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てきすぽどーじん5号 「初体験」
「親不孝ウエストゲイパーク」 山田佳江
親不孝ウエストゲイパーク
親不孝ウエストゲイパーク(1)
親不孝ウエストゲイパーク(2)
親不孝ウエストゲイパーク(3)
親不孝ウエストゲイパーク(4)
「原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~」 シゾワンぷー
原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~
原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~(全)
「穴蔵の娘」 雨森
穴蔵の娘
穴蔵の娘(1)
穴蔵の娘(2)
穴蔵の娘(3)
穴蔵の娘(4)
穴蔵の娘(5)
「パラレルワールドの僕」 香吾悠理
パラレルワールドの僕
パラレルワールドの僕(1)
パラレルワールドの僕(2)
パラレルワールドの僕(3)
パラレルワールドの僕(4)
パラレルワールドの僕(5)
パラレルワールドの僕(6)
パラレルワールドの僕(7)
パラレルワールドの僕(8)
「テキスポで暮らした人たち」 蟹川森子編
テキスポで暮らした人たち
テキスポで暮らした人たち(1)
テキスポで暮らした人たち(2)
「惟任百里的初恋探偵物語」 あやまり堂
惟任百里的初恋探偵物語
惟任百里的初恋探偵物語(序)
惟任百里的初恋探偵物語(1)
惟任百里的初恋探偵物語(2)
惟任百里的初恋探偵物語(3)
惟任百里的初恋探偵物語(4)
惟任百里的初恋探偵物語(5)
惟任百里的初恋探偵物語(6)
惟任百里的初恋探偵物語(7)
惟任百里的初恋探偵物語(8)
惟任百里的初恋探偵物語(9)
誤訳捏造「OUTサイダー」 茶屋休石
誤訳捏造「OUTサイダー」
誤訳捏造「OUTサイダー」(序)
誤訳捏造「OUTサイダー」(1)
誤訳捏造「OUTサイダー」(2)
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てきすとぽい
「異世界のメロディ」 松浦俊郎
異世界のメロディ
異世界のメロディ(序)
異世界のメロディ(1)
異世界のメロディ(2)
異世界のメロディ(3)
異世界のメロディ(4)
異世界のメロディ(5)
異世界のメロディ(6)
異世界のメロディ(7)
異世界のメロディ(8)
異世界のメロディ(9)
異世界のメロディ(10)
異世界のメロディ(11)
異世界のメロディ(12)
巻末の随筆
巻末容赦
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穴蔵の娘(4)

 
 夏に差し掛かろうとしていた。梅雨の到来とともに藤の花の見ごろも過ぎ、そろそろ朝顔売りが町々の辻を売歩く時節である。
 四谷本塩町の上田孫兵衛の道場では日ごろの打込み稽古による激しい竹刀の音はなく、妙に緊張の漲った静けさがあった。孫兵衛による彦四郎の稽古は撃込みから真剣を使った型に入っており、仕太刀と受太刀の静かな応酬を四名の高弟が見守っている。
 孫兵衛は吝嗇家で一見風采の上がらない小男だが、その剣筋の確かさは疑念の余地のないものだった。直心影流の極意傳授のためには竹刀や木太刀ではなく、真剣を巧みに遣えなければ稽古すら許されない。剣の道から三年離れていた彦四郎は、孫兵衛の太刀ゆきの速さに就いてゆくのがやっと、といった様子だった。
 彦四郎はやつれていた。頬の肉はそれまでよりも削げ、眼は落ち窪み、手足は細くなったが、瞳だけが異様な光を放っていた。第二の師である孫兵衛は早くから彦四郎の異変に気付いてはいたが、真剣稽古に入って改めて得心が行った。彦四郎の太刀筋には、それまで持ち味だった粘り強さを欠片も見る事ができないのだ。それは竹刀が真剣に変わったから、というだけの話ではない。盆を引っ繰り返すように、彦四郎の中で何かが決定的に覆ったのだ。
(彦四郎め、どこか患うておるのか)
 初め孫兵衛はそう思ったが、痩せ細った躯の割に瞳の輝きだけが尋常ではない。ふつう病を得ると人の眼は輝きを曇らせるものだが、彦四郎に限っては逆に爛々としているのだ。心配になった孫兵衛はある夜、道場の離れにある居室に向井徳之介を呼び付け、彦四郎の様子を探らせるよう頼んだのだった。

