「原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~」 シゾワンぷー
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原発少女・福島もんじゅ ~パイロット版~(全)
やっほー! アタシ、福島もんじゅ。原発少女なの。必殺技はアトミックブラスト・リンボ落し。よろしくね!
今ね、地球人類は大変なんだ。
過激な銀河広域生物保護団体コズミック・シェパード(※注、宇宙語意訳)に目を付けられちゃったの。
コズミック・シェパードの言い分はこう。
「貴重なる地球環境及び、圧倒的多数の生物種資源において、人類は不必要な害悪である。よって我々は宇宙の代表として、圧倒的多数の生物を守るため、人類の自滅による速やかなる絶滅を補佐するものである」
と、いうわけで対人類環境変成生物、アーメックが続々と送り込まれちゃって。
こいつらは周囲の植物に影響を与えて、人間の脳にしか作用しない神経毒の発生を促すの。それを吸っちゃった人は大変。恐怖と危険に関する感覚が麻痺しちゃって、どんどん自殺しちゃうんだ。
そのうえ、こいつらは基本的に不死身。もう始末に負えなくて。
人類大変、超大変。宇宙からの攻撃なんて、地球人類初体験!
でも、別の宇宙団体が助け舟を出してくれたんだ。大いなる性善説支持同盟(※注、宇宙語意訳)っていうんだって。
その大いなるさんたちは言ったの。
「地球にあるリソースを用いて対抗する手段を持つ手助けをしよう」
そこで「いますぐ消えても困らないけど、すっごいパワーのあるもの」が国民投票で選ばれたの。日本の場合、各地の原子力施設が。
なんか、「どうせ綺麗さっぱり無くなるなら日本の掃除もしてもらおう!」って運動してた人たちが大勝利したとかって聞いたけど、アタシよく分かんない。
そして一人の少女の体内、隣接異相空間内に、パワーソースとして原子力施設をぱんぱんに詰め込んで……アタシ、原発少女・福島もんじゅ爆誕ってワケ。
アタシもどうにかして選ばれたはずなんだけど、隣接異相空間を構成するための副作用だとかで、もんじゅになる前の記憶がないんだー。みんなも教えてくれないし。
でもアタシ、前向きだから。全部終われば、ゆっくり記憶を戻す処置をしてくれるんだって。
だからアタシ、今日も戦う。
ここは代々木公園。目の前にピンクの大きな原形質、アーメックがいる。
こんな都会のど真ん中に出てくるなんていい度胸してるわ。もう大勢の犠牲者が出てる。
アタシは怒りとともに叫ぶ。
「原子力パワー、臨界!」
アタシの体がチェレンコフ光に包まれる。遠くでたくさんの悲鳴が上がったわ、早く片付けないと。アタシは両腕を突き出した。
「アトミックブラスト!」
原子力の炎がアーメックを焼く。こいつらは不死身だけど、これでしばらく動けなくなる。アタシはしなびたアーメックを抱きかかえて原子力ジャンプ。百メートルほど上昇したあと反転、原子力加速も使って急降下。
地表には原子力パワーで導いた、リンボへの扉が現れる。
「リンボ落しぃぃぃぃっ!」
アタシは落下の衝撃力をもってアーメックを扉に叩きつけ、リンボの彼方へと放り込んだ。こいつら不死身だから、地獄の辺土にでも送り込むしかないのよねー。
ふぅ、一仕事終わり。いつものことだけど、遠くでたくさんのヘリコプターが飛んでるわ。
「……もんじゅがアーメックを倒しました。神経毒警報解除。放射性降下物に注意して避難してください。半径六十キロ圏内は避難指定区域です、もんじゅ中心点から速やかに避難してください……」
あの失礼な言い回しは、なんとかしてもらいたいな。代償を伴わない戦いなんてあるわけないじゃない。ここも人が入れなくなって植物が生い茂り、野生の動物たちで溢れるのね。でも、大丈夫。数百年もすれば人間も戻ってこれるわ。アーメックはいないんだもん。
今夜のごはんも、きっとおいしい。
アタシがこんなに頑張ってるのに、世の中悲観的な人も少なくないの。
テレビでえらそーな人がよく喋ってる。
「我々はハメられた……」
「大いなる性善説支持同盟こそが、コズミック・シェパードの本体では……」
「植物の情報伝播さえ防げれば……」
「自殺による突然死か、放射線による緩慢な死か……我々は……」
この前なんか、応援に来たっていう自衛隊の人たちに間違って攻撃されちゃってさー。
軽くお仕置きしといたけど。
やっぱり通常戦力なんかアテにならないわ。
アタシ、もっと頑張るから!
応援してね!
(終)