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てきすぽどーじん5号 「初体験」
「親不孝ウエストゲイパーク」 山田佳江
親不孝ウエストゲイパーク
親不孝ウエストゲイパーク(1)
親不孝ウエストゲイパーク(2)
親不孝ウエストゲイパーク(3)
親不孝ウエストゲイパーク(4)
「原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~」 シゾワンぷー
原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~
原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~(全)
「穴蔵の娘」 雨森
穴蔵の娘
穴蔵の娘(1)
穴蔵の娘(2)
穴蔵の娘(3)
穴蔵の娘(4)
穴蔵の娘(5)
「パラレルワールドの僕」 香吾悠理
パラレルワールドの僕
パラレルワールドの僕(1)
パラレルワールドの僕(2)
パラレルワールドの僕(3)
パラレルワールドの僕(4)
パラレルワールドの僕(5)
パラレルワールドの僕(6)
パラレルワールドの僕(7)
パラレルワールドの僕(8)
「テキスポで暮らした人たち」 蟹川森子編
テキスポで暮らした人たち
テキスポで暮らした人たち(1)
テキスポで暮らした人たち(2)
「惟任百里的初恋探偵物語」 あやまり堂
惟任百里的初恋探偵物語
惟任百里的初恋探偵物語(序)
惟任百里的初恋探偵物語(1)
惟任百里的初恋探偵物語(2)
惟任百里的初恋探偵物語(3)
惟任百里的初恋探偵物語(4)
惟任百里的初恋探偵物語(5)
惟任百里的初恋探偵物語(6)
惟任百里的初恋探偵物語(7)
惟任百里的初恋探偵物語(8)
惟任百里的初恋探偵物語(9)
誤訳捏造「OUTサイダー」 茶屋休石
誤訳捏造「OUTサイダー」
誤訳捏造「OUTサイダー」(序)
誤訳捏造「OUTサイダー」(1)
誤訳捏造「OUTサイダー」(2)
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てきすとぽい
「異世界のメロディ」 松浦俊郎
異世界のメロディ
異世界のメロディ(序)
異世界のメロディ(1)
異世界のメロディ(2)
異世界のメロディ(3)
異世界のメロディ(4)
異世界のメロディ(5)
異世界のメロディ(6)
異世界のメロディ(7)
異世界のメロディ(8)
異世界のメロディ(9)
異世界のメロディ(10)
異世界のメロディ(11)
異世界のメロディ(12)
巻末の随筆
巻末容赦
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パラレルワールドの僕(4)

