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バトルボーラーはるか

 

 

第二集

星間戦争

 

 

 

 

第二章

知恵比べ

 

作・Ψ (Eternity Flame)


「…ッとに昨日は不快な一日だったよな。」

 一夜明け。徳島の帰路に着いていた車中でも、正友(まさとも)は夕べの出来事に対する不快感を引きずっていて、皆に聞こえるように不満を漏らしている。自らの気持ちを落ちつかせようとしているのだろうが―

「もう、さっきから何回そのコト言ってるのよ。こっちまで気持ちが落ちこむからヤメてよ!」

 正友の感情に同調するどころか、バッサリとそう切り捨てるはるか。秀樹(ひでき)と沙織(さおり)もはるかと同じ気持ちなのか、ダンマリを決めこんでいる。

「おまっ、その言い方はないんじゃね?」

「だってアンタ、しつこいじゃない。」

「んなコト言ったって、昨日の今日だぜ。お前、腹立ってねぇのかよ?得体の知れない奴らにコケにされてよぉ。お前、ひょっとしてマゾなん?」

「私はアンタに腹が立つわ。」

「何だってッ!?」

「同じコト何回もうるさいのよアンタッ。これ以上しつこく言うと、ひっぱたくわよッ!!」

「っんだとッ、コラッ!!」

 得体の知れない存在にコケにされたのが腹立だしいのではなく、未知の存在に対する不安感などが、用心深い正友の情緒(じょうちょ)を不安定にさせていて。秀樹にはそれがよく分かっていたので、黙っていたのだが、ヒートアップする二人の口論を見て、さすがに止めに入った。

「二人とも内輪(うちわ)揉(も)めはヤメろ。俺にも昨日の事はよく分からんが、師匠なら何か知ってるかも知れん。ケンカをヤメないと気が散ってオレの運転が…」

「キャッ!」

「ぬぉあッ!」

 高速道路の端から端まで、秀樹がハンドルを振り、車を横スベリさせた。予想外のアクシデントに、驚くはるかと正友。


「わ、分かったよ秀さん。分かったから無茶しないでくれよッ!」

「お兄ちゃん、無茶はヤメて!」

「そっか…」

「ふぅ~…」

「はぁ~…。アンタのせいよッ…」

 溜め息をついた後に、はるかが小声でそう正友に文句を言うと―

「ん、何か言ったか?」

 秀樹がその小声に反応し―

「えっ!?何でもないわ…」

 慌ててはるかは言葉を打ち消した。

「そっか…。」

 これ以上、無茶な運転をされてはたまった物ではない。大好きな秀樹に怒られてしまうきっかけを作った正友に、はるかは苛立っていたものの。口を噤(つつし)まざるを得なかった。沙織は眠っていて事態を知らない。

 横目でチラッと正友を見ると、つい今さっきまで口喧嘩をしてたのに、窓の外を眺めようとする姿勢のまま、もう寝てしまっている。夕べがあまり眠れなかったとは言え、その気ままで呑気(のんき)な性格に、はるかの苛立(いらだ)ちは余計に募るばかりであったが、不完全燃焼した心がショートして、いつしか彼女自身も睡魔の誘惑(ゆうわく)に陥り眠りこけていた。

「皆、着いたぞ。」

 秀樹の号令に三人は一度に目覚めた。

「ホホホ。いい骨休めになったかの?」

『粉の実、』に到着したはるか達を鮎吉(でんきち)が出迎えた。

「おじいちゃん、ただいま。」

「おかえり、はるか。楽しかったかのぉ?」

「師匠、お話が。」

「何じゃ?」


 強行軍より帰って来たばかりにも関らず、秀樹が鮎吉と話しこみ出した。聞き耳を立てながら茶を入れるはるかと沙織。正友も一緒になって、秀樹と鮎吉に昨日のいきさつを話すと…

「ついに動き出したか…」

 鮎吉は深刻そうにそう答えた。

「師匠はヤツらをご存知なんですか?」

「うむ。八野とか言う正友の兄弟子は勿論(もちろん)、八野達を操る“神”の存在もな。」

「えっ!?…“神”とは何なんですか?」

「八大心拳の使い手…それは人間ばかりとは限らぬ。その“神”という者の正体は、パーピリオン[ダークマター]心拳の使い手、パーピリオン星人じゃ。」

「パーピリオン星人!?…どんな宇宙人なのですか?」

「お主がパーピリオン星人について、不思議がるのも無理はないじゃろうて…自らを“神”などと自負する者の気持ちなんぞ理解できないじゃろからのォ。」

「えぇ。ヤツらの目的は何かあるんでしょうか?」

「ある。それは、今、正友の話の中にあった通りじゃ。」

「正友の話…紛争や国家の興亡(こうぼう)を、戦略ゲームでもやって遊ぶかのように巻き起こしたりして、世界を牛耳(ぎゅうじ)ってるコトですか?」

「それとは違う…好敵手の事じゃ。」

「好敵手…?」

「“神”とも名乗る存在なら、ほとんどの欲望は満たす事は可能と考えるのが妥当(だとう)じゃろう。ただ、そんな存在も、その存在を脅(おびや)かす事はできぬじゃろ?」

「と、言いますと?…」

「簡単に言うとじゃな。究極の存在を破壊する者じゃ。もっと言えば、それは闘争本能を満たす存在。こればっかりは幾ら全知全能に近づいたとしても、自分だけではどうしようもないじゃろ?」

「なるほど!それで今までの話が繋がりますね。」


 鮎吉が秀樹に言いたかったのは、どんな欲望も自分自身で満たせる個体が仮にいたとしても、戦いのスリルだけは、相手がいない事には満たせないという事であった。

 人類歴史が犯罪や戦争の歴史であるのも、パーピリオン星人がそこに裏で糸を引いているとするなら、言わばそれは代理戦争であり。その仮定を八野達の言動に当てはめるなら、パーピリオン星人という“神”のような存在が、個人レベルで自分とタメを張れる存在を八野達を使って選別させ、自らが戦いのスリルを味わおうとしているという解釈(かいしゃく)で、つじつまが合う。イチ早くそれを察した秀樹であったが、他の者達はもう一つ理解しきれていないようであったので、秀樹が掻(か)い摘(つま)んで説明するのに時間を要してしまっていた。

「差しずめ今夜辺りにも、パーピリオン星人の尖兵(せんぺい)とやらは攻めてきそうじゃのォ。」

「なら、あべこべに待ち受けて返り討ちにしましょう。」

「そうじゃな。」

「ところで師匠。師匠はそのパーピリオン星人を、何故ご存知なのですか?」

「伝え聞く先代からの戦いの記録があってのォ…何度となく、彼奴らとご先祖様達は戦(や)り合っておるのじゃ。」

「…そうなんですか。ヤツらは相当に高度な科学技術を持っているようですが、他に能力的な特徴などは、どうなんでしょうかね。」

「そこら辺はワシも知らぬ。じゃが、彼奴等と戦うなら宇宙での戦闘も視野に入れておかねばのう。」

「宇宙…ですか?」

「うむ。お主らには話しておらんかったが、対宇宙戦用のスピリットアームズ[神統武具]が、とある場所に保管されておる。今夜の一件が一段落したら、扱い方を教えよう。」

「分かりました。」



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