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バトルボーラーはるか

第二集

星間戦争

 

 

第3章

ケルビム

 

作・Ψ(Eternity Flame)


 ―翌日。五月に入り、青葉の若々しい色あいが鮮やかな町並みも、早朝はまだまだ寒く、散歩を日課とする人々も、中には防寒着を着込んで歩く人もいる。

 そんな時間帯の文化の森公園に、汗びっしょりでトレーニングをするはるか達がいた。川を隔て、高台に展(ひら)ける公園は麓(ふもと)からは見えないが、上がってみるとかなりの広さがあり、運動にはもってこいの場所。しかしこの時間には人気もなく、朝の静寂(せいじゃく)にはるかの声が爽やかに響きわたっている。

「そーれッ!」

 はるかはフリスビーを正友と投げ合い、おおよそ修業をしているといった感じには見えない。

「ぬおッ!?このッー!」

 しかし、二人の距離は文化の森の広い芝生の公園の端から端までと次第に離れてゆき、その間を真っ直ぐにフリスビーが飛んでゆくところが普通ではなかった。

「ハァハァ…もうヤメにしようぜ!!」

 疲れた正友がはるかにそう呼びかけた。

「もーだらしないわねぇ…。」

「お前だって息切れしてんじゃねぇか!」

 二人は自販機でジュースを買い、ベンチで休む事にした。

「うーん。汗かいた後のポカリはたまらんな。」

「もー能天気なんだから…あと十日で、昨日の怪物みたいなの達と戦うのよ。もっと深刻にならないの!?」

「んな事言ったって、顔をこわばらせながら修業したってしょうがねーだろが!」

「だからってアンタは、のほほんとし過ぎなのよ!」

「なんでそーやってお前は、いちいちオレに絡むんだよッ…ははーん、ひょっとしてお前、オレに褒れてんの?」

「バッカじゃないのーッ。ナルシストもそこまで行くと病気ね!」

「…それはそうと、本当にフリスビーを投げるのが修業になんのかなぁ。」

 自分の言いたい事だけ言うと、突然、話題を切り換えた正友。

「アンタねーッ…」

 怒ろうとしたはるかだが、人影が見えたので、黙っていた。


「朝の修業は終わったかのォ。」

「鮎吉師匠!?あの…言われたメニューはやったんスけど、これって何の修業なんスか?」

「フォッフォ。まぁついて来なさい。」

「ドコ行くんスか?」

「弁天山(べんてんやま)じゃ。道すがら、今の修業の意味を教えよう。」

 鮎吉に案内され、三人は弁天山へ高速移動を始めた。

「先の修業じゃが、あれは対宇宙戦用のスピリットアームズ【神統武具】を動かす為の訓練なのじゃ。」

「宇宙戦用ッスか!じゃあ、今から行く弁天山ってトコにそれがあるんスか?」

「うむ。」

「宇宙かぁ~…」

 ロボット系のアニメが大好きな正友は、宇宙戦と聞いて、戦闘機的な物を想像し、自分がそれに乗れるのかという期待に瞳を輝かせた。その戦闘機があわよくば可変型(かへがた)の物であって欲しいという願望も加わり、想像を膨らませていると―

「正友!ドコまで行く気じゃ。」

「あっ…と、すみません。」

 浮かれ過ぎた正友は、いつの間にか弁天山を行き越し、慌てて踵(きびす)を返した。

「おじいちゃん。スピリットアームズは何処にあるの?」

「まぁ、待ちなさい。」

 天然に出来た山では日本で最も低い山とされる弁天山(べんてんやま)。この小さな山にある宇宙戦用の物とは、いったい何なのだろうかと、はるかも正友も固唾(かたず)を呑んで鮎吉の行動を見ていた。