 
 次に割って入ったのは、見るからに不良ですと言った男だった。勿論これも僕だ。
 弁護士の僕が指をさしていた先にはもう霧がかかっていて、何も見えない。
「チス」
 うわっ、目つき悪い!!着ている服は……工事現場でよく見る服だな。
「何だ、ほんとにこれ俺? まあいいや。さっきのが俺のように、同じこと思った奴らがいるさ。アレ見える?」
 今度は別のを方角を指差した。
 ぼさぼさの髪と、マメだらけの手。その先に見えるのは……、とても広い庭のある家だった。けど、周囲の様子からして、相当の田舎。
「俺ね、ここからまた別の場所に行ったの。けどそこが遠いところでさ、静岡のすんごい山の方。家だけ立派だろ?今は一人暮らししてアパートにいるけど、滅茶苦茶だよ」
 そこに見えたのは、静岡の寂れた商店街の近くにある、ワンルームのアパート。
 面倒くさそうに頭をかいて、煙草に火をつける。
 うわ、ちょっとやめてよ、僕煙草苦手なの。ほら、弁護士の方も困った顔してる。
 けむたいなあ。
「今でこそ働いてるけど、中卒。二十すぎてから働こうと思ってやっとつけたのが、この仕事。けどさ、毎日働いて、結構な体力仕事。煙草吸わないとやってけない」
 それから彼はずっと仕事の愚痴を語った。
 危ない仕事、上から鉄パイプが降ってきて、あたって大けがをした。
 そして仕事上、振動の多いものを扱うため、そのせいで指が上手く動かなくなったとか。
「けど、君は両親は?あんなに良い家なんだから、何でそんな中…えっと」
「いいんだよ、低学歴ってはっきり言って。あんま気にしてねーもん」
 分かりやすいほどうそつきだ。
 低学歴を気にして、ちらちらと弁護士の方を見て、何度も舌打ちしている。この二人は自分なのに、合わなそう。
「両親健在。じいちゃんばあちゃんも健在。あの家で親父のじいちゃんばあちゃん、母親で暮らしてるよ。あとは、妹がいるけど、そいつが今高校生」
 僕の祖父母は、五年以上も前に亡くなっているのに。
 それに妹がいるのは羨ましい。
「妹生意気盛りでな、可愛くない。可愛くないというのは、まあ、嘘だけど? あんまり会ってないし。生活費にほとんど金費やすし。ただ、周りには恵まれてるよ。仕事上の関係はな。やっぱり馬鹿言える友人が多いのがいーかな」
 その隣で、弁護士が羨ましそうな視線を向けた。
「本気で遊べる友人というのはいいですね」
「酒飲んで、休日はでかけて。煙草教えてくれたのもそいつら! ……大事な仲間だな。馬鹿やってテストの点数も悪かったし、まともに学校にもいってなかったけど。学校時代の友人も何人かたまに飲みに行くけど、基本仕事周りの友人が多い」
 この様子から見ると、彼は交友関係には恵まれているようだ。
 にかりと笑って髪をかきあげる。隣にいる弁護士をまねて髪の毛を整えるが、根本の精神が違うのか、同一人物でありながら、似ても似つかなかった。
「俺あんた見たいのになりたかった。だけどさっきの話聞いたら、苦労してるな」
 ケラケラと笑いながら、弁護士を指差す。
 弁護士はクスリと笑って、頷いた。
「私は貴方ほど自由奔放だったらと思います」
 こっちは弁護士の卵、こっちは中卒。面倒だからこっちの不良は中卒って名付けよう。彼には悪いけど。
 その隣の男に煙草をとりあげられて、川に捨てられた。
 こいつはなんだ?
 うわあ!? オカマ!?  ………もといニューハーフ!! キタコレ! どうしてくれよう。
 一瞬女の子かと思ったけど、間違いなく僕だ!!
 だって鼻筋がそのままだし。……でも意外に胸が……。
 胸にくぎ付けになっている僕の方を見て、手を振る。
 多分一見したら、男だとあまり気付かないんじゃ……。手の振り方も仕草も女性以上に女性っぽい。
 あ、違和感はそれか。女になりすぎちゃってるのか。心が。あまり知りたくないけど。

 

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パラレルワールドの僕(5)