 心の乾きが常にあった。何をしても、何を考えても満たされない。常に彦四郎の躯はおつやを求め、狂奔に喘いでいた。彦四郎を拒絶するつやの声が今も耳に生々しく残る。袖を振られたのならば潔く引き下がるのが恋の道だという事は彦四郎にも分かっていたが、その拒絶の声でさえ胸を焦がす程の色香がある。そして煽られた彦四郎の情欲を注ぐ先はその母であるるいの身体なのだ。自らの堕落によって彦四郎の精神は荒廃していた。だが非番になると彦四郎は決まり決まったように道場へと通い、その帰り道にるいの長屋の前を通るのだ。
 莫迦か、と彦四郎は自分でも思うのだが、離れる事ができなかった。例えそこにあの藤村才蔵がいたとしても。
 際の際にあったこの彦四郎が、塩町の外れにある蕎麦屋へ徳之介に引っ張り込まれたのは四月三十日の夜の事だ。散々言い訳を並べて誘いを断った彦四郎を徳之介がなかば無理やりに連れ出したのだ。
「――随分とやつれてしまったようだが、ちゃんと食べているのかい」
 徳之介と道場の外で話すのは久方ぶりだった。あの春の夜以来、徳之介との交際が途絶えていただけに随分と時間が過ぎたように彦四郎には思われた。
「今年からうちの組頭が手厳しいお方に代わったからね、ちょっと疲れているだけさ」
 咄嗟にそうは言ってみたが、その嘘は徳之介には通じなかった。
「……とうとう、あの娘に逢いなすったのだね?」
 さっと眼を伏せた彦四郎を見て納得いった様子で徳之介は何度も頷いた。
「私が念を押しただろう、あの娘には近づくなと。その様ァ見りゃ分かるよ」
「そうか……」途端に彦四郎は崩れるように肩を落とした。つっかえ棒が外れたようだった。
「……まるで地獄にでもいるようだよ徳さん」
 食台に突っ伏しながらぽつぽつと彦四郎は三月二十日、つまり初めてつやと出逢った日の事を話し始めた。徳之介はその始終をしかめ面で聞いていたが最後に一言だけ、「莫迦な男だよ」 と呟いた。彦四郎は顔を上げると、徳之介の表情には自らの恥を噛み締めているような苦渋が見て取れた。
「……私も彦さんと同じさ。私も一時期あのおつやの虜になっちまっていた」
 やはり、と彦四郎はそう思った。こびりついている迷いを振り払うように徳之介は何度も首を振る。
「だが、私は剣で身を立てなきゃいけないんだ。女のために一生を棒に振るのは厭だ。それは彦さんだってそうだろう?」
「それはそうだが、私にはどうにも……」歯切れの悪い彦四郎の言葉に徳之介が食台を叩いた。
「あれは化生だ! よく考えろ彦さん。声だけの娘なんて怪しげなもの抱えた一家を、なぜ長屋の住人は追い出そうとしないんだ。なぜ長屋に居続ける事ができる?」
「……それは、つやの声が可愛いからだろう」
 気の抜けたような彦四郎の返答に徳之介は切歯するように言った。
「みな取り憑かれてるからだよ。彦さんも含めてみんなだ。もう引き際だ、彦さん。もうこれ以上はいけねぇ、二度とこっちには戻れなくなる」
 彦四郎は暫く押し黙ると、つやの声やるいの身体を味わえない日々を思った。またお役目と内職だけに専念する毎日に戻るのか。それは彦四郎にとって大した値打を持つとは思えなかった。やがて彦四郎は白く光る眼で徳之介を見た。
「徳さんはこの歌を知ってるかい? つれづれにそらぞみらるるおもいびと――」
「……天下りこむものならなくに。和泉式部だが、なぜそんな事を」
「知っているのか。一体どういう意味の歌なんだい? あの夜つやが詠んでいたんだ……」
 彦四郎の茫漠とした言葉に一拍、徳之介が鼻白んだ。それから深いため息が洩れ出る。
「いい加減にしろ!」 
 怒鳴りつけると、徳之介はやりきれない様子で席を蹴った。彦四郎は最後まで友を失った事に気付かなかった。


 ――四谷伊賀町裏の長屋で斬り合いが起こったのはそれから五日が過ぎての事だ。激しい雨の降る夜だったという。
 死者は先手鉄砲組同心・三浦彦四郎。並びに上州浪人・藤村才蔵が妻るい。るいの夫である藤村才蔵は右肩から背中を袈裟懸けに斬られる深手を負い、結局意識の戻らぬまま翌朝に死亡した。
 評定所の調べでは、事の起こる二月ほど前より三浦彦四郎が長屋の足しげく通っていたとある。そして新富町の舟宿でも何度か二人で居たところから、三浦は藤村の妻と密通の関係にあり、それを悟った藤村は妻るいを斬り、居合わせた三浦も続けざまに斬り伏せようとしたが直心影流の遣い手である三浦は藤村に逆撃を加え、自らは死するも藤村に致命の深手を負わせたのだろうと推測される。
 ――以上をもって評定所は事件に関与した三人全員の死亡を認め一切の罪状を不問としたが、御家人である三浦家は時の若年寄により御取り潰しを命じられた。

 

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穴蔵の娘(5)

 