「古(いにしえ)より伝わる御霊(みたま)の眷獣(けんじゅう)よ、我が血に応えよ。」

 そう言って、鮎吉が弁天山の麓に自分の血を一滴落とすと、山を取り巻く田圃(たんぼ)が真っ二つに割れた。

「これが…宇宙戦用の…!?」

 見慣れぬ大きさの金属製の物体に、はるかはド肝を抜かれたようであった。それは正友の期待通りの戦闘機型をしていた。


「うひょー!!これが言ってた[モノ]ッスね?」

「そうじゃ。」

「コレ、どうやって動かすんスか?」

「内力(メキド)じゃ。今朝方の遠投で練習したじゃろ?アレを応用するのじゃ。お主らの力と、このスピリットアームズが上手く融合すれば、凄まじい威力を持つ兵器となる。お主らの意のままに動かす事も可能じゃ。まるで巨大な生物のように空翔ける兵器。それを見た古代人は、畏怖(いふ)と尊敬の念を込め、ケルビム[智天使]と呼び、正義と秩序(ちつじょ)の番人として崇(あが)めておった。」

 聖書に有名な預言者を昇天せしめた火の車。あるいはエデンと呼ばれた楽園を守護する門番として、その名を記されているケルビム。それは扱う者のイメージや性格に応じて、その性質や属性を変える物であるとも鮎吉は付け加えた。

「えっ!?じゃあ、この形態から変形したりもできるんスか?」

「もちろんじゃ。」

「そっかー。そりゃあ楽しみだなぁ…」

「パーピリオン星人との戦いまで時間がないのじゃから、修業に励(はげ)むのじゃぞ!お主らの力の扱い方次第で、勝敗は決まるのじゃからのォ。」

「そりゃーやりますよー。任せて下さいよ!!」

 正友は俄然(がぜん)やる気を出した様子で、そう言って胸を張った。

「ねぇ、おじいちゃん。」

「何じゃ?はるか。」

「パーピリオン星人は本当に神様なの?」

 浮かれる正友とは対照的に、はるかは戸惑っているようであった。昨晩に見たパーピリオン星人の科学力や、人の心に直接語りかけてくる程のテレパシーの強さに驚いたのが要因で、そうなっていたのである。

 はるかは、鮎吉の元で一神教を信奉(しんぽう)していたので、まるで善と悪の心が神の中に混在(こんざい)しているような話に聞こえ、事態を呑み込めてなかったのである。

 そこからもたらされる結論と矛盾点(むじゅんてん)に、頭の中はさらに混乱を来たしていた。昨日の話では、神が二人いる節(ふし)に聞こえたのだが、どうもそこが釈然としない。


 神がかり的な力を持つ自分という存在に対し、その力の基となっている存在が、自らの遊び道具として、自分達を仕立てあげたのだとしたら…。

 今まで耳にした情報の見方を変えれば、そういう筋書きの話も浮かび上がり、理不尽(りふじん)な筋書きが本当にその通りであるとするなら憤(いきどお)りも感じるし、戦う事に虚(むな)しさも感じる。そんな矛盾(むじゅん)と戸惑(とまど)いが入り混じり、何とも言えない気持ちになっていたのであった。

「あ奴らは神などではないぞよ。」

 鮎吉は意外なほど簡単にそう言ってのけた。

「本当…?」

「あぁもちろんじゃとも。よくいるじゃろ?ちょっと力や権力を持つと、自分を神格化(しんかくか)する奴。あ奴らもその類(たぐい)じゃ。あ奴等とて同じ八大心拳の一派を司(つかさど)るというだけじゃよ。」

「そうなんだ…。」

「ただ、ちょっとだけ頭は良いかも知れんがのォ。まぁ、東大に行った奴が、自分は偉いんだと勘違いするようなモンじゃ!ソレが増長して、形のない神と張りあおうとしておる。じゃからお主らが行って、ちょっと頭を冷やしてやるがよい。」

「はははッ。鮎吉師匠って面白いっすね!」

 そんな話しをしている内に、三台のケルビム[戦投機]が小さなアクセサリーとなり、はるか達三人の元に、それぞれ一つずつテレポートしてきた。

「これは…ケルビム?」

 メノラーの刻印が装飾(そうしょく)された花形のペンダントが、光を放ちながら胸元に現れた事に、はるかは驚いていた。

「気に入らんかのォ。」

「いえ、そんな訳じゃあ…」

「気に入らねば、自分の想い次第でどんな物にでも変形するぞよ。」

「あの、コレって何の花なの?」

「ダリアじゃな。」

「ダリアって言うんだ…可愛い。」



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