 
 派手な女ものの衣装を着て、髪を結った彼は、口元をハンカチで抑えて、中卒の煙草を捨てる。
 川に勝手に捨てるなんて。住んでいる場所は相当治安悪いのかな。
「私の番いい? 見て、キレイ?いいでしょ、この前豊胸手術したの。でも駄目ねー、本当の女性には勝てっこないわ。可愛くなりたいの、もっとこう、キューンと来るような」
 黙れ。
 今度は彼が指をさす。そちらは、ネオン街。もしかして新宿の繁華街?
 間違いない。僕も何度かいったことがある。
「私はあそこ。私が働いてるのはあそこなの。女性も男性も差別のない町、素敵よね」
 黙れ。二度目の願いだが、彼は話し続ける。
 彼? いや、彼女? うーん、まあいいや。
 でもやっぱり胸に目がいく。谷間が……。着ている服も派手だけどそれなりにいいものだし、肌の手入れがなされていて、相当金をかけていることが分かる。
 で、何でこうなった。
「私は両親不在よ。パパがいるだけでも羨ましいくらい! あ、この場合のパパはあのパパじゃなくて、実の父ね。あんたは努力で勝ち取る組かもしれないけど、私はお金が全てだと思うの」
 パパって、援助交際とか仕事上の付き合いでいる男性とかそういうことのことか、何か知りたくない単語が出てくる。
 弁護士を指差して、まくしたてる姿は、中々に同一人物だとは思えない。
 いちいち小指を立てるな。
「私はこの仕事に不満はないわ。ゲイバーってのね。だけどそれまでが大変大変! 今でこそナンバー1に近いけど、高校生まで大変だったわ」
 皆苦労があるんだなあ。
「貴方と同じ時期に東京に行ったけれど、学校になじめなくてね。だけど頑張っていったわ。両親が離婚しちゃったのは、私が原因。学校になじめない私をかばったパパとママが毎日喧嘩しちゃって。結局ぽいっと捨てられて、ママの祖父母の御世話になったわ。可愛がられたことが最大の幸せかな」
 川を覗き込んで、頬杖をつく。う、しぐさがちょっと色っぽいな。どこでこんなの覚えるのだろう。
「祖父母もね、去年死んだわ。ママには会えるけど、パパはもう知らない。高校に何とか進んだけど、しょせんはランクの低いところだし。高校で手すぐに色んな仕事を経験したけど、結局、これかなあ。小学生の時の学芸会、覚えてる?」
 唐突に小学生時代の学芸会を語りだした。
 弁護士と中卒は学校が違うらしく、よく分かっていないらしいが、僕はすぐに思い出した。
 僕はその時、盗賊の役をやったんだ。
 主人公はお姫様、さらわれちゃう非力なお姫様。王子様に助けてもらって、盗賊蹴散らしてもらって、最後は王子様と結婚するっていう。
 ……なんかいやな予感が。
「うーん、あんたわかるみたいね、ソレ! 私そのお姫様役なの。信じられないでしょ? おばあちゃんが頑張って作ってくれたドレスは凄い綺麗で、お化粧おばあちゃんすんごく上手。ママも手伝ってくれて、女になりきったわ!! あの時が凄く楽しかったの」
 どうしよう、お姫様は可愛いクラスの女の子がやったとかそういうことしか覚えてないから、僕がやったのは想像できない。母は確かに化粧は上手だけど、僕はしたことがない。
 つまり、こいつはその時期から心が女性になりかけていたのだろうか。
 平沢進的に言うとSP-2(第二の女性)。うん、偏見とかは持ってないけど、これが僕なんだからちょっとめまいがする。
「高校入って……、クラスの女の子の服を借りて女装したの。その時に思い出したのよ。お姫様役。高校がとても可愛いセーラー服でさっ、ノリノリで彼女も女装に手伝ってくれて、まあ、遊びなんだけどさ。でも鏡見て、これだって思ったの。私の生きる道って、女の子」
「……マジで?」
 隣の中卒が呆れて、持っていた煙草ケースの煙草を全て地面にばらまいた。
 それでも心は乙女は止まらない。
「お化粧に、女性ホルモンの注射、私にあう服と靴のサイズ、大変だわ。不良のあんたより細いから、そこまで苦労はしなかったけど、この靴、見てよ」
 スリットから見える足はたしかに男だな。けど、その先はきらびやかな靴。僕よりサイズは小さいから、二五・五あたりかな。
「この靴にこの化粧水に、このネックレス、指輪。いくらだー?」
 いたずらぎみに笑いながら見せるそれは、僕は価値を見出すことができない。
 しかし弁護士は少しわかるようで、驚いている。
「その化粧水は女性用のもので、肌が弱い人向けのものですね。一万軽く超えるということで有名な。そのネックレスは……十万はするでしょう」
「当たりー。お客さんに買ってもらっちゃった」
 靴の値段についても語り出すが、何で弁護士が分かるのかと思ったら、そうか、弁護士の方は世間を見ているし、肌質も同じだから、そこそこのことは分かるんだ。
 玩具みたいなネックレスが十万するなんてありえない。
「話術が得意じゃないとね、この世界難しいの。私、高校で女装したその日から、一年たってようやく女になる決意したわ。周りは驚いてたけど。でも今が楽しい。……けどね、完璧に女じゃないのね、そこがちょっとだけ、不満。周りはライバルだもの」
 ため息をつく……Sp-2さんを押しのけて、別の男が顔を出す。
 彼はちゃんとした男の恰好でよかった。神様ありがとう。
「僕にその話術教えてくれ!!」
 いきなり何を言うんだろう。
 中卒とは別方面でチャラ男がやってきた。
 土下座する勢いで話術を連呼する男を、僕は肩を叩いてみた。
「ど、どうしたの」
「僕は売れないホストだ!!」
 ああ、なるほど。
 そう思っている間に、Sp-2さんがビシビシダメ出しをしている。
「アンタホストなの? じゃあその格好、だめ。うーん、もっとぴしっと着こめないの? それに、肌荒れ酷いじゃない。ホストは顔も話術も命よ。だめねー。ほら、ニキビ跡も治さないと」
よれよれのスーツ、シャツはセンス悪い、それにプライドがないと来た。
 髪型はよしとして、いいもの食べていないのか、随分と鼻の周りにきびが出来ている。
 煙草が好きな中卒よりも悪いだろう。
「ナンバー1なんてどうやったらとれる? これでも洗顔はしてるぞ」
 僕が僕にダメ出しされて、意見を乞う姿は中々にシュールだなあ。
 その程度にしか僕は思わないことにした。