 町のあちらこちらで朝顔が花を咲かせる季節となった。この日も、四谷本塩町の上田道場では鋭い気勢の声が上がる。
 上田孫兵衛は可愛がっていた弟弟子の思いがけない死に驚き嘆いた様子だったが、以降は門人の風紀にとやかく口を出すようになり弟子達を辟易させていた。
 孫兵衛の気がかりはまだ他にもあった。彦四郎の事件から七日が過ぎても道場にまだ顔を見せない向井徳之介の事である。
 門人から聞いた話では、徳之介はずっと病の床に臥せっていると言う。いずれにせよ、友人であった彦四郎の末路が堪えたのだろう。孫兵衛はやりきれない思いを気勢に隠して竹刀を振るった。

「――二人一緒だよ」 消え入りそうな小さな声で男は呟いた。下僕に雨戸を閉め切るように命じていたため、昼八ッ刻にも関わらず部屋の中は夜のように薄暗い。
『痛くないの?』
「ふふ、大丈夫さ」 男は恍惚とした顔で愛しげに脇腹をさすった。きつく巻いたサラシからは、膿の混じった血が滲んでいる。
「さすが、錆びたとは言え彦さんだ。あれだけの傷を受けながら私の腹に良い穴を空けてくれた」
 ころころと笑う可愛い娘の声が男の身体に響いてくる。
「何もかも彦さんのお陰だ」
『わたしをいじめる人はもういないのね』
「そう、もう誰もいない。私達を邪魔する者は、もう誰もいないよ」
『嬉しい』
 男は声に応えるように自分の身体を腕で抱いた。腹のサラシに血がまたじわりと広がった。
「私の罪は、全部彦さんが被ってくれる。可哀相、とお前は思うかもしれないが、こうなったのも言うなれば全部彦さんの自業自得なんだ」
『そう』
 内なる娘の声に男は大きく頷いた。
「私がお前に贈ったあの歌だ。もし、おまえが詠んでいてくれた事を彦さんから知らされなければ、きっと私は今もつまらない棒振りをやっていただろう。――言い様によっちゃァ、私は彦さんの地獄への道連れにされた、とも言えるな」
『でも、あの女は三浦さまを選んだけど、わたしはあなたを選んだのよ』
「ああ」男は膝をかかえ込むように背を丸める。
『わたしたち、もうずうっと一緒なのね』
「そうだよ。例え私が死に果てても、いずれ棺桶の中、土の中だ。あなぐらの中でずっとずっと、二人一緒だよ」
 男は眼を閉じた。もはや傷の痛みも、良心の疼きもない。腹から響く愛しい娘の声に包まれ、男は幸福だった。



〈終〉


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パラレルワールドの僕








パラレルワールドの僕



香吾 悠理





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パラレルワールドの僕(1)

 

 僕は何をしたいんだろう?
 僕は何をしているんだろう?
 僕は何でこんな道を選んだんだろう?

 窓から見える星はとても綺麗で、十年経っても変わらない。
 僕は最近ほぼ毎日、空を見上げるようになった。
 僕はやっと社会人になれたけど、もっと道があったんじゃないの?
 例えば……贅沢言うなら、俳優とか?
 もしかしたら親が熱狂的なステージママとか言う奴だったら、今頃天才と称されるほどの絵描きとか、音楽家になれたかも。
 明日で二十三歳。
 平凡な日常なんてつまらないんだよなあ。
 他の僕はなにをしてるのかな、俗に言うパラレルワールドとか言うの。
 あの時僕があの子にアタックしてたら……、あの時僕がこの会社に入るのをやめたら……、あの時僕が別の学校に受かっていたら……。
 駄目だな、五月病?
 こんなことしても何もならないのは知っているけど、恋人もいなければ社会人にようやくなれた僕はあまりにもちっぽけなんだよ。困ったね。
 さて、寝よう。
 ベッドの中はとても温かいけれど、明日はすぐに起きて会社に行かないと。
 誕生日、誰が祝ってくれるかな。

 


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パラレルワールドの僕(2)

 

『お誕生日おめでとうございます!! ではこの死神……もとい、案内人から素敵なプレゼントご用意いたします。貴方はパラレルの自分を見たいと思いましたね、そう言うのはお任せください。私はそういうの得意なので、会わせてあげますよ。ただし、時間は数時間、貴方が起きるまで』

 妙に明るい声が響く。
 夢の中なのに……。頭に直接来るような……。

『まあまあ、他の世界も貴方も同じことを思っているのです、なので折角です、この時間を夢だとでも思っていいので、存分に話してらっしゃい。はいはい、貴方の出身地は……えーと、福井県ですね。福井県福井市、懐かしい貴方の大好きな川の近く、タニシやザリガニがとれたあの場所で、どうぞ話あってきてください!』

 なんだか見えてきた。
 懐かしいなあ、三歳の時によく遊んだあの川だ。
 今はどうなっているのかな。僕はいま東京にいるから、もう行かないけど……。


 


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