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例えば、小学生の子供がいたとします。
じゃあ、名前は、よしこちゃん、よしおちゃんどっちでもいいです。
―― よっちゃんとしますか。

よっちゃんは、小学校6年生。12歳。
親は、母親が再婚して、現在、義父と同居。よっちゃん合わせて、3人家族。

よっちゃんは、聡明で元気な子だが、母親は、結婚の失敗や年齢ゆえ、
人生に対して悲観的で、心身ともに疲労気味。頭も少し弱い。
そのため、男なしでは生きていけないと信じていて、
酒癖が悪い暴力男(現在のよっちゃんの義父にあたる)と再婚。

その男とよっちゃんの3人で幸せになれると思っていたが
実際には、結婚後、男が土方の仕事を、同僚とのいさかいによってやめてしまい、
母親が、パートに出て、なんとか家計をしのぐというありさま。

男は面白くないので、昼間から酒をあび、酔いだすと、
連れ子のよっちゃんが憎らしくなり、いじめては、憂さ晴らしをするようになる。

たばこの火をお灸だといって、背中に押し当てられたり、両手両足を縛られ、
ベルトで鞭打たれたり、我慢できなくなって悲鳴をあげれば、熱湯を飲まされたりする。
無力なよっちゃんは、ただなされるがまま。

よっちゃんの身体には、日に日にあざや怪我が増えていく。
義父から口止めをされているので、母親には言わない。
よっちゃんの表情も、日に日に暗くなっていくのだが、
生活に追われる母親は、全く気づかない。

ある日、義父に階段から突き落とされ骨折したよっちゃんは、
痛みに耐えられず、母親がパートから帰ってきた時も、
足をか抱えたまま、うずくまりうめいている。

母親は、すぐさまよっちゃんを病院へ連れて行く。
行きすがら、事情を聞いてみるに、階段から落ちたとは言うが、本当の理由は言わない。



しかし、診察した医師は、よっちゃんの身体に多数のあざや傷を見て不審に思う。
虐待されているのでは?母親にたずねる。

母親はこの時、初めて再婚相手が自分の子供を虐待している事を知る。
しかし、よっちゃん自身は相変わらず、何も言わない。
もちろん再婚相手の男も、母親が聞いてもしらを切るばかり。
それどころか、母親に知られた事で、さらによっちゃんへの暴力をエスカレート。

このやろー!母親に言うなって言ったのに、しゃべりやがったなぁ!
殴る、蹴る、やりたい放題。ついには、性的虐待にまで及ぶ。
口にはタオルを詰め込まれ、両手両足を縛られた状態で四つん這いにされ――

不在中、家で自分の子供が男に虐待されている事を知ってから母親は、
仕事が終わるやいなや、すぐさま飛んで帰るようになるのだが、家につく頃、既に遅し。

男にやりたい放題、虐待されまくった後、
あまりのショックに震え膝を抱え小さくなるよっちゃんを、部屋の片隅にみつけるばかり。

母親にできることは、涙ながらに抱きしめ、腫れ上がった顔を優しく撫で、鼻血や太ももに
たれる血を拭きとって、手当てし、ベットで寝かせつけることくらい。

母親は気が弱く、男には恐る恐る、ただお願いだからよっちゃんをいじめないでほしいと
お願いすることしかできない。度重なると、男は、それさえ疎ましくなり、
母親にまで暴力をふるいだす。――うるさい!俺に指図するな!

