやって僕が誘いを断ったことによって後々気まずい関係になってしまう。そうであるなら、僕の方で最初から誘われないようにするのが賢いやり方だ」
「そう、ですか。なるほど、そうですか」
 蓮花は半分以上、理解していない様子だったけれど、まあ良い。僕の方でも自分が何を喋っているのか分っていないのだ。
 蓮花は気を取り直して、
「ていうか先輩、この前の『銅像ガッシャン事件』ですけど」
「……いつの間にそんな名前に決ったんだ?」
「私が今つけました」
「うん。そうか。この前の事件がどうかしたのか」
「はい。私なりに、容疑者を絞り込んでみたんですけど、聞いてもらえますか?」
「容疑者を絞り込んだ?」
 怪訝な顔で振り返ると、蓮花は得意げに頬っぺたを染めつつ、生徒手帳を開いて、
「あの時間、屋上にいたのは三人だけです。つまり犯人はその三人のうちの、誰かです」
 きっぱり、そう断言したのであった。
 


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