 

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パラレルワールドの僕(6)

 
「じゃあ自己紹介をなさい」
「そうですね、自己紹介してみてください」
 弁護士とSp-2が二人揃って口にした。
 二人にとって自己PRは命だからだろうか。
「ええっ……、ぼ、僕は、うーん……、タケです、よろしくお願いします!!」
 どもって、なんとかした自己紹介はその程度だった。
 おどおどした態度はそのまま顔に出ているし、速攻で二人どころか、中卒にさえダメ出しされた。
 というのも、気がとても弱いのだと知らされた。タケは、源氏名だろうか?
「お前、その程度でそんな世界無理だ。体力もねー、上手く話もできねー、どんな生活したらそこまで馬鹿になるんだ」
 すると彼……ホストはまた別の方向を指をさす。
 そこにあるのは、今自分の家と全く同じ家だった。
 と、思ったが、ちがった。似てるけど違う。もっと広い家、庭も若干違うし、塗装も違う。しかしこのあたりの景色は今の家の近くである。
「五人兄弟の長男。父さんと母さんはすごく仲がいいし、お金もある。けど、五人兄弟だから、自分自身はあまりお金がないからホストをやって稼ごうと思うんだけど、客引きすら出来なくて……下積みで……」
「へー。パパとママ頑張るわね、五人も。いいなあー。アンタ坊っちゃんでしょ」
 確かに見たところ、坊っちゃんだ。無駄に変な所だけいいものを着ていたりする。
 腕時計も高級なものだと思うが、それを使いこなせてないのが十分に伝わる。
「うん」
 素直に頷くホストに、中卒と弁護士がそろって喝を入れた。
「自分に自信を持ってください。そして清潔感がないのではだめです、髭のそり残しはあるし、指摘された通りニキビ跡も治そうとしない」
「そうそう、それに金かけりゃいいってもんじゃねーぞ、何で自信がそこまでねぇんだ!!」
 それは僕からもいいたい。肌が弱いのは皆同じだから、僕も洗顔はしっかりやって、安い化粧水で整える程度はする。
 僕もニキビ跡はあるが、ホストはもっとひどかった。
 これで話がまともにできないのは終わってる。職業的に。
「あ、えーと、最近は職場の近くに引っ越してるんで、インスタントラーメンです。僕は料理苦手なので、インスタントばっかりです。学校は、でも、一応四大です……」
 と、見せられたのは書きかけの書類。
 履歴書と書いてあるあたり、この仕事をやめたがっているらしい。が、踏ん切りがついていない。
 皆で覗きこむ。確かに……信じられないほどの学校を出てると来た。
 弁護士と肩を並べてもいいくらいの。
「それで何で真逆な二人が……」
 一方は弁護士の卵で、苦労人。けれど根性や努力を惜しまない。
 一方は売れないホスト、けれど家族には恵まれている。
「あ、はい。僕は、憧れただけです。何をしたいとかそういうのが特にはないので……、ホストになれば、売れるかなってだけで。でも無理みたいです……」
 頭を抱えてうずくまる。その履歴書を握りしめてがみがみ怒鳴るのは、中卒だった。
「自信がなけりゃそんな奴についていく奴もいないだろうが!! 馬鹿か!! 数字やら文章は出来て世渡り下手とか!!」
 それをなだめるのは周り。
 そこに更に割って入ったのは、眼が死んでる僕だった。

 

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パラレルワールドの僕(7)