こうなるとよっちゃんが黙ってはいない。
やめてー!ママをいじめるなー!!家中大騒ぎ。
近所も、よっちゃんちの児童虐待、DVを知る事になる。そして、通報。

児童相談所から、再三、注意を受けるが、父親の暴力、
よっちゃんへの虐待、母親へのDVは、エスカレートする一方。
かといって、母親は離婚を考えることすらしない。

よっちゃんが、この家をでようと言っても、
日々のパートや家事に疲れて、それ以上の事を考える余裕もない。
ただ、男に酒をやめてくれと無心するばかり。


しかし、日に日にあざだらけになり、弱っていくよっちゃんの状態は切実な問題。
小学校の担任の先生が、見るに見かねて、児童相談所へ相談を持ちかける。

担任の先生、児童相談所職員、母親で、協議の結果、
よっちゃんを児童相談所へ引き取ってもらうことに。

しかし――その児童相談所では、時として、奇怪な事件が起こっていた。
身寄りのない児童がいなくなるというもの。
もちろん、その実態は、誰も知らない。

母親と別れる事は、つらかったが、人格まで破壊しかねない義父の虐待からのがれる事は、
よっちゃんにとって、心やすまるありがたい事だった。
少しずつ、相談所での集団生活にもなれ、明るさと健康を取り戻し始めるよっちゃん。

徐々に他の児童と仲良くなっていく。特に、ゆうちゃんという同い年の子と仲良くなる。
ゆうちゃんは、控えめな大人しい子で、人の話を口をはさまず静かに聴き、
自分の事はぽつぽつとしか話さない。

仲良くなって1週間が経つ頃、忽然と、ゆうちゃんが、いなくなる。
児童相談所職員に聞いてみると、家族に引き取られたという。
よっちゃんは、不審に思う。――家族はいないって言ってたのに・・・

実は、この相談所では、秘密裏に、未成年者の人身売買を行っていたのだ。

ある日、職員が、よっちゃんを応接室に招く。とある男と対面させるために。
目つきは鋭いが、言葉遣いが丁寧な物腰の柔らかい男で、
身なりも正しく、見た目は、普通のセールスマン。

本来の明るさを取り戻したよっちゃんは、持ち前の人懐っこい性格で、
その男とも親しくなり、手をひかれて、相談所の施設の門をあとにする。

応接室のガラステーブルの上には、一千万入った茶色の角型封筒。
カーテンの陰から二人の後姿を見送るよっちゃんを男に引き渡した職員。
もちろん、そのセールスマン風の男は、人身売買仲介業者。

このあと、よっちゃんは、見知らぬ国、言葉の通じない国へと売られて行く――



――救いのない、気分の滅入る話でしたが・・・
さて、あなたがよっちゃんだった場合、どうすべきだったでしょうか?

親元から、逃げる?
しかし、逃げても児童相談所にはひきとられるのでは?
児童相談所からも逃げる?なんで?
居心地よく、人身売買の対象にされるとは、全く知らないのに?

私たちは、予期しないことには、全く無力なのです。
また、思惑ある人達は、用意周到、計画的に近づいてくるので、
未熟な私たちが、その腹黒い魂胆を未然に知り、防ぐ事は、ほとんど不可能でしょう。

たとえ、知ったとしても、強欲で力のある人たちの思惑に、
非力で少欲な私たちが勝てるわけもないのです。

ドラマや映画では、善は必ず悪に勝つ結末なので、溜飲がおさまるのですが、
この貨幣経済の現代社会では、ありえないでしょう。
強欲な者が少欲な者を飲み込み、勝利者が正当とされ、
今の社会が存在しているのですから。

では、さきほどの話の中の、家庭とは何の例えだったでしょう。
それは、わたしたちを守ってくれていると思っている国家・政府です。
母親は?教育や福祉、公共設備等、私たちを保護してくれる側面の例え。
義父は?税金や刑罰、徴兵制など、私たちに苦しみを与えてくれる側面。

では、児童相談所は、何の例えでしょう。
それは、国家・政府も管轄化においている、連合機関、もしくは、
今後できるかもしれない統一国家・統一政府です。

わたしたちは、政府の傘下に管理された社会制度の中で生きています。
この制度から逃れない限り、もしくは、
その制度を、わたしたち自身で管理できない限り、
よっちゃんの悲劇は、わたしたち自身の悲劇なのです。


奥付



よっちゃんの悲劇

無力なわたしたちは、どうするべきか?


http://p.booklog.jp/book/58450

2012.10.11

著者 : Sirai Sarii

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