 
 目が死んでいるというより、目つきが鋭くて、怖い雰囲気を受けた。
 手元には水張りされた用紙、もう片方は絵の具の乗ったパレットに、服が汚れないようにエプロンをかけた僕。
 外見を気にしないタイプらしく、髭も生えていれば髪の毛も長め。
 けれど誰よりも強いプライドを感じさせた。
「目的もなく生きるなんて信じられないね」
 第一声から、このホストを敵に回す発言だと思った。
 霧に囲まれた場所で、川と橋を描いている。
 それが見て驚いた、大雑把に形しかとっていないのに、あまりにリアルかつ、色彩が複雑でまねができない。
その絵を見るなり、周りも感心して声を出した。
「あら綺麗な絵」
「おお、すげぇなこりゃ」
「貴方は絵描きですか」
 絵描きという言葉に、眉間にしわがよる。
 何が彼の心に引っかかったかわからないが、弁護士に厳しい言葉を投げかける。
「ただの絵描きだと、芸術家ととってもらいたい。私が目指すのはレンブラント! 光と影の魔術師だ。ただの絵描きなんかと同列にしないでほしい」
 怖いくらいのプライドの高い僕がここにいる。
 その間にもさらさらと仕上げていくが、確かにこの技術は群を抜いていると思う。
「この油のついたもんでぺたぺた塗ってるけど、何でお前はそんなに嫌な奴なの?」
 中卒の心ない発言で、場は一層静まった。
「これだから頭がパーな奴は困る」
 やはり喧嘩が始まって、中卒が絵描きに食ってかかった。
 が、一方的に怒鳴ったりけり倒そうとしているのは中卒であって、絵描きはそれを無視してぺたぺたと描き続ける。
けれどそのプライドの高さと技術はどこで養ったのか、僕も知りたくなって、よそよそしくきいてみた。
 僕に聞いているのに、僕が怖いとはこれはいかに。
 絵描きは筆を持ったまま、まっすぐを指差す。その先に見えたのは、なぜか海外の景色
だった。
「私の家はイギリス、その次はフランス。父が海外に転勤になったので、そのままついていった。私はイギリスの景色が好きだ。この景色も好きだが、もっと好きなのは、四歳から十歳まで暮らしていた、イギリス郊外。弁護士候補とダメホストには地名を出せば分かるかもしれないが、どうでもいい。フランスはとても汚い街でな、華やかなのは旅行くらいだよ。だが街自体は芸術といっても過言ではない」
 あ、何かわかったがする。芸術芸術うるさいのは、美術館に入り浸って絵を見続けていたからだろう。
 僕も、小さなころ、まだ福井にいたときは、絵を描くのが好きだったから。
 いつからか、描くのをやめてしまったけれど。
 そう言えば数日前にルーヴル美術館のことを特集していたな、テレビが。行ってみたい、なんて思ったっけ。
「フランス?」
「パリはセーヌ川の近くにある美術館。サモトラケのニケをはじめ、様々な美術品のある所だ。十歳のころに絵を描き始め、そのころにはパリの郊外に引っ越した。見えるか、あの茶色い煉瓦の建物、曲線の美しいベランダ」
 狭い道が見え、その上の方を指さす。
 狭い道はあまり光が入らないが、典型的な海外の光景。その上の二回に、彼の家はあるそうだ。
 曲線が美しいというのは、恐らく手すりの部分のことだろう。
「狭い場所ですね」
 ホストが首を突っ込む。確かに君の家と比べたらいけないとは思うが。
「美的センスの乏しい男だな、君は。一日ではルーヴル美術館は回れないが、子供なら無料で入れる。私は絵を描き始めてから毎日そこへ通った。私にとっての故郷とも言える」
「パパとママはなにしてんの?」
 Sp-2が興味な下げに聞く。綺麗なものは好きそうだと思ったが、絵自体に興味はあまりない様子だ。
 それより家族がどういうことをへてそうなったのかが気になっているらしい。
「うむ。君たちの知っている父は母と離婚したよ。だがすぐにイギリス人が母になった。父は英語を喋ることができるようになって、人脈もあり、海外の支店にいる」
「離婚?」
「……私が気になっているのはそこだ。絵描きとして大成するには難しい。だが私はくだらないオタク文化というものには触れたくない。日本のものは特に興味がない。母悪い人ではないが、やはり自分の子ではないからな、弟の方を可愛がっている」
 ああ、いちいち嫌な奴だ。
 けれど、絵を見ながらついたため息は深い。
「今はいい時代になった。インターネット、絵画展。それらのおかげで、私は仕事に困らない。昔の芸術家は、評価されるのは死んだあとだったりする。もうかっていたのは画商。そこのオカマ。周りはライバルだという気持ちが少しは組める」
 Sp-2に向かって筆を向ける。絵の具がちって、床を汚した。
「絵描きも仲間もいるが、皆ライバルだ。私にはない絵の描き方をする。だが私は私の絵を描きたい。そうなれば周りはライバルなのだ」
「やーだ一緒にしないでよ、私はアンタみたいなのじゃないよ。一緒にコスメも何でも選べるお友達。ま、ライバルには変わりないけど?」
「私は私の世界になっているから、ここでどんな絵を描いた、評価について話しても誰も知らないだろう。何せお前たちの世界に、絵描きの私は存在しないのだから」
 ん、と、誰もが言葉を漏らした。
 そうだ。パラレルワールド。
 彼がいる世界で彼は評価されてても、僕はこの人を知らない。
 だって、この人は僕でありながら別の道を行って、別の世界を作り上げた人。
 それは皆そうだ。
 家族がいてお金に苦労しないけれど、コミュニケーションの不足しているホストの僕。
 女の道を行こうと思った僕。きっと彼には友達が多いだろう。びしばし突っ込む割らには、話し方が気さくで、友達だったら面白そうだと思う。
 中卒で劣等感を持っているが、それでも働いて、自分なりの物をつかんでいる彼。
 一見完璧に見えて、裏で相当な苦労をして、これから親を助けようとしている弁護士の卵。
 そして、プライドが高いが、周りの圧力に負けずに絵を描き続け、何かをつかもうとする彼。


 ぴぴ、と、懐かしい音が聞こえた。
 ……僕の携帯の目覚ましの音だ。

 

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パラレルワールドの僕(8)

 
 僕は皆と握手を交わすと、それぞれ目を合わせた。絵描きもいったん描くことをやめて、笑って見せた。
 今度は僕が言う番だ。
「僕は両親も健在、一軒家だけど、猫が沢山いる。何のとりえもないけれど、社会人になりたてなんだ。毎日行くのは大変だし、これといったものがないから……強くは言えないけど、僕からの視点で君たちに言えることがあるよ」
 まずは弁護士に向けて肩をたたく。
「上を向くのはいいけれど、働きすぎるのもよくないよ。ちょっと楽観的になろう、Sp-2さんくらいの楽観さもあるといいね」
「誰のこと、Sp-2って」
 中卒が言うが、周りは大体分かったらしい。彼を見て、笑う。
「あと、不良の僕。学歴コンプレックスはあるけど、毎日が楽しそうだし、発言力もある。友達と仲良くね」
「不良は余計だ。頑張るよ」
 次はホストだ。
「まずは自信を持て、そしてこの職は向いてない。この年齢でその学歴なら、まともな職に就けるんだ、見せつけてやればいいよ」
「う、うん、頑張ります」
 そしてプライドの高い絵描きの僕。
「周りに少しは気を許したらどうかな。僕に言われても嫌だろうけど、少しは別の方面の友達ができれば、心もほぐれると思うの」
 その言葉に、絵描きは何かに気づいたようだ。
「なるほど、別の方面か。考えておこう」
 あとはSp-2さんだ。
「別の世界の両親は仲良かったり、更に兄弟までいるんだ。このことだけは分かってほしいな。でも思いきった肉体改造したね」
「貴重な体験だったわ。ね、私きれいでしょ?」
「自分だから何とも言えない……」
 やはり胸に目がいく……。
 と思ったら、突然おしつけられて、胸で窒息しかけた。
 周りがひきはがしてくれたが、そのうち彼らはお互いに手を振ると、霧に紛れていった。


「今日は早く行くんじゃないの?」
 朝日がまぶしくて、目を細めた。
 先ほど見た夢を思い出して、目の前にいる、元気な母親に向けて笑った。
「うん、早くいかないとね」
「ほらー、皆に迷惑かけるわよ、さっさとしたくしなさい、ちゃんとアイロンかけておいたんだから」
 アイロンのかかった綺麗なシャツを見て、僕は笑う。
 別の世界の僕たちは、皆目を覚ましたかな?
 僕には僕の世界だもの、一生懸命やんなきゃね。
「早く帰ってきなさいよ、ケーキ作って待ってるから。お父さんもあんたの誕生日祝いたいって言ってるから」
「ありがとう」


 元気に家を出ていく彼を見て、骨の男と白いフードを着た男は話をしている。
『パラレルワールド?』
 白いコートの男は、船を渡すための準備をしながら、話しかけた。
『そうです。知りません? パラレルワールド』
『きいたことならある』
『そうです、それです。ここは全てにおいて通じてますが、もしかしたら別の人生をたどる私たちもいるかもしれないんですよ』
 特に興味を持たずに、相槌を打つ白いフードの男に、陽気な声は響く。
『珍しく別の世界の彼が、別の人生の自分を見てみたいというので、叶えてみました』
『暇つぶし?』
『乱暴に言うとそうです』
 来世と現世につながる橋に振りかえる。

『今のご自分を大切に』

 それだけ彼に伝えると、二人は霧の向こうに消えていった